ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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天皇賞(春):その背に負うのは

1. ウマ娘レース今昔

 

〜〜〜

 

ウマ娘レースの起源は「比べウマ」と言われています。

 

対立する二者間で、問題解決のために代理人のウマ娘を立てて早さ比べをした。

というのが有力な説ですね。

 

そうして早さ比べに意味が生まれたことで、より早い、より強いウマ娘を決める。

そんな考えが芽生えていきました。

 

やがて競争を盛り上げるために「コース」の考えが生まれます。

強いウマ娘を見つけることと並んで、素晴らしいコースを所有する名誉が生まれました。

 

そうしてレースに多様性が生まれ、自慢のウマ娘で競い合うようになりました。

 

この頃は距離適性の概念はなく、どんな条件でも強いウマ娘、いわゆるゼネラリストが求められました。

 

この考えはレース体系が整理され、短距離、長距離という分類がされるようになってからも神話的な憧れとして残りました。

 

その後、トレーニング技術の向上や、遺伝子学の発展などで、ウマ娘には生まれながらの距離適性があり、それを超えることは、非常に困難だと理解されるようになりました。

 

ゼネラリストからスペシャリストへ、

距離適性は細分化され、短距離部門はスプリンターとマイラーへ。

 

中長距離に関しては多くの分け方がありますが、日本で一般的なのは、2500メートルを境界とする考え方です。

 

2500メートル以上を長距離と捉え、そこを主戦場とする者をステイヤーと呼びます。

 

 

ーかくかくしかじか、うんぬんかんぬんー

 

 

フィエールマンさん、聞いてますか?

 

「…と、ユーは言っている」

 

 

「…もうだめ」

 

長距離レースについて教えて?

と、ユーキャンスマイル(と通訳担当のワグネリアン)に尋ねたフィエールマンだったが、

若干の、それなりの、いやぶっちゃけかなりのオタク気質のユーの熱い語りによって、本題に入る頃にはもう限界を迎えていた。

 

「…いいんちょ、要点だけ教えて?」

 

同じく隣で聞いていたエタリオウも、あまりの長さに、うんざりしながら答えた。

 

「…一般に2500メートルを超えるレースが長距離とされる。

長距離を走れる能力持ちをステイヤーと呼び、若干の専門性のあるレースである」

 

「…さんきゅー」

 

フィエールマンはきゅー、と目を回した。

 

 

 

───

 

2. 長距離の王

 

その後、フィエールマンは反省したユーの介抱のもと、復活した。

 

「…生き返ったぜ」

 

「はいはい、おかえり」

 

「…むぅ、いいんちょ冷たい」

 

 

「それで、何で急に勉強しようと思ったの?」

「あなたが真面目に聞いてるとは思わなかったから、正直意外よ」

 

エタリオウの言葉にユーも同感のようで、コクコク頷いている。

 

「…去年、グローリーとか、いいんちょに壁であってほしいって」

「挑むべき王者であってほしいって言われた」

「去年は私が勝ったけど、王者ってなんなんだろう、って」

 

「あなたにしては色々考えているのね」

 

「…いいんちょ、やっぱ厳しくない?」

 

「そんなことないわよ」

 

「…むぅ」

 

 

フィエールマンはユーに撫でられながらも問いかける。

 

「…いいんちょ、今の私は挑むべき壁になれてる?」

 

「…はぁ」

 

エタリオウは立ち上がり、出口の扉に手をかける。

 

「二度は言わないわ」

「春天、首を洗って待ってなさい」

 

そう言って部屋を出たエタリオウを見送って、

 

「…ねえユー、これって?」

 

ユーキャンスマイル(と背後のワグネリアン)は満面の笑みでグーサインをくれた。

 

 

 

───

 

3. 長距離いつメン問題

 

長距離レースにはどうしてもついて回る問題がある。

 

それが、長距離いつメン問題である。

 

長距離G1は年に一回、春天のみ。

勝負の土俵に上がるにはある程度のステイヤー適性が必要。

スタミナ能力はスピード能力と比べると衰えが緩やかである。

 

理由は色々あるが、それらが組み合わさって、レースの面子があまり変化しないのである。

 

その結果強いウマ娘は長期政権を築き、世代交代が起こりにくい傾向にある。

 

大阪杯では下の世代の躍進が見られたが、春天のいつメンは変化するのか?

現王者フィエールマンは強さを示すことができるのか?

 

春の京都は静かに熱を帯びていく。

 

 

 

───

 

4. 天皇賞(春)

 

「…あっ、パイセン」

 

「(ペコリ)」

 

レース前、馴染みの顔に会ったフィエールマンとユーキャンスマイル。

 

「おやおや、みなさん」

 

現役を続行したキセキであった。

 

「うーん、何と言いますか」

「…いやー、貫禄が出てきましたねー」

 

 

ユーは阪神大賞典で一緒だったが、フィエールマンは昨年末の有馬以来だ。

 

久しぶりの再会にキセキは思わず目を細める。

 

「この舞台で戦うのは初めてですね」

「ふっふっ、負けませんよー」

 

前年王者のフィエールマンが一番人気。

阪神大賞典を制したユーキャンスマイルが二番人気。

同レースで六着に敗れたキセキは三番人気。

 

そんな上位人気に対して、

もちろん周りも手をこまねいているわけではない。

 

日経賞を勝ったミッキースワロー。

ダイヤモンドSの勝者、ミライヘノツバサ。

そんな正統派のメンバーから、

 

