ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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宝塚記念:あなたに勝ちたい

1. 夕凪の談話室

 

「ねぇ、みんなそろそろ“アレ”の時期だよね」

 

最近はどこ行っても「密をさけろ」なんて言われるから、

練習後のおしゃべりもだいぶ久しぶりな気がする。

今もマスクをつけて、距離は離して、とやっているが、やっぱり直接会えるのはいいものだ。

 

「アレ?」

 

「もー、わかってるくせに」

 

「ウチらさもしいトレセン生ー♪」

 

「汚れた心はレースで発散ー♪」

 

「いけー!」

 

「させー!」

 

こいつら、目が座ってやがる…

 

「はいはい、宝塚ね」

「でも、それがどーかしたの?」

 

「じつはね、宝塚に合わせて学園が談話室解放するんだって!」

 

「もちろんルールは守ってだけど、みんなせっかくだし集まろって結構、話題になってるの」

 

 

知らなかった。

自称、ウワサ好きのウマ娘として不覚をとったが、シンプルに楽しみな話だ。

 

「おもしろそーじゃん」

 

「でしょ!」

「当日は朝から解放するらしいし、また集まろうよ!」

 

 

みんな、一も二もなく賛成する。

どこか息苦しい毎日に、ちょっとした彩りを。

正直浮かれていた。

 

「それじゃ申請しておくねー」

 

だからかな?

彼女の不自然な一言を聞き逃したのは。

 

 

───

 

2. 飛沫をあげる談話室

 

「…みんな! 最高のグランプリが見たいかー!」

 

うおぉー!!

 

「ワシもじゃ! さぁ、最強を見せてくれ!」

「全選手、入場っ!」

 

 

「怪物」の強さ、見せてやる!

有馬の走り、忘れたとは言うまいな?

サートゥルナーリアだー!

 

歴史が証明している。

勝者には敬意が必要だと。

時は来た。

クロノジェネシス!

 

なんでもありならこいつが怖い!

「あんた、ウチの妹にならへんか?」

ラッキーライラック、堂々参戦!

 

デカァァァァいッ説明不要!!

ブラストワンピース!

 

香港からアイツが来た!

逆輸入の香港王者!

グローリーヴェイズだ!

 

本当の大逃げってヤツを見せてやる!

でも、出遅れは勘弁な。

キセキです!

 

ダービーウマ娘が強いのは当たり前!

伝家の宝刀、末脚一閃!

ワグネリアン!

 

…他にも豪華なメンバー、フルゲート十八人が控えております!

 

 

それでは熱い仁川に負けないよう、こちらも気合を入れていきましょう!

 

「世代対抗、負けられない戦いがそこにはある!」

「私の推しが一番つよい!

愛を添えて、宝塚大応援会!

今、スタートです!」

 

「実況は、私ダノンキングリー」

「解説は…」

 

「ラヴミー♡、ラヴユー♡」

「ラヴズオンリーユーでーす♡」

 

「ラヴズオンリーユーさんでお送りします」

 

「さて、今回は世代応援団にパネリストとしてお越しいただきました」

 

「会場の様子はオンラインで配信しているわ。

お便りも受け付けてるから、みんなの愛を届けてね」

 

「それではみなさん、盛り上がっていきましょう!」

 

 

…なんで、私はここにいるんだろう?

ウワサ好きのウマ娘はパネリストとして座っているのであった。

 

 

同期曰く、面白そうだから登録しといた。とのこと。

 

…そっかぁ。

 

学園側も下手に制限して、勝手にやられるくらいならと逆に主催したとのこと。

 

…そっかぁ。

 

となりから、あの一個上の先輩(おーほっほって笑う人)がニヤニヤ見てる。

 

…ちくしょう。

 

 

祭りは始まったばかりだ。

 

 

 

───

 

3. あなたに勝ちたい

 

阪神レース場、パドック。

ここまで順調にプログラムは進行し、メインレースの宝塚記念まで、あとおよそ三十分。

 

各々の控え室から現れたウマ娘は、

会話をしたり、最終確認のイメージトレーニングをしたりと徐々にレースに向けて緊張感が高まっていく。

 

一番人気のサートゥルナーリアは一度アピールを決めると、すぐに通路の方に戻っていった。

 

ラッキーライラックは目ざとくそれを視界の端で捉えていた。

 

 

…アレはシンプルに気ぃ張っとる感じやな

ダノっちに聞いたよりは繊細なんかな?

 

などとレースに向けての情報収集は欠かさない。

自分より上位人気。

つけ入る隙があればと意識していたが、これは使えるかも?

 

 

なんて考えていると、クロノジェネシスから声がかかる。

 

「ラッキーライラックさん」

「今日もよろしくお願いします!」

 

「おぉ、クロノちゃん!」

「こちらこそ、な」

 

…前回の大阪杯はかなり追い詰められた。

大阪杯と宝塚はかなり条件が近い。

案外、クロノちゃんのが危険かもなぁ。

 

「あの、ラッキーライラックさん」

 

「あぁもう、ララでええよー」

「どしたん? お姉ちゃんが恋しなったんかー?」

 

両手を広げて、かもんっ!と誘うも、クロノちゃんはもじもじ。

なんや? ウチ告られるんか?

