青峰大輝 in ブルーロック   作:AIで小説を上手く書きたい!

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第002話 入寮

 封筒の差出人は、日本フットボール連合だった。

 

 青峰は机の上に中身を広げた。指定された日時と集合場所。その下に、全国から選ばれた三百人の高校生フォワードを集める、とある。

 

 三百人。

 

 数字のところでもう一度目が止まり、青峰は次の紙をめくった。

 

 持ち物。参加に必要な手続き。施設への行き方。

 

 肝心の、誰が来るのかは書いていなかった。

 

「大ちゃーん、入るよ」

 

 返事をする前に、部屋の扉が開いた。

 

 桃井さつきが顔を出す。片手には自分の携帯があった。

 

「この前貸した充電器、返して。今日使うから」

「机の……どっか」

「どっかって」

 

 青峰がベッドの脇を探り、黒いコードを引っ張り出した。

 

「それ、イヤホン。白い方だってば」

「分かってる。これの下」

 

 白い充電器を渡すと、桃井は一度端子を確かめてからバッグへしまった。机の書類に目を留める。

 

「何、それ。連合から?」

「選考会」

「見てもいい?」

 

 青峰は表の紙を渡した。

 

 桃井は立ったまま読み始めた。すぐに茶化したり、感想を言ったりはしなかった。募集の文面から集合場所へ目を移し、二枚目も読む。

 

「泊まりなんだ」

「らしいな」

「三百人、全員フォワード?」

 

 青峰は頷いた。

 

 桃井が紙を置く。

 

「行くの?」

「普通の合宿なら行かねえ」

「普通かどうか、これじゃ分からなくない?」

 

 青峰は返事をせず、案内の一行を指で押さえた。

 

 世界一のストライカーを生み出すための、特別強化計画。

 

 青峰は紙を机へ戻した。

 

「どうせ、知ってる連中だろ」

 

 全国、強化、選抜。名前だけなら、いくらでも変えられた。知らないユニフォームに身を包んだ相手でも、何度か抜くうちに同じ顔になる。

 

 桃井が書類の端を押さえた。

 

「まだ誰が来るか分からないんでしょ」

 

「分かんねえから見てたんだよ」

 

「行くか聞いただけなのに、私に怒んないでよ」

 

 青峰はベッドへ腰を下ろした。

 

 窓の外では、部活帰りの生徒が話していた。遅い時間まで走らされたのだと、一人が文句を言っている。その声が遠くなるまで、青峰は黙っていた。

 

 桐皇で最後に出た練習試合も、夕方まで続いていた。

 

 来る相手は強いと聞いていた。去年の選手権に出ていて、守備の中心は世代別の候補にも呼ばれている。青峰は相手の名前を覚えないまま、試合の開始には間に合った。

 

 相手の監督が、彼を知っていた。

 

 キックオフ前に、長身のDFをこちらへ向けて何か話す。その選手は頷き、足元から青峰の顔まで見てきた。青峰は視線を返した。

 

 一点目には九分掛かった。

 

 ボールが来なかった八分と少しを、青峰はその時間のほとんどとして覚えていた。相手は中央へ通す線を閉じ、桐皇の中盤を外へ追い出した。青峰が一度自陣へ下がって受けると、長身のDFはセンターラインまではついてこなかった。

 

 青峰はそこから持っていった。

 

 正面の二人を抜き、エリアの手前で例のDFと向き合う。足を出さずに追ってくる相手へ、ボールを一歩近づけた。右肩が触れるところまで寄ってから、逆の足で左へ出る。

 

 相手はついてきた。

 

 青峰が次の一歩を速めると、そこで離れた。

 

 二点目は、三人目に挟まれる前に撃った。三点目には、腕を掴まれた。振りほどくより先に、転びかけた身体から足だけを出して入れた。

 

 審判が得点を認め、DFへ警告を出す。

 

 青峰は、その男がこちらを見るのを待った。

 

 男は審判を見ていた。

 

 後半の途中、桐皇の先輩から声が飛んだ。

 

「青峰、一回落とせ! 中、変える!」

 

 青峰はボールを持ったまま、三人のいる中央へ入った。

 

 左から来た足を越し、正面の相手を止め、背後から寄ってくる一人より先に撃った。ゴールの右上へ入る。ベンチから歓声が上がった。

 

 味方の先輩だけが、首を横に振った。

 

「今、俺が空いてた」

 

「だから何だよ。入ったろ」

 

