青峰大輝 in ブルーロック   作:AIで小説を上手く書きたい!

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第013話 こっちを見ろ

 スコアは二対二。乙夜が右のタッチラインへボールを置いた。青峰は、氷織の後ろへ半歩戻った。雪宮が反対側を走る。石狩の前には、さっきから何度も球を欲しがっている男がいた。烏だけが、ゴールへ背を向けていた。その背後で七星が膝を曲げる。右へ回り込みかけた足を戻して、烏と少し距離を取った。

 

 キックインの球が、烏の足元に入った。烏はすぐには振り向かなかった。球を右足の近くへ置き、七星が出した足から身体で隠した。開いた腕が七星の胸の前に触れる。押し飛ばすほど伸ばさず、肩をずらして間を取り直していた。七星の靴先は、あと少しで届きそうだった。そこへ出すたび、球が靴一つ分、逃げる。

 

 乙夜が外を走った。七星の顔が、そちらへ動く。烏が右脚を横へ開いた。さっき通された球を、今度は通させない。そのつもりなのだろう、七星の足が乙夜への線に入った。烏が反対へ回った。背中で隠れていた球が、急に前へ出た。七星は足を戻しながら追う。烏はもうゴールを向いていた。

 

 氷織が中央へ寄った。青峰も前へ出た。間に合うのは、もう一度触って運んだ場合だけだった。烏は氷織の足が届く前に、低く振り切った。球が二人の間を抜けた。ゴールの下が鳴る。

 

 二対三。

 

 青峰は足を止め、烏を見た。球を持っている間、ほとんどこちらを見なかった。七星の肩と、その横へ出てくる足を見ていた。自分で撃つところまで、それで足りたという顔だった。

 

「さっきの、俺にも出せたっしょ」

 

 乙夜が言う。烏は額に落ちた髪を手で払った。

 

「出さんでも入ったやろ」

 

「俺が入れる方もあったって話」

 

「そっちでも入れたかったら、もっと早う呼び」

 

「呼んだら、今みたいに見せるだけに使うじゃん」

 

 乙夜は笑って、もう右へ戻っていった。七星が烏の前に立った。

 

「今の、外へ出す足だったじゃないすか」

 

「せやな。そっち止めてくれたな」

 

 烏は球があった場所を一度見下ろした。

 

「外へのパス止めたら、次は俺が撃つ。そこまで見てへんから凡やねん」

 

 七星の顎が引かれた。反論を探すように口が動き、結局、何も出なかった。青峰は二人の間を通った。

 

「そこ、そんなに楽しいかよ」

 

「楽に点取れる方がええに決まっとるやろ」

 

「へえ」

 

 烏がようやく青峰を正面から見た。

 

 青峰はゴールへボールを取りに行った。

 

 自分が来ればすぐに出す。自分がいないところでは、長く持つ。七星が足を出すまで待ち、その逆へ回って撃つ。

 

 それで三つ取られた。

 

 青峰が球を持てば、さっきのように抜ける。だが持っていない間にも、向こうの得点は増えた。

 

 奪いに出るたび、烏はボールを別の方へ動かす。自分が受けて撃つ回数まで、相手に減らされていることへ腹が立った。

 

「七星」

 

 青峰はボールを差し出した。

 

「次、持ったらすぐこっち見ろ」

 

「はい」

 

「あいつの方ばっか見てんな。ボール持ってんの、お前になるんだぞ」

 

 七星が顔を上げた。

 

 青峰は再開の場所から前へ歩いた。烏はもう七星から離れ、青峰へ入るパスの線を見ている。

 

 向こうがやりたいところだけで、試合を進めさせる気はなかった。

 

*

 

 七星から氷織へボールが渡った。

 

 青峰は中央から右へ走った。烏もそちらへ寄り、氷織と青峰の間へ入る。青峰まで追いかけず、パスの通る道だけを塞いでいた。

 

 氷織は一度、七星へ戻した。

 

