1.相棒として
エリザベス女王杯はラッキーライラックが勝利し、G1二勝目を挙げた。
「…やったな、ララっち」
彼女の努力を知る身として、我が事のように誇らしかった。
…いや、違うな。
「誇りは自分の手で掴むもの、だろ?」
今週末にはマイルCSがある。
警戒すべきは春のマイル王、インディチャンプ。
前回は勝負の舞台に上がれなかったが、今回は違う。
「ボクも積み重ねたものがある」
「主役の座、取り戻してみせるさ」
言い聞かせるように、そう呟いた。
───
2.マイルCS
快晴の京都レース場。
前走の天皇賞(秋)で確かな実力を示したダノンプレミアムは一番人気に推された。
「プレミアム先輩!
今日は負けませんよ!」
ダノンキングリー。
二番人気の後輩が声を掛けてくる。
同チーム、通称ダノン軍団の後輩はダービー二着、前走の毎日王冠もシニア級を返り討ちにした。
「…ちょっと舐められてますねぇ」
「いやー、参っちゃいますねー」
「まぁ、安田は棚ぼた。
前走も負けてますしねぇ」
「インディチャンプ」
「ダノンのお二人さん、今日はお願いしますねぇ」
三番人気のインディチャンプは後ろ手にヒラヒラと手を振ると準備に戻った。
「私たちも!」
「忘れてもらっては困るわ!」
「そうだね、アルちゃん!」
「そうよ、ペルちゃん!」
ペルアインの二人ももちろん侮れない。
「…よしっ!」
バシッと頬を叩き気合いを入れる!
「さぁ、行こうかキングリー」
「勝負ですよ、プレミアム先輩!」
───
揃ったスタート。
逃げる三人を見る位置で外にダノンプレミアム、内にインディチャンプ。
二人をマークするようにダノンキングリーが続き、アルアインとペルシアンナイトは中団後方で並んでいる。
ややスローペースで進んだ一団は、直線入口からの末脚勝負となった。
前の逃げウマ娘をかわすために外に進路をとったダノンプレミアム。
インディチャンプはそこが開くことを信じて脚をためていた。
集団の真ん中に通り道が生まれる。
続いて飛び込んだのはペルシアンナイト。
インディチャンプは得意の末脚で突き抜ける。
必死に粘るダノンプレミアム。
ペルシアンナイトもぐんぐん迫る。
「まだ! まだまだ!」
「アルちゃんに、並ぶんだ!」
意地のラストスパート。
ダノンプレミアムはペルシアンナイトをクビ差振り切り、
二着、だった。
一着はインディチャンプ。
ダノンプレミアムを一馬身引き離し春秋マイル制覇を達成した。
3.ひかる雫
最後まで競り合ったペルシアンナイト。
いつも騒がしい彼女は、黙って息を整えていた。
インタビューの準備が進んでいる。
他のメンバーもだんだん引き上げていく。
声をかけようとして、固まる。
俯いた彼女の背中越しに、ひかる雫がこぼれるのが見えてしまった。
「っく、 ふぅー」
彼女は長く息を吐き、目元をゴシゴシっと擦ると、
「うわぁーん! アルちゃん、負けちゃったよー!」
アルアインの方へと飛んでいった。
「おいで! ペルちゃん!」
「今は、私の胸で泣きなさい!」
アルアインが両手を広げて待ち構える。
「アルちゃーん!」
「ごふっ」
「アルちゃーん! アルちゃん!」
「っかは、 ぺ、ル、ちゃん…」
「…ペルちゃーん!」
すごい勢いで激突したが大丈夫だろうか?
…それにしても、
「そうだよな。
みんな必死なんだもんな」
わかっていたはずだった。
レースを勝つ。
それがどれほど大変なことか。
だから、ボクも――
ララっちと対等でいたい。
相棒として、胸を張って彼女の隣に立ちたい。
「…無意識に目を背けてたのかな」
ララっちが勝って、次はボクだって。
高まる不安を、プレッシャーを、絶対勝つと言い聞かせて。
「…あぁ、くそ」
ボクは思わず天を仰いだ。
…ララっちに合わせる顔がないや。