魔力2では魔術師は厳しい。ヤミの邪神を魔力源にしてみたら 作:病みのジャシン
俺が最初に魔術を覚えたいと思ったのは、村の大人が生きたままサイクロプスに丸呑みされた時だった。
その時、幼かった俺が難を逃れたのは、本当にただ運がよかっただけだったと思う。
夜眠る前に聞かされた童歌によると、世界には神や悪魔の類の上位存在がいて、悪いことをするとそういう上位存在が魔物を使って、食べに来るらしい。
少し成長した今は、それが単なる子供騙しではなく、どうやら本当に、そういった上位存在が幅を利かせているらしいことが分かってきた。
いずれにしても上位存在とやらの気分次第で、魔物の胃の中でじっくりことこと溶かされながら死ぬことだけは本当に嫌だった。
だから俺は魔術を勉強することにした。村の資料館には多くはないが魔術書があった。
俺が最初に習得したかった魔術が村に所蔵されていた魔術書に掲載されていたのは幸運だった。
それが『自爆魔術』である。
この魔術があれば、例えサイクロプスに丸呑みされても自分自身で爆散することができる。
自爆魔術があれば長時間苦しむことだけは回避できるだろう。
しかし、問題もあった。試すことができないのである。
自分の命と引き換えの自爆魔術が試せないのは当然と言えば当然である。
ひとまず初歩の初歩の魔術を独習しつつ、自爆魔術も恐らく発動できるのではないかというところまで、できるようになった。
ここで欲が出てきた。
これまでは、苦しまずに死ぬこと、すなわち死ぬことは前提にあったけれども……そもそもできれば死にたくないなぁと。
そこでようやく俺は魔術を人に習うことにしたのだ。
裕福な家の生まれではなかったから、両親には申し訳なかったが、魔術塾に通わせてもらうことにしたのだ。それが、十二歳のことだった。
「レグルくん、非常に残念だが、君の魔力量は2だ」
ひげを蓄えた村唯一の魔術塾の先生が重々しい空気で俺に告げた。
「魔力量……2?」
どういうこと?
「レグルくん、人には魔力量というものがあってな、ほとんどは才能……、生まれた時点で決まってしまうんだ。君の魔力量を測定した結果、2だった。100段階で」
100段階でたったの2? 何の冗談だ?
「初歩魔術とはいえ独学で覚えたのは本当にすごいことだよ、それだけに残念だよ」
「ちょっと待ってください! 自分は初歩魔術だけでなく、自爆魔術もできますよ!」
「自爆魔術を独学で!? そ、それはすごいことではあるが、……そうだな、自爆魔術はな、その命を捧げることで魔力0でも行使できる珍しい魔術なんだよ」
「……」
こうして俺は二日で魔術塾を退塾した。
両親にはあまり迷惑をかけずに済んだようだ。
◇
「ついに見つけた」
俺は、とある地下の神殿に来ていた。
その神殿は魔物に滅ぼされ、誰も近づかなくなった廃村にひっそりと存在した。
俺は魔力量が2であると告げられてから、約三年間、あちこちを旅しながら魔術の独習をしていた。
そんなことをしていると、意図せず世界の多くのことを知る機会があった。
その中でも印象的であったことは、世界の支配層は皆、上位存在と契約しているということ。
一口に支配層といっても善人ばかりではない。
そもそもの前提として、上位存在は人間のことが大好きだということであった。
ただ、その好きというのがかなり歪んでいて、性悪説、悪平等、破滅主義者といった危険思想をこよなく愛するような輩も数多くいる。
いずれにしても上位存在と契約を交わすことで人ならざる力を得て、この世界を牛耳っているということだ。
細かい話は置いておいて、この事実を知った時に、俺の頭に浮かんだことは一つだった。
「……いた」
神殿の最奥部、祭壇に、膝を抱えるように、ふわふわと漂いながら、眠りについている存在があった。
一見すると、人間の女性の姿だ。
長い銀の髪は幻惑的で、黒いオーラのようなものが身を守っているようにも見える。
「……こいつが闇の邪神ソルン」