 烏が七星へ顔を向ける。青峰はその背後を通り、今度は氷織のすぐ前まで下がった。さっき右へ走ったことで、烏は逆向きへ走り直さなければならない。

 

「氷織、こっちだ!」

 

 七星から氷織へ戻ったボールが、一触で青峰へ渡った。

 

 ゴールまでは十八メートル。青峰が前を向くのと同時に、烏が右から追いついてきた。近づく勢いを使って身体を当て、ボールを隠す暇を与えないつもりだった。

 

 青峰は右足の裏で、ボールを押さえた。

 

 止めた。

 

 走り続けると思っていた烏の身体が、半歩前へ出た。青峰は左足で向きを変え、その背中側へボールを引いた。

 

「っ」

 

 烏の腕が伸びたが、もう前に球はなかった。雪宮が寄ってくる。青峰はそちらへ向かうふりをせず、空いた内側へもう一歩出た。雪宮の脚が後ろを掠めた。ゴールキーパーが正面にいた。青峰は身体を外へ開いた。遠い側へ出せる角度のまま、右足の内側を球の後ろへ入れる。

 

 近い下へ、蹴った。

 

 三対三。

 

 振り向くと、烏は止めた足を地面から離すところだった。

 

「おい。今度は見てたんだろ」

 

「見とったわ。止まるんやったら先に言うてくれや」

 

「言ったら取れたか?」

 

「何回もやってくれたら、そのうち取れるかもな」

 

 烏は中央へ歩いた。青峰は横に並んだ。

 

「だったら、こっち来いよ」

 

「お前の相手してへん間も点は入るねん。もうちょい我慢し」

 

「我慢させてるつもりかよ。球が来りゃ、お前ごと抜くわ」

 

「それで五つ全部取れたら、こっちは困るなあ」

 

 烏は、先に取った三点を指差しもしなかった。

 

 青峰が次を取る間に、向こうも取る。その話を、口先だけでしているわけではない。先ほども自分で一点取った。

 

 青峰は相手の横へ立った。

 

「じゃあ、最後までそっち見てろよ」

 

「見とくわ。お前に持たれへんようにな」

 

 青峰は中央へ戻った。

 

 氷織が近づいてきた。

 

「右へ走って烏くんを動かした後、僕の前へ戻ってきたやろ。あれで、間に誰もおらんくなった」

 

「見えたなら、次も一回で寄越せ」

 

「そのつもりやで」

 

 青峰は頷かず、再開のボールへ向かった。

 

 七星は、青峰が受けた場所を見た。最初に呼んでいた右サイドより、ずっと氷織に近い。青峰自身が烏を動かしてパスを受け、そこからは誰にも渡さず二人を抜いた。

 

 雪宮が中央に球を置く。烏は青峰から離れ、七星の方へ歩いていた。

 

*

 

 白のフォワードは、今度は石狩から下がって球を受けた。足元へ入った瞬間に、右へ振り向く。氷織が寄ったが、男はその前で脚を引いた。

 

「そこ、邪魔だ!」

 

 右足がボールを叩いた。氷織の出した足に当たり、勢いが落ちる。キーパーが収め、近くの石狩へ出した。

 

 青峰は前線へ走っていた。

 

 烏も青峰について前線へ走るふりをした。石狩が顔を上げると、急に切り返す。青峰へのパスが通る場所へ、横から入った。

 

 石狩が低いパスを蹴った。

 

 青峰まで届く前だった。

 

 石狩の三メートルほど前へ戻っていた烏が、横から先に触る。前線から青峰が戻って奪い返すには、遠かった。

 

 烏は一触で、中央のフォワードへ出した。

 

 男も止めず、乙夜へ渡す。

 

「次、奥!」

 

 自分はゴールの方へ走った。石狩も戻る。乙夜はその要求を見たうえで、烏へ球を返した。青峰は烏を追った。また左へ出た。雪宮が受ける。七星は、今度は早く内側へ入っていた。足幅を少し狭くし、前に行き過ぎないところで止まる。

 