ティアラ路線ながら菊花賞五着のメロディーレーン。

二十戦を超えて長距離に目覚めたスティッフェリオ。

荒れ馬場で鳴らしたスタミナ自慢、モズベッロ。

そんな一癖も二癖もあるメンバーも一発を狙っていた。

 

 

───

 

レースは静かな立ち上がり。

 

例年ならスタンド前を通るとき、客席からの大歓声に包まれる。

 

無観客開催の今回は静寂の中を一団となって進んでいった。

 

そんな静寂を破ったのはキセキ。

 

スタンド前からペースを上げると、

先頭は自分の指定席とばかりにハナを奪い、そのまま大逃げ展開に持ち込む。

 

誰もキセキを追いかけられない。

フィエールマンとユーキャンスマイルが、中団で互いを牽制しあっているからだ。

 

結果キセキは自分の得意なペースに持ち込み、

二番手以降はジリジリと神経を削り合うスローペースの消耗戦となった。

 

レースは坂の下りから動き出す。

ここまで単騎で逃げていたキセキに、後続が襲いかかる。

 

まず動いたのはユーキャンスマイル。

コーナー出口から最内に切り込み、荒れ馬場を承知で最短距離で勝負をかける。

 

あと200メートルまで粘ったキセキを捉えたのはスティッフェリオ。

 

キセキから離れた二番手で、集団をスローにコントロールしていた。

余力は充分。

馬場の真ん中から堂々抜け出した。

 

内、外離れた追い比べ。

ここでフィエールマンもスティッフェリオの外からスパートをかける。

 

スローからの末脚勝負。

得意な流れ、得意な戦法。

 

ただ一つ、想定外だったのは、スティッフェリオの勝負根性の強さ。

 

「…あ、あれ?」

 

必死の粘りに距離が縮まらない。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょいやー!」

 

なりふり構わず全力で、前に並んだところがゴール地点だった。

 

 

 

───

 

5. 王の背中

 

「はぁーっ! はぁーっ!」

 

ゴールを駆け抜けた、スティッフェリオは暴れる呼吸をなんとかコントロールする。

 

ゴールの瞬間、外から誰かが並んだ。

おそらく、隣で突っ伏してるフィエールマンだろう。

 

ゴロンと転がってフィエールマンが上を向く。

 

アナウンスが勝負の結果を告げる。

 

──勝ったのは、フィエールマン!

わずか数センチ差での、連覇達成です!──

 

フィエールマンに目線を向ける。

目をまんまるにして、その後ふにゃっと笑った。

 

私と目があったのに気づいたのか、急にキリッと表情を引き締め、寝転んだまま、空に指を突き立てた。

 

 

───

 

フィエールマンはユーキャンスマイルに引き上げられると、若干ドヤ顔で

 

「…プラン通りの勝利です」

 

と、Vサインをした。

 

うそつくな!

ギリギリだっただろ!

と周りからもみくちゃにされる王者を、

その小さな背中をみて、

 

「…あぁ、惜しかったな」

 

悔しさと誇らしさが胸を満たした。

あの王者をギリギリまで追い詰めたのだ、残念ではあるが、案外悪くない気分だった。

 

小さな背中は、多くの人に囲まれて、誇らしげに揺れていた。

 

 

 

───

 

おまけ:弟子入りその二

 

「うーん、今日は失敗でしたねー」

 

キセキはギリギリまで粘ったものの、最終的には六着に敗れた。

 

「どーも、最近行きたがりというか、いまいち抑えが効かない感じですねー」

「…レイデオロさんの呪い、なんちゃって」

 

先に引退した友人のことをふと思う。

あの人は騒がしくて厄介でしたが、いないとちょーっとだけ寂しい。

 

「どうしましょうかねー」

 

「…さん」

「キセキさん」

 

「って、ハイ!」

「ごめんなさーい、ぼーっとしてて」

「どなたで、」

 

背後からの声に慌てて振り返ると

 

「いえ、こちらこそ」

「急にお声掛けして申し訳ございません」

 

この声を知っている。

でもあの人はこんな喋り方しない、よね?

 

「お元気でしたでしょうか?」

 

そこにいたのはレイデオロその人であった。

 

「…どうしたんですか?」

「何か変なものでも食べちゃったんです?」

 

引退すると落ち着くとは言うが、ねぇ?

 

「ごめんね、キセキちゃん」

 

ぽかーんと惚ける私に、マカヒキさんがレイデオロさんの後ろから現れる。

 

「彼女に頼まれてメンタルコントロールというか、そんな感じのやってたんだけど…」

 

マカヒキさんは、たははーと苦笑いを浮かべて、

 

「彼女、影響受けやすいと言うか、思い込んだら一直線なとこあって…」

 

「こんなんなっちゃいましたー」

 

ヤケクソ気味なテンションで、そう教えてくれました。

 

 

───

 

「…あの傍若無人で、唯我独尊なレイデオロさんが、ねぇ」

 

「多分一時的というか、そのうち戻ると思うんだけどね」

 

マカヒキ先輩は困った、困ったと言いながらも笑っている。

なんというか、おおらかな人なんだろうな。

 

そうだ。

 

「ねぇ、マカヒキ先輩」

「私もそのメンタルコントロール教えてもらったりとかは…?」

 

「えっ、いいけど」

「これ見た後で、よく言えたね」

 

散々な言いようだが、レイデオロさんが納得して、従っているんだ。

多分大丈夫だろう。

 

「それじゃ、お願いしますねー」

 

 

───

 

「…マカヒキ先輩のことは、先生とか師匠って呼びましょうか?」

 

「うーん、おそれおおいよー」

 

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