ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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ジャパンカップ:“アーモンドアイ”

1. 襟裳育ちのど根性ガール

 

 

私はあの光景を忘れない。

 

 

優駿牝馬、二冠のかかった舞台。

スローペースで進んだ展開は第四コーナーから後方勢が進出し、直線入口で大きく左右に広がった。

一番人気のデアリングタクトは前を塞がれた。

 

無敗の二冠なんて、そんな。

 

そんな気持ちで私は遠く画面越しに見ていた。

進路は消え、前は離れた。

もうお終いだ、と。

 

でも彼女は、デアリングタクトは諦めなかった。

必死に左右に首を振って道を探した先に、一人分の隙間が開いたのが見えた。

外に出ようとしたのを強引に切り替えて内へ進路をとる。その隙間に潜り込み、間を割った。

残り300メートル、先頭までまだ四馬身ほど。

彼女は凄まじい末脚で追い上げると、最後は半馬身交わして差し切った。

 

 

私はあの光景を忘れない。

最後まで諦めない姿を。

自分を信じた強さを。

 

私、コントレイルは、

あの日のデアリングタクトをきっと生涯覚えているのだろう。

 

 

 

───

 

2. がらんどうのダービー

 

 

わたしはあの光景を忘れない。

 

 

東京優駿、二冠のかかった舞台。

一番人気のコントレイルは、好スタートから好位の内に控え、直線は馬場の真ん中から堂々抜け出した。

追いすがる他のウマ娘を子供扱いして、悠々と先頭でゴール。

完勝というほかない、見事な勝ちっぷりだった。

 

二冠達成に沸くインタビューにどこか淡々とした態度で答えたコントレイル。

どこか冷めた雰囲気に見えた彼女は、引き上げる際に無人のスタンドへ向き直る。

そして深々と一礼した。

 

 

わたしはあの光景を忘れない。

歴史に敬意を払う姿を。

その気高さと美しさを。

 

わたし、デアリングタクトは、

あの日のコントレイルをきっと、ずっと覚えているんだろう。

 

 

 

───

 

3. 二人の約束

 

 

月明かりに照らされる屋上、コントレイルはデアリングタクトを呼び出した。

 

クラシック三冠に向けて、秋初戦の神戸新聞杯を快勝したコントレイル。

自身の菊花賞は四週後、デアリングタクトの秋華賞までは三週間となっていた。

 

「コンちゃん、待った?」

 

「…お疲れ、タクト」

 

レースが近づくとナーバスになる自分と違って、彼女はパッと見、のほほんとしている。

…ほんとに羨ましいかぎりだ。

 

「タクト、三冠に向けて調子はどう?」

 

「うーん、とりあえずブイ!」

 

相手次第だけど、とこぼすが自身の調整はうまくいっているらしい。

私は、考えていた計画を打ち明けることに決めた。

 

「…タクトはさ、今の社会というか、空気感どう思う?」

「私たちはさ、ずっと重苦しい中でレースをしてきたけどさ」

「ドカンと一発、派手なことしたくない?」

 

タクトは目を丸くして、

 

「…びっくりした」

「コンちゃんからそんないたずらっ子みたいな話されるなんて」

 

そう言って、にへへと笑った。

 

「で、コンちゃん、どうするの?」

「わたしは、全面的に協力しちゃうよ」

 

タクトはシュッシュっとシャドーボクシングをしながら続ける。

誘ったのは私だけど、こんなあっさり了承が得られるとは。

 

「私たちがさ、お互い三冠取れたら」

「無敗の三冠ウマ娘がジャパンカップで対決、なんてどうかな?」

 

私の提案にタクトは目をキラキラさせて、

 

「いいね! それ!」

「絶対盛り上がるよ!」

 

うへへへー、と尻尾をブンブン振って答えた。

 

「あっ! それならさ、やるなら徹底的にやっちゃわない?」

「アイ先輩も巻き込んで、三冠ウマ娘が三人!」

「これなんて史上初なんじゃない?」

 

「…やっちゃう?」

 

「やっちゃおうよ!」

 

とうとうタクトは私の手を取って踊り出す。

 

「コンちゃん、やろーよ!」

「世紀の一戦って感じで!」

 

「タクト、行こう!」

「最高に派手な花火を!」

 

 

新たな目標が決まった私たちは、無敗の三冠に向けて、

お互いの健闘を祈り、自身の勝利を誓った。

 

空には月が明るく輝いていた。

満月までもう少し。

二人の希望を柔らかく照らしていた。

 

 

 

───

 

4. 旅の終着点

 

 

「…と言うわけでアイ先輩」

「あたし達と勝負してください!」

 

タクトと並んで頭を下げる。

私たちはアーモンドアイ先輩の元を訪ねていた。

 

お互い最後の一冠に挑んだ私たち。

タクトは危なげなく勝利し、強さを示した。

私はギリギリまで追い詰められたが、なんとかしのぎ切り、二人そろって無敗の三冠を達成していた。

 

「あなた達の考え、素晴らしいと思うわ。

むしろ私の方からお願いしたいくらい」

 

アーモンドアイは右手を差し出し、

 

「秋天後の調子次第になるけれど、前向きに考えるわ」

「よろしくね、二人とも」

 

それぞれ固く握手を交わした。

 

 

───

 

本当に素敵な子たちだと思う。

世界に振り回されて、色々な制限を受けて、それでも誰かのためにがんばろうとしている。

 