 青峰は中央を戻った。雪宮の右足が内へ来れば、こちらからも出られる。乙夜が雪宮の後ろを横切った。氷織がそちらへ向く。雪宮は顔を後ろへ向け、右足を球の脇に置いた。返すなら乙夜の前だった。七星も一瞬、乙夜を見た。

 

 雪宮の左足が、球を小さく内へ押した。青峰は右へ踏み込んだ。雪宮の右脚が、もう引かれていた。七星も戻る。だが、さっきまで閉じていたところに、球一つと振り抜く脚が入った。右足から、強い球が上がった。遠い側の上へ。

 

 ネットが張った。

 

 三対四。

 

 青峰は雪宮を睨んだ。自分の足が届く少し前だった。雪宮は撃った方へ身体を流し、そこで振り返った。

 

「追いついたよ」

 

「俺と同じ本数で満足か」

 

「最後も俺が取れば、先に終われる」

 

 雪宮はゴーグルの縁に触れた。乙夜が肩の後ろから覗いた。

 

「今、俺いらなかった?」

 

「後ろにいてくれて助かったよ」

 

「それ、一番球が来ないやつじゃん」

 

「来たら撃つつもりだったでしょ」

 

 乙夜は否定せず、片手を振った。フォワードの男が二人に追いつく。

 

「俺の方も空いてた。次、そこからもう一個中へ出せよ」

 

「君が先に抜けたらね」

 

 雪宮の返事に、男は自分を追ってきた石狩を見た。石狩も相手を見返していた。青峰は七星の前まで戻った。七星は両手を膝に置いていた。汗が顎から芝へ落ちる。肩が一度大きく動き、長く息を吐いた。雪宮を追う途中で、一歩止まっていた。

 

 見直した相手が、後ろへ行った。その間に内へ入られた。青峰にはそれが見えた。青峰は爪先で球を寄せ、七星の前に止めた。

 

「まだ走れんのか」

 

 七星が顔を上げた。目は、合った。

 

*

 

「走れます」

 

 七星は背筋を伸ばした。言ってから、もう一度息を吸った。胸だけで吸うと足りない。腹まで入れようとすると、脇腹が少し痛んだ。青峰は球を持ち上げ、中央へ向かった。大丈夫かとは聞かなかった。七星は一度ゴールへ目を向けた。次を入れられれば終わる。その数字を確かめてから、再開の位置へ戻った。

 

 氷織が横に来た。

 

「戻すなら、僕ここにおる。前がよかったら、石狩くんの外まで出て」

 

「前、見てからにします」

 

「うん。じゃあ、動いた方へ合わせる」

 

 自分が止まったら、氷織へ返せる。そういう位置だった。それがあるのを確かめてから、七星は右へ歩いた。乙夜がこっちを見た。烏は少し内側で、青峰にも寄れるところにいた。もう、どちらも七星の左を知らない相手ではなかった。石狩が再開のボールを氷織へ蹴った。七星は右へ開き、青峰は中央へ出た。石狩が中央から前へ進み、白のフォワードがついた。

 

 氷織から右サイドの七星へ、パスが来た。

 

 七星は右足で前へ置いた。正面の乙夜が寄る。中央では石狩が手を上げていた。さっきの得点と同じように、早くクロスを上げれば届くかもしれない。

 

 右脚を引くと、乙夜の足がその前へ伸びた。

 

 今度は上げさせないつもりだった。

 

 七星は蹴るのをやめ、右足をボールの横へ下ろした。その足で地面を押し、左足でボールを中央へ運ぶ。クロスを止めに来た乙夜が、七星の右側へ流れた。

 

 内側には烏がいた。

 

 七星は速度を落とさず、青峰の方を見た。中央の青峰も右へ走り、雪宮から離れようとしている。今すぐ出せば、先に受けられる。

 

「七星!」

 

 青峰が呼んだ。

 

 烏は七星へ詰めかけ、半歩止まった。すべての身体を七星へ向ければ、青峰へのパスが通る。その道を消すため、少し中央に残った。

 

