俺のハリポタなんか変   作:パシフィカ

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次はアンケート次第で決める展開があるので明日以降です。
しおりしていただけると便利かもです。

高い評価をしていただいた選君様、あれあれあれだよあれ様、誠にありがとうございます。


この現闇の帝王なんか変

ルシウス・マルフォイはこの日、客を待たせないことと、客同士を早く引き合わせすぎないことに、同じくらい気を配っていた。

 

今夜の客には、互いに会いたがっている者もいれば、会いたくないが会わなければならない者もいる。

家柄だけを見て席を決めれば商談が壊れ、財産だけを見れば三代前の侮辱を持ち出す者が現れる。

夫婦を離せば不満が出るが、隣り合わせにしたせいで不満が出る夫婦もあった。

 

それでも、今のところ、舞踏会は滞りなく進んでいた。

広間の天井には秋の夜空が広がり、流れる雲の隙間から星が見えた。

窓の外の空は曇っていたが、その程度の違いを気にする客はいない。

 

銀の燭台から落ちる明かりは、宝石を美しく見せ、人の顔の疲れを目立たなくする高さに調整されていた。

柱を飾る花にも枯れたものは一輪もなく、楽団は、会話を妨げず、沈黙だけを隠せる音量で演奏している。

妻のナルシッサは客の一人と話しながら、こちらを一度見た。

ルシウスはわずかに頷いた。予定していた外国の招待客は、これで全員到着した。

 

「見事な夜会だ、マルフォイ」

背後から声をかけたのは、ノット家の当主だった。

息子のセオドールは、この秋、ドラコとともにホグワーツへ入学している。

ルシウスが礼を述べるより先に、彼は壁際に立つ若い商人へ視線を向けた。

 

「あちらの人物も、ご招待なのかね」

「北方航路の倉庫を所有しています。今季の薬材輸入では、随分と助けられました」

「家名には覚えがないが」

「先月、準純血身分の認定を受けたそうです」

 

 相手は、よい葡萄酒に不純物を見つけたように唇を曲げた。

 

「なるほど。今夜は、どちらかというと商談の場というわけだ」

「有益な出会いがあれば、主催者としては何よりです」

 ルシウスは微笑み、相手の皮肉をかわした。

 

商人の席は、舞踏の輪へ近すぎず、遠すぎず、外国から来た取引相手の隣に置いてある。

家格の高い娘を踊りに誘うことはできなくても、今夜のうちに来年の契約をまとめることはできる。

商人本人も、その違いをよく承知し、身の振り方を弁えていた。

広間の入り口で、話し声が少し低くなった。

楽団は演奏を止めなかった。

誰かが合図をしたわけでもない。ただ、人々の顔が一つずつ同じ方へ向き、通路の中央が自然に空いた。

ーーその男は、自身の城に帰還する王のように、悠然と入ってきた。

黒い礼装には、勲章も、家紋も、宝石もなかった。

客たちが胸へ飾っているもののどれも、男には必要なかった。

ルシウスは杖代わりのステッキを持ち直し、迎えに出た。

 

「お待ちしておりました、我が君」

「ほう……今夜はずいぶんと華やかだな、ルシウス」

「皆、閣下にお目にかかれることを楽しみにしております」

「では、待たせては気の毒ではないか」

 

男は薄く笑い、広間へ目を向けた。

給仕が立ち止まりかけたが、ルシウスの視線に気づいて静かに歩き出した。

楽団の音は変わらず、最初の数組が、何事もなかったように会話を再開した。

 

男は外国の客へ近づくと、相手の名を呼び、遠い旅をねぎらった。

続いて、先月開かれた学校の記念式典について尋ねた。

客は、自分がその式典で挨拶をしたことまで男が知っていると分かり、驚いたあとで深く頭を下げた。

 

ルシウスは半歩後ろを歩き、紹介が必要なところだけ口を挟んだ。

以前なら、相手がどの言葉を間違えるかに注意していた。

今は、男が何を覚え、何を約束させようとしているかを聞き漏らさないようにしていた。

そんな中、淡い桃色が、人垣の間をすり抜けてきた。

「まあ、閣下。なんと素晴らしい夜でしょう」

 

魔法大臣ドローレス・アンブリッジは、小さな黒いリボンを頭に飾り、胸元に丸い宝石を留めていた。

潰れたガマガエルを思わせる顔には満面の笑みを浮かべ、その声は菓子にかける糖蜜のように甘かった。

 

