魔力2では魔術師は厳しい。ヤミの邪神を魔力源にしてみたら 作:病みのジャシン
まさか
万能感がないと言えば嘘になるし、同時に恐ろしくもあった。
俺が、この手でサイクロプスを葬った。
俺にとってそれは例えば他の同レベルの魔物を撃退するよりも大きな意味のあることだった。
幼き頃、突如、村を襲ったサイクロプス。
俺は警告を無視したとか、遊んじゃいけないところで遊んでたとかそんなことはしてなかった。
ただいつも通りに、大抵の子供がそうであるように、特に何も考えずに、普通に生きていただけだった。
村のあの大人のことを俺は知らなかったし、きっとあの人も俺のことを知らなかったと思う。
それでも俺にとってあの人は紛れもない英雄だった。
僅かな時間を作るために、囮になってくれた。
あの人のことを思うと胸が詰まる。
サイクロプスの胃の中で、俺のことなんか助けなければよかったと思ったかもしれない。
その直後、魔術師が現れて、サイクロプスを追い払ってくれたのだから尚更だ。
あの人は俺を助けなければきっと助かっていた。
いずれにしても『名前も分からないあの人』と『そのあと現れた魔術師』がその後の俺の在り方に影響を与えたのは疑いようがない。
しかし……、なぜソルンとの契約を果たしたこのタイミングで俺にとってのトラウマであるサイクロプスが現れたのか……。
『ねぇ、レグル、怖い顔してるけど、私、何か怒らせちゃったかな……』
「んあ……」
ソルンが不安そうに俺の顔を覗き込んでいた。
浮遊しているから移動中にもそんな体勢ができるんだなぁ……。
「いや、すまない。少しぼーっとしていたみたいだ……」
『そっか。えーと……お邪魔しちゃってごめんなんだけど、これからどこへ行くの?』
「神殿を探す過程で、拠点にしていた村があるんだ。だから一旦、宿に戻ろうと思う」
『わかった』
ソルンはにこりと微笑みながら、相槌を打つ。
……そこでふと疑問に思う。
「つかぬことを聞くが……、ソルンって他人に視えるの?」
『いやだなー。私はレグルだけの物だよ? レグル以外には私の神聖な姿を視せたくないよ。もちろん声もね』
「……なるほど。確かに自称契約者の上位存在を実際に見たことはないな」
『あ、だけどね、契約者になれば普通は相手の上位存在の霊体を見ることができるようになるはずだよ』
「なんと……! ……?」
『じゃあ、なんで私は視えないの? って思ったでしょ。それは何を隠そう、私が闇の化身だからだよ! 姿を闇に隠すことくらい簡単なんだよ』
「……すごいな、手の内を明かさなくて済むことは生き残る上で、かなり有利なことだ」
『えへへ……。でもでも、私くらいになると、逆に実体化してー』
「え……?」
ソルンは突然、地面に足をつき、そしてなんとなくだが気配の色が濃くなった。
『このようにレグルに触れること……もっ』
と、俺の手を取ろうとした直前でソルンはぴたりと停止した。
「……どうかしたか?」
『あ、え、えーと……その……、えーと……私なんかがレグルに触れても……良いものか……と』
ソルンはなぜか俯いてしまった。
だから俺は……、その手に触れた。
『え……?』
「…………神様って温かいのだな」
『っっ——……』
「ソルン、言いそびれていたな。改めて、俺と契約してくれてありがとう。望外の幸運だ」
『……——ひゃい』
そう返事すると、ソルンはさらさらと砂のように消えてしまった。
……どうやら霊体に戻ったようだ。
そうこうしているうちに拠点としていた村に着いた。
拠点の村はソルンの神殿があった廃村からかなり急げば数時間で行き来できる距離にある。
ちょうど俺の古里くらいの規模の村で、なんとなく居心地がよかった。
「……」
……村民は特に俺に注目している様子はない。
確かにソルンは他人から視えていないようだ。
早朝にこの村を出発して、今はもう空が暗くなり始めていた。
一日で戻ってこられたのはよかったが……少し腹が減ったな。
「ソルン、食事に行かないか?」
『え……? うん、いいよ。ってか、私は霊体だからさ、特にお腹とか減らないから。レグルは自分のタイミングで行っていいよ?』
「そうなのか? 君たちは人間の食べ物は食べないのか?」
『うん、なんたって私達の大好物は……ね?』
人間の善意や悪意といった概念的なもの……ってことか。
「であれば、食事は買って、宿で食べることにする」
『え? 私に気を使わないでよ?』
「俺がそうしたいだけだ」
そうして俺は、露店で売っていた干し肉を挟んだパンを二つ買い、そのまま宿へと向かうことにする。
「おや、無事に帰ってきたのかい?」
宿に着くと、フロントにいた女将が声をかけてきた。
「おかげさまで」
「よかったよかった。昨晩、10日分の宿賃を置いて、7日戻らなかったら、荷物を全部処分してくれなんて言われた時は、びっくりしたけれど、全く大袈裟だねぇ。はい、これ、昨日預かった10日分の宿賃だよ」
「すみません、ありがとうございます」
俺は女将から小袋を受け取る。
「あ、えーと、これ……今夜の分です」
俺はその小袋から一部を取り出し、再び女将に渡した。
「……! ありがたいけども、これじゃあ、
「あぁ」
『……——』
そうして、ようやく部屋へ戻る。
……流石に少し疲れたような気もする。
『ね、ねえ……、レグル……さっき女将に渡したチップって……』
……。
「なぁ、ソルン、君は食事を取らないと言っていたけどさ、実体化しても食べられないのか?」
『……え? それは……一時的に人間の姿を模しているわけだから、多分、食べられるけど……』
「だったらさ、一緒に食べないか? 簡素ではあるが、結構、美味しいぞ?」
『……!』
『……うぁああああん、美味しいよーーーー! これ美味しいよーーーー!』
「ちょ、ソルン、泣くことないだろ……」
『だって、美味しいんだもん。うわぁあああああん。これはきっとレグルのね、スパイスがね……』
「……? 作ったの俺じゃないぞ?」
『わかってるよーーーー!』
……! ……。
「……外ではなかなか難しいけどさ、二人だけの時はなるべく一緒に食べような」
『うん……! うん……!』
ソルンはこくこくと何度も頷く。
おかしいな。
……裏があるとか、少しは疑ってかかった方がいいのだろうか? いや、そういうのは面倒だ。
いざとなれば自爆する。ただそれだけだ。
『ねぇ、レグル……、私も何かお返しがしたいよ』
「お返し……? すでに魔力を貰ってるわけだが……」
『魔力なんかじゃ、この美味しいパンの対価には全然足りないよ!』
魔力なんかって……。
随分と干し肉パンを気に入ってくれたようだな。
そういうつもりじゃなかったが、餌付けしているようで少し気が引けるんだが……。
『さぁ、言ってみて! なんでも聞くよ!』
ん……? なんでも……?