「一本くらい使えって言ってんだ」

 

「お前に出して、どうなんだよ」

 

 先輩が言葉に詰まったのを、青峰は覚えている。

 

 言い方が悪かったことくらい、今でも分かる。だが、その試合で違う選択をするつもりはなかった。パスを出せば、自分が撃てるボールを手放す。相手を抜けば、もうゴールへ届く。そちらを選ぶ理由を、誰かに説明してもらう必要はなかった。

 

 試合が終わる前に、相手のDFが交代した。

 

 タッチラインの向こうへ歩く背中を見た。こちらを見る気配はなかった。代わりに入ってきた選手も、ベンチへ何度も顔を向けた。

 

 また、終わっていた。

 

 笛より先に終わる。自分のゴールが増えるほど、そうなるのが早くなった。

 

 その次の練習を休んだ時には、先輩が呼びに来た。

 

「試合だけ出りゃいいと思ってんのか」

 

「出なくていいなら、そうするけど」

 

「そういう話してねえだろ」

 

 腹を立てられても、青峰の方には返す話がなかった。昨日より速く走って、誰に追いつかせないつもりなのか。シュートをもう一本入れられるようになって、何が変わるのか。

 

 口にすればまた怒るだろうと思い、何も言わなかった。

 

 桐皇の練習場へ行かなくなった。試合の誘いも断り、そのうち、知らない男たちの集まるコートで蹴る方が増えた。

 

 チームを離れたところで、強い相手が見つかる保証はない。それでも、初めて見る相手なら一度は試したくなった。同じ練習場で、今日も自分が全部入れると思いながら靴を履くよりはよかった。

 

 昨日のコートで会った四番は、最後までゴールを守った。

 

 それでも六点入った。一本、線の手前で掻き出された。もう一度と言う前に、相手は靴を履き替えていた。

 

「……昨日は、何対何だったの」

 

 桃井の声で、青峰は机へ目を戻した。

 

「六対一」

 

「全部、大ちゃん?」

 

「ああ」

 

 桃井は点差に驚かなかった。小さい頃から、試合の後に同じ質問をしてきた。その答えのどこを聞けばいいのかも、もう分かっている。

 

「それで、今日は?」

 

「何が」

 

「六点目のあとも、ちゃんと守ってきた?」

 

 青峰はすぐには答えなかった。

 

 抜かれた後も走る男がいた。青峰を抜く代わりに、ワンツーで別の守備者を崩す男もいた。彼らなりに試合をしていた。それを、やめていると決めつけるほどではない。

 

 だが、止めてほしいと頼んでいるわけでもなかった。

 

 最初から止められる奴に会いたかった。

 

「別に」

 

 そう答えると、桃井の眉が動いた。

 

「じゃあ、どうして書類、ずっと見てるの」

 

「机にあるからだろ」

 

「持ち物の裏まで読んでたじゃない」

 

 青峰は机の紙を引き寄せた。桃井の指が乗ったままだった。

 

「離せよ」

 

「大ちゃんさ。行きたいなら、行きたいって言えばいいのに」

 

「分かったように言うな」

 

 思ったより強い声が出た。

 

 桃井の手が止まる。すぐに引っ込めるのではなく、青峰を見たまま紙の端から指を離した。

 

「分からないから聞いてるんだよ」

 

 部屋の外で、食器の触れ合う音がした。

 

 青峰は返事をしなかった。桃井も笑って流さなかった。

 

 彼女が試合を見に来なくなった時期があった。部の用事が重なり、青峰の方も試合の予定を伝えなくなっていた。一度会うと、何でも今まで通り知っている気で話しかけられる。苛立ったのは、そのせいもあった。

 

 行って、また退屈な試合をして帰る。その可能性を自分で考えるのはよくても、桃井に期待していると指摘されるのは腹が立った。

 

 それでも書類を捨てずにいるのだから、否定しきれなかった。

 

「……三百人、来るんだろ」

 

「うん」

 

「一人くらいいるかもしれねえって、それだけだよ」

 

 桃井は書類を見た。

 

「大ちゃんを止められる人?」

 

「ああ。口だけじゃなくてな」

 

 勝てると言い、追いつくと言い、その場しのぎではなく実際に届く相手。それを抜いてもう一度撃つ。その後にも次がある試合。

 

 昔は、それを特別なことだと思っていなかった。

 

「だったら、名前を見てからじゃ分からないかもね」

 