「これほど多くの方々が安心して集えるのも、ひとえに閣下のお力によるものですわ。かつての混乱を思えば、まるで別の国のようです」

「報告は読んだぞ、ドローレス。港の役人どもも、ようやく働く気になったらしいな」

「ええ、ええ。閣下のご方針を、各部署へ徹底いたしましたので」

「よくやった。役に立った者の名は、俺様にも知らせるがよい」

 アンブリッジは、まるで自分がもう一つ勲章を受けたかのように顔を輝かせた。

「きっと励みになりますわ」

 

その横で、ノット家当主が一歩進み出た。

彼は準純血の商人に対して、不満げな目を向けていた。

「我が君。今宵の招待客の顔ぶれはいかがでしょうか。私めとしては、いささか……不相応な者が出入りしていると感じております。雑種どもが役に立つのは結構なことでございます。しかし、古くからお仕えしてきた家々の間には、取り立て方が性急ではないかという声も――」

「ほう。誰が、そう申しておる?」

 

当主の言葉が止まった。

男は微笑んでいた。

話の続きを、心から楽しみにしているようだった。

 

「いえ、その、誰ということでは」

「では、おまえの意見を聞こう。あの男の倉庫から届いた薬材は、おまえの家では使っておらぬのか?」

「……使っております」

「昔より早く届くようになったそうではないか。ルシウスから聞いているぞ」

「おっしゃるとおりでございます」

「品物は受け取るが、彼への褒美は気に入らぬか」

 

男は商人を一瞥し、再び当主を見た。

 

「あれの血筋は調べさせた。

 俺様は、あれに相応の席を与えた。

 それとも、おまえの隣に座らせろとでも言ったか?」

 

「滅相もございません、我が君」

「ならば、何を恐れておる。

 あの男がこの広間へ入れば、おまえの先祖が墓から消えるのか?」

 

アンブリッジが小さく笑った。

近くの客も、笑ってよいものと知って微笑んだ。ノット家当主はその中で顔を赤くした。

ルシウスは当主のグラスが空いているのを見て、給仕を呼んだ。

顔を伏せる口実くらいは与えておくべきだった。

 

     *

 

料理が運び込まれ始めると、広間は一層賑やかになった。

学校の成績、縁談、外国の織物、今年の収穫。

会話のどれもが、来月も来年も今の暮らしが続くことを前提にしていた。

 

そんな中、人垣の端で、グラスの割れる音がした。

灰色の服を着た若い給仕が、盆を抱えたまま立ちすくんでいた。

突然動いた客の袖に引っかかり、グラスが一つ落ちたらしい。

 

青年は慌てて盆を置き、破片へ手を伸ばしたが、指が震えてうまく拾えなかった。

 

「穢れた血め!」

 客が杖へ手を伸ばすと、青年は身をすくめた。

 謝罪の言葉が口の中でもつれ、同じ音だけが繰り返された。

 ルシウスが動こうとしたとき、男の声が届いた。

 

「その杖を、どうするつもりだ?」

 客は振り向き、慌てて杖を下げた。

 

「いえ、躾を少々」

「俺様の話を遮ってまで、見せたい芸があるのか?」

 

客の口が閉じた。

青年は声の主に気づくと、さらに顔色を失った。

拾いかけた破片を落とし、後ずさろうとして盆へ踵をぶつけた。

逃げることも、目をそらすこともできず、両手だけが胸の前で強く握り合わされた。

 

「こちらを見ろ」

 男は声を荒らげなかった。

 青年がようやく顎を上げるまで待ち、尋ねた。

 

「それほど震えるとは……何をした?」

「グ、グラスを……申し訳、ございません。どうか、お許しを」

「グラスか」

 

男は床へ目を向けた。

 

「ルシウス。おまえの屋敷には、もうグラスがないのか?」

「いくらでもございます、我が君」

「だそうだ。聞こえたな?」

 

青年は頷いた。あまりに激しく頷いたので、返事の言葉は息に混じって消えた。

 

「今夜は許してやろう。俺様の機嫌がよいことを、感謝するがよい」

 

青年は動かなかった。

聞こえなかったのではない。ルシウスには、聞こえた言葉を信じられずにいるのだと分かった。

 

「おれ……いえ、私は……」

唇が震え、目に涙がたまった。

男が何も言わずに見ていると、青年はその足元へ膝をついた。

両手を床へつき、額が触れそうなほど深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます、閣下。必ず、必ずお役に立ちます。二度と、このようなことは」

 

声が詰まり、肩が震えた。

先ほどまで罰を逃れようとしていた謝罪とは違っていた。

許されたことが、特別な栄誉でも与えられたかのように、青年の顔を変えていた。

 