五大属性神の一角、闇を司る神でありながら、人々に災厄をもたらす邪神とされている。
俺が、そんな邪神を探していたのには理由がある。
それは歴史上、誰とも契約を交わしたことがないとされていたからだ。
伝承によると過去にソルンに近づこうとした殺人鬼や暴君は全て契約を拒否されてきたという。
結構な悪党であってもこの邪神様を満足させ、契約させることができなかったとあって、誰もソルンと契約しようとしない。あるいはしようとしても拒否される。
だから、まだ
その予想は幸いなことに的中していたようだ。
俺は手の平の上に、渦を起こす。
……ということで、俺はこいつを、
「魔力吸引装置にする」
俺は、手の平の渦を躊躇することなく、ソルンに押し当てた。
そう。俺は、この闇の邪神ソルンを魔力源にすることにしたのだ。
魔力量2と告げられてから、俺は『
自分の魔力がないなら、他人の魔力を拝借すればいいという非常に単純な発想である。
これが功を奏し、多少であれば己の限界を超えた魔術を行使できるようになったのだ。
しかし、それは一時凌ぎ的なものでしかなく、結局は相手の魔力量に依存するのだ。
この問題を解決するためには、恒久的な魔力源が必要であった。
そうして、たゆまざる努力の結果、俺は『遠隔魔力吸引魔術』の開発に成功した。
そんな折、魔力源として最適な物件を探していた時に目を付けたのがこの邪神ソルンである。
五大属性神と呼ばれるくらいだから魔力量とかは申し分なさそうだし、特に誰とも契約しないというのが非常にこちらの希望にマッチしていた。
俺は別に契約しなくてよく、魔力だけ拝借させていただければいいので。
「おっ、おぉおおおおおお!」
身体中を駆け巡る万能感。
これが……これがソルンの魔力……。
かなりの出力で汲んでいるにも関わらず全く枯れる気配もない。
これでようやく自由に魔術が使える。これで突然の理不尽に蹂躙されることなく、主体的に生きていくことができるかもしれない。
俺は悲願を手に入れた達成感を胸に、祭壇に背を向けた。
その時だった。
『え……? ちょ、ちょっと待ちなさいよ……』
「ん……?」
振り返ると、ソルンが目を開いている。
眠っていたんじゃないのか?
…………まずい……のか?
「どうかしたか?」
『どうって君、私と契約しにきたんじゃないの?』
「いえ、契約とかは特に……」
『じゃあ、君、何しに来たの? ……嘘はつかない方がいいよ?』
「……あ、いや、俺はただあなたを魔力源にしようとしただけでして」
『この闇の化身たる私を魔力源に……?』
「はい、たくさん搾れるかなと……」
『…………』
ソルンは目を丸くして俺を見つめている。
流石にまずかったか。
しかし、怖くはない。
なにせ俺にはいざという時のための自爆魔術があるからな。
上位存在を利用しようというのだから、当然、こういったリスクも頭に入れてここへ来た。
……試したことがないことだけは少し不安ではあるが。
俺が頭の中で、自爆魔術の術式確認を行っていた、その時だった。
『……——しゅごい』
「……は?」
ソルンはなぜか頬をほんのりと染め、恍惚の表情を浮かべている。
『君はこの私を単なる魔力の財布にしようとした。そういうことよね?』
「……言い方は悪いですが、そうです。なにぶん、魔力量が2でして……」
『魔力量2……!? ……しゅごいしゅごいしゅごい! 魔力量2の分際で、この五大属性神の私を!? 話しかけることすらせずに、魔力だけ拝借しようとしたと!? 信じらんない! 今まで自信満々で話し掛けてきたわりに、しょうもない小悪党だった奴らなんかとは比べものにならないくらい……頭のネジが飛んでるよぉ』
……心外である。
『……ねぇ、君、名前はなんて言うの?』
「……レグルといいます」
『ねぇ、レグル……。この闇の神であるソルンと——契約してみない?』
「……!」
……どうしたことか、そのリスクは想定していなかった。