 桃井が言った。

 

「聞いたことない名前でも、上手い人はいるから」

 

「分かってるよ」

 

「分かってるなら、最初からそう返して」

 

 青峰はベッドから立ち上がった。桃井の肩越しに、連合の印刷した一行が見えた。

 

 世界一のストライカー。

 

 自分より上がいるとは書いていない。それをつくると書いてある。今いる相手を集めるだけとは、少し違う言い方だった。

 

 どこまで本気なのかは、まだ分からなかった。

 

「昨日の、最後の一本は止められた」

 

 青峰が言うと、桃井が顔を上げた。

 

「キーパーに?」

 

「抜いた奴が戻ってきた。頭で、線の前から出しやがった」

 

「じゃあ、抜いた後のことも考えないとね」

 

「次は入れる」

 

 桃井の表情が少し和らぎかけた。青峰が睨むと、彼女も眉を寄せる。

 

「何。私、何も言ってないよ」

 

「いちいち嬉しそうにすんな」

 

「して悪い?」

 

 青峰は答えず、バッグを引っ張り出した。

 

 桃井の携帯が鳴った。待ち合わせの相手からだったらしい。画面を見て、すぐに短く返事をする。ここで話が片づくまで付き合うために来たのではない。そのことに、青峰は今になって気づいた。

 

「もう行く。充電器、今度は自分で持ってきてね」

 

「返しただろ」

 

「取りに来たんです」

 

 桃井は扉を開けた。青峰は、閉まる前に呼んだ。

 

「さつき」

 

「何?」

 

「書類。そこ」

 

 机の端から落ちかけた一枚を指す。桃井が戻して、こちらへ向けた。

 

「参加するなら、名前、忘れないで」

 

「ガキじゃねえんだから」

 

「この前、借りた充電器も忘れてたでしょ」

 

 扉が閉まった。

 

 青峰はその音の後で、さっき怒鳴るほどのことでもなかったと思った。思ったが、追っていって言い直すほど素直にもなれなかった。

 

 机へ戻り、名前を書く欄を見た。

 

*

 

 青峰はもう一度、参加の案内を読んだ。

 

 三百人全員が、選ばれたフォワード。

 

 強い守備者を集めた企画ではない。それは分かっていた。ただ、点を取ることだけで競わせるなら、六点を取られてから一つ返して満足していた連中とは違う。

 

 誰かが、自分より多く取るつもりで来る。

 

 それが口だけかどうか、同じピッチに立てば分かる。邪魔な規則を並べられたら、その中でも自分が決めればいい。

 

 招待の文面を読んでも、気分が晴れたわけではなかった。今度こそなどと考えれば、また同じだった時に腹が立つ。それでも、行かなければ今日の続きしかなかった。

 

 外れなら外れで、集めた奴の顔くらい見て帰る。

 

 青峰は参加の紙を、残す方へ分けた。

 

 青峰は携帯で経路を調べた。集合時間に間に合う電車が出る。一度画面を閉じかけて、前の便も開いた。

 

 こちらなら三十分ほど早く着く。

 

 早く行ったところで、早く試合が始まるわけではない。それでも、参加者がいれば見られる。ボールを蹴れる場所があるかもしれない。

 

 一本早い方を保存した。

 

 バッグに靴と着替えを入れたあと、参加欄へ名前を書く。所属の欄ではペンが一度止まった。

 

 未所属。

 

 そう書き、紙を畳んだ。

 

 携帯の画面には、さっきの経路がまだ残っていた。青峰は目覚ましを設定し、桃井へ短く送った。

 

『行ってくる』

 

 少しして返事が来た。

 

『いってらっしゃい! 帰ったら試合の話、聞かせてね』

 

 青峰はその文を読み、携帯を伏せた。

 

 返事の文を打ちかけ、消した。代わりに、さっき調べた集合場所をもう一度確かめた。

 

*

 

 当日は、予定した電車に乗れた。

 

 集合より三十分ほど早く受付に着き、青峰は施設へ入った。

 

 既に何十人も来ていた。

 

 壁際でストレッチをする選手。書類を読み返す選手。知り合い同士で話す声もあったが、すぐ近くを別の参加者が通ると、どちらからともなく口を閉じる。

 

 青峰が受付へ向かう途中、備品の籠からボールが一つ転がり出た。

 

 近くにいた選手が、片足で止める。

 

