青峰大輝 in ブルーロック 作:AIで小説を上手く書きたい!
「青峰、こっち! 青!」
フェンスを開けたところへ、ビブスが飛んできた。
青峰大輝は片手で受け取り、肩に掛けていたバッグをベンチへ投げた。雨上がりの人工芝には、もう水たまりはない。小さなコートの両端にゴールがあり、青と橙に分かれた男たちが、再開を待っていた。
「遅刻」
「一分だろ」
「その一分、お前抜きで守ってたんだよ」
受付の仕事もしている世話役が、青のゴールから声を張った。壁の時計では、三十分の利用時間が既に動いている。
青峰は上着を脱ぎ、ビブスを被った。
「入れられた?」
「まだ。だから早く入れ」
「じゃ、問題ねえな」
世話役が何か言い返す前に、青峰はコートへ出た。
キーパーを含めて五人ずつ。年齢も、普段蹴っている場所もばらばらだ。仕事帰りの男もいれば、青峰とそう変わらない年の男もいる。学校の試合のように、同じ相手と何日も練習して臨むわけではない。その日に来た十人で分かれ、時間まで蹴る。
青峰は相手ゴールを見た。
橙の四番が中央に立っていた。青峰と目が合っても下がらず、横の味方に一言伝える。青峰が右へ歩くと、自分も同じ方へ寄った。
少なくとも、最初から守るのをやめてはいない。
「お前、前でいい?」
青の右側にいた、短髪の男が尋ねた。
「どこでも」
「じゃあ前。俺、右から行くから」
男はそう言って、再開のボールへ走った。横から来たパスを受け、正面の守備者に向かって運ぶ。青峰はその左前へ出た。パスをもらえば、ゴールまで一人だった。
男は撃った。
正面にいた守備者の脛に当たり、ボールが中盤へ跳ね返る。
「あー、くそっ!」
男はすぐに追った。青峰も戻り、競り合いからこぼれたボールを先に拾う。
ゴールまでは十数メートル。正面に一人、その後ろに四番。どちらも青峰を見ていた。青峰は右足でボールを運び、一人目の前で速度を落とした。
相手が腰を下げる。
青峰は右へ出た。
ボールを大きく蹴り逃がしたのではない。相手の足が届く少し外へ置き、その横を身体ごと通り抜けた。守備者が向きを変えた時には、もう青峰の背中が前にあった。
「四番、来る!」
声を受けて、四番がゴール前から詰める。
青峰はそちらを見たまま、左へボールを切り返した。四番の足が右側の進路を塞ぐ。その逆へ抜け、キーパーと向き合った。
キーパーが前へ出る。
青峰は、その足元を通した。
低いシュートがゴールの左隅に入り、ネットを揺らした。
一対〇。
「……速っ」
追ってきた短髪の男が、ゴールの前で止まった。
「最初、ゆっくり来たから追いつけると思ったのに」
「走りゃいいだろ」
「走ってたわ!」
青峰は男の顔も見ず、中央へ戻った。後ろでは、抜かれた一人目が四番に両手を広げている。
「動いてからじゃ間に合わねえ。近づけない方がいい」
「遠くで待ったら撃たれるぞ」
「じゃあどうすんだよ」
四番は答えず、青峰の足元を見た。
短髪の男が並んでくる。
「さっき、俺の左にいた?」
「いた」
「パスの方がよかったか」
「自分で撃つなら、前の奴くらいどかせよ。あのまま撃ったら脚に当たるだろ」
男は、自分のシュートを防いだ相手を見た。
「分かってんだけど、ゴール見えると撃ちたくなるんだよな」
「じゃ、入れろよ」
「次は入れる」
返事が早かった。
青峰は、ゴールの中のボールを見ていた。
男が何を言いかけても、相手の再開が始まればそちらへ顔を向ける。短髪の男も追うのをやめ、自分の位置へ戻った。
次の攻撃は、世話役から右へ出た。短髪の男が受ける。青峰は中央で手を出したが、男は自分で運んだ。さっき撃った場所より一歩深く入り、守備者の横へボールをずらす。