男はしばらく、その姿を見下ろしていた。

「そうか。では、覚えておけ。誰がおまえを許したかを」

 

青年はさらに深く頭を垂れた。

男の視線が、その手に留まった。

 

「ルシウス。手当てをさせろ。おまえの絨毯が汚れる」

「仰せのとおりに。代わりの者を出せ」

 

ルシウスが監督役へ命じると、青年は立ち上がり、もう一度深く頭を下げた。

連れていかれる途中にも振り返り、男の姿を見ようとしていた。

 

男は客へ目を戻した。

「おまえには酒を運ばせる相手と、杖を抜く相手の区別もつかぬらしいな」

客は赤くなって謝罪した。

男は最後まで聞かず、先ほどまでの会話へ戻った。

外国から来た夫人が、隣の相手へ何かを囁いた。

寛大な方だ、という言葉がルシウスの耳に入った。

アンブリッジは、それを聞き逃さなかった。

 

「秩序ある扱いを、何より重んじていらっしゃいますの。身分ごとの責任を明確にすることが、結局は皆のためになりますから」

 

ルシウスは床を見た。破片はもうなく、血も消えていた。

次の給仕が盆を持って通り過ぎたが、その腰にも杖はなかった。

杖を持つ者たちの間を通るとき、視線を上げることはなかった。

 

広間の反対側で、扉がわずかに開いた。

黒い服の男が入ってきた。セブルス・スネイプだった。

舞踏会に合わせた飾りはなく、客に挨拶する気配もない。ルシウスと目が合うと、小さく顎を引いた。

予定していた時刻より早かった。

 

ルシウスは会話の切れ目を待ち、主へ近づいた。

「別室に、お知らせが」

 

男は頷いた。

目の前の外国人客へ、帰り際には改めて話をしたいと伝えた。

相手は喜んで承知し、男が立ち去ったあとも、ロシア語で妻と話しあった。

 

     *

 

別室の扉を閉めると、楽団の音は薄い壁の向こうへ退いた。

ベラトリックス・レストレンジはすでに暖炉の前に立っていた。

今夜の礼装は黒く、首元だけに暗い色の宝石が光っている。

舞踏会に退屈していたのだろう。男が入ると目を輝かせたが、その視線はすぐに、報告書を持つスネイプへ移った。

 

 アンブリッジも続いて入り、扉が閉まるのを確かめてから口を開いた。

「追跡班の件でございましたら、関係者の処分をすでに――」

「まだ誰を罰しろとも言っておらぬぞ、ドローレス。セブルス?」

 

男は卓の奥へ座った。

アンブリッジは微笑みを保ったまま黙り、スネイプが書類を置いた。

 

「十月初め、フレッチャーが逃亡船へ運び込んだ荷物について、ようやく中身が判明しました。

 賢者の石であった可能性が極めて高いと考えられます」

 

周囲に一気に緊張が走った。

スネイプは書類を一枚めくった。

 

「品は複数の仲介人を経由しており、帳簿には別々の名目で記されていました。

 回収した外箱の封印から経路を遡り、最後の保管記録との照合が済んだのが、本日です」

 

ルシウスは表情を変えないよう努めた。

数週間前、盗品の追跡に失敗した話は聞いていた。反乱分子の船が現れ、回収を妨げたことも知っている。

だが、運んでいたものが、それだとは。正体を調べている間にも、石はずっと敵の手にあったのだ。

 

「……あの船へ、持ち込ませたのか」

「追跡者の証言では。フレッチャーは重傷を負っていましたが、包みは回収できておりません」

 

 ベラトリックスが一歩進んだ。

「それほどの品と知るまでに、何週間も費やしたというのですか。

 ダンブルドアが使ってしまう前に、あの船を見つけなければ」

 

その名が出ると、アンブリッジの笑みが少し薄くなった。

ルシウスは卓へ目を落とした。寝台から起きられない老人であってほしかった。

賢者の石を手にした老人については、考えたくなかった。

 

「グリンデルバルドが出てきたそうだな」

 男が言うと、スネイプは頷いた。

 

「複数の証言が一致しております。

 遠目の目撃ではありますが、追跡班を退けた力についても」

 

「一度敗れた老人です」

ベラトリックスは鋭く言った。

「二人揃う前に仕留めるべきです。お命じくだされば、私が」

 

「おお、ベラ。では、どこへ行って仕留めるつもりだ?」

ベラトリックスの唇が閉じた。

「必ず突き止めます」

「先に、それを聞きたかったな」

 

