青峰大輝 in ブルーロック   作:AIで小説を上手く書きたい!

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第007話 呼ばれた先

 試合前、青峰は一人でWの得点映像を見ていた。

 

 清羅刃は、映像の中で何度も中央へ入ってきた。相手に肩を当てられても低い姿勢を保ち、右足のすぐ隣へボールを引いて左足で抜く。小さく切り返しても身体がぶれず、狭い隙間を通り抜けていた。

 

 青峰が見たのは、その切り返しだった。左右の足で触れるだけなら珍しくない。清羅は、ぶつかられた直後でも次の一歩を出せる。

 

 青峰は再生を止めた。

 

 最後のシュートより、その手前で身体を入れた場所を見る。追ってくる選手の足と、前にいる選手の足。その二つが重なる少し前に、ボールを通していた。

 

 抜ける幅が見えた時には、もう入っている。

 

 後から来た氷織が、画面の前で足を止めた。

 

「この人も、右左どっちも撃つな」

 

「見てる」

 

 青峰は短く返した。氷織は横へ立ったまま、画面のもう少し前を見た。

 

「受ける前に、向こう側へ一回出してる。寄せてから戻してるんやね」

 

「こいつが受けたとこ見りゃいいだろ」

 

「受けるとこまで行かせたら、こっちの二人が戻りながらになるよ」

 

 青峰は氷織へ顔を向けた。

 

「俺が戻って止めろって話か」

 

「戻ってほしい時はそう言う。今は、どこから始まるかの話」

 

 氷織は再生を一つ前へ戻した。Wが反対側へボールを運び、守備がそちらへ寄る。それから、清羅へ渡る。

 

 青峰は最後まで見た。

 

 黒名の時と同じように、自分が前にいる間に別の場所が動く。自分を一人で抜こうとしなくても、相手は得点できる。

 

 だから下がって全員の面倒を見る、という結論にはならなかった。

 

「取ったらこっちに出せよ。向こうが戻る前に」

 

「通るところにおってな」

 

「いるわ」

 

 青峰は立ち上がった。

 

 前にいる自分へボールが来れば、それまで何本回していようと関係ない。向こうがつくった一点を、一回の攻撃で返す。待つだけにならない場所へ、自分で入ればいい。

 

 試合が始まると、Wは片側だけを攻め続けなかった。

 

 右へ集めてから中央へ戻し、逆の左へ送る。Zがボールのある方へ寄ったところで、その反対へ運んだ。

 

 氷織は中央で相手を見ながら、右へ渡ったボールを追った。

 

 Zから見て右。そこにいるのが、Wの左サイドを攻める清羅刃だった。

 

 Zの右DFが前へ出る。

 

 七星も外から戻ってきた。

 

 二人で挟める。

 

 そう思う前に、清羅が動いた。

 

 ボールを右DFの外側へ少し押し、戻ってくる七星との間へ身体を入れる。大きく蹴り出さない。二人の足が閉じる前に、ボールと自分の身体を続けて通した。

 

 氷織はゴール前へ走った。

 

 清羅が右足を振る。

 

 近いポストの上へ、ボールが飛んだ。

 

 キーパーが手を上げたが、届かなかった。

 

 〇対一。

 

 氷織はエリアの外で止まった。

 

 七星と右DFも振り返っている。二人の間は、今なら閉じていた。抜けるには狭すぎる。

 

 清羅は、それが閉じる前に通ったのだ。

 

「二人で行ったのに……」

 

 戻ってきた七星が言った。

 

「揃う前に行かれたな」

 

 氷織は答え、中央へ向かった。

 

 Wはそこまでを用意していた。反対側へZを動かし、清羅が受けた時には、七星が戻る途中になるようにした。

 

 清羅一人の突破だったが、一人で最初から二人を相手にしたわけではない。

 

 七星が右DFと話し始める。今度は右DFが外を塞ぎ、七星は内側へ戻るらしい。

 

 前では、青峰が手を上げていた。

 

 早く始めろと、指が動いた。

 

*

 

 氷織がボールを受けると、青峰は中央から右へ流れた。

 

 Wはゴール前に四人を並べていた。青峰の後ろには中央DF、右へ行った先には左DFがいる。中央DFがついてきても、自分の守る場所から離れすぎないところで受け渡す。その形を狙っていた。

