ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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ジャパンカップ:波乱、混乱、大決戦

1.波乱の予感

 

今回のジャパンカップは何かが起きる。

そんな不思議な予感が渦巻いていた。

 

十五人のウマ娘は全て国内のウマ娘。

三十九回目の今レース、外国からの参戦者はいなかった。

 

また前日から降り続いた雨の影響で、馬場状態は不良よりの重馬場。

 

さらには本命不在の混戦模様がさらなる混迷をもたらした。

 

一番人気のレイデオロは実績最上位ながら近走の調子は今ひとつ。

 

二番人気のワグネリアンと、四番人気ユーキャンスマイルは前走、秋天での好走が評価された。

また、秋天、エリ女、マイルCSと世代三連勝の勢いもプラス材料だった。

 

逆に三番人気のスワーヴリチャードはここまで安定した成績だったが、秋天の二桁着順で評価を落とした。

 

少し離れた五番人気はオークス、秋華賞連続二着、

唯一のクラシック級、カレンブーケドール。

本人は控えめな、半歩下がって三つ指ついて、の古風な雰囲気。

しかしそれだけでないのは戦績が物語っていた。

 

誰もが主役になり得た。

泥だらけのシンデレラの座を掴むのは果たして。

 

 

2.ジャパンカップ

 

ユーキャンスマイルは考える。

 

揃ったスタート。

第一コーナーへ向けてポジション争いが始まる。

 

「(荒れた馬場のセオリーは前につけること)」

「(全員が等しく走りづらいなら前にいた方が有利)」

 

コーナーを抜けて向こう正面へ、

十五人のウマ娘は徐々に三つの集団に分かれていく。

 

前を行く十一人が大きな塊。

そこから五馬身離れて二人。

さらに五馬身後方にもう二人。

 

「(私が後ろから四番目。

マカヒキ先輩は最後方から追走、か)」

 

「(荒れ馬場のセオリーはもう一つ。

自分の得意なパターンに持ち込むこと)」

「(私たちが無理に前に行っても集団の最後尾。

正直、そこはノーチャンス)」

「(それなら末脚を活かすために足を溜めて、馬場のマシなところを走る)」

 

ユーキャンスマイルは自分が挑戦者だと自覚していた。

だから、勝つために思考を巡らす。

 

「(積み重ねるんだ、一つずつ)」

 

 

 

───

 

 

エタリオウは決断する。

 

最終コーナーを抜けて、直線に入る。

 

「(ここだ!)」

 

直線の半ば、先頭に並びかける。

スパート体勢、力を振り絞る。

 

「(他も限界なら、私の勝ち!)」

「(そうじゃなかったら、私はここまで!)」

 

エタリオウは周りによく気がつく。

その観察眼は日常においては大きな武器だが、レースでは必ずしもそうではない。

様々な情報の取捨選択を求められ、足元を掬われることもあった。

 

「いっ、くっ、ぞーっ!」

 

気合い一発、必死に粘る。

自分のベストのタイミングで動く。

その決断力を彼女は磨いてきた。

 

もう二着はいらない。

勝つために、負ける覚悟を抱いてエタリオウは走る。

 

 

 

───

 

ワグネリアンは感じ取る。

 

エタリオウを目掛けて、スワーヴリチャードとカレンブーケドールが迫る。

 

スワーヴリチャードは最内の、荒れたところに突っ込む。

カレンブーケドールは外側のマシなところを選んだ。

 

ワグネリアンは前を飲み込もうと外から襲いかかる。

 

しかし、

 

「(…さいうち、ラチ沿い)」

「(…ひとり分だけ、いきてる)」

 

気づいたときには遅かった。

芝が一番いいのは最内。

でも今から追いかけても前は開かないだろう。

 

「(それなら、こっち)」

 

エタリオウを交わして三番手に上がる。

前の二人は一馬身先。

 

「(あきらめない、よ)」

 

身体が沈み込み、末脚が弾けた。

 

 

 

3.波乱の果ては

 

抜け出した二人は、内、外離れた叩き合い。

 

──ここで、負けるわけにはいかないのよ。

 

スワーヴリチャードは、歯を食いしばる。

 

 

アルアインは長い戦いの末にG1二勝目を挙げた。

 

キセキは日本の代表として凱旋門に挑戦した。

 

レイデオロは…あのアホに実績で負けてるのは癪に障る。

 

四強と呼ばれた仲間たちへの意地が、最後の粘りを引き出す。

 

詰められながらも最後まで前は譲らなかった。

 

 

勝敗を分けたのは経験の深さ。

シニア級の意地が、クラシック級の勢いを抑え込んだ。

 

