ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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安田記念:ぶつかる視線

1. ヴィクトリアマイル

 

昨年末、有馬記念での敗戦。

今年に入っても、ドバイが直前での中止。

 

アーモンドアイは今も強いのか?

G1勝利数の更新は果たされるのか?

 

囁かれていたそれらの不安を一蹴するかのように、女王はその強さを示した。

 

 

───

 

揃ったスタートから、五番手あたりにつけたアーモンドアイ。

 

楽な手応えで最終コーナーを回ると、前へ、前へと進んでいく。

 

ラスト200メートルで先頭に並ぶと、一瞬で抜け出し、後続を引き離していく。

 

同期の京都巧者、「京女」サウンドキアラ。

昨年の覇者で、東京マイルのレコードホルダー、ノームコア。

 

追い縋る二人に影も踏ませぬ四馬身差の圧勝。

 

最強女王は最強のまま、凱旋を果たす。

積み重ねたG1勝利数は、七つ。

歴代最多に肩を並べた。

 

 

 

───

 

2. ぶつかる視線

 

アーモンドアイの前走の圧勝に、前人未到、八度目のG1制覇を誰もが夢想した。

 

昨年の覇者、インディチャンプを大きく引き離しての一番人気は、その期待の表れであった。

 

 

───

 

「プレミアム先輩、なんと言うか、その凄まじい雰囲気ですね」

 

ダノンキングリーがぽつりと言った。

隣のダノンスマッシュも落ち着かない様子だ。

 

 

「…正直注目されてるのは、あの人だけですよ」

「私たちは数合わせみたいなものです」

 

いつものように、皮肉混じりにインディチャンプが現れる。

 

「あの人に比べたら私の実績も吹けば飛ぶくらいの重さみたいです」

「みなさんも“ダノン三本の矢”なんて言われてますけど、まとめて折られないように、気をつけてくださいね」

 

それでは、とヒラヒラ手を振って離れるインディチャンプ。

去り際、じっとりとした視線を──アーモンドアイに向けていた。

 

 

アーモンドアイは参加者の輪の中心にいた。

より正確には誰もが彼女を遠巻きに眺めているので、

 

アーモンドアイを中心とした、大きな輪が広がっていた。

 

そう表現するのが正しいのかもしれない。

誰もが彼女に興味を持っているが、容易く踏み込めない、そんな雰囲気が漂っていた。

 

 

「さてと、それじゃ行ってくるよ」

 

ダノンプレミアムが軽い調子で言った。

 

「行くって…まさか!」

 

「ああ、そうさ」

「わがままプリンセスにご挨拶してくるよ」

 

 

───

 

「久しぶりだね」

「急にいなくなるから、みんな心配していたよ」

 

ダノンプレミアムに話しかけられたが、アーモンドアイは反応しない。

 

「相変わらずの強さだね」

「今日も準備は万端かな?」

 

アーモンドアイは視線も向けない。

 

「…ララっちにも何も告げなかったんだね」

 

アーモンドアイは背中を向ける。

これ以上話しかけるなと言うように。

 

「アーモンドアイ、ララっちを悲しませるのはもう辞めないか?」

 

「…うるさい」

 

「ララっちはキミを心配して、いろんな人に声をかけているよ」

「キミの耳にも届いているだろう?」

 

「うるさい! ダノンには関係ない!」

「私なんかほっといて、ララの近くにいてあげなさいよ!」

 

「ふふふ、ボクは無関係なんかじゃないさ」

 

ダノンプレミアムは芝居じみた動きでアーモンドアイの前に跪くと、手を差し出して言った。

 

「王子様はね、泣いてるプリンセスを一人にしないのさ」

 

アーモンドアイの目を見る。

視線がぶつかる。

 

「…ばっかみたい」

 

先に目を逸らしたのはアーモンドアイだった。

 

「お褒めにあずかり、光栄だよ」

 

 

アーモンドアイはため息一つ、

再びダノンプレミアムに向かい合う。

 

「ダノンプレミアム、言いたいことがあるなら、私に勝ってみせなさい」

 

アーモンドアイは、跪いたダノンプレミアムを上から睨みつける。

 

「やっと言葉を交わしてくれたね」

「勝負だ、アーモンドアイ」

 

ダノンプレミアムは、ふんぞり返ったアーモンドアイを仰ぎ見た。

 

 

 

───

 

3. 安田記念

 

前日夜の雨の影響で、快晴ながらも馬場は稍重までしか回復しなかった。

 

アーモンドアイはスタート出遅れるも、素早くリカバーし中団後方につける。

 

先手を取ったのはダノンスマッシュ。

二番手にミスターメロディ。

スプリンターの二人が前をガンガン引っ張る。

 

ダノンプレミアムは最内三番手につけ、

ダノンキングリーはそれを見るように中団前目で追走。

 

上位人気は中団後方にほぼ固まった。

全体のほぼ真ん中にポツンとグランアレグリア。

一馬身あいて、インディチャンプ。

その後ろにアーモンドアイ。

 

ノームコアは末脚勝負か、後方に構えた。

 

