1.二人の距離
マイルCSから一週間、ダノンプレミアムはラッキーライラックと会うことを避けていた。
さっさと謝ってしまえばいい。
彼女のエリ女のお祝いもまだできていない。
…わかっている。
「それでもボクは、キミと対等でありたかった」
理性は理解しているのに、感情だけが取り残されていた。
───
顔を合わせずらいのはラッキーライラックも同様だった。
人の気持ちに敏感な彼女はダノンプレミアムの葛藤が理解できた。
理解できたからこそ、自分が何もできないのを痛感していた。
「誇り」はその人の寄る辺だ。
失ってしまえば、同じには戻れない。
「…ウチにはなーんもできん、か」
───
2.「賭け」の精算
「……」
アーモンドアイは廊下で立ち止まった。
ララの部屋の前を通りかかった時、
中から小さな溜息が聞こえた気がした。
「しょうがない…」
───
アーモンドアイはダノンプレミアムを訪ねた。
猫被りモードで同級生に声を掛けると、
最近ずっとグラウンドにいるとのことだ。
「…ダノンプレミアム」
「ん? なっ、アーモンドアイ!」
ダノンは分かりやすく動揺している。
ここまでまともに会話したこともないのだ、当然だろう。
「…賭け」
「えっ?」
「秋天の時の賭け、まだ有効?」
そんな相手から、突然こんなことを言われた。
ダノンは目を点にしている。
…むぅ。
「賭け! いける?」
「っあ、あぁ」
「そう、それなら命令」
「ダノンは、ララのとこに行きなさい」
「っ!」
「何故だ。 どういうつもりで」
どういうつもり?
そんなの決まってる。
ララが、悲しんでる。
「質問は、なし」
「命令はゼッタイ」
私はダノンに背を向けた。
───
3.相棒と
アーモンドアイに背を押され走る。
彼女は真意を語らない。
だけど、これはそういうことなんだと信じることにした。
「ララっち!」
談話室に飛び込むともう部屋にいるとのこと。
「ありがと!」
お礼もそこそこに走り出す。
今日の王子はワイルドさ。
───
「っふぅ」
部屋の前で深呼吸。
ノックしようとして、
「って、うぉーい!」
突然開くドア、
現れたララっちは咄嗟のことにもナイスリアクション。
「なんやの!」
「ってダノっちか。
どしたん?」
あまりにも普段通りの態度だから、
「ララっち、G1おめでとう」
ボクの口もスッと動いた。
───
4.相方
「ふふっ、ありがとう」
ララっちはそう微笑み、
「でも、遅いんよ!」
ボクの腕を掴んで、部屋へと引き摺り込んだ。
「はい、どーん」
ベッドに押し倒されると、乗っかってくる。
「まったく、やきもきさせよって」
「ウチはニ週間ずっと待ってたんよ」
「この、残念王子!」
「悪かったよ、って二週間?」
「そーよ。
エリ女の日にな、匿名でプレゼント贈っといて」
「それっきり顔も見せんと。あれか、焦らしプレイか?」
「それとも意識してへんでした〜ってタラシ宣言か!」
「…ごめん、ああいうのカッコいいかなって」
ガーッとまくし立てるララっちにボクはタジタジで。
「かぁーっ! 王子様はちゃいますなぁ」
「そのうち刺されんで」
「まったく」
「まったくもぅ」
「……あほ」
ララっちはボクを抱きしめると、
「みんなにお祝いしてもらって嬉しかったけど、ダノっちを待ってたんよ」
「ボクを?」
「相棒さん――」
「いんや、相方さん」
「…ウチの相方さん」
ボクはララっちの頭に手を伸ばす。
いつも彼女がするように優しく撫でながら、
「だからこそ、キミとは対等でいたかった」
「桜花賞の日を覚えてる?」
「つよいキミの前ではーー」
「ボクは、王子でいたいんだ」
ララっちは撫でられた頭を気にするようにしながら体を起こすと、
「真面目さんやなぁ」
「まぁ、それでこそダノっちや!」
にしし、と笑っていつものララっち。
「よっしゃ完全復活!」
「ほら、ダノっち」
そう言って手を引いて、いつかのようにボクを引き上げてくれた。
おまけ:二人はペルアイン、マックスハート
マイルCSの夜。
二人の部屋で。
「アルちゃん、わたしね、今日は勝ちたかった」
「アルちゃんが大阪杯勝って、安田記念の時は力出しきれなくて」
「だから、だからね」
「ペルちゃん」
「ごめんね、すぐいつものわたしに戻るから」
俯いたペルシアンナイトはアルアインの背中に額を押し付ける。
イヤな気分を追いやるように、気持ちを整理するように。
それでもどんどんあふれ出す。
「ねえ、ペルちゃん」
アルアインは振り返ってペルシアンナイトを抱きしめると
「言ったでしょ。
今日は胸貸してあげるって」
「うん、ごめんね」
「頑張り屋さんのペルちゃんには、
わたしから花丸一等賞あげるわ」
ほら、これでおそろい。
アルアインは優しくささやく。
「それでも納得できなかったら」
「私はアルアイン」
「あなたはペルシアンナイト」
「それだけでいいんじゃない?」
どうかな?
その微笑みに、ペルシアンナイトもおずおずと手を腰にまわす。
「うぅ〜、あ”る”ちゃーん」
おーよしよし、とペルシアンナイトが落ち着くまで、アルアインは背中を撫でていた。
おまけ:チャラ王子
ダノンプレミアムは屋上で月を眺めていた。
ララっちと仲直りし、気分は晴れやかだったが、この日の月はあいにく新月寸前の細い月だった。
「談話室に飛び込んだそうね」
「あなたにしてはめずらしいと噂になってたわ」
「やぁ、ステルヴィオ」
「最近、体調はどうだい?」
「体調は悪くないわ」
「でもこれは厄介ね」
彼女は片目を覆う眼帯を指差す。
短距離戦も視野にスプリンターズSに向けて調整していたステルヴィオ。
しかしその過程で目に外傷を負ってしまい、予定は白紙に。現在復帰を目指して療養中である。
「……」
「あなた、何かあった?」
やはりコイツは鋭いな。
「ララっちとさ、仲直りできたんだよ」
「…なるほどね」
ステルヴィオもジュニアから第一線で活躍してきた。
この少ない説明で、何があったのか察したようだ。
…そういえば、
「なぁステルヴィオ」
「相棒と相方の違いってなんだろう?」
ララっちとのやりとりで気になったことを聞いてみる。
「…それは彼女から?」
「?」
「あぁ、ララっちが言ってきたんだ」
「…ふーん」
「なんだよ?」
「別に」
ついでに殴られた。
…これは片目で距離感が掴めないだけだ。
きっとそうなんだ。
そうに決まってる。
「王子様よりもチャラ男のほうがお似合いじゃないの」
解せぬ。
愛ある暴言をいただいてしまった。
ーーそんな一日だった。