二着のカレンブーケドールは、これで三戦連続でG1競争二着。

ショックなのだろうか、俯き加減の姿からは表情は読み取れない。

 

中団から追い込んだワグネリアンが三着。

後方勢は四着マカヒキ、ユーキャンスマイルが五着。

 

最終直線まで先頭で引っ張ったダイワキャグニーが六着。

エタリオウは最後に伸びが足りず七着。

 

一番人気のレイデオロはピリッとせず十一着に終わった。

 

 

 

 

 

おまけ:同期の反省会

 

レースが終わって、ユーキャンスマイルは不安そうにエタリオウを見ていた。

 

「ユー、大丈夫」

「いっしょに反省会、だよね?」

 

それを見てワグネリアンが動いた。

 

コクコク頷いた彼女を伴い、ワグネリアンはエタリオウに声をかける。

 

「…いいんちょう、おつかれ」

 

「あら、二人とも」

「お疲れ様。掲示板入りもおめでとう」

 

「うん、ありがとう」

「ユーが、いいんちょうとも反省会したいって」

「このあと、だいじょうぶ?」

 

それを聞いたエタリオウの表情が、パッと華やいだ。

 

「ええ! そういうのは大好きよ」

「なかなかこういう真面目な話できる子がいなくてね」

 

うふふ、と嬉しそうな彼女はこのあと、無言のユーキャンと通訳のワグネリアンに面食らうのであった。

 

 

 

 

 

おまけ:伝説のマカヒキ先輩

 

「…マカヒキが、マカヒキが帰ってきたんだ!」

 

レースが終わったスタンドの一角で歓喜の声が上がった。

 

クラシック級のときに日本の期待を背負って凱旋門に挑戦したマカヒキは、凱旋門で惨敗。

帰国後も勝ちからは遠ざかり、前二走も二桁着順に敗れていた。

 

「…マカヒキさん、フランスでそっくりさんと入れ替わったとウワサの?」

 

「そうさ! 緊急帰国したんだ!」

 

現実を直視できないファンからは替え玉説が語られ、それもネタ要素を加速させた。

 

「…いや、待ってほしい。

もしかしてマカヒキの心はあの日のロンシャンにあったのではないか?」

 

「そうか! 今日の重い馬場があの日の記憶を呼び起こし、マカヒキの時が再び動いたと、そう言いたいんだな?」

 

ガシッと音がするほど強く握手をかわした。

周りも賞賛混じりに囃し立てる。

 

――この日新たなマカヒキ伝説が生まれた。

 

 

何も知らないマカヒキさん「いやー、今日は久しぶりに掲示板乗れたねー」

 

何も知らないマカヒキさん「今日はまともにやってもダメそうだからさ、最初から追い込み一本にキメ打ちだったよー」

 

何も知らないマカヒキさん「何はともあれ、応援ありがとー」

 

 

 

 

 

おまけ:デオロ先輩の憂鬱

 

レイデオロは悩んでいた。

春先のドバイ遠征から歯車が噛み合わない、そんな感覚が消えない。

 

ドバイの地でテンションが上がったレイデオロは、抑えが効かず暴走してしまった。

その時生まれたズレは走りにも影響を与えた。

行きたがる気持ちと、押さえつける理性。

心で走るタイプのレイデオロは折り合いをつけようと必死であった。

 

「…どうすればいいんだよ」

 

もはや藁にも縋る気持ちだったレイデオロ。

引き上げようとスタンド前を通った。

その時彼女の耳にある話題が届いた。

 

「さすがマカヒキ!」

「心が強ぇやつなんだ!」

「ただのマカヒキじゃねぇ、ド級のマカヒキ、ドカヒキだ!」

「マッカヒキ! マッカヒキ!」

 

マカヒキ先輩のファンなんだろう。

正直何を言ってるのかわからない。

だけど、

 

「…熱いじゃねぇか」

 

心が熱い。

小さな火が灯った。

…そんな感覚があった。

 

心は決まった。

アタシは走り出していた。

 

 

───

 

「マカヒキ先輩!」

 

先輩の後ろ姿を見つけた。

振り返る先輩の足元にスライディング土下座をかましながら、アタシは叫んだ。

 

「アタシを弟子にしてください!」

 

 

 

何も知らないマカヒキさん「えっ、あっ、ハイ」

 

 

 

 

 

 

おまけのおまけ

 

「勝ったのに私の扱い悪くない!?」

 

そんなスワーヴリチャードの魂の叫びが虚しく響いた。

ーーそんなジャパンカップだった。

 

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