男は彼女から目を離し、スネイプへ向き直った。

「セブルス。あの老いぼれは、もう歩けると思うか?」

「傷の状態と処方によります。あの負傷が今も続いているのであれば、命の水だけで即座に回復するとは考えにくい。調合と投与に数か月を要しても不思議ではありません。ただし、すでに何らかの効果が出ている可能性は否定できま――」

「金はどうだ?」

 

スネイプが言葉を止めた。

「賢者の石だぞ、セブルス。金を作るのにも、数か月かかるのか?」

 

 今度の沈黙は短かった。

「いいえ。扱い方を知る者がいれば、治療薬ほどの準備は不要でしょう。すでに作っている可能性はあります」

 

男は卓を指先で一度叩いた。

ルシウスは、そこで初めて、手元の報告書をもう一度見た。

賢者の石。命の水。そればかりを考えていた。

 

「誰も彼も、あの老人の足腰がそれほど心配か」

男は一同の顔を順に見た。

 

「ダンブルドアは俺様に敗れた。忘れたわけではあるまい?」

「もちろんでございます、我が君」

 ベラトリックスが即座に答えた。

「だが、あれの財布まで心配してやる者は、おらぬらしい」

 

 広間のほうで拍手が起こり、曲が変わった。

 

「ルシウス。あの連中は、誰の金で食っている?」

「支持者からの寄付と、物資の持ち寄り。国外の協力者による援助もあるかと」

「いつまで続く?」

 ルシウスは、一瞬だけ返答を考えた。

「長くはございますまい。商人にも生活がございます。無償の援助を続けられる者は、限られます」

「それで、ようやく縁を切ろうとしていた者の前に、あの老人が金を積む。

 さて……その者は、まだ断るかな?」

 

ルシウスは、広間にいる倉庫の所有者を思い出した。

 

あの男が準純血身分を得るために提出した書類には、過去数年の取引先がすべて記されていた。

家名を知らなくても、金の流れを知れば、誰のために働いているかは分かる。

 

「取引として成り立つならば、応じる者は出ましょう。物資だけでなく、輸送や情報を売る者も」

「そういうことだ」

 ベラトリックスが不満そうに息を吸った。

「金で雇った者など、忠誠心は知れております」

「ベラ、おまえは荷運びのたびに、忠誠を誓わせるのか?」

 彼女は口をつぐんだ。

 

「金を欲しがる者には、金を渡せばよい。あの老人にも、それくらいの知恵はある」

 男の唇がわずかに歪んだ。

「俺様から逃げ回りながら、仲間まで養うつもりらしい。ずいぶんと気前がよくなったものだ」

 アンブリッジが、待っていたように頷いた。

「まったく、そのとおりでございますわ。反逆者との取引を一切禁じ、違反した者には厳罰を。見せしめが必要でしたら、私のほうで手配を」

「皆殺しにでもするか、ドローレス?」

 男は、ひどく穏やかに尋ねた。

 

「それで、次の売り手の名は、誰に聞く?」

「と、おっしゃいますと?」

「今の相手が使えなくなれば、別の相手を探すだろう。おまえに名の知れていない者をな」

 アンブリッジは口を閉じた。その顔から笑みは消えなかった。

「捕らえるのは、いつでもできる。まず、誰があの船へ物を運んでおるか、調べろ。俺様がよいと言うまで、怯えさせるな」

「まあ……そこまで先をお考えでいらしたのですね」

 自分の提案が退けられたことなど、初めからなかったような声だった。

「私の考えが及ばず、お恥ずかしい限りですわ。では、商取引の適正化として進めましょう。正規の販売を妨げず、身元の曖昧な仲介だけを精査する。そのような措置なら、国外の方々にもご理解いただけます」

 

「いつだ?」

 アンブリッジが目を瞬いた。

「いつになれば、俺様に最初の報告を持ってこられる?」

今度は、すぐに答えた。

必要な部署を挙げ、既存の規則で始められる部分と、新たな通達が必要な部分を分けて説明した。甘い声は変わらないのに、内容は具体的だった。

 

ルシウスは彼女を見た。卑屈さだけで、この地位へ来たのではない。

命じられたことを、ほかの者が逆らいにくい書類へ変えることにかけて、彼女はよく働いた。

「学校向けのまとまった購入には、受取責任者の確認を加えられます。子供のための物資ですもの、安全な教育施設へ届くことを確かめるのは、行政の責任ですわ」

「食料まで止めるのですか」

 ルシウスが尋ねたのは、ためらいからではなかった。

「通常の商品にまで及べば、商人たちが不満を持ちます。今夜の客にも、国外に取引先のある者が多い」

「食わせておけ。パンを一切れ買うたびに、あの老人が姿を現すわけでもあるまい」

 男は窓のほうへ顔を向けた。

 厚いカーテンの向こうでは、庭の灯火が規則正しく並んでいる。

「薬は別だ。待たせればよい。金は払った。だが、品物は来ぬ。問い合わせても、返事がない……あの老人は、次に誰を信じるかな?」

 