 

 青峰は、二人の境目で一度歩いた。

 

 左DFが一歩前へ出る。中央DFは下がろうとする。

 

 そこで青峰は、もう一度中央へ走った。

 

 二人の顔が同時に動く。中央DFは離れかけた身体を戻し、左DFも一度踏み出した足を戻せない。

 

「氷織!」

 

 パスが来た。

 

 青峰は右足で受け、正面へ運んだ。二人が顔を見合わせた分だけ、ゴールへ向かう一歩が空いていた。

 

 先に身体を入れたのは中央DFだった。

 

 青峰は止まらない。右へボールを押して肩の外を通り、追ってきた左DFの正面へ入る。

 

 相手が足を開く。抜かれまいと腰を落とした。

 

 青峰は左へ行くように身体を傾けた。

 

 ボールは右へ転がしたままだった。

 

 左足で芝を踏み、そのまま右脚を振る。左へ出る一歩だと思った相手は、撃たれる方へ足を伸ばすのが遅れた。

 

 ゴールの遠い隅へ、低いシュートが走った。

 

 キーパーの伸ばした脚の先を通り、ネットが揺れる。

 

 一対一。

 

 青峰は立ち止まり、守っていた二人を見た。

 

 自分がここへ来るまで、二人はずっとこちらを見ていた。警戒していなかったのではない。どちらがつくか、その一回の判断をさせたところから抜いた。

 

「譲り合ってていいのかよ」

 

 青峰が言うと、中央DFが近づいてきた。

 

「譲ったんじゃねえ」

 

「じゃあ、二人で来りゃよかっただろ」

 

 左DFが中央DFの肩を押さえた。青峰へ言い返すより、次の守り方を決めるつもりらしかった。

 

 氷織は、青峰が抜けた場所を見た。

 

 青峰が右へ走ると、中央DFは左DFへ任せようとした。その二人が受け渡す間に、青峰が中央へ戻った。氷織がパスを出す道は、青峰自身が二人を動かして空けていた。

 

 呼ばれた時には、通る道があった。

 

 氷織は、その速さを覚えた。

 

「俺がつく。途中で渡さない」

 

 最初のDFが言った。

 

 もう一人が頷く。

 

 戻ってきた青峰へ、氷織は声を掛けた。

 

「次、あの人ずっとついてくるって」

「聞こえた」

「今みたいな隙間、もう空かへんかも」

「じゃ、別んとこ抜く」

 

 青峰は相手を見ていた。

 

 氷織は頷き、先に自陣へ戻った。

 

 その後の攻撃で、七星が右から中央へ入った。

 

 左足の前へボールを置く。Y戦で得点した時と似た位置だった。

 

 清羅が前にいた。

 

 ボールを取りに飛び込んではこない。七星の左足とゴールの間へ身体を入れ、シュートを防ぐつもりで待っていた。

 

 七星が左へ動かすと、清羅も同じだけずれる。

 

 撃つ場所がない。

 

 七星は右へ切り返したが、別のDFが来た。無理に突っ込まず、後ろの氷織へ戻す。

 

「今、撃ちたかったっす」

「左、待たれてたな」

 

 氷織は受けたボールを左へ出した。

 

「左で撃てるん、もう覚えられたな」

 

 七星は清羅を見た。

 

 清羅はもう中央へ戻り、次のパスを待っていた。

 

*

 

 二度目も、清羅は左サイドで受けた。

 

 今度は七星が内側にいた。Zの右DFが外を塞ぐ。さっき通った隙間は、最初から空いていない。

 

 清羅は外へ行くように肩を傾けた。

 

 右DFがそちらへ足を動かす。

 

 ボールだけが中央へ入った。

 

 清羅は右足で内側へ転がし、左足で撃った。

 

 七星が寄るより早かった。持ち替えて身体を整える動作がない。外へ抜けると思っていたDFの内側から、低いシュートが飛ぶ。

 

 今度は遠い隅へ。

 

 キーパーの指先を抜けて、ボールが入った。

 

 一対二。

 

 氷織はゴールを振り返った。

 

 最初は二人の間を抜け、右足で近い上へ。次は抜けきらず、左足で遠い下へ。

 

 守備を変えたからこそ、清羅も変えた。

 