シュートはキーパーに弾かれた。
「惜っしい!」
「どこがだよ」
青峰はゴールへ詰めた。四番が先にこぼれ球を外へ蹴る。背後から青峰の足が来るのを見て、浮かせて逃がしたクリアだった。
「今、入ってきたのか」
四番が振り返る。
青峰は答えず、キックインの場所を指した。ボールを拾った男が、黙ってこちらへ転がしてくる。遠いところからでも、足元へ来れば十分だった。
まだ、二十八分近くある。
*
二点目の機会は、右サイドで来た。
青峰が持つと、四番が正面を塞いだ。左にはもう一人。中央へ入る道を二人で閉じ、タッチライン沿いに追い出そうとしている。
短髪の男が、その外を追い越した。
「青峰、縦!」
青峰は見なかった。四番の足元へ、右足でボールを近づける。外へ押せば、タッチラインまで一メートルもない。左へ切り返せば、もう一人が待っている。
四番は奪いに来ない。青峰が止まるのを待っていた。
青峰は、二人の間へ右肩を入れた。
四番が腰を引く。ぶつかると思った隣の守備者も、そちらへ足を寄せる。その足が揃った瞬間、青峰は左足の内側でボールを中央へ押し出した。右へ傾いていた身体が、踏み込んだ一歩で左へ移る。
四番の隣の男が腕を伸ばした。
届く前に、青峰が二人の間を抜けた。
四番はついてきた。
青峰はさらに速度を上げる。四番が並びかけたところで急に止まり、その身体だけを一歩先へ行かせた。
正面が空く。
短い振りで撃ったボールが、遠い側のゴールネットへ突き刺さった。
二対〇。
「こっちも空いてた!」
短髪の男が、右の端から叫んだ。
「見えてた」
「だったら一本くれよ」
「俺が撃てるだろ」
「俺も撃てたって話だよ」
「先に取れよ。欲しけりゃ」
男は何か言いかけ、二対〇の表示を見た。青峰は既に相手の再開を待っている。得点を喜んでいるのでも、味方をからかっているのでもなかった。
男が走った右側には、結局一度もボールが来なかった。
青峰は追い越された四番を見た。四番は膝に手をつきかけ、すぐに起き上がる。
「急に止まんなよ」
「ついてくりゃいいだろ」
「簡単に言うな」
それでも四番は、次も前に出てきた。
三度目は、さっきより早かった。
青峰が右のタッチライン際で受けると、四番は中央を塞ぎ、肩を寄せた。青峰はボールを前へ押し出して抜ける。ただし、今度はゴールへ真っすぐ向かえない。四番に外へ押し出され、ゴールラインに近い、角度のない場所まで来ていた。
中央では短髪の男が手を上げる。
キーパーもそれを見た。青峰から味方への折り返しに備え、ゴール中央へ半歩動く。
近いポストと、キーパーの身体の間が開いた。
青峰は、そちらへ右足を振った。
四番に肩を押され、身体はコートの外へ傾いている。踏み直してゴールを向く暇はない。それでも右足の外側がボールを捉えた。
シュートは細い隙間を抜け、近い側のネットを打った。
青峰はラインの外で足を踏み替え、倒れずに止まった。
三対〇。
キーパーがポストを見て、それから四番を見る。
「今の、撃ったの?」
「俺に聞くなよ」
青峰がボールを取りに入ると、キーパーが先に拾い上げた。
「あの体勢から、こっちに蹴れんのか」
「空いてたろ」
キーパーは、自分とポストの間をもう一度見た。
中央へ戻ってから、四番が言う。
「崩したと思っても撃つぞ。身体、起きるの待つな」
身体を崩しても、青峰のシュートは止まらない。踏ん張れなければ横へ倒れながら、右足が塞がれば左足で撃つ。守る側が普通のシュートの形を待っている間に、ボールはゴールへ飛んでいた。
四番はそれに気づいた。青峰は、その男へ目を戻した。
分かったなら、次はどうする。