 

「ラ、ララさん! 今日は勝負です!」

 

クロノちゃんはビシッと指差し、宣言してくる。

 

「ララさんは私の目標なんです!」

「走りだけじゃなく、知識も経験も、あるもの全部使って勝ちにいくララさんを尊敬してます!」

 

顔を真っ赤にして、真っ正面からぶつかってくる。

 

「だから、勝負です!」

「 ラ ラ お 姉 ち ゃ ん ♡ 」

 

「ぐはっ!」

 

「ふっふっふ! さっそくララさん仕込みの一撃です!」

「今日は私を見ててくださいね!」

 

…耳まで真っ赤に染まってんで。

あの様子なら逆にウチの演技には気づかんかったやろ。

 

「…ララ、鼻血」

 

ワグちゃんが係員を連れてくる。

 

大袈裟やなぁ、こんなん演技よ。

ただちょっと、たまたま血が止まらんだけよ。

 

ウチはニコニコ笑顔のまま、いったん医務室まで連行となった。

 

 

「…久しぶりにみたぞ。ララのヤバいとこ」

 

「…大丈夫でしょうかねー?」

 

ブラストワンピースとキセキは若干引きながら連行されるララを見送った。

 

 

 

───

 

4. 白波あがる談話室

 

「ここで、2018世代からノームコアさんにお話を伺います」

 

「えっ」

 

談話室の隅でこっそり様子を見ていたノームコアが引きずり出される。

ちなみに配信はちゃんと録画している模様。

 

「ララさんへの“お姉ちゃん”発言。

姉として内心穏やかではないのでは?」

 

「ダメよ、キングリーちゃん。

その聞き方には愛が足りないわ」

 

「…失礼。 しかしこんな機会はまたとないです!

…ノームコアさん、あなたの本命は、同期と妹、さあどっち!?」

 

「え、うぇえー?」

「そんな選べないよー」

 

「そうね。思いの二律背反ね。

それも愛よ」

 

「ひゃうっ!」

「…ゴホン。

うーん、みんながんばれ!…とか?」

 

「さすがです! この無味無臭の回答!」

 

「ねぇ私、君に嫌われるようなことしたかなぁ!」

 

「ラヴミー♡」

「自分ラヴミー♡」

「我が身かわいさのコメントです!」

 

「なんなの!」

 

司会のダノンキングリーのはっちゃけっぷりがすごい。

真面目な彼女は色々ため込んでいたのだろうか。

 

…もしかしたらこの間の安田記念の影響なのだろうか。

彼女なりに何かを変えようとしているのかもしれない。

 

「キングリーちゃん、それでいいのよ。

This is 愛よ!

We are loven' it なのよ!」

 

それを見つめるラヴズオンリーユーの目は慈愛に満ちていた。

おそらくこの場で一番マイペースなのは彼女だった。

 

 

談話室はもはやカオス。

回答席と、客席。オンライン会場も入り混じった興奮が広がっていた。

 

 

 

───

 

5. 宝塚記念

 

ララは無事にレース前には戻ってきて、予定通りフルゲート十八人での宝塚記念がスタートした。

 

ほぼ揃ったスタート。

しかし荒れた馬場に足を取られ、スティッフェリオ、アフリカンゴールドといった逃げウマ娘も先手を取れない。

キセキはふつうに出遅れた。

 

ラッキーライラック、ワグネリアン、ブラストワンピースなど普段は後方から進めるウマ娘も好スタートに合わせて先行する。

 

それも全ては雨で荒れた馬場のせい。

荒れ馬場のセオリーは前に行くこと。

 

パワーに任せた急加速がしにくいので、みな持ち前のスピード能力、追走能力に任せて前へ、前へと進んで行く。

その結果、大阪杯と200メートルの違いだけのレースが、まったく別物に姿を変える。

馬場が荒れた宝塚記念は、極限のスタミナ勝負の様相を呈していた。

 

1,000メートルは一分ちょうど。

タイムとしては普通だが、

前での激しいポジション争いは想像以上にスタミナを削っていく。

 

レースが動いたのは第三コーナーから。

ゴールまで緩やかな下りが続きペースが上がるなかで、クロノジェネシスが早めに仕掛けた。

それに呼応するようにラッキーライラック、キセキもペースあげ、三人合わさって集団を捲っていく。

 

直線に入ったタイミングでは、内ラッキーライラック、外クロノジェネシスで並んでいたが、そこから荒れ馬場適性の差が響いた。

 

ラッキーライラックが足を取られ、加速がままならない中、一歩一歩踏みしめて確実に進んで行くクロノジェネシス。

 

先頭抜け出したクロノジェネシス。

伸びないラッキーライラックを横目にキセキが二番手。

外からサートゥルナーリア、モズベッロが伸びてくるが、これは三着争いまで。

 

