しかし、話し合いが始まって5分、トムはやはり相談をしたのは間違いだったのではないかと後悔した。
夕食後、トムの誘いで一年生五人は使われていない教室に集まった。
窓際の机を囲んで座ると、ロンが懐から紙包みを取り出した。
中には焼き菓子が入っていた。
「さっき、夕食を食べたばかりだよ」
ハンナは信じられないものを見るように言ったが、ロンは平然と答えた。
「話が長くなるかもしれないだろ」
一方、ラベンダーは何かを書いた札を持って、扉の外へ出ていった。
戻ってきた彼女に、ネビルが尋ねた。
「何を掛けたの?」
「誰も入ってこないように。秘密の話なんでしょう?」
ネビルは扉を少し開けて確かめた。
それから、静かにこちらを振り返った。
「『秘密会議中』って書いてあるけど」
「そうよ」
「秘密だって、廊下に知らせるの?」
ラベンダーは少し考えた。
「じゃあ、『入室禁止』にする?」
「フレッドとジョージが、絶対に入ってくるぞ」
ロンが言った。説得力のある言葉だった。
ネビルは札を裏返し、白い面へ『使用中』と書いて掛け直した。
ハンナが椅子を寄せ、全員がようやく席についた。
「それで、何の話?」
トムは顔を上げた。ロンは既に菓子を食べ始めていた。
人生をかけた告白が、お茶会のような雰囲気だ。
あれほど考えた切り出し方は、一つも出てこなかった。
「その……僕の記憶について、聞いてほしいんだ」
四人が首を傾げた。
*
「……つまり、普通なら持っていないはずの記憶がある。
でも、それが全部正しいわけじゃなくて。
何かの役には立つかもしれないけど、間違ったことを話したら困るってことか」
四人は黙って聞いたあと、ネビルがまとめた。
「そんな感じ。知っている理由も、まだうまく説明できない。
だから、どこまで話していいのかも分からなくて」
沈黙が延長された。
トムは膝の上で手を組み直した。
あまりにも怪しい話だ。自分が聞く側だったら、疲れているのではないかと言うかもしれない。
ロンが口を開いた。
「それで、何を知ってるんだ?」
「それを、言っていいか分からないんだ」
「うーん」
ロンは呻いた。それから、困ったようにネビルを見た。
「……どうすればいい?」
ごもっともだった。
転生という言葉を避け、前世の本のことも避け、人物の名前も避けた結果、残ったのは非常に曖昧な悩みだった。
これで意見を求められても、四人にはどうしようもない。
「悪い夢を見た、ということ?」
ラベンダーが尋ねた。
「夢とは違うと思う。起きているときも、普通に思い出せるから」
「じゃあ、忘れていたことを思い出したとか?」
「それも、少し違う」
トムは言いながら、申し訳なくなった。
せっかく聞いてくれているのに、違うとしか答えられない。
「ごめん。自分でも、説明が下手だと思う」
「言えないことがあるんでしょう?」
ハンナが言った。
「だったら、仕方ないよ。でも、何に困っているのか、もう少し分かれば……」
彼女もそこで言葉を止めた。
四人とも、どこまで踏み込んでいいか測りかねているらしかった。
ネビルがしばらく考え、それから机へ身を乗り出した。
「質問の仕方を変えてみようか。はいか、いいえだけで答えられるようにするんだ」
「当てものみたいに?」
「少し似てる。前に騎士団の人に教わったんだ。元闇祓いのキングズリーさん。話が混乱したときは、一度に聞くことを小さくするといいって」
ネビルはトムを見た。
「秘密の中身を当てるんじゃなくて、何が分かっていて、何が分からないかを確かめる。
答えたくなければ、答えなくていい。分からないときも、そう言って」
それなら、できる気がした。
トムが頷くと、ラベンダーが羽ペンを取り出した。
ハンナが机の上の菓子屑を払って、羊皮紙を広げる場所を空けた。
「じゃあ、わたしがまとめるね」
「分かった」
ラベンダーは頷き、紙の上へ『分かっていること』と書いた。
*