四番の膝が曲がる。青峰も、踵を浮かせた。
*
橙の一点は、その後すぐに入った。
四番が自陣でボールを受けた時、青峰はまだ前にいた。横パスを奪えば、もう一度ゴールへ行ける。四番と隣の男の間へ寄る。
四番はその横を通さず、前へ出した。
橙の長袖の男が、青の守備者を背負って受ける。四番はパスを出した場所に止まらず、青峰の脇を走り抜けていった。
「戻せ!」
長袖の男が一度四番へ返し、自分もゴールへ走る。青の守備者が四番を止めに出た、その背後へ。
四番はボールを止めなかった。
守備者の横を抜けるパスが、長袖の男へ戻る。キーパーと一対一。男は右隅へ蹴り込んだ。
三対一。
「よしっ! 今の、もう一回やろう!」
長袖の男が四番へ駆け寄る。
「お前に一回戻せば、俺、あいつの後ろへ走れる」
「先に走れよ。止まって待たれたら出せないからな」
「分かった、分かった!」
二人の掌が鳴った。
青のゴールから、世話役の声が飛ぶ。
「青峰! そっちの四番、置いてくんな!」
青峰は振り向いた。
「横、取れると思った」
「取れなかったら戻れ。二人来たら守れねえって」
青峰は舌打ちした。自分が先回りした横パスは、結局一度も出なかった。四番は青峰を抜こうとせず、ボールを預けて走ったのだ。
中央へ戻ってきた四番と目が合う。
「今度はそっちかよ」
「一人でお前を抜けると思うほど、若くないんで」
「大して変わんねえだろ」
「十六と一緒にすんな」
四番は笑い、青峰の正面へ立った。
青峰は四番の前で立ち止まった。
「次、止めろよ」
「そのつもりでやってるよ」
世話役が再開のボールを左の味方へ入れる。青峰は中央から走り出した。
四番がついてくる。味方がパスを蹴る前に、青峰は右へ寄った。四番も動く。その足が地面についたところで、今度は中央へ走る。
青の左側にいた男が、空いた場所へ出した。
青峰は止めずに撃った。
キーパーの左を、ボールが抜ける。
四対一。
四番がまだ走っている横で、青峰はゴールから身体を返した。
「強く蹴りすぎたと思ったんだけどな」
パスを出した男が、短髪の男へ言った。
「前に蹴っとけば追いつくんだな、こいつ」
青峰は聞き流した。
中央へ戻る四番の息が、さっきより荒い。横についた別の守備者も、膝へ手をついていた。
五点目の前に、四番が味方を呼び寄せた。
「追いつこうとすんな。あいつがこっちへ来るまで待つ」
「待ったら撃つだろ」
「前と後ろ、同時に抜かれなきゃいい。俺が前。お前は二メートル後ろ。止まっても一緒に止まるな」
青峰は、聞こえるところに立っていた。
四番は大学まで競技として蹴っていたと、受付の男が言っていた。今も休日には地域のリーグに出ている。さっきから他の選手が迷うより先に位置を変え、味方へ次の相手を指していた。初めて組む者同士で、誰を動かせばいいかは分かっている。
青峰が抜いた場所を埋めるのも、四番が一番早かった。
だから最初から、そこへ行っている。
「聞こえてんぞ」
「聞かれて困ること言ってないだろ」
四番が正面へ戻った。
青峰は右手を上げた。味方のパスが足元に入る。ゴールは正面、まだ十五メートルほど先。四番が二メートル前、その後ろにもう一人。短髪の男は右を走ったが、四番はそちらを見なかった。
青峰は左へボールを転がした。
四番も動く。抜きに来たと決めつけて足は伸ばさない。青峰の胸が前へ出ても、腰を低くしたまま距離を保った。
青峰は一度、足を止めた。
四番は止まり、後ろの男は少し下がる。前の一人が置き去りになっても、次は追いつける距離だった。
青峰は、その場から撃つように右脚を引いた。
「撃つぞ!」
