1. 世代一の末脚
その日、中京レース場は衝撃に包まれた。
重賞ではない、メイクデビューのレースに現れた二人の新人ウマ娘によって。
一人はヘンリーバローズ。怪我に泣かされた幻のG1ウマ娘、シルバーステートの妹。
もう一人はワグネリアン。多くのG1ウマ娘を輩出したチームKの秘蔵っ子。
二人は中団でレースを進め、コーナー出口で同時に仕掛ける。
位置取りの差でヘンリーバローズが前に出るが、ワグネリアンはすぐに並びかける。
そのまま二人で後続を引き離し、最後はハナ差でワグネリアンが差し切った。
三着は五馬身後方。上がり3ハロンは32.6秒で、前年の最優秀短距離ウマ娘レッドファルクスの記録を0.1秒上回り、中京レース場史上最速。
驚愕のデビュー戦を制したワグネリアンはそのまま三連勝を決め、無敗で重賞を制覇。
そして、ダノンプレミアムと並ぶ世代の主役候補として、今日の弥生賞で直接対決を迎えることとなった。
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2. クールなあいつ
クラシックの行方を占う一戦。
ジュニア王者ダノンプレミアムと、最速の末脚を持つワグネリアン。
控え室の空気は張り詰めている。
G1を経験したダノンも圧を感じるほどだ。
そんな中、ゆったりと強者のオーラを漂わせ、ワグネリアンが先に本馬場へ向かう。
ダノンは声をかける。
「やあ、ワグネリアン。そんなに急いで、緊張でもしてるのかい?」
ワグネリアンはゆっくり振り向き、一言。
「…決着はレースで」
そのまま歩みを進める彼女を、今度は誰も止められなかった。
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3. 言葉は不要
ゲートが開き、レースが始まる。
ダノンは二番手で追走、ワグネリアンは中団で息を潜める。
最終コーナー、ダノンが先頭を捕らえ抜け出す。ワグネリアンも追撃体制に入る。
直線、ダノンに迫るワグネリアン。しかし位置取りの差もあり、ダノンが一馬身半差で押し切った。
四連勝で直接対決を制したが、ワグの末脚は本物であり、依然として警戒すべき相手であった。
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4. 真実
レース後、ダノンは心の中でつぶやく。
「きっとこれからも戦うことになる。
…ライバル、か」
頬の緩みを引き締めつつも、心の奥は熱くなる。
「…こんなん、かっこよすぎだろ」
クールな強敵と競い合う自分、ワグネリアンを退け華麗に勝利する自分。
マンガみたいなシチュエーションに、テンションは爆上がりだった。
そうこうしていたら、ダノンはワグネリアンの控え室に着いた。
小さく深呼吸して声をかける。
「ワグネリアン、ダノンプレミアムだ。話がある、開けてくれないか?」
反応はない。
ノックしても無反応。
仕方なく扉を開けると……
床で寝こけるワグネリアンがいた。
「いびきじゃないだけ良かった…」
「そんなわけあるか!起きろ、ワグネリアン!」
大声にびっくりして目を覚ますワグネリアン。
キョロキョロして、ダノンに気づくと小さく呟いた。
「…おはよう?」
ダノンの中で、クールなワグネリアンは完全に息を引き取った。
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おまけ:平穏の侵略者
弥生賞以降、なぜかワグに懐かれたようで、行動をともにする機会が増えた。
懐かれたといっても、ワグは猫みたいなやつだ。
四六時中くっついてくるわけじゃない。
突然ふらっと寄ってきて、しばらくそこにいて、また何事もなかったように離れていく。
まあ、こちらに害がないならいいか。
最初はそう思っていた。
そんなある日。
また、ふらっとどこかへ行こうとするワグが、ボクの横を通り過ぎた。
その瞬間、嫌な予感がした。
あいつ、鼻歌を歌っている。
しかも、それが――妙に聞き覚えのある旋律だった。
気になって近づき、耳を澄ます。
……わかった。
特撮の主題歌だ。
それも、ボクが好きなやつ。
思い返してみる。
ワグがふらっと消える場所は、だいたい音楽室の近くか、ラジオが聞こえるところだ。
たぶん、音楽に引き寄せられている。
……そして、さっきの鼻歌も。
間違いなく、さっきまでボクが聞いていた曲だ。
まずい。
この秘密はバレてはいけない。
ボクは王子様なんだから。
こんな子供っぽい趣味が知られたら、威厳に関わる。
……結局、これといった対抗策は思いつかなかった。
その結果、
しばらくの間、ワグの行動を逐一マークする羽目になった。
平穏は、静かに侵略されていた。
――そんな1日だった。