「……じゃあ、本来知らない魔法のことは知ってる?」
「はい」
「まだ教わってない呪文も使える?」
「いいえ」
ロンは少しがっかりした顔をした。
「試験の答えは?」
「ロン」
「大事だろ!」
ハンナに見られ、ロンは肩をすくめた。
トムは少し笑った。
知らない呪文を期待されるまでは分かるが、試験の答えまで含まれるとは思わなかった。
「魔法の名前を知っているの?」
ハンナが聞いた。
「はい」
「すべての魔法の?」
「ほんの一部だけ」
「でも、杖の振り方とか、使い方は分からない?」
「はい」
ラベンダーが羊皮紙へ書き込んだ。
「知ってるけど、できない、と」
ずいぶん身も蓋もないまとめ方だった。
「人のことも知ってるんだよね」
ネビルが続けた。
「会う前から、人の名前を知っていた?」
「はい」
「顔も?」
トムは迷った。
映画の俳優の顔を知っていることと、現実の本人の顔を知っていることは、同じではない。
「……分からない」
「その人がしたことは?」
「一部は、知ってる」
「それは実際に会ってみて、合っていた?」
「合っているところも、違っているところもある」
ラベンダーは何かを書き足した。
この質問については最初に決めた、はいといいえだけという規則が少し崩れていた。
しかし、話は先ほどよりもどんどん進めることができた。
「僕らのことも、知ってた?」
ロンが尋ねた。
トムは四人を見た。嘘をついても、たぶん、ここでは何もよくならない。
「……名前は」
ラベンダーが自分を指した。トムが頷くと、彼女は少し背筋を伸ばした。
「私、何かすごいことをした?」
「ラベンダー」
「ロンの試験より大事でしょう?」
トムは困ったように笑った。その先を尋ねられたら、どうしよう。
ネビルが間に入った。
「そこは、まだ聞かないことにしよう。今の僕らと違っているかもしれないんだし」
質問は、その後も続いた。
記憶は、魔法界のことだけか。いいえ。
孤児院で教わったことか。いいえ。
見たことのないはずの場所を覚えているのか。はい。
そこに魔法使いはいるのか。少なくとも、自分の知る限りではいない。
ハンナが少し考えた。
「誰かに聞いた話を覚えている感じ?それとも、自分がそこにいた感じ?」
トムの指が膝の上で止まった。
蛍光灯の光。机の上の画面。通勤途中に聞いていた音楽。
名前も顔も、最近は思い出す機会が減っていた人々。
それらは、自分の記憶だった。そう思って生きてきた。
「自分が、そこにいた感じ」
答えると、四人はしばらく黙った。
今度の沈黙は、何を聞けばよいか分からないものとは少し違った。
「この人生では行っていない、マグルの場所に?」
ハンナが確かめた。
トムは、ゆっくり頷いた。
*
ラベンダーが羊皮紙を机の中央へ置いた。
実際の質疑の内容とは別に、まとめられた三つの項目が並んでいる。
一、習っていない魔法の名前や働きを知っているが、使い方は分からない。
二、会ったことのない人の名前や、その人についての情報を持っている。
ただし、今の本人と一致しないこともある。
三、孤児院で育った人生とは結びつかない、マグルとして暮らした記憶がある。
「こんな感じ?」
トムは読んで、頷いた。
自分一人では、もっと長くて、もっと曖昧な説明しかできなかった。
その三行が正しい答えなのではない。
それでも、何について悩んでいるかは、先ほどより見やすくなっていた。
「やっぱり、予知じゃない?」
ラベンダーが言った。
「これから起きることを見ていたのなら、今と違っていても変じゃないでしょう」
「でも、知ってる人の昔のこともあるんだろ?」
ロンが言った。
トムが頷くと、ラベンダーは唇を尖らせた。
「じゃあ、過去のことも見えるとか」
「便利だな、それ」
「あなたは何だと思うの?」
「誰かに、別の人の記憶を入れられたとか」
言ってから、ロンはトムを見た。
「いや、そうだって言ってるんじゃないぞ。
ただ、魔法なら、そういうこともあるんじゃないかって」