 七星の前が空いた。

 

 ボールは左足の近く。持ち替える必要はなかった。

 

 七星は右足を踏み、左で撃った。

 

 烏が足を出す。その脇をシュートが抜けた。低く飛んだボールへキーパーが手を下ろすが、近いポストの内側に間に合わない。

 

 ネットが揺れた。

 

 四対四。

 

 七星はその場で両手を握った。声を出そうとして、息の方が先に漏れた。

 

「入っ……た、よしっ!」

 

 次の息で言えた。烏がゴールを見ていた。驚いて口を開けたのではなかった。顔を戻し、さっき止めた足を芝に一度滑らせる。七星はそこを見るのをやめ、青峰の方へ走った。

 

「取りました!」

 

 七星が言うと、青峰はゴールへ目を向けた。

 

「今ので終わりじゃねえぞ」

 

「分かってるっす。あと一本!」

 

「次、俺に出せ」

 

 七星は少しだけ息を整えた。

 

「通ったら出します。俺が先に撃てる時は撃ちます」

 

 青峰は七星を見た。

 

「じゃあ、お前より先に入る」

 

 七星が頷きかけた時、石狩が走ってきた。

 

 石狩の手が七星の背中へ当たった。

 

「俺のとこにも上げろよ。まだ一本だぞ、俺」

 

「はい。足元が空いてたら、低く出します」

 

「それなら強くくれ。そのまま合わせて撃つ」

 

 氷織が二人の横から球を拾った。

 

「そろそろ戻ろか。次、向こうやで」

 

 右でクロスを蹴ると見せ、左で運んで、そのまま撃った。七星は初めて、左足で撃てたことより、右へ持ち替えずに済んだことをはっきり意識した。

 

 乙夜は右のクロスを止めに来た。そこで左へ運べたから、空いた方へそのまま撃てた。烏は左でも蹴ると知っていたが、一人で両側へは寄れない。次も相手の足が来たら、その逆を使えるかもしれない。

 

 顔を上げると、烏が正面にいた。

 

「次もそこ、空いとると思わんといてな」

 

「空いてなかったら、違うとこ行くっす」

 

「行けるうちに行きや」

 

 烏はすぐには目を逸らさなかった。七星が右へずれると、その分だけ顔がついてくる。さっきまでは、青峰を見る合間にこちらを見ていた。七星は膝を曲げた。左足の靴底が、芝を短く鳴らした。

 

*

 

 白のフォワードが乙夜へ出し、前へ走った。

 

 乙夜から烏、烏から雪宮。

 

 七星は雪宮の正面へ入った。内側を最初から大きく閉じすぎず、外へ運ぶボールに一歩ずつついていく。

 

 乙夜が後ろを横切った。

 

 七星は顔を全部そちらへ向けなかった。雪宮の足元を見たまま、氷織の声を聞く。

 

「後ろ、僕が見る」

 

 雪宮は一度後ろへ戻した。

 

 烏へ向かうパスだった。氷織が横から入り、右足で触る。

 

 青峰はその瞬間、烏の背後へ走った。

 

 まっすぐゴールへ行くのではなく、まず右斜めへ。氷織が顔を上げた時に、烏の身体と重ならない場所へ入る。

 

「こっち!」

 

 烏が振り向いた。

 

 青峰を追えば、いま一点取った七星の前が空く。七星へ残れば、青峰が前を向いて受ける。

 

 氷織は七星へ出した。

 

 青峰は止まらなかった。烏が七星の左足へ顔を戻す、その肩の外から中央へ走り直す。

 

 七星は左で受けた。

 

 烏が前へ来る。乙夜も右から寄った。さっきのように自分で撃てる幅は残っていない。

 

 七星は一度で氷織へ戻した。

 

 青峰が中央へ入った。

 

 ゴールまで十二メートルほど。雪宮は背後、烏は七星へ寄った場所から戻る途中。氷織から青峰への道だけが、短く空いた。

 

 氷織が左足を振る。

 

 低いパスが来た。

 