 七星が膝へ手をつきかけ、すぐに起き上がる。右DFへ何かを伝えた。氷織には声までは聞こえなかった。

 

 青峰は中央のDFへ近づき、その肩越しに再開のボールを見た。DFが振り返るたびに、反対の肩の方へ回った。

 

 再開からすぐに呼んだが、ボールは後ろへ戻った。Wの前線が二人で中央への道を塞ぐ。氷織が一度右へ出し、七星が受けた。

 

 七星が受ける直前、青峰はDFの背後へ走るふりをした。相手が下がったところで足を止め、七星へ近づく。

 

 自分の右足へ通せる場所が空く。七星は見ていた。しかし蹴る前に、清羅が内側へ戻ってきた。

 

 七星は後ろの氷織へ戻した。

 

 青峰は清羅から離れるように左へ走り直し、氷織へボールを要求した。二人のDFもそちらへ寄った。

 

*

 

 氷織が受けたのは、エリアの少し外だった。

 

 青峰へついているのは二人。清羅も中央へ戻り、七星から青峰へ入るパスを切った後だった。三人とも、青峰が受けてから撃つ場所を残さないようにしていた。

 

 氷織は左足へボールを置いた。

 

 青峰の要求は聞こえている。通せないこともない。少し浮かせれば、前の相手の足を越して青峰へ渡せる。

 

 その先で青峰は、きっと自分で何とかする。

 

 氷織はゴールを見た。

 

 自分が撃つなら、その三人を一人も抜く必要がなかった。

 

 対して、氷織の前へ出てくる選手はいない。

 

 氷織はボールを半歩進めた。

 

 清羅がこちらを見る。

 

「青峰くん、足元」

 

 氷織は声を出した。

 

 青峰が手を向ける。清羅が半歩、パスの通る線へ寄った。中央のDFも、青峰の次の動きに備える。

 

 氷織からゴールへは、脚が一本も重ならなくなった。

 

 右足を置く。

 

 左を振った。

 

 蹴ったのは、青峰へのパスではなかった。

 

 低いシュートが、遠いポストへ向かって曲がる。キーパーは青峰から撃たれる方へ少し寄っていた。氷織の足を見て向きを変えたが、遠い隅まで戻りきれない。

 

 ボールがその手の先へ入り、ネットを揺らした。

 

 二対二。

 

 氷織は左足を下ろした。

 

 青峰へ通した後なら、あの三人も振り向いてゴール前へ戻っただろう。自分の前が空いていたのは、誰もこちらから撃つと思っていなかった今だけだった。

 

 パスを出さず、自分で撃った。それでも外さずに済んだ。

 

 撃てる場所が見えた時から、狙いは決まっていた。それでも、実際にゴールへ入ると胸の奥が少し軽くなった。

 

「氷織さん!」

 

 七星が来る。

 

「俺、青峰さんに出すんだと思いました」

「そう思ってほしかったからな」

「俺まで引っ掛けなくても!」

 

 氷織は笑い、差し出された掌へ触れた。

 

 青峰が歩いてきた。

 

「お前、俺呼んだだろ」

「呼んだで」

「使いやがったな」

 

 氷織はゴール前を指した。Wのキーパーが、今の位置へ誰が出るかを味方と確かめている。

 

「あそこなら、自分で撃てたから」

 

「なら俺呼ぶ必要ねえだろ」

 

「君へ出すと思って、足を寄せてくれた」

 

 氷織ははっきり答えた。

 

 青峰が黙る。

 

 青峰は嫌そうな顔をした。氷織は謝らなかった。青峰へ通せるのは分かっていた。だが、あの位置なら自分でも決められた。いまゴールへ入った一球が、その答えだった。

 

 前の試合まで、青峰は七点を取った。石狩も七星も一点ずつ取った。

 

 ここに残れれば、親の期待ばかりが待つ家へ帰らずに済む。青峰へ出して勝つ方が確実なら、それも選ぶ。けれど今の一球は、自分で撃つ方がよかった。

 

 点が入った瞬間は、家のことを考えていなかった。それが少し不思議だった。だからといって、急に世界一になりたくなったわけでもない。氷織は得点表示を一度見上げ、自分の位置へ戻ろうとした。

 

「僕が持ってる時、僕も撃つで」

 

「知ったことか。次は寄越せ」

 

