ある日の夜。学園都市キヴォトスにおける無法地帯、ブラックマーケットは混乱に陥っていた。このキヴォトスと言う世界において、銃声及び銃撃戦というのはよくある事だ。しかし、今日に至ってはその銃声の主が問題であった。
「何処のバカだ、マーケットガードに喧嘩売ったのは!」
その戦場を見たスケバン生徒が叫んだ。
一方の戦場。ブラックマーケットの治安維持組織とも言える存在、マーケットガードの陣営は混乱に陥っていた。突如、マーケット内に屯していた不良生徒達が一斉に武装蜂起し、組織へ攻撃を開始したのだ。
「戦闘ヘリを出せ! 戦車もだ! 私たちに手を出せばどうなるかを思い知らせてやれ!」
「駄目です隊長、エンジン不調! 戦車も履帯をやられてる!」
「なぁっ!? 整備士は何をやってた!」
「いやまさか……整備士達もグルだったんじゃ……!」
喧騒に包まれる拠点内。その瞬間、ドアを蹴破る音がした。急いで振り向くと、そこに1人の生徒が、否、大柄な生徒に守られるかの様にもう1人の生徒がいた。
前衛に立つのはドアを蹴破った下手人。赤茶色髪に褐色肌で、その腕や足、チラリと見える腹筋から大柄な筋肉質の生徒。マーケットガード達に向けているのは、20mmガトリング砲ことM61バルカン。
そんな彼女の後ろで守られるように立っているのは、右目に黒い眼帯を掛けた茶髪の少女。軍服を思わせる深緑のスーツに身を包み、後ろ手に組んだ直立姿勢は堂々としている。そう、ブラックマーケットの路地裏で慟哭していた少女である。
「夜分遅くに失礼するよ、マーケットガードの諸君」
「貴様……!
「名前を覚えていてくれたか。何度も訪れた甲斐があったというものだ」
「ふざけるな! これは一体何のつもりだ!」
「おや? 私は何度も言った筈だが?」
小さく首を傾げたユウの言葉は、混乱の戦場の中にやけに響いた。
「このブラックマーケットを、キヴォトスにおける新たな学園にする。……私はそう語った筈だが」
両腕を大きく広げ、堂々と宣言する。
「その為にも、普段から治安維持を行なっているマーケットガード諸君に協力を頼みたいと、何度もこちらへ足を運んできたのだが」
「出来るわけが無い! 此処は数多の学園から見捨てられた奴らが集う無法地帯! そんな連中の形成した学園など、連邦生徒会が認めるわけが無いだろう!」
「その回答、何度も聞いたな。やってみなければ分からないと言うのに、やはりキヴォトスの人間は頑固だな」
そこへ、バルカンを構えた生徒が口を開く。
「ま、学園設立を諦めたくないのはアタシ等もボスも同じだ。それに、こうやってアタシ等の下へ集まってくれた生徒の人数が答えだ」
「とは言え、君たちも治安維持組織としてのプライドがあるだろう。故に……」
ユウがニタリと笑みを浮かべる。
「武力で徹底的に潰し、私の下へついてもらう事とした。……やれ、『エレファント』」
「イエス、ボス!!」
エレファントと呼ばれた赤茶髪の生徒が答えると、彼女の構えるバルカン砲が雄叫びを上げた。
砲声と薬莢の飛び散る音をBGMに、ユウはこれ迄の出来事に思いを馳せた。
路地裏にて慟哭していたユウ。野次馬が集まりつつある中、1人の生徒が人混みをかき分けて乱入してきた。
「テメェ等なに見てんだ! 失せろ!」
その姿を見た瞬間、野次馬は彼女の剣幕に押されて散り散りに逃げていった。完全に人払いが済むと、少女は片膝をついてユウに話しかける。
「ボス! ボスですよね!?」
「……何だ、貴様は」
「私です! コードネーム『エレファント』! かつて、SOL……Soldiers of Libertyにて戦っていた者です!」
そのコードネームと組織の名前を聞いた途端、ユウはバッと顔を上げる。その表情は驚愕に満ちていた。
「エレファント……? 君か? あのバルカン砲を軽々と扱う……」
「そうです! ボス……ボスぅぅぅぅ!!」
エレファントは涙を流しながらユウを抱き締めた。
「私の他にもSOL兵が居ます! ボスの転生を知ったら喜ぶに違いない!」
「っ! 他にも居るのか?」
「はい! みんなボスの事を探してました!」
ユウは、彼女に離すように軽くタップする。エレファントの抱擁から解放されたユウは、ネクタイを軽く整えると先ほどまでの号泣が嘘のように凛とした顔で告げた。
「案内しろ、エレファント」
回想が終わると共に戦闘も終わりを告げる。マーケットガードの面々は倒れ伏している。その光景にユウは苦笑した。
「……やはり、キヴォトスの人間は頑丈だな。ガトリングで撃たれて気絶する程度で済んでいるとはな」
「それはアタシ達も同じですよ、ボス。だからこうやって堂々と正面切ってぶっ放せるんだ」
「喜んで良いのか分からないが……前世より死ぬリスクが限りなく低くなったと思っておこう」
すると、通信機から着信音が鳴る。ユウは手に取った。
「私だ」
『キヒャヒャッ! マンティス小隊、中央ビルの制圧完了だぜ!』
『カンディル小隊、スラムエリアに待機していたマーケットガード別働隊の制圧を完了いたしました』
『……こちらホーク小隊。新たな武装勢力の展開無し』
通信機から聞こえる複数の報告に、ユウについて来ていた他の生徒達が唖然とした。彼女らは元々、ブラックマーケットに屯していたスケバンやヘルメット団であった。しかし突如現れたユウと数名の生徒達が現れ、告げた。
――我々と共に学園を作ってみないか?
何を馬鹿なと最初は鼻で笑った。ふざけるなと襲い掛かった。しかしユウの側に居た数名の生徒達に、瞬く間に叩き潰された。実力の差を思い知らされ、しかしユウは見捨てることなく言った。
――飢える不安に怯えることの無い生活を約束する。
そこからは激動の日々だった。自分たちを叩きのめした生徒達にスパルタ指導され、しかし何処で手に入れてきたのか充分な食事と寝床を与えられ、気付けば同じ境遇の生徒達はどんどん増え……。
そうして今は、脅威であったマーケットガードを降伏させた。それどころか他の場所も制圧されたらしい。
「ほ、本当にやってのけちゃった……」
思わず漏れる言葉。それを耳にしたユウが振り向き、不敵に微笑む。
「そうだ。だが此処からだ。今の我々はまだ、不良から脱却した武装集団に過ぎない。衣食住が保障された生活を今後も送る為には、私だけでなく君たちの努力も必要になる。……ついて来てくれるか?」
彼女の問いかけに元不良生徒達は、一斉の敬礼で答えた。