「本当は行ったことがあって、そこへ行った前後だけ忘れている可能性もあるよね」
ネビルが言った。
「でも、それなら孤児院の人たちも覚えてないと変かな」
「全部が同じ理由とは限らないんじゃない?」
ハンナが羊皮紙を指した。
「魔法のことを知っている理由と、本来知らない人や場所を覚えている理由が、別だったら?」
トムは机を見つめた。
前世の記憶。転生。自分の中では、最初からそういうものだった。
知っている物語に似ているから、疑うこともあまりなかった。
だが、それを他人に説明すると、こんなに別の考え方が出てくる。
自分は何を根拠に、一つに決めたのだろう。
「先生には話したんだよな?」
ロンに聞かれ、トムは顔を上げた。
「少し。グリンデルバルド先生も確認したんだ。
それで自分自身にも分からない仕掛けがあるかもしれないって。
だから、閉心術で自分の記憶を調べる練習をしてる」
「それで、座ってたのか」
ロンはようやく納得したようだった。
「ダンブルドア先生にも、伝えたいことがあるんだ。
でも、間違っていたら、誰かが危険な場所へ調べに行くかもしれない」
ネビルが眉を寄せた。
「でも、全部黙ってるのも、もったいないじゃないか」
それは、トムもずっと考えていたことだった。
ハンナが口を開いた。
「正しいか分からないことを、トム一人で全部正しくしようとしなくてもいいと思う」
言い切ってから、少し自信なさそうに付け加えた。
「私たちも、今、分からないことを並べてるだけだけど。並べる前よりは、分かってきたでしょう?」
トムは頷いた。
答えはまだなかった。
それでも、話し始めたときのように、どこから触ればよいのかさえ分からない感じは、少し薄れていた。
それに人に秘密を話すというだけで、脳内の整理ができて気持ちも少し楽になった。
「ところで、その間違ってるところって、どう違うんだ?」
ロンが尋ねた。
「人違いとか、名前が違うとか?」
「名前は同じ。もっと大きな違いなんだ」
「言えることはある?」
トムは考えた。
名前を出さず、分霊箱にも触れなければ、話せることはある。
「僕の知っている話では、ある魔法使いが本当は一度倒されて、体を失うことになってるはずだった。でも、実際には倒されていない。それどころか、その後より強くなって、勝てなかったライバルとの勝負に勝ってんだ」
ロンは少し顔をしかめた。
「体を失うって、死ぬってことか?」
「普通なら、そうだと思う。でも、その人の場合は……そこは、まだ説明できない」
ラベンダーは羽ペンの羽をいじりながら考え込む様子を見せた。
「それって、つまり、トムにとって起きたはずだったことが起きなかったのよね?」
「うん」
「それで、その人が変わった?」
「うん。何というか運命が変わったように思えるんだ」
ラベンダーが椅子を引いた。
「待って。似た話、読んだことがある」
彼女は返事を待たずに教室を出ていった。
足音が遠ざかる。
ロンは扉を見送り、それからみんなを見て肩をすくめた。
*
数分後に戻ってきたラベンダーは、紫色の表紙の本を抱えていた。
角が擦り切れ、金色の文字の一部が剥げている。
『運命の織り目――予兆、試練、そして昇華』と読めた。
「トレローニー先生に借りたの」
「好きだねえ、こういうの」
「まだ読んでもいないでしょう」
ラベンダーは本を机へ置き、何本も挟まれた細い紙片の一つを開いた。
「天文学の授業のあとに、星で決まった運命は変えられないのかって聞いたら、貸してくださったの。ほら、ここのところ」
トムは覗き込んだ。
頁の片側には、糸を紡ぐ三人の女が描かれていた。
その下には、絡まり合った糸と、小さな鋏の挿絵がある。
鋏は、ときどき刃を開閉していた。
本文は古風な言い回しだったが、読めないほどではなかった。
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生まれ持った力、出会う人々、そして自ら選んだ道。