 青峰は左足を踏み込みかけた。右で直接撃つつもりだった。ゴールの左下が見えている。キーパーはまだ中央にいた。

 

 乙夜の足が横から伸びた。

 

 ボールに触れた。

 

 低く来るはずだったパスが浮き、青峰の身体へ少し近いところを飛ぶ。右足でそのまま振れば、ボールの下を空振りする高さだった。

 

 青峰は踏み込みを変えた。

 

 左足を置く場所を手前へずらす。空けた右脚を引き直し、腰を左へ倒した。

 

 落ちるまで待たなかった。

 

 右足の甲で、膝の高さにあるボールを叩く。

 

 乾いた音がした。

 

 ゴールの右上へ、シュートが飛ぶ。キーパーが低いパスに合わせて下げていた手を上げた時には、ボールが上隅へ突き刺さっていた。

 

 五対四。

 

 青峰は右足を下ろした。

 

 最初に撃つつもりだった方と、逆の隅だった。

 

 ボールが浮いたから足を上げた。身体へ近づいたから踏み込む場所を変えた。そうして変わった体勢から、空いている方へ蹴った。

 

 誰かに渡す一触も、自分で止め直す一触も、いらなかった。

 

 終了の音が鳴った。

 

 乙夜は、伸ばした足を戻すところだった。

 

「触ったのに」

 

 烏が中央を見たまま、短く舌打ちした。

 

 青峰はそちらへ顔を向けた。

 

「遅えよ。見るの」

 

 烏は青峰を見た。

 

 青峰は烏を見返し、口元を歪めた。自分へボールを持たせないまま勝つつもりだった相手に、最後は目の前で決めてやった。

 

 そこへ七星が走ってくる。

 

「今の、触られる前から分かってたんすか」

 

「んなわけねえだろ」

 

「でも、止めてないっすよね」

 

「見えたから蹴った」

 

 青峰は先に出口へ向かった。

 

 七星が振り返ると、氷織もゴールを見ていた。

 

「低く出した球を、乙夜くんが浮かせた。それで普通なら撃てなくなるところを、青峰くんは足を上げてそのまま決めたんや」

 

 七星は、乙夜が触った位置を見た。そこから青峰の足へ届くまでは、ほんのわずかな距離だった。青峰はその間に、足の高さも狙う隅も変えていた。

 

 乙夜が烏の横へ戻った。

 

「俺、触るとこまでは行ったんだけど」

 

「見とった。そっから撃たれたんもな」

 

 烏は七星を一度見てから、青峰の走った方へ目を戻した。

 

「最初に右へ走って、俺を振り向かせた。そこから真ん中へ戻りよった。受ける前まで、こっちの思う通りにはさせへんっちゅうことか」

 

 烏は青峰へ届く前のパスを取ろうとした。青峰もそれを見て、右へ走って烏を引きつけてから、中央へ戻った。最後のシュートへ至る前に、烏はマークの位置から動かされていた。

 

 烏は何も付け足さず、選択を待つ場所へ歩いた。

 

*

 

 五人目を選ぶ画面に、烏たち四人が並んだ。

 

「俺は雪宮」

 

 石狩が言った。

 

「二点取ったし、一人で抜いて撃てる。あの攻撃がこっちにも欲しい」

 

「俺は、烏さんっす」

 

 七星はまだ荒い息を整えていた。

 

「俺のところから、三回も崩されたんで。次はあれを、相手にやってほしい」

 

「僕も烏くん」

 

 氷織が続けた。

 

「青峰くんに持たせへん場所で奪って、すぐ攻撃にした。僕が後ろまで戻らんでも、前で受ける球が増えると思う」

 

 青峰は画面を見ず、少し離れた烏を呼んだ。

 

「おい、烏。こっち来い」

 

 烏が振り返る。

 

「もう決めたんか」

 

「俺に持たせねえ間、お前からばっか始まってたな」

 

「持たれたら止まらへんからな」

 

「だったら今度は、その球をこっちへ寄越せ」

 