ルシウスには、その光景が容易に想像できた。

荷物が届かない。別の商人へ頼むが、値段は上がる。受け取りの人間を変え、また待つ。

金がなくて買えないときより、金を払ったのに届かないほうが、互いを疑う理由は増える。

 

「外国の商人については、お任せください」

 彼は言った。

「正式な通商を続ける利点を、十分に理解していただけるでしょう」

「そうしてもらおう。今夜、おまえが招いた客だ。俺様を失望させる者はおるまいな、ルシウス?」

「決して」

 

一隻の船への販売と、英国魔法界全体との商売。

どちらを選ぶかは、たいていの者には難しい問題ではなかった。

 

「セブルス。あの老いぼれの薬に、何が要るか調べろ。一つ残らずだ」

「承知いたしました」

「ベラ。船を捜せ。見つけても、手を出すな」

 ベラトリックスの唇が動きかけた。

 男は、そのわずかな動きを見逃さなかった。

「俺様の命令を待つのだ。できるな?」

 彼女は深く頭を下げた。

「仰せのままに、我が主」

 まだ納得しきってはいない。それでも、異を唱えるつもりはないらしかった。

 

「ダンブルドアが回復すれば、彼らは勢いづくでしょう」

 ルシウス自身、確認せずにはいられなかった。

「そうだろうな。泣いて喜ぶかもしれぬ」

 男はルシウスへ顔を向けた。

「おまえまで、その祝いに加わったような顔をするな。

 石を手に入れてから、連中が誰に金を払ったかを調べろ。

 喜んで受け取った者の名が、俺様は知りたい」

 

 男は椅子から立ち上がった。

「金なら、好きなだけ作らせておけ」

 薄い笑みが浮かんだ。

「それで何でも買えると思っておるなら……ダンブルドアも、まだ学ぶことがあるらしい」

 

     *

 

広間へ戻ると、ちょうど踊りが終わったところだった。

笑いながら離れる男女の間を、給仕が新しいグラスを持って歩いていた。

花は相変わらず美しく、天井の星も曇っていなかった。

ナルシッサが近づき、ルシウスへ、外国の商人が帰る前に挨拶したいと言っていることを知らせた。

ルシウスは頷き、給仕からグラスを受け取った。

先ほど手を切った青年はいなかった。

青年の代わりに立っている者は、盆を両手で支え、客が袖を動かすたびに半歩下がった。

 

主は、若い官僚たちの一団へ声をかけていた。

誰かの昇進を祝い、別の者へ、父親から聞いた成果が本当かと尋ねる。声をかけられた若者は頬を紅潮させ、次にはもっとよい報告をすると約束した。

 

その顔を見て、ルシウスは思った。あれは、恐怖だけで作れる表情ではない。

仕事があり、評価する者がいて、努力の先に地位がある。

少なくとも、ここへ招かれた者たちには、そう見えている。

 

その暮らしを守るためなら、彼らは新しい書類を作り、疑わしい荷物を差し止め、見たこともない船への取引を断るだろう。今夜の音楽を思い出しながら、自分は社会の役に立っていると考えるに違いなかった――ゆえに、それが恐ろしかった。

 

男がグラスを持ち上げた。

 

「諸君。今宵は楽しむがよい。より濃い血のために」

 

人々がそれに応じた。

グラスの触れ合う音が広間に満ち、アンブリッジが誰よりも早く賛辞を口にした。

 

ベラトリックスは男だけを見つめ、スネイプは少し離れた場所で、ほとんど口をつけずにグラスを下ろした。

ルシウスも酒を飲んだ。よい年のものだった。

明日から、何隻かの荷船が予定より長く港へ留められることになる。

店主の何人かは注文を断り、遠い海の上では、来るはずの包みを待つ者がいるだろう。

楽団が次の曲を始めた。

 

ルシウスは空いたグラスを盆へ戻し、商人たちのところへ向かった。

 




お気に入り登録していただいたあれあれあれだよあれ様、ギンナン様、足軽大将様、2106様、とある考察者様、塩パン様、蒼流様、上河秋様誠にありがとうございます。

感想を書いてくれた足軽大将様、Osyl様、目を通させていただきました。
大変励みになります。
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