 勢いのついたボールが、靴からほとんど離れなかった。男は書類を係へ渡しながら、そのまま足元で向きを変え、籠のそばへ蹴り返した。

 

 青峰は足を止めた。

 

 上手い奴ならできる。それだけなら珍しくない。

 

 ただ、本人は一度も足元を確かめなかった。

 

「青峰?」

 

 反対側から声が掛かった。

 

 赤いジャージの男が近づいてくる。顔には見覚えがあった。

 

「本当に来たんだな。最近、名前見ないから」

「お前、どこのだっけ」

「帝光の時、二回当たったぞ」

 

 学校名を聞いて、青峰は思い出した。雨の試合だった。ゴール前がぬかるみ、遠くから撃ったボールがキーパーの手前で大きく跳ねた。

 

「ああ。お前、右にいた奴か」

「そう。二回ともお前の相手」

 

 男は苦笑し、青峰の書類を見た。

 

「今、桐皇じゃないのか」

「未所属」

「……サッカー、やめたのかと思ってた」

 

 青峰は受付へ紙を渡した。

 

「やめてねえよ」

 

 言ってから、さっきボールを止めた選手を探した。もう通路の奥へ入っていくところだった。

 

 赤いジャージの男も同じ方を見る。

 

「知ってる奴?」

「いや」

「結構来てるぞ。全国出た奴も、名前聞いたことない奴も」

 

 参加証を受け取った青峰が、顔を上げた。

 

「お前は?」

「俺?」

「二回負けたまんまで来たわけじゃねえだろ」

 

 男の表情から笑いが消えた。

 

「……当たったら分かる」

 

 青峰は男の顔を見直した。

 

「じゃ、残っとけよ」

 

 通路へ入ると、先に歩いていた男の姿は、ほかの参加者に紛れて見えなくなった。

 

 青峰は歩く速さを少し上げた。

 

*

 

 集会場にいたのは、ユニフォームの違う選手ばかりだった。

 

 同じ服で来た者同士も、三百人の中では小さな集まりにすぎない。青峰は壁際に立ち、壇上へ上がった痩せた男を見た。

 

「絵心甚八。この計画で、お前らを選ぶ人間だ」

 

 男はマイクの高さを直し、顔を上げた。

 

「日本がワールドカップを獲るために、世界一のストライカーをつくる。お前らは、その候補として呼ばれた」

 

 話し声が少し下がった。

 

 合宿をすれば全員が同じだけ上手くなる。そんな説明ではなかった。絵心は、ここでは自分のゴールによって生き残れと言った。

 

 前にいた選手が声を上げる。

 

「チームで勝つために、点を取るんじゃないんですか」

「お前の代わりに誰が取っても勝てるなら、なぜお前を代表に呼ぶ必要がある?」

 

 問い返され、男が口を閉じた。

 

 青峰は壇上を見た。

 

 自分が撃てる時に自分で撃つ。それだけのことを、ここではわざわざ教えるらしい。味方のために一本譲れと言われ続けた身には、妙な話だった。

 

 だが、集まった連中が本当に全員そうするなら、試合は変わる。青峰が点を取っても、隣の奴は次の一本を欲しがる。三点離しても、向こうの奴は自分で四点取るつもりで来る。

 

 絵心は選手たちを見渡し、この施設では競技も生活も計画に従うこと、最後まで残れるのはごく一部であることを告げた。

 

 そして、脱落者は日本代表になる資格を失うと言った。

 

 ざわめきが戻った。

 

「そんなの、今までの実績はどうなるんだよ」

「学校の試合は?」

「説明、何も書いてなかったじゃん」

 

 青峰の近くでも、声が重なった。

 

 絵心は待った。反論に一つずつ返事をせず、奥の扉を指す。

 

「受けるなら進め。嫌なら、ここから帰れる」

 

 扉が開いた。

 

 すぐには、全員が動かなかった。

 

 青峰もその場で、出てきたばかりの条件を考えた。負けたら代表にはなれない。勝てば、ここにいる連中より先へ行ける。

 

 失うものがないわけではない。

 

 ただ、今のまま外にいても、昨日と同じような試合を探すだけだった。

 

 青峰はバッグを肩へ掛け直した。

 

「青峰、お前も行くのか」

 

 赤いジャージの男が、少し後ろにいた。

 

「もう代表候補みたいなもんだろ。わざわざ、ここで落とされる条件まで呑まなくても」

「今、どこの代表でもねえよ」

 

 青峰は前を向いた。

 