 青峰もそちらを見た。

 

「聞いてんのかよ」

「聞いた。出す時は出す」

 

 青峰が鼻を鳴らす。

 

 氷織はその横を通り、自分の位置へ戻った。大きく拳を上げるほどではなかったが、口元の笑いはしばらく残った。

 

 次にボールを受けた時、Wの中盤が正面へ出てきた。

 

 さっきまでは、青峰へのパスを切る位置にいた選手だった。

 

 今は、自分のシュートを止めに来ている。

 

 氷織はボールを右へ渡した。

 

 青峰の周りから、一人離れていた。

 

*

 

 青峰は、氷織についていった守備者を見た。

 

 だが自分の背中には、まだ一人いる。

 

 左へ歩けば左。右へ戻れば右。途中でほかの味方へ渡す気はないらしい。

 

「いつまでついてくんだよ」

「終わるまで」

 

 相手は短く答えた。

 

 青峰は返事をせず、前へ出た。

 

 肩を入れて離れたところへ手を上げる。氷織がボールを持っていたが、こちらへは出さなかった。

 

 七星へ渡る。

 

 七星は正面の相手に止められ、内側の味方へ戻した。そこから氷織を経由し、もう一度右へ出る。

 

 青峰は舌打ちした。

 

 それでも、最初の位置で待ってはいなかった。

 

 七星が前へ出ると、自分は近いポストへ走る。ついているDFもゴールへ下がった。

 

 遠い側には石狩が入ってくる。

 

「上げろ!」

 

 高い手が見えた。

 

 七星のクロスが上がる。

 

 石狩の前にいたDFは、押し込まれるより先に跳ぼうとしていた。ボールへ向いた顔が、ゴールの外側を向いている。

 

 青峰は足を止めた。

 

 ついていた男が、一歩だけゴールへ近づく。

 

 青峰はその逆へ下がった。

 

 X戦と似た形だった。

 

 DFが石狩より先に頭で触り、ボールをエリアの外へ弾く。青峰の下がった場所へ落ちてくる。

 

 青峰は、右足で叩くつもりだった。

 

 胸の下まで落ちるのを待てば、強く撃てる。ボールの勢いも十分に残っている。落ちてきたところを蹴る、その一触だけで終えるはずだった。

 

 今度は、もう一人いた。

 

 清羅だった。

 

 中央から走り、青峰と同じボールを狙っている。

 

 青峰は目を見開いた。

 

 清羅は、ボールが弾かれるより前に中央を離れていた。青峰が下がったところを見たのだろう。自分についていたDFとは違い、最初からゴールを背にして走ってきている。

 

 だから、一歩目が遅れていなかった。

 

 青峰は踏み込む場所を半歩手前へ変えた。

 

 地面に落ちるのを待てば、清羅の足が先に入る。だが、胸で止めてから蹴る時間もない。

 

 青峰はボールの落ちる場所へ左足を着いた。

 

 右膝を上げ、そのまま足を振る。

 

 ボールはまだ腰より高い。さっきまで蹴るつもりだった場所より、ずっと上にある。

 

 青峰は上半身を左へ倒した。支える左脚を曲げ、右脚を横から振れる高さまで腰を傾ける。地面へ落ちるのを待つ代わりに、自分の足を先に上げた。

 

 清羅は、低いところへ右足を伸ばしていた。落ちてくるボールを先に突くつもりだったのだ。

 

 清羅の爪先が伸びてくる、その上でボールを叩いた。

 

 右足でのボレー。

 

 ボールは高く、ゴールの遠い隅へ飛んだ。

 

 キーパーが跳ぶ。

 

 伸ばした手の向こうで、ネットが膨らんだ。

 

 三対二。

 

 青峰は足を下ろした。

 

 清羅がすぐ横にいる。最後の足は、青峰が蹴った場所のわずか下を通っていた。

 

「そこまで来たんなら、取れよ」

 

 青峰が言うと、清羅は蹴られた場所を見上げた。

 

「次は上で触る」

 

「上げる間に撃つわ」

 

 清羅は青峰へ顔を向けた。

 

 言い返さず、ボールの落ちた方を見る。青峰はその目を見ていた。惜しかったと満足する気配はなかった。

 

 身体はまだ、一歩前へ出たままだった。

 

 そのまま中央へ戻り、味方へボールを要求する。

 