「…私とは大違い」

 

この話を提案された時、私は思った。

“アーモンドアイ”を終わらせるのに、ちょうど良いと。

 

G1最多勝利に並び、記録に残る存在となった。

その“アーモンドアイ”が後輩三冠ウマ娘の挑戦を受ける。

勝っても負けても、物語の終わりには相応しい。

 

「…お母さん」

 

もう、いいよね。

秋天とジャパンカップ。

あと二つだけ。

それで、おしまい。

 

秋天は今週末。

あの、めんどくさいダノンも来る。

 

「…止められないよ」

 

誰にともなく、つぶやいた。

 

 

 

───

 

5. 世紀の一戦

 

 

10月18日に秋華賞を制し、史上初の無敗でのティアラ三冠を達成したデアリングタクト。

その後、状態を確認し28日にジャパンカップ参戦を表明した。

 

「コンちゃん、待ってるよ!」

 

同じく25日に菊花賞を制し、史上三人目の無敗のクラシック三冠ウマ娘に輝いたコントレイル。

多少の疲れはあったものの、問題はないと判断。11月5日にジャパンカップ参戦を決めた。

 

「ファンの皆様に対して、レース全体の盛り上がりのため、参戦させていただきます」

 

その後二人は共同で会見を開き、固い握手でお互いの健闘を讃えた。

そして先日天皇賞(秋)を勝利し、G1八勝目を挙げたアーモンドアイに対し、

 

「アイ先輩も待ってまーす!」

 

「アーモンドアイさん、夢を届けましょう」

 

そうコメントを残し、若き挑戦者は会見を締め括った。

 

 

これを受けてアーモンドアイも、調整先の施設から参戦の正式決定を発表。

 

こうして三冠ウマ娘三人による「世紀の一戦」が決定した。

 

 

 

───

 

6. “アーモンドアイ”

 

 

三冠ウマ娘三人に注目が集まったが、それ以外にも多くの有力ウマ娘が参戦し、世紀の一戦に相応しいメンバーが集結した。

 

充実の2018世代からは、

グローリーヴェイズとユーキャンスマイル。

 

三度のG1を含む、五度の重賞二着。

勝ちきれないが実力は確かな、カレンブーケドール。

 

キセキ、マカヒキの師弟コンビもそろって参戦した。

 

 

無観客だったスタンドには、制限付きだが一部人が戻ってきていて、歓声の代わりに拍手で参加者にエールを送った。

 

 

───

 

コントレイル、デアリングタクトがターフに現れ、ハイタッチを交わす。

 

心地よい高揚感に包まれた十四人は三々五々準備を進めていた。

 

 

瞬間、張り詰めた緊張感は、主役の登場を告げる合図だった。

 

 

アーモンドアイがゆっくりと現れた。

彼女はスタンドに微笑み、手を振ると視線をターフに向ける。

十四人を右から左へ。

そして真っ直ぐと歩き出す。

 

 

───

 

 

ダノンは参戦できなかった。

 

流石にあのタイミングでは方針転換が間に合わなかったんだろう。

 

「…なんでダノンに言っちゃったんだろ」

 

止めてほしかったのかな?

 

秋シーズンからは少しずつスタンドに観客が戻ってきていた。

 

「…ララはどう思うかな」

 

あんなララ、初めてだった。

 

今もどっかで私のこと見てるのかな。

 

 

心の中をクリアにしていく。

皆の元、ゲート前に着く頃には、雑念は消え去った。

レースに集中した“アーモンドアイ”がそこにはいた。

 

 

───

 

7. ジャパンカップ

 

 

ポンとめずらしく好スタートを決めたキセキはハナを取る。

しかし、競りかけられリズムを崩したか、ペースアップしてそのまま大逃げの態勢をとった。

 

中間地点で二十馬身ほど後続を引き離し、キセキ単独一人旅。

離された二番手集団、グローリーヴェイズが四番手。

アーモンドアイはその後ろ。

デアリングタクトはそのさらに一馬身後方で、コントレイルが前の三冠二人を視界におさめる。

マカヒキ、ユーキャンスマイルはキセキの逃げを読んでの後方一気の構え。

 

キセキの足は止まらない。

後続が離れて、得意のすり潰す逃げは不発だったが、それでも持ち前のスタミナで一人第四コーナーを通過する。

 

遅れた集団は直線入口でグローリーヴェイズが前を捉えると、単独二番手でキセキを追いかける。

アーモンドアイもピタリとついて動き出す。

 

ここが勝負どころと見たカレンブーケドール、デアリングタクト、コントレイル。

三人が並んで前に襲いかかる。

 

アーモンドアイは残り200メートルからスパートをかけると、グローリーヴェイズを一瞬で抜き去り、キセキもあっという間に捉えた。

 

後続の三人とグローリーヴェイズが必死に追いすがるも、誰も先に抜け出した女王には届かない。

 

一着 アーモンドアイ

 

二着 コントレイル

三着 デアリングタクト

四着 グローリーヴェイズ

五着 カレンブーケドール

 

二着以下の混戦をするりと引き離し、“アーモンドアイ”はG1九勝目を挙げた。

 

 

 

───

 

8. 伝説の誕生

 

 

アーモンドアイは伝説になった。

 

これを最後にするはずだった。

そのまま引退を発表するつもりだった。

 

 

 

その日、彼女は何も言わなかった。

 

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