このタフなレースを制したのはクロノジェネシス。

秋華賞に続いてG1二勝目を達成した。

六馬身差の二着がキセキ。

三着モズベッロはさらに五馬身後方だった。

 

──私、勝ったんだ。

 

クロノジェネシスは、ゴール板を駆け抜けながら、信じられない思いだった。

 

ララさんに、勝った。

 

憧れの人に、勝った。

 

 

サートゥルナーリアは四着、ラッキーライラックは最後力尽き六着に敗れた。

 

 

 

───

 

6. 歩んだ道、掴んだ結果

 

静寂に包まれたレース場。

 

人のいないスタンド。

聞こえるのは、限界を超えて走り抜いたウマ娘たちの、荒い呼吸だけ。

 

それが、勝者を讃える凱歌だった。

 

「…ララ、さん」

 

クロノジェネシスはゆっくりと振り返る。

 

華やかな決着。

呼吸一つの接戦。

レース前に夢見ていた輝く自分の姿。

 

視線の先にあったのは、そんな理想とはまったく異なるものだった。

タフな展開によるすり潰しは、荒れ馬場も相まって残酷な蹂躙に見えた。

 

勝負は無慈悲なもの。

わかっていたはずだ。

ただこころに去来する感情が、憧れの人への初勝利を複雑なものにしていた。

 

「…ララさん」

 

こわい。

決定的な何かが変わってしまった気がして、言葉が出てこない。

 

そんな私の気持ちが伝わっちゃったのか、

ララさんは顔を上げると両手を広げ、

微笑みを浮かべて、

 

「確保ー!」

 

がっちりホールドされてしまった。

 

「!?」

 

「やったな! クロノちゃん」

「こんなキッツいレースさせよって、これはお仕置きやでー」

 

ニヤニヤしながら私を引きずって行くララさんは、

 

「ワグちゃん、ブーちゃん、かもーん!」

「クロノちゃんにお仕置きわっしょいやー!」

 

「…ん」

 

「まかせろー!」

 

先輩たち三人に囲まれた私は目を白黒させていて、

 

「そーれ!」

「わっしょーい!」

 

流れるように胴上げされていた。

 

 

───

 

画面の中ではどんどん周りを巻き込んで胴上げが続いていた。

 

クロノに続いて、

キセキが、

モズベッロが胴上げされ、

最後にはララが

 

「や、やめっ!」

「もぉ、ええやろー!」

 

胴上げの刑を受けていた。

 

 

「ふふふ、さすがララちゃん」

 

そんな私、ノームコアのつぶやきに、ラヴズちゃんが目で尋ねてくる。

 

「たぶんね、今日のクロノちゃん絶好調で、自分の想像以上に走れたんじゃないかな?」

「それで、自分自身が結果に驚いて、どうしたらいいかわかんなくて」

 

「だから胴上げ?」

 

「うん。たぶんなんでも良かったんだろうけど。クロノちゃんも楽しかったんじゃない?」

 

「そう。…素敵な愛ね」

 

「まったくだよ。 さすがララちゃん」

 

「違うわ。 貴方もよ、素敵なお姉ちゃん♡」

 

 

 

 

おまけ:祭りの後で

 

「楽しかったねー」

「じゃないわよ!」

 

私、ウワサ好きのウマ娘。

今日はね、勝手なことしたお友達に電話でお説教してるの♪

 

「イベントが盛り上がりすぎて、当初予定してた安全、衛生面の配慮が行き届かなかった」

「…その結果、参加者は今日は自室待機で、明日は各自病院へ」

「……アンタが勝手に申請したせいじゃないのよー!」

 

「へへ、メーンご♪」

 

「おまえー!」

 

「いや、わたしも悪いとは思ってるよ」

「巻き込んじゃったのも、悪かったよ」

 

だけどさ、

 

「ぶっちゃけ、楽しかったんじゃない?」

 

「それは、まぁ」

 

その聞き方はズルい。

正直、久しぶりにみんなでバカ騒ぎして楽しかった。

 

「この埋め合わせは絶対するよ」

「社会が落ち着いたら、どこでも付き合ったげる」

「だから、今日は青春の1ページってことでね」

 

…ほんとにズルい。

そして、そんないつかに期待しちゃう自分はチョロい。

 

「…まったく、しょうがないわね!」

「貸し一だかんね!」

 

いつか、みんなで遊びに行こう。

その時は歌って、騒いで。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

7. ある皐月賞ウマ娘の帰還

 

 

 

 

 

「みんな、ただいま!」

 

 

 

 

 

───

 

 

8. だれかの夢見た世界

 

『ウマ娘』。

彼女たちは、走るために生まれてきた。

ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る───。

 

それが、彼女たちの運命。

 

この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して───。

 

 

 

ある世界において、エポカドーロの、彼の競争生活は大阪杯で終わりを迎えた。

鼻出血を発症し、長期療養。

さらに療養中に、腸閉塞も発症。

開腹手術を経て復帰を目指すが、ついに戻ってくることはできなかった。

 

 

『ウマ娘』。

彼女たちは別世界の魂を受け継いで走る。

この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

 

──その未来は誰にもわからない。

 

 

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