ウマ娘プリティーダービー 〜黄金の時代〜   作:リンゴ糖

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皐月賞:黄金の時代

1. 外からの景色

 

桜花賞から一週間。

クラシック路線、その一冠目――皐月賞が開催される。

 

ボクはそれを、観客席から眺めていた。

 

悔しさはある。

だが先日のライラックさんとの会話のおかげか、過剰な不安に飲み込まれることはなかった。

ダービーに向けて、きちんと切り替えられている。そんな実感があった。

 

ボクが不在の皐月賞。

前評判はワグネリアンが一番人気、ステルヴィオが二番人気だった。

 

ワグは普段通りのマイペース。

弥生賞で感じた、あの強烈なプレッシャーも見せない。

―― いや、まったく動じていない、というわけでもないのだろうか。

 

「王子様の玉座は、長椅子だったのかしら?」

 

「ステルヴィオ」

 

「まったく。ファンサに夢中で怪我するなんて」

「今日はそこで、私の走りを見てなさい」

「そしてダービーでは、そんなミスしないことね」

 

ステルヴィオは、真っ直ぐこちらを見つめていた。

彼女にはダービーは、やや長いかもしれない。

 

それでも――

それでも彼女は、ボクと戦うと、ダービーで待つと言ってくれた。

 

胸が、熱くなる。

 

「ああ、友よ。

活躍、楽しみにしているよ」

 

⸻

 

2. 抜け出したのは

 

レースは、前日の雨の影響で稍重。

 

スタート直後、三人の逃げウマ娘が飛び出した。

この馬場での前残りを狙い、三人は大逃げ態勢に入る。

 

ワグは中団後方。

ステルヴィオは出遅れ、ほぼ最後方からのレースとなった。

 

前を行く三人は、粘り込みを図る。

後方集団が追いついたのは、直線に入ってからだった。

 

逃げる三人がばらける。

だが、後ろはまだ遠い。

 

――逃げ切りか。

 

そう思われた、その瞬間。

 

四番手、後方集団を先頭で引っ張ってきた一人が、抜け出した。

 

エポカドーロ。

 

一歩、また一歩。

前へ、前へ。

 

ピッチ走法の細かなストライドで、止まることなく伸びていく。

 

前をかわし、二馬身差。

そのまま、ゴールへ飛び込んだ。

 

⸻

 

3. 小さな炎

 

勝ったのは、七番人気の伏兵、エポカドーロ。

 

出遅れに腹を括ったステルヴィオは追い込み、四着。

ワグはどっちつかずの位置取りとなり、七着に敗れた。

 

インタビューを受けるエポカドーロは、少し猫背で、わたわたしている。

小動物のような雰囲気。そんな子だった。

 

展開が向いた。

ラッキーパンチ。

 

そう言われても、おかしくはない。

 

それでも――

ダービーに向けて、そう問われたとき。

 

「……ゆずる気は、ありません」

 

その一言だけは、

やけにはっきりと、ボクの胸に届いた。

 

 

─────

 

おまけ:皐月賞ウマ娘の実態

 

 

皐月賞の翌日、ボクはライラックさんに連れられてエポカドーロを訪ねた。

 

ライラックさん曰く、

エポカドーロとは親戚みたいなもので、せっかくだし直接お祝いしたいとのこと。

 

ボクも彼女とは直接話してみたかったので、二つ返事で了承した。

 

「ダノっち、今日は来てくれてありがとな」

 

「それはいいけど、本当にご一緒して大丈夫だったのかい?」

 

ライラックさんはあれ以来、ボクをダノっちと呼ぶ。

気恥ずかしい気もしたが、彼女からの信頼の証だと思い、甘んじて受け入れている。

 

「えーんよ。実はな、エポちゃん、ダノっちに憧れてるらしくてな。

 これもお祝いの一環って感じや」

「ダノっちもなんか思惑あるんやろ?

 場は用意したるし、ちょっと協力してな」

 

……なかなかしたたかな人だが、

「えーやろ?」といつもの笑顔で聞かれると、まあいいかとなってしまう。

 

そんなこんなで、彼女の部屋へ。

 

扉を開けると、ライラックさんは、

 

「やったなー、エポちゃん」

 

そう言って、いつかのアイさん相手のように、なでなでモードに入った。

 

「うん、ありがとぅ、ララちゃん」

 

されるがままだが、嫌がる様子はない。

どうやら慣れているらしい。

 

「今日はなー、エポちゃんに特別プレゼントや。

 カモン! ダノっち!」

 

「どーも」

 

呼ばれて登場、ダノンプレミアム。

エポカドーロは急な展開に固まり、

 

「えっ、なんで!?」

 

と、素直なリアクションを返した。

最近はワグにつきっきりだったから、余計に新鮮だった。

 

「あ、あぅ……」

 

軽くパニック状態に入ったようで、言葉にならない声を漏らし、

 

「きゅー」

 

どうやら限界を迎えたらしい。

 

――少しして。

 

「ごめんなさい。私人見知りで、緊張しいで……」

「だから、いつも堂々としてるダノンさんに憧れてるんです」

 

そう話すエポカドーロ。

……ライラックさんに膝枕されながら。

 

満面の笑みでエポカドーロを撫で続けるライラックさん。

ボクは、この新しくできた友人に、若干の恐怖を感じていた。

 

「私が、期待されてないのはわかってます」

「でも、引く気はないです」

「ダノンプレミアムさん。ダービーで、勝負です」

 

自分の評価を受け止め、それでも前に出られる。

彼女は、間違いなく強い人だ。

 

……膝枕じゃなければ、

すごく熱い場面だったと思う。

 

そんなこんなで時間は過ぎ、解散の流れになった。

 

「二人とも、今日はありがとう」

 

「気にせんでええよー」

 

「そうだよ。元々キミのお祝いに来たんだから」

 

えへへ、と照れるエポカドーロ。

やっぱり小動物じみていて、かわいい。

 

「あっ、ララちゃん。

 ごめん、うちの親から手紙と荷物届いてて」

「すぐ取ってくるから、待っててね」

 

そう言って、ぱたぱたと棚を漁る。

上の方に手を伸ばす姿を見て、猫背気味だから小柄に見えたんだな、と気づいた。

 

身長自体は……ボクと同じくらいか。

 

ぼんやり眺めていると、

 

ぶるんっ。

 

視界の端で、エポカドーロの胸元が揺れた。

 

ボクは自分の胸元を見る。

足元まで、視界良好。

 

横でライラックさんが、半笑いで言った。

 

「王子様らしい体型ですな」

 

新たな友人に、静かな殺意を抱いた。

――そんな一日だった。

 

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