1.凱旋門賞
好スタートを決めたフィエールマンは押し出されるように先団へ。
キセキは中団内目、ブラストワンピースはそのやや後方外目につけた。
この日のロンシャンはレースの時こそ晴れていたが、前日から当日の昼まで断続的に雨が降り続いていた。
馬場は不良に近い重。
情報は知っていた。
対策もしてきた。
それでも、ズルズルと離されていく。
足が沈む。
芝が掴めない。
ここは、知っている芝とはまるで別物だった。
フィールドと、そこに生きるものとしてのフィジカルの違いを思い知らされる。
フォルスストレート──ロンシャン特有の長い下り坂を抜けた時、適応者とその他ははっきりと分けられた。
日本勢は、勝負の舞台にも上がれなかった。
八着、キセキ。
ブービー、ブラストワンピース。
最下位、フィエールマン。
根本的な違いを、突きつけられた。
───
2.見上げた空
キセキは、ゴールした二人を後ろから見ていた。
遠征は難しい。
いつもと違う環境での一敗は、時に心を折られるほどの影響が出る。
レイデオロさんも、ドバイで敗れてからリズムが狂ったようで、今も立て直しに苦労している。
後輩たちが折れてしまわないように、どんな言葉をかけたらいいのか?
「あの、二人とも…」
「フィエ、キセキ…」
「世界って、すごいな」
ブラストワンピースが静かに、しかし力強く答えた。
「ブーの想像を超えてたぞ!」
「世界やばいぞ!」
「…うん、やばいね」
「世界ぱない」
疲労困憊のフィエールマンも背負われたまま、前を見据えていた。
「ねぇ、二人とも」
「少し歩こうよ」
この二人と話がしたい。
あんなに迷っていたのに、気づけば言葉は飛び出していた。
──
「この辺ならいいかな?」
「それっ!」
片付けの喧騒をはなれ、コースの上に寝転がる。
「二人もおいで」
「うお、背中冷たいぞ!」
「…完全に埋もれちゃうね」
芝は深くて、乾いてたらきっとふかふかだったんだろうな。
「私ね、今日来てよかったと思ってる」
「今日のチャレンジはきっと未来の誰かにつながるから」
「だけどね、」
大きく息を吸い込む。
「くやしいぞぉー!」
「なんでこんなに馬場わるいんだぁー!」
深呼吸一つ。
「二人もここではき出しちゃえ!」
「世界、すごいぞ!」
「やばくて、すごかったぞ!」
「……」
「…悔しいです!」
「もっと!」
「ここの芝はどーかしてるぞ!」
「二度とごめんだ!」
「そうです!」
「もっとマシな時にくるぞ!」
「…今回はノーカンだ!」
三人で思いっきり叫んだ。
思いっきり声を出したあと、目が合って思わず笑ってしまった。
重い雲の切れ間から、
のぞいた空は
ほんのりと色づいていた。
───
3.秋の始まり
ブラストワンピースとフィエールマンが帰国した。
レースの結果に落ち込んでいないか心配だったが、二人はちゃんと切り替えられたようだ。
「ワグ! ぬいぐるみ、ありがとうな!」
「…エポカにもフランス見せてあげた?」
「おう!」
「フィエと三人で走ってきたぞ!」
「うん、よかった」
ブラストワンピースはワグネリアンに抱きついて感謝を伝えていた。
「二人とも元気そうで、何よりだよ」
「…私たち、タフだから」
「そのようだね」
───
「…ねぇ、ダノン」
「凱旋門は別物だった」
真剣な顔になってフィエールマンは続ける。
「今回、世界との差は体感した」
「思うのは能力もだけど、適性」
ちらっとブラストワンピースに目をやり、
「合う条件をしっかり探すこと」
「それが、世界と戦うための礼儀だと思う」
「それでも…出たとこ勝負」
彼女たちはとても貴重な情報を経験として持ってきてくれた。
秋は国内として、来年の春。
きっとこの情報は皆の助けになる。
視界の端ではワグネリアンが胴上げされていた。
おまけ:MUM48
「あっ、キセキ!」
「…パイセン、元気?」
凱旋門以来、彼女たちと会いました。
私の姿を見つけると、とてとてとやってきました。
「キセキ、元気だったか!」
ブラストワンピースは後ろから抱きつき、
「うっす。
パイセンうっす」
フィエールマンは右手に軽く体当たりしてくる。
…ブラストワンピースさんは元々こんな感じでしたが、フィエールマンさんは距離の詰め方おかしくありません?
「お二人もお元気そうですね」
「ぬいぐるみくれたお友達とも話せましたか?」
「おう!」
「パイセンはどうだった?」
仲良きことは、ですね。
聞いててほっこりします。
「そうです!
聞いてくださいよー」
「レイデオロさんが、オールカマー負けちゃって、またピリピリしてるんですよー」
ため息一つ、打ち明けると。
「あー、うん」
「パイセン、がんば」
後輩にも見捨てられました。
なんて日だ!
肩を落として落ち込んでると、
「パイセン、何かあったら力になる」
「私たち、MUM48の仲間」
「MUM48?」
「前の(M)
ウマ娘(U)
まで(M)
48馬身」
「…ってそれフィエールマンさんだけじゃないですか!」
「私はそこまで離されてませんよー」
そう答えた私に、
フィエールマンさんは
「…ナイスツッコミ」
「ダノンといい勝負」
そう言って親指を立ててました。