 扉へ走る一人の背中を、別の選手が追い越した。遅れていた者も歩き始める。さっきまで帰るか迷っていた顔が、前の人間を抜く時には変わっていた。

 

「それに、俺が落ちるつもりで来たと思ってんのか」

 

 男の返事を待たず、扉へ向かった。

 

 誰がいるかは、まだ分からない。

 

 それでも、もう一度本気で止めに来る相手を、ここで探す。

 

 いたら、その上から点を取る。

 

 前を歩く選手の肩を抜け、青峰は通路へ入った。

 

*

 

 携帯を預け、支給された服へ着替えて案内の部屋へ行くと、既に何人かが集まっていた。

 

 広い部屋ではない。周囲は壁で囲まれ、ゴールも、外へ出るタッチラインもない。片側に荷物が寄せられ、その前に十二人分の場所が空いている。

 

 青峰のシャツには、三〇〇という数字があった。

 

「それ、順位っすかね」

 

 ヘアバンドをつけた少年が話しかけてきた。自分の胸の数字と、青峰のものを見比べている。

 

「知らねえ」

「俺、七星虹郎っす。よろしくお願いします」

「青峰」

 

 七星が目を見開いた。

 

「青峰って、帝光の?」

「今は違う」

「いや、そうっすよね。でも、何で三百……」

 

 青峰は胸の数字を引っ張って見た。

 

 自分より上に二百九十九人いる、ということらしい。

 

「全員、本当に上ならいいけどな」

 

 七星が返事を迷っていると、横から静かな声がした。

 

「まだ、一回も試合してへんのにな」

 

 水色の髪の少年だった。壁際に立ち、部屋の四隅を順に見ている。

 

「氷織羊。よろしく」

 

 青峰が頷くと、反対側でも一人がこちらを見た。

 

 背が高かった。青峰よりさらに頭の位置が上にある。壁に肩を預けていたが、立ち直ると、その大きさがよく分かった。

 

「石狩幸雄」

 

 名乗った声は、特に大きくなかった。

 

 七星が何か話し始めようとしたところで、壁の画面が点いた。

 

 絵心だった。

 

「まず一人、ここで落とす」

 

 部屋が静かになる。

 

「ボールを使った鬼ごっこだ。ボールに当たった奴が次の鬼。制限時間は百三十六秒。ゼロになった時、鬼だった人間が脱落する」

 

 床にボールが一つ出てきた。

 

 手で扱うのは禁止。壁に当たって跳ね返ったボールも有効。普通の試合のように外へ出して時間を止めることはできない。

 

 青峰はボールへ足を向けた。

 

「最初の鬼は、順位が一番下の青峰大輝」

 

 近くにいた二人が、同時に離れた。

 

 青峰は足裏でボールを止め、顔を上げた。

 

 七星は既に石狩の後ろへ回っていた。氷織は壁に背をつけず、少し前で立ち止まる。胸に二九一をつけた男が、部屋の反対側まで下がった。

 

 誰かが時計を見上げる。

 

 百三十六。

 

「開始」

 

 数字が減った。

 

 青峰はすぐには蹴らなかった。

 

 さっきまで騒いでいた男たちが、自分から離れていく。

 

 青峰は、胸の三〇〇を見下ろした。数字で何を言われても構わなかった。だが、呼びつけて最初にやることが、逃げる相手へボールを当てる遊びだというのは気に食わない。

 

 その顔が画面に映っていたらしい。絵心の口が動いた。

 

「不満か、最下位」

 

「試合、いつだよ」

 

「ここを通ったら教えてやる」

 

 青峰は目を細めた。

 

 誰でもいいなら、とっくに蹴っていた。近くにいた男の足は揃っていたし、奥の一人は壁まで下がりきっていた。あれでは横へ逃げても、跳ね返りが来る。

 

 当てて終わりにするなら、すぐ済む。

 

 大柄な石狩だけは、他の選手とぶつからないように位置を変えていた。七星をどかし、こちらを見る。氷織も、壁へ下がりきらずに止まっていた。

 

 その二人へ、青峰はボールを持って近づいた。

 

 後ろで、誰かが息を呑む。青峰はそちらを見なかった。

 

 目の前に、初めて見る十一人がいる。

 

 誰なら、当てたあとに取り返しに来る。

 

 石狩が七星から離れ、大きく足を開いた。青峰は、その左足が床へ下りるのを見た。

 

 

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