後ろの男が身体を正面へ向ける。四番だけは、まだ飛び込まなかった。振り足を見てからでも、ボールの前へ足を出すつもりだったのだろう。
青峰は右足をボールの外へ下ろした。
蹴らずに跨ぎ、その足で地面を押す。同時に左足で右前へボールを運んだ。止まっていた身体が、四番の左脇へ出た。
四番が右足を踏み直す。
青峰は、もう次の守備者の前へ来ていた。
二メートルあった。
四番が追い直すには足りず、後ろの男が迎えに出るにも足りない。男は構えたまま、青峰の一歩目を待ってしまった。
その一歩で、左を抜かれた。
キーパーは前へ出かけて止まった。青峰が右脚を大きく引かないことには、もう気づいていた。近い側を閉じ、次の一触で来るシュートに備える。
青峰は、足の外側で遠い隅へ撃った。
準備していた方向と逆だった。キーパーの膝が芝につく頃には、ボールがネットの底を転がっている。
五対一。
後ろから来ていた四番が、ゴール前で止まった。抜かれた男に何か言おうとし、先に息を吸った。
「間、空けすぎた?」
男が聞く。
「いや」
四番は首を振った。
「あれ以上近かったら、一回で二人とも抜かれてる」
「じゃあ、今のどうすりゃよかったんだよ」
青峰も、その答えを待った。
四番は何も言わず、ネットからボールを拾った。
身体はまだ動いた。呼吸も苦しくない。三十分のために力を残しておく必要などなかった。なのに、いちばん走った五点目でさえ、相手に届かれる前に片がついてしまう。
青峰は、キーパーが顔を背けるのを見た。
そこで自分まで満足した顔をすれば、今日もこれで終わりだった。
「楽だなあ、お前いると」
短髪の男が戻ってきた。
「俺、渡しただけじゃん」
青峰は何も答えなかった。
ボールが来ることは、当然欲しかった。自分がいれば入る。そこまで分かっているなら、余計なところへ出されるより早く寄越した方がいい。
だが、男はまだゴールから十メートルも離れたところで走るのをやめていた。入ったのを見て止まったのではない。青峰が持った時には、もう休んでいた。
次の攻撃も同じだった。短髪の男からボールが来る。右を上がれるのに、その場で止まる。
「行っていいぞ」
その声へ、青峰は目を向けた。
「お前が決めんな」
「何を?」
青峰は説明せず、相手ゴールへ顔を戻した。
これから自分が点を取ることを、蹴る前から済んだものとして扱う。相手までそうなれば、またボールを運ぶだけになる。
後ろから来る足音が、一つ減っていた。
*
四番は、まだ青峰の前へ来た。
残りは五分を切っている。五対一。今度は肩を見ず、ボールと青峰の軸足を交互に見た。
青峰は右へ運びかけた。
四番が寄る。青峰は止まり、左へ切り返そうとする。
その瞬間、四番の爪先がボールに触れた。
青峰の左足が地面についた、その直後だった。身体を支えている足は、すぐには引けない。右足で内側へ運ぼうとする前に、四番が横から蹴り出したのだ。
ボールがタッチラインへ転がる。
「よし!」
四番が追った。
青峰は左足を踏み直した。
左足を軸に身体を回し、逃げるボールへ右足を伸ばす。ラインを越える寸前、靴の外側でコートの中へ引っ掛けた。
四番は、その先に足を出した。
青峰はもう一度蹴った。
身体はまだ四番へ半分背を向けている。振りかぶる間もない。引き戻したばかりのボールを、右足の甲で斜め前へ弾く。
四番の伸ばした足の横を抜け、シュートがゴールへ向かった。
キーパーは一歩前に出ていた。四番が奪ったと思い、味方からのパスを受けるために。
その脇を、ボールが通り過ぎる。
六対一。
青峰は足を着き、四番を振り返った。
「今の、見てたのか」
「……お前、左足ついたら右で戻すから」
四番が息を切らして答える。
