魔力2では魔術師は厳しい。ヤミの邪神を魔力源にしてみたら 作:病みのジャシン
『ねぇ、レグル……。この闇の神であるソルンと——契約してみない?』
邪神ソルンからの予期せぬ提案だ。
「……」
……一考する。
俺がソルンを魔力吸引装置にしようとしたのは、はなから契約は不可能だと考えていたという側面もある。
しかし、相手から提案してきたとなれば、話は別だ。
上位存在と契約すれば、その能力の一部を使えるようになると聞く。
俺が欲したのは平たく言えば『力』だ。この世界で他者から蹂躙されることなく、主体的に生きるための力。
上位存在の能力を拝借できるのであれば、それに越したことはない。
……それと、このソルンさんと実際に少し会話をしてみた結果、邪神というイメージとの乖離、そして己がしたことへの多少の罪悪感が芽生えてきたことも否定できない。
「……少し質問してもいいだろうか?」
『ふふっ、前向きに検討してくれるってことね、嬉しい! 何でも聞いてくれていいよ?』
ソルンはいたいけな笑みを浮かべる。
これだけ見ると、本当にただの人間の少女のようだ。
「ありがとう、ソルンさん。だが、契約というからには対価を求めるのだろう? 俺が支払う対価を教えてくれ」
『……君、何か勘違いをしているようだね』
「……!」
なんだ……。
俺はなにか彼女の逆鱗に触れることを言ったか?
『私があなたに価値を見出したのだから、対価を支払うのは私の方だよ?』
「え……?」
『だから私の魔力も能力も使っていいからね……! あ、しいて言うならー、飾らないこと。ありのままの君を私に見せて欲しいな』
……俺はそんなに奇妙な人間に映ったのだろうか。
いや、恐らく、このソルンさんの感性が少し変わっているのだろう。
『だってさー、魔力量2だよ? 0とか1ならまだ振り切れてて分かるけど、2だよ? 中途半端すぎぃ! そんな奴が初手でこの私を魔力源にしようとするなんて、それがもう面白過ぎるんだよ』
ソルンはケラケラと笑う。
おい、素数の中で唯一の偶数である2さんをあまり馬鹿にするなよ。
『あ、ごめん。一つだけ条件があった』
「……なんだ?」
『私のことはソルンって呼んで欲しいの! もちろん親しみを込めてね』
「……。……君の提示する条件はわかった。俺からすればほとんど無条件に近いわけだが、構わないのか?
『もちろん! でもでも、一つだけ注意してね』
「……なんだ?」
『レグルより面白い人がいたらー……、そっちにいっちゃうかもー』
……。
『ねぇ、もしもそうなったらー、レグルはどうするー?』
ソルンはニヤリと口角を歪めながら嬉々として尋ねる。
その瞬間、俺は彼女から上位存在という者のにおいを感じた。
だが、俺からすれば、それは即答するのに難くない質問だった。
「もしそうなったら……俺は
自爆魔術。
それは俺にとって俺の行動を保証するお守りのような存在だった。
実際に、試せていないという懸念点はあるものの俺は自爆魔術の威力制御とその最大出力について絶対的な自信がある。
俺は、胃袋の中で、じっくりことこと溶かされながら死ぬことだけは絶対に嫌だった。
自爆魔術の修得により、俺はその恐怖から解放された。
いつ
俺が神を利用するなどという身の丈に合わないことを躊躇なく行動に移せるのは、その安心感があるからなのかもしれない。
一方でそういった無謀に責任がないとも思わない。
闇の邪神などと呼ばれるソルンに手を出すことを決めた時点で、ある程度の責任を伴うこと、そしてその責任を負う覚悟は決めていた。
ましてや、この邪神が俺のせいで、誰ともしれない他の者の手に渡るというのなら、自爆をもってそれを阻止する他ないだろう。
……とはいえ、少しオブラートに包むべきだっただろうか。
こんなことを言われた邪神さまは、さぞお怒りに……、
『ふぇえ……』
ん……?
ソルンは腰が砕けたように、ぺたりとへたり込んでいる。
『レグル、それってつまり……私を他の人にやるくらいなら一緒に死ぬと……そういうことだよね?』
顔をあげたソルンの瞳はぐずぐずに潤んでいる。
「え……? まぁ、そうですけど」
なにやら様子がおかしいような気もするが、念のため、復唱して内容を確認してみよう。
ソルンを他の人にやるくらいなら一緒に死ぬ。
うむ、全く認識齟齬はないな。
『ご、ごめんなさい、レグル。本当に……。今のは失言だったよ。もうこんなつまらない失言はしないから……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、お願い……お願いだから、どうか捨てないでぇ……』
「あ、いや、そんなには謝らなくても、大丈夫ですが……」
『ありがとう……、本当にありがとう。しょ、証拠に絶対にレグルを裏切らない刻印を契約に追加しておくからっ……、これで……これでどうか……』
「あ、うん……」
『よかった……。これでもうずっと一緒だね……。契約成りちゅ』
…………。
無事に契約が成立したようだ。