それらが織り重なって運命を形作り、その者がどこまで進めるかを定める。
しかし、その限界は変わらないものではない。
避けられないはずの死を退け、越えられないはずの壁を越える。
このように、自らの運命を覆す行いを「偉業」と呼ぶ。
偉業を成し遂げた者は、魂の器が広がり、力と知恵を増す。
これを命の位階が上がるという。
長い修練でも届かなかった境地へ、一度の偉業によって至ることがある。
ゆえに、偉業の達成こそ、命の位階を高める「最も遠い」近道なのである。
アフリカ各地に伝わる成人の儀礼にも、この考えに基づくものがある。
試練を通じて古い自分を脱し、新たな存在へ生まれ変わるための儀礼魔法である。
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「位階って?」
ロンが聞いた。
「その……同じ人でも、前と同じ存在ではなくなる、ということだと思う」
ラベンダーは本文を指で辿った。
「例があるの。ここ」
次の頁では、獅子の皮をまとった男が、太い棍棒を肩へ担いでいた――大英雄、ヘラクレス。
トムにも覚えのある名前だった。
本では半神の英雄が成し遂げた十二の試練を挙げ、それらを単なる怪物退治や難事業の一覧として読んではならないと述べていた。試練を越えるごとに英雄は変容し、次の偉業に堪え得る存在へ近づいていったという。
そして著者は、ヘラクレスがすべての試練を乗り越えた時、神へ昇華したと語る。
ロンは英雄の絵を覗いていた。
「強くなったから、次の怪物にも勝てたってこと?」
「それだけじゃないみたい」
ハンナが下の段を読んだ。
「同じ怪物を倒せば、誰でも同じ力を得るわけではない、って」
そこには、偉業とは困難な行為の別名ではない、と書かれていた。
他人にとっての偉業が、そのまま自分の偉業になるとは限らない。
単に命を危険へさらしても、試練を成立させたことにはならない。
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ただし、力を求めて、むやみに試練へ身を投じてはならない。
偉業の達成には、大いなる知恵と勇気、そして何よりも並外れた幸運が必要となる。
失敗した者を待つのは、むごたらしい死だろう。
英雄の名は後世に残る。
しかし、同じ道を選び、途中で倒れる者、その数を伝ふるものなし。
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「失敗したら死ぬのは…さすがに実際に試すのはやめた方がよさそうだね」
ネビルが言った。
ロンは返事をせず、夢中になって次を読み上げた。
本の中では偉業の類型として、幾つかの例が挙げられていた。
失われたものを取り戻すこと。越えられぬ境界を越えること。
逃れ得ぬ死の運命を覆すこと。
そして、自らの運命を縛る宿敵に勝利すること。
トムの目が、そこで止まった。
*
「私を決闘で破ったのは、アルバス・ダンブルドアだ」
「だが、敗北へ至る道を振り返れば、彼の力だけでは説明できない。
私が見落とした、一人のマグルの行動が勝敗を左右した」
「私が成功を確信したとき、彼は動いた。
力で争えば勝てないと知りながら、別の手段を選んだ。
その機転と勇気が、運命を覆し、私の取り返せない失敗を生んだ」
――逃げを教える授業で、グリンデルバルドはそう語った。
ダンブルドアはかつて一人のマグルの助けを受け、運命を覆して親友を倒した。
彼はそれ以前から優れた魔法使いだったはずだ。
だが、グリンデルバルドとの決闘は、その生涯を語るうえで欠かせない出来事として記憶されていた。
あの勝利は、評判を決定づけただけだったのだろうか。
それとも、魔法使い本人にも何かをもたらしたのか。
トムは、窓際の散らかった部屋を思い出した。