 青峰は石狩を見た。

 

 石狩は雪宮と烏を一度ずつ見て、頷いた。

 

「分かった。俺が前へ入った時も見てくれ。上げるだけじゃなく、低くても撃つ」

 

「入ったら呼び。空いてるだけで毎回出せると思わんといてな」

 

 烏は石狩に答え、青峰へ顔を向けた。

 

「お前もやで。俺が自分で撃つ時はある」

 

「入れられんならやってみろよ。それより先に俺が取るわ」

 

 四人は烏を選んだ。

 

 得点の数だけなら雪宮の方が多かった。だが、青峰がボールを持つ前から動かされ、撃つ機会を減らされたのは烏だった。自分が受ければ決められる。その機会を増やすために、奪う場所と出す先を選べる五人目が欲しかった。

 

 雪宮がこちらへ来た。

 

「先、行ってて。次は三本じゃ済ませないから」

 

「次も来れたらな」

 

「来るよ」

 

 雪宮はそう言い、乙夜の方へ戻った。

 

 乙夜が烏へ手を振る。

 

「今度はそっちが俺を見失う番ね」

 

「頼みに来たら目ぇ離したるわ」

 

「やだよ。見てない時に行く」

 

 もう一人のフォワードが、先に出口へ向かった。

 

「次は俺にも早く出せよ。一本も取れないまま上がる気ねえから」

 

「まず、次の相手を選ぼ」

 

 乙夜がその背中を追った。雪宮は最後に一度だけこちらを振り返り、三人用の通路へ入っていった。

 

 五人を揃えた青峰たちは、別の扉へ案内された。

 

*

 

 壁の画面が点いた。

 

「奪敵決戦、クリアだ」

 

 絵心の声に、七星が息を吐いた。石狩も肩から力を抜く。

 

 青峰は立ったまま、続く言葉を待った。

 

「お前らには、次の課題を与える。その五人で、世界選抜と戦え」

 

 画面に、五人の写真が並んだ。

 

 レオナルド・ルナ。

 

 アダム・ブレイク。

 

 パブロ・カバソス。

 

 ダダ・シウバ。

 

 そして、ジュリアン・ロキ。

 

 青峰は顔を上げた。

 

 ロキの試合は見たことがある。画面の端にいたはずの選手が、一度カメラから消え、次の瞬間にはボールへ追いついていた。守る側も速かった。それでも、最初の数歩で前に出られた。

 

 自分の速さとどちらが上か。

 

 映像を見ながら考えたことはあった。実際に同じボールを追ったことはない。

 

「この人たちと、俺らがやるんすか」

 

 七星が言った。

 

「明日の指定時刻に、五人で来い。五点先取。試合の条件はそこで最終確認する」

 

 絵心はそう告げた。

 

「世界一を目指すなら、まずそいつらからゴールを奪ってこい。名前を聞いただけで満足すんなよ、原石ども」

 

 画面が切り替わり、集合する場所と時刻が残った。

 

 誰もすぐには話さなかった。

 

 最初に口を開いたのは石狩だった。

 

「ダダ・シウバ、いるな」

 

 自分と同じくらい大きな相手が、空中で競り勝つ映像を見ていた。七星は写真の名前をもう一度読み、烏は五人の組み合わせを確かめるように顎へ手を当てている。

 

 青峰はロキの写真から目を離さなかった。

 

「やっと出てきたかよ」

 

 氷織が隣を見る。

 

「やりたかったん?」

 

「あの足となら、一回やりてえに決まってんだろ」

 

 青峰は案内の前へ近づいた。

 

 人が集まれば強い奴がいるかもしれない。その程度の理由で来た。今度は名前を知っている。どんな相手を抜いてきたかも、映像で見た。

 

 その本人が、明日こっちへ来る。

 

 世界一をつくるという絵心の話を、信じたつもりはなかった。それでも、この五人を本当に連れてきたのなら、ここへ入ったことは間違いではない。

 

 青峰は集合時刻を確かめた。

 