「一回止まるの、待った」
「それで?」
「それで、とは」
「取ったあと、どこに持ってくつもりだったんだよ」
四番は、青峰が戻したボールの跡を見た。
「まず外に出して、やり直そうと思った」
「入ったぞ」
青峰がゴールを示す。四番の顔が険しくなった。
「見てたよ」
その声で、青峰はようやく相手の顔を見た。
同じ入り方を三度見せた。相手が軸足を狙っているのも分かった。それでも、触られる寸前で引く必要は感じなかった。蹴り出された先へ追いつける。実際に追いつき、もう一人が来る前に撃った。
そこまでは、いつもと同じだった。
四番はボールに触れた瞬間だけ、取れると思って前へ出ていた。ゴールの後より、その一歩の方がまだ青峰の頭に残っている。
「次、最後まで来いよ」
ボールに触ったところで止まらず、取り切るまで食らいついてこい。そこまで来れば、こっちも今より速く動ける。
青峰は四番が起き上がるのを待った。
四番は両手を膝へつき、首を振った。
「次は二人で行く。一対一でついてったら、俺、もう足もたん」
再開しても、四番は自分から青峰へ仕掛けなかった。近づかれる前に横へ出し、味方が詰まれば受け直す。青峰がボールを持つと、もう一人と並んで中央を閉じた。
四番は前の二人へ声を掛け続けていた。まず青峰の次のシュートを止め、奪ったら空いている方へ蹴る。一対一で抜き返すより、その方がもう一点取れると判断したらしい。
青峰が欲しかったのは、さっきの一対一の続きだった。
青峰は、下がった四番へ向かってそのまま運んだ。
前に出てきたもう一人を右へ抜く。四番が寄る前に、さらにボールを縦へ押した。二人の身体を追い越し、ゴールラインへ近づく。
キーパーが正面から滑り込んできた。
青峰は左足でボールを持ち上げた。伸びた腕の上を越え、ゴールへ落ちる。だが四番が最後まで走っていた。逆のポスト前で跳び、横からボールを頭で外へ出す。
ゴールのすぐ横で、四番が膝をついた。
「よし……!」
青峰は振り向いた。抜いた相手が、まだそこまで戻っていた。
その次のコーナーも、四番はゴール前から離れなかった。青峰が寄ると他の男を呼び、短髪の男へのパスに先に頭を出した。青峰に向かって一対一を始めるつもりはない。点を取らせないためなら、味方の後ろまで走る。
青峰は舌打ちした。
守るなら前へ来いと、勝手に思っていた。四番には四番の、今の一球を出した手応えがあるのだろう。すぐに立って前へ声を飛ばす顔には、六失点のまま終えていいという様子はなかった。
ならば次は、その後ろに立つ暇も与えず撃つ。
青峰が要求するより先に、相手のキーパーが長く蹴り出した。
残り二分。
橙の長袖の男が、自陣から走り出した。四番とのパス交換で前へ進み、青の守備者の右へ抜ける。角度は狭かったが、そこで撃った。
世話役が足で防ぎ、ボールが外へ出る。
「俺に戻せば、正面空いてたぞ」
四番が、ゴール前を指した。
「悪い。もう一本、自分で入れたかった」
「じゃ、次は入れろよ」
長袖の男が手を上げた。
青峰は二人を見てから、自分の味方へ顔を戻した。短髪の男は壁の時計を見ていた。
「もういいだろ、六対一だし。無理して追わなくても」
同じ声が、さっきは次に入れると言っていた。
青峰は何も言わず、前へ歩いた。
そのまま、試合は終わった。
*
ビブスを脱ぐと、世話役が手を差し出してきた。
「はい、お疲れ。次は最初から来い」
「一分だろ」
「その話、もうした」
青峰は丸めたビブスを渡し、ベンチへ座った。
短髪の男が、少し離れたところで世話役に話していた。
「次、組み分け変えてよ。あいついると、こっちが全然蹴らなくなる」
「自分で持っていきゃいいだろ」