何気なく手を振って物を動かし、海上で襲いかかってきた敵を、ほとんどその場から動かず追い払った老人。その男に、ダンブルドアは勝っている。
そして、この世界では、そのダンブルドアにヴォルデモートが勝った。
予言を聞き、ハリーを殺しに行く。そこまでは、知っている話と同じだ。
しかし、この世界では、あの夜の敗北が起きなかった。
そこでは何かが起きた。
ヴォルデモートは運命によって定められた敗北を乗り越え、体を失わなかった。
さらに、リリーの話では、ダンブルドアを破ったあとから、支配のやり方まで変わっていった。
死を免れ、強敵を倒した。
その後に、力と知恵の変化があった。
それは偶然かもしれない。
戦争に勝って余裕が生まれたから、政治へ力を向けられるようになっただけかもしれない。
“偉業の成就こそ、命の位階を高むる、最も遠き近道なり”
しかし、本の中の言葉と、聞いてきた出来事が、嫌なほど近い場所に並んでいた。
予言を聞いたとき、ヴォルデモートが恐れたのは敗北だけだったのか。
もし、自分に定められた終わりを知ることが、それを覆すための手掛かりにもなると考えたのなら。
「トム?」
ハンナの声で、顔を上げた。
四人がこちらを見ていた。
トムは、自分が長い間黙っていたことに気づいた。
「ごめん。少し、思い当たることがあった」
「その、変わった人のこと?」
ラベンダーが聞いた。
「うん。でも、これで説明できると決まったわけじゃない」
「それは、そうだけど」
彼女は少し嬉しそうだった。
「調べるものが、一つ増えたでしょう?」
そのとおりだった。
相談する前は、自分の記憶が正しいか間違っているか、そればかりを考えていた。
違っていること自体に、何か理由があるかもしれない。
その理由を、自分の知らない魔法の仕組みから探すこともできる。
なぜ、そんなことに気づかなかったのだろう。
トムは本を見下ろした。
「この本、少し借りてもいい?」
「先生から借りたものだから、渡していいか聞いてくるわ。
一緒に読むのは、今でもいいけど」
「ありがとう。あと……この話が、ほかの本にもあるか知りたい」
ネビルが頷いた。
「図書室で、目次くらいなら探せると思う」
「トレローニー先生にも聞けるよね」
ハンナが言った。
「人の名前を出さなくても、本の意味を聞くだけなら」
トムはもう一度頷いた。
具体的な答えを手に入れたわけではなかった。
ダンブルドアにもまだ会えていないし、自分の記憶の正体も分からない。
だが、次に尋ねたいことはできた。
それを見つけてくれたのは、占い好きだと少し侮っていた同級生だった。
「話してよかった」
口にすると、ハンナが小さく笑った。
ネビルは、まとめた紙を持って帰るかと聞いた。
トムは少し迷い、頷いた。名前は書かれていない。
それでも、しまう場所は考えておこう。
一方、ロンだけは、まだ本を覗き込んでいた。
何か簡単そうな偉業はないのだろうか?
しかし、どれも危険そうで、気軽に試せるようなものではなかった。
章の最後、そこには閉じた門の絵があった。
英雄の挿絵と違って、動いていない。
二枚の扉の間は真っ黒で、その奥に何があるのかは描かれていない。
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最大の奇跡は、死からの蘇りである。
死を免れることと、死んでから帰ることは違う。
生きたまま冥府を訪れた者も、肉体を捨てて霊となった者も、ここには含まれない。
完全な死を迎え、その境界を越えてなお、生者の世界へ帰ってきた者。
この奇跡を成し遂げたのは、ただ一人。
それ即ち、ナザレの救世主である。
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ロンは顔をしかめて、静かに本を閉じた。
「……こりゃあ無理だな」
難産。大体の流れと結論は変わらないと思いますが、会話内容を少しいじるかも。