 まだ一晩あった。

 

*

 

 居室へ戻る途中で、烏が青峰の横へ来た。

 

「待っとったん、雪宮やろ。そっち取らへんかったな」

 

「あいつは、また向こうから来るだろ」

 

「俺はこっちで使う気なんやな」

 

「石狩から俺へ来る前の球、取ったろ。あれを明日やれよ」

 

 烏は青峰の顔を見た。

 

「相手の名前、見てへんかったんか」

 

「見たよ」

 

「ほな、同じように置いてくれるとは限らんことも分かるやろ」

 

「取れた時に寄越せっつってんだよ」

 

 青峰は前を向いた。

 

 自分が取れないと思っているなら、この男を選ばなかった。烏がどう奪うかまで指図する気もない。だが、自分が入る場所なら、今から幾つも考えられる。

 

 速い相手へボールを出して走らせる前に取る。長い球なら、追いかけて先に触る。一度持てば、前にいる奴を抜く。

 

 ロキが正面に立ったら、どちらへ一歩目を出すか。

 

 そこだけは、まだ決めなかった。実際の足を見てから変えればいい。

 

 七星と石狩が後ろから来た。氷織は借りられる映像の一覧を見ていたが、青峰の横へ並ぶと端末を下ろした。

 

「明日、最初から上に置くだけはやめとく。相手が先に戻るやろうし」

 

「俺が先に行く」

 

「その一歩が見えたら出すよ」

 

「遅れんなよ」

 

 氷織は軽く頷いた。

 

 それ以上の約束を、青峰も求めなかった。

 

*

 

 消灯前、烏はさっきの試合を見直していた。

 

 青峰が右へ走り、その後で中央へ入ってくる場面だった。画面の中の烏は七星へ向いている。

 

「何回見ても、お前はそっち見てんぞ」

 

 青峰が言うと、烏は映像を止めた。

 

「そこやなくて、お前が動き出すとこを見とる。最初に右へ出た時、同じ側なら出せたかもしれへん」

 

 青峰は隣へ座った。

 

「出せるなら出せよ。もう一回戻す間、待たねえからな」

 

「ロキが先に来る場所へ蹴ってほしいんか?」

 

「俺が先なら通せ。それでいいだろ」

 

 烏は画面を動かした。

 

「そっちは見せてもらうわ」

 

 青峰はベッドへ戻りかけ、足を止めた。

 

 端末には世界選抜の紹介映像もあった。ロキが右サイドで受ける。守備者が正面へ立つ。次の瞬間には、その外へボールが出ている。

 

 青峰はそこから一度だけ戻して再生した。

 

 速い。

 

 そう思ってから、端末を置いた。遅いと言って済ませる気にならなかった。だから早く、同じ芝の上で走らせてみたかった。

 

「もう寝んの?」

 

 烏が聞いた。

 

「朝、遅れてくんなよ。待たねえぞ」

 

「お前に言われるとは思わへんかったわ」

 

 青峰は返事をせず、横になった。

 

 一次選考の最後には、雪宮の次のシュートを止めたいと思った。氷織に断られて、あいつのいる三人から五点取ろうと決めた。烏にボールを遠ざけられて、あいつの前でもう一本決めたくなった。

 

 気に入らない相手が増えた。

 

 その相手をまた見たくなることも、増えた。

 

 明日は、その続きに世界の五人がいる。いままでの全勝を守るために様子を見るつもりはなかった。最初の一本から奪って、自分が入れる。

 

 それであいつらがどう来るか、見たかった。

 

*

 

 翌朝、青峰は七星に呼ばれる前に起きた。

 

 用意を終え、指定された扉へ向かう。石狩が頭上の表示を見て止まり、烏は横の案内で時刻を確かめた。氷織は七星へ何か話していたが、扉の前まで来ると声を落とした。

 

 向こうから、笑い声が聞こえた。

 

 青峰は顔を上げた。

 

 扉が開き始める。その隙間から見えたのは、昨日まで画面の中にいた五人だった。

 

 

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