「分かってるけど、空いてたら出しちゃうじゃん。あっち行っても止められそうだけどさ」
青峰は、横へ置いたボールに足を載せた。
青峰が空いていれば、味方はボールを出す。来れば自分で入れる。それで味方が蹴れなくなると言われても、わざと外してやるつもりはなかった。欲しければ、自分より先にボールへ来ればいい。
それでも組み分けを変える時、毎回自分の名前だけが先に出る。
小学生の頃には、それが嬉しかった。こっちへ来いと言い合われ、勝ったチームが次の相手を迎える。知らない年上に身体ごと止められ、もう一回とボールを拾ってきた。
勝ち続ければ、そのうち強い奴が来た。
今は、勝ち続けるほど時間が余った。
「四番」
青峰は呼んだ。男が靴を履き替える手を止める。
「最後の、もう一回やるか」
「試合終わっただろ」
「一本」
「明日朝早いんだ。今日は無理」
断った相手は、言い訳を足さなかった。バッグを持ち、長袖の男と連れ立って出口へ向かう。
青峰は立ったまま見送った。
帰る相手に、まだやれるだろうと声を掛けかけた。
やめた。
四番にとっては、空いた時間にやる三十分の試合だ。青峰のために仕事を休むわけがない。分かっていても、靴を脱ぎたくならなかった。六点も取ったのに、走り足りない。ようやく一本止められたところで、また相手がいなくなる。
さっきゴールから出されたボールを、足裏で押し戻した。
世話役が近づいてきた。
「あいつ、仕事の合間に来てんだよ」
「聞いた」
「お前と違って、明日も試合探して回れるわけじゃない」
「俺が暇みてえに言うな」
「暇だから来たんだろ」
青峰は言い返さず、ベンチへ腰を下ろした。
明日の予定は何もなかった。
ベンチへ戻ると、世話役がビブスを数えながら言った。
「そうだ。昔の登録先に、日本フットボール連合から連絡来たって。お前んちにも書類送ったらしいぞ」
「何の」
「そこまでは知らん。郵便ちゃんと見ろって伝言」
「先に聞いとけよ」
「俺はお前の事務員じゃないんだよ」
世話役が青峰の肩をビブスで叩いた。
青峰はそれを払い、空いたコートへ目を戻した。四番が立っていた場所には、もう誰もいない。濡れた芝に、靴の跡だけが残っている。
「球、一個」
「まだ蹴る?」
「すぐ返す」
「二分。片付け終わったら照明落とすからな」
青峰は籠からボールを取り、コートへ戻った。
タッチラインの少し内側へ置く。さっき四番に触られた時と同じ場所だ。右へ蹴り出し、回り込みながら右足を伸ばす。
ボールはラインを越えた。
自分で蹴ったものでは、転がり方が違った。四番はもう少し横から触った。こっちが切り返す、その直前だった。
青峰は拾い直した。
今度は蹴り出す向きを変え、左足を踏む。右足の外側で引っ掛け、そのままゴールへ蹴った。
ボールが無人のゴールに入った。
七点目。
追いつけた。足にも、さっきと似た感触があった。
だが四番の足は来ない。キーパーも前へ出ない。入ると分かったまま、ボールがネットに届くのを見ていた。
もう一度蹴れば、また入るだろう。
「終わりだぞー」
入口側の照明が消えた。
青峰はボールを取り、受付へ戻った。世話役が籠を差し出す。
「入った?」
「入った」
「そりゃよかった」
ボールが籠の中の一つとぶつかって、止まる。
青峰はバッグを肩へ掛けた。
「さっきの四番、いつもここ来んの」
「月に二、三回かな。仕事の都合つく時だけ」
「……ふうん」
外へ出ると、雨はすっかり上がっていた。
青峰はポケットの携帯を出した。誰かへ電話するでもなく、画面をつける。明日の予定は何も入っていない。
家に届いているという書類のことを、そこでようやく思い出した。