 青峰はその背中を見た。

 

 さっきの場所に、次も来るだろうか。

 

 来るつもりの歩き方に見えた。

 

 青峰はゴールから顔を戻した。

 

 自分が先に動けば、その先まで誰もついてこない。X戦の三点目はそうだった。同じつもりで下がったところへ、今度は足が来た。

 

 入った事実は変わらない。

 

 ボールが落ちるのを待てば、清羅の足に取られていた。だから左へ身体を倒し、右足を高く上げて先に撃った。あいつが来たせいで、いつもより早く蹴らされた。

 

 青峰は自分の左足を一度動かした。

 

 踏み込む場所を変えた半歩が、まだはっきり残っていた。

 

*

 

 Wは残り時間も、清羅に渡して終わりにはしなかった。

 

 中央のフォワードが下がって受ける。Zの守備役がついていく。その背後へ、別の選手が走り込んだ。

 

 清羅へ入る前の経路が、また変わる。

 

 青峰は前線からその動きを見ていた。中央のパスを取れば、残っているDFは一人だけだった。そこへ向かおうとした時、出し手が身体を左へ開く。

 

 清羅が内側へ走っていた。

 

 右DFの前ではない。中盤まで一度下がり、その外から加速してきている。七星は横につこうと走っていたが、まだ後ろだった。

 

 青峰は中央のパスへ出るのをやめ、清羅の進路へ入った。

 

 ボールが来る。

 

 清羅は右足で受け、正面の青峰を見た。

 

「来たか」

 

 青峰が言った。

 

 清羅は返事をしない。ゴールまでは二十メートルあまり。青峰を一人抜けば、中央DFが出てこなければならない。その横にはWのフォワードが走っている。

 

 清羅は右へボールを押した。

 

 青峰は一歩横へ動く。足を先に伸ばさず、身体ごとゴールとの間へ残った。

 

 清羅が止まった。

 

 右足で内へ転がす。左で撃てる場所へ入れる。さっき七星たちへ決めた二点目と、同じ向きだった。

 

 青峰はその左足の前へ、右足を差し込んだ。

 

 清羅は蹴りかけた足を止め、ボールを後ろへ引いた。

 

 まだ取られてはいない。

 

 そこで青峰がもう一歩入ってきた。

 

 清羅が下げたボールへ、今度は左足が届く。青峰は最初から右脚だけで取りに来たのではなかった。相手が撃たずに引けば、その下げた分だけ前へ詰めてきた。

 

 清羅は右へボールを逃がした。

 

 そこへ七星が戻っていた。

 

 七星の足に当たり、ボールがタッチラインの近くへ転がる。清羅は追った。青峰も向きを変えたが、ボールの近くにはもう七星がいる。

 

「中、まだいる!」

 

 Zの右DFの声がした。

 

 Wのフォワードが中央へ抜けていた。清羅が拾って内へ出せば、受けられる場所だった。

 

 青峰はそちらへ身体を入れた。

 

 Wのフォワードが足を止める。一度外へ回り、もう一度ボールを呼んだ。青峰の前を通らないコースを探している。

 

 その一往復の間に、七星がボールを外へ蹴った。

 

 清羅が線の外まで追い、拾い上げる。

 

「もう一本!」

 

 Wの選手が叫んだ。

 

 青峰は清羅を見た。清羅も一瞬こちらを見て、それからゴール前へ顔を向ける。

 

 青峰に向かって二度目を始める時間は残っていなかった。取られなかっただけで終わらせるか、別の場所からまだ同点を狙うか。

 

 清羅は、奥で呼ぶ選手へボールを投げる構えをした。

 

 青峰は中央へ戻った。

 

 試合を続けたいなら、その一点を許せばいい。そんな気は欠片もなかった。向こうがもう一度やりたければ、負けた後で勝ち上がってくればいい。

 

 先にここを通るのは自分だった。

 

 最後のスローインは、ゴール前まで飛んできた。

 

 石狩が戻っていた。相手と競り、頭で外へ出す。七星がさらに蹴り出したところで、試合終了の音が鳴った。

 

 三対二。

 

 青峰はゴール前を見た。

 

 清羅は、こぼれたら撃てる場所にいた。最後までそこへ走っていた。

 

 青峰が向き直ると、七星が近づいてくる。

 