快調に飛ばす前の二人だったが、距離の壁か、直線入口ではやや失速。

集団が固まり、内外広がっての追い比べとなった。

 

最初に抜け出したのはグランアレグリア。

馬場の真ん中から、前をかわし先頭に立つ。

 

内を捌いてインディチャンプ。

アーモンドアイも外に持ち出し、

ノームコアは最後方から飛んでくる。

 

しかし、それらの追撃を退け、グランアレグリアは二馬身差でゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

───

 

4. ひとりぼっちの王さま

 

アーモンドアイの敗戦に世間は湧いた。

 

曰く、長距離移動で体調が、

曰く、ヴィクトリアマイルからの間隔が、

曰く、前回が最後の輝きだった。

 

主役不在で盛り上がる報道に、アーモンドアイは沈黙で答えた。

 

 

敗戦を静かに受け入れるその態度が潔し、と古くからのレース好きに評価され、

アイちゃん個人の話を聞きたかったと言う、ライト層には若干の不評をかった。

 

 

アイの対応に意見が分かれるなかで、春天のもみくちゃにされるフィエールマンがウマ娘レースの界隈でプチバズしたことで、

意図せず孤独な王女の精神性が話題に上がることになった。

 

 

 

───

 

5. 望月の欠けたることの

 

レースの後は屋上に。

最近は習慣となってしまった感もある。

 

「あら、お疲れ様」

 

毎回律儀にたまたま訪れた感を出してくれる彼女に感謝しつつ、ボクは返事を返した。

 

「こんばんは、今夜も良い月だね」

 

もはやお馴染みとなりつつある、レース後の反省会。

ステルヴィオはいつものように、皮肉たっぷりに切り出した。

 

「王子様、ご機嫌はいかが?」

 

切れ味鋭い一撃に心を痛めつつ

 

「ふふふ、最悪だよ」

 

シンプルに限界だった。

 

「なんて言うかさー、つらい」

 

ボクの心からの告白にステルヴィオは

 

「そうね、ノームコアさんから聞いたわ」

「レースが始まるまでは主役だった、と」

 

えぐる、えぐる。

やっちゃったのは、わかってるんだよ。

 

「一生のお願いを使います」

「どうか、お手柔らかにお願いします」

 

「あら、ここで使っちゃっていいの?」

「優しい私は普通に答えるわよ」

 

おお、神よ

今日が我が命日か。

 

「そうね、まずは感謝の言葉を贈らせて」

「彼女のことは気になっていたけど、多分私たちでは踏み込めなかったわ」

「これは心からの感謝よ。

同期として、ありがとう」

 

ステルヴィオは目線を合わせて伝えてくれた。

 

「その上で言うわ」

「あれ、普通に勝つ流れだったわよね?」

 

目線を合わせて、一刀両断してくれた。

 

「問題を抱えた子にきっかけ掴んで、踏み込んで、最後には和解の条件まで引き出して」

「そこまで準備して、勝負にも関われない惨敗」

 

「…あなた、舐めてるの?」

 

もうやめて、私のライフはゼロよ。

 

「だってさー、思った以上に芝がダメだったんだって!」

「もはやこれは呪いだって!」

「思い返せばボクは毎回春の東京負けてるし!」

 

「おだまり」

 

「…はい」

 

「…はぁー、まったく…」

「どうなの? このまま終わるの?」

 

「それはない」

 

「なら、いいわ」

「せいぜい、あがくことね」

 

…心に傷を負ったが、前に進む勇気ももらった。

我が友へ、最大限の感謝を!

 

 

 

おまけ:ひとりでもペルアイン

 

ペル「どうすりゃいいんだ…」

 

東京レース場で迎えた安田記念。

 

先頭、ダノンスマッシュがバカ逃げ、

中団に控えたインディチャンプやアーモンドアイも届かない。

 

画面越しに届くファンのため息、脳内に響く「アルちゃーん!」の声。

 

無言で帰り始める選手たちの中、三年前のマイルCS覇者、ペルシアンナイトは独りベンチで泣いていた。

 

ドバイ遠征は流れ、安田記念も後方で目立たなかった。

 

今の私にできるのは、DXアルちゃんぬいぐるみを抱いて、その存在を示すことだけ…

 

「ぺ、ぺ、ぺ、ペルちゃーん!」

「ペル、ル、ル、ル、ル、ル…」

 

DXアルちゃんぬいぐるみは、すごい。

光る、回る、音がなる。

 

これさえあれば、たとえ下位に沈んでもアルちゃんの素晴らしさをアピールできる。

 

…嗚呼、アルちゃん。

あなたは今、どこで何をしていますか?

 

「ペルちゃーん! 今日は負けちゃったけど、悪くなかったわー!」

「次も応援に駆けつけるからねー!」

 

レース場近くまで駆けつけてくれたアルちゃんの姿に、

 

「勝てる、勝てるんだ!」

 

顔をあげたペルちゃんの、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった…

 

 

その後、優しく抱き止められるペルちゃんが発見され、吉村と村田は尊さに昇天した。

ついでにデジたんも昇天した。

 

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