「最後、持って上がるか迷ったっす」

「取られたら同点だったろ」

「だから蹴ったんすよ」

 

 七星は息を切らしながら答えた。

 

 青峰は七星を追い越し、ベンチへ向かった。

 

 自分も、もう一点欲しかった。

 

 それでも、ここで渡して追いつかれるつもりはなかった。

 

*

 

 得点者の欄に、氷織羊の名前が入った。

 

 青峰はその下へ立ち、ボトルを持っていた氷織へ顔を向けた。

 

「あれから、こっち全然出さなかったな」

「最後、右から上げたやろ」

「七星に出した球のことじゃねえよ」

「右へ振った時の方が、前へ運べたから」

 

 氷織は画面を見た。

 

「二点取ったやん」

「二点でいいって、いつ言ったんだよ」

 

 氷織が小さく笑う。

 

「聞いてへんな」

 

 石狩が横へ来た。

 

「俺も、二点目が欲しい」

「取ればいいだろ」

「さっきのクロス、次は俺が触る」

 

 七星も近づき、石狩へ尋ねた。

 

「もう少し高くした方がいいっすか」

「高さはあれでよかった。俺が前へ入るの、遅れた」

 

 石狩は、青峰がシュートを打った場所を見た。

 

「先に触れば、あそこにこぼれない」

 

「俺より先に触れるならな」

 

 石狩は頷いた。

 

 出口の案内が変わる。

 

 次の相手はチームV。

 

 その下に、ここまでの得点者が表示された。

 

 雪宮剣優、五得点。

 

 青峰は画面の前で足を止めた。

 

 写真の男は正面を向いている。試合の時にどう動くのか、その顔だけでは分からない。

 

「次の相手やな」

 

 氷織が隣で言った。

 

 青峰は五という数字から、名前へ目を戻した。

 

 自分はここまで九点取っている。

 

 相手の五点が少ないかどうかは、まだ知らなかった。

 

「映像、あんだろ」

 

 青峰が言うと、氷織がこちらを見た。

 

「部屋戻ったら見られるんちゃう」

 

 青峰は先に歩き出した。

 

 氷織はついてこなかった。今の得点の場面を、端末で一度だけ見直している。自分の左足が振られたところで止めた。

 

 青峰は足を止めた。

 

「まだ見んのかよ」

 

「すぐ終わる。キーパーが動いた時、見ときたい」

 

 青峰は画面へ戻った。

 

 自分は中央で手を上げている。呼ばれたので、一歩前へ出た。マークの男がそれについてきて、ゴールの正面が空く。

 

 氷織のシュートが通った。

 

 初めからそちらへ撃つつもりだったのだと、青峰にも分かった。自分へ出せずに仕方なく撃ったのではない。

 

「あいつ、まだ俺の方見てんのかよ」

 

 キーパーを指す。

 

「僕が撃つとは思わへんかったんやろね」

 

 氷織が画面を閉じた。

 

 青峰はもう一度、その顔を見た。

 

 ボールが欲しければ呼ぶだけでいい相手だと思っていた。強い球を出せと言えば出せる。難しいところも通す。それだけなら、呼んでおけばこちらへ来る。

 

 だが氷織は、自分が撃てる場所を見つければそちらを選ぶ。

 

「次はお前が受ける前に走る」

 

 青峰が言った。

 

「どこに?」

 

「今みてえに俺を呼ぶなら、前へ通せ。あのDFの横はもう抜けてる」

 

 氷織は画面の中で青峰を追っていたDFを思い返した。青峰が右へ動いたら、ゴールよりそちらを先に見ていた選手だ。

 

「抜けたら出す。僕が撃てる時は撃つけど」

 

 青峰は先に通路へ入った。

 

 味方のボールまで、言う通りに来るわけではない。腹は立つ。だから下がって取りに行くか、渡せる場所を先に取る。

 

 それでも、氷織のパスは欲しかった。X戦で下がった時も、今日はDFを引き離した時も、青峰が走り出した先へすぐ届いた。呼ばなくても前を見ているし、低く通らなければ浮かせることもできる。

 

 同じ一本を、ほかの誰にでも出せるとは思わなかった。だから次も、あいつが持つ時に先に抜ける。今度は青峰がゴールを奪う番だった。

 

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