白髪赤目巨乳に腰ヘコ夜這いされながらも閉鎖空間から脱出するために推理する話 作:ぽぶきち
三組目の男は、頭痛を堪えるようにしながら、席に座った。
「つーと、お前たちがグルでオレたちをハメようとしてるわけじゃないとすりゃ、男女6人が雁首揃えて記憶喪失ってコトかよ?」
整髪料がないためか、手櫛でオールバックに戻して、彼ははっと息をついた。
「わけわかんねぇ」
「同感だ」
「初めましてのヤツに共感されたくなんかねェよ」
突っ伏した彼の背中を撫でるかどうか、隣の少女は迷っているようだった。
やはり男女。
3つの部屋から、二人三組の記憶喪失になった男女が出てくる。
不可解だ。
「カレーは辛さは何がいいかな?」
「…………」
「大丈夫です、私が毒見しますから……」
「…………辛口」
「うん、わかった」
オールバックの彼は、どうやら辛党のようだ。
眼鏡の男子が立って、キッチンに向かう。
少し驚いた。
「……お前らよ、オレからしたらオレ以外の全員が怪しいってこと、わかってるか?」
「安心しろ。俺たち全員が、全員を疑っている状況だ」
「…………チッ……」
オールバックの彼も相当に腹が減っていたのか、ガツガツとカレーを貪った。
隣の少女の上品な食べ方とはずいぶんな違いだ。
「わ、私は、貴方様を疑ってません」
となりの彼女がなぜか俺に向かってそう言った。
「知っている」
「あ、はい……」
‐‐‐
その日も、同じように夜がやってきた。
「あ、あの、今日も…………」
「……構わん」
「ありがとう、ございます」
個室にベッドは二つある。
しかし、彼女は俺の寝ているベッドに滑り込んできた。
狭い。
「すいません、その…………」
「いや、仕方ない。そういうものだろう」
「うぅ…………」
この閉鎖的な空間では、仕方がないことだ。
‐‐‐
次の日。
俺から数えて3日目の朝。
最初に来たらしい眼鏡の男にとっては4日目の朝。
どうやら、大部屋に出たのは俺たちが最後のようだった。
眼鏡の男子たちも、オールバックの男子たちも、すでに席についている。
ゴキゲンな朝食を楽しんでいるようだ。
が、
俺は、
まず真っ先にもう一つのドアを見た。
俺たちが個室から出て左側のドア。
この部屋は、
円形の大部屋の四方に一つずつ、合計四つのドアがある。
俺たちの個室につながるドア。
眼鏡男子の個室につながるドア。
オールバックの男子の個室につながるドア。
残った左側のドアが、出口だ。
「確かめたか?」
「いや……まさか本当に」
「これからわかる」
俺は、左側のドアに近づいた。
もし一つずつ扉が解放されるとするなら、
俺たちが空腹だったのは、数日放置されていたからだとするなら、
次はこの扉が開くはずだ。
ドアノブに手をかける。
回らない。
いや、逆方向だ。
キぃ──────
ドアノブをひねる方向を変えるといつも容易く内部機構は回転し、
がちり、と何かが噛み合った。
ドアが、開く。
その先には────────
「は?」
そこにあったのは、部屋だった。
俺たちとほぼ同じ。
いや、扉のようなものもある──、と思ったが、あれは冷蔵庫だ。
ベッドが二つある。
二つあって、男一人と女一人が、眠っていた。
‐‐‐
四人目の男女は、俺たちを露骨に警戒した。
というより、女のほうが、だが。
全裸のまま飛び上がって、シーツをまとめて簡易的な鞭のようにしながら手に持って俺を睨んだ。
対抗するように、俺のとなりの彼女が威嚇した。
なんとか言葉を尽くして落ち着かせたが、
それでも俺たちへの警戒心は拭えないようだ。
俺はどうやら言葉は不器用みたいだから、こういう風に言葉で何か説得する役回りは向いていなさそうだ。
起きた男の方も、露骨に俺たち6人の男女を警戒していた。
いや、ともにいた女も含めて7人全員を警戒していた。
同じように、彼にも食事を振る舞った。
チャーハンだ。
もぐもぐと頬を膨らませながらも、警戒をゆるめない瞳で、こちらを見ている。
というより、観察しているという表現が正しいだろうか。
‐‐‐
「見てくれ、これ。」
眼鏡の男子が、小箱のようなものを見せてきた。
「トランプだよ。僕の部屋においてあった」
実際に小箱のなかから手札を4枚取り出した。
それらを、各男子に配る。
俺に回ってきたのは、ダイヤのカード。
「僕たちは記憶喪失だけど、それぞれにカードがないと難儀だ。トランプのスートをそれぞれの名前にしようと思う」
最後に、眼鏡の男子がクラブのカードを自分の前に置いた。
「スートには、季節がある。芽吹き農民が収穫をする春のクラブ、人が行き交い貨幣と熱気渦巻く夏のダイヤ、願い掲げる秋のハート、鋭い寒さを行軍する冬のスペード。
春夏秋冬だ。
まず、僕がクラブ。そして僕のとなりの彼女を春、ハルとしよう。」
眼鏡の男子の瞳が、
俺に向いた。
「君が、ダイヤ。そして、君のとなりの彼女がナツ。」
隣を見る。
彼女──いやナツは神妙そうにコクリと頷いた。
便宜的に名前をつけるのには、俺も大いに賛成だ。
「そして、三番目に現れた君には、ハート。君のとなりのその子はアキ。」
「…………」
「今日目覚めたばかりの君は、スペード。そして、となりの子をフユと呼ぼう。」
春夏秋冬。
眼鏡の男子のクラブ。ハル。
俺がダイヤ。ナツ。
オールバックの少年のハート。アキ。
顎髭のあるスペード。フユ。
さて、と眼鏡の男子、いや、クラブは、わざとらしくその眼鏡を指で上げた。
「四番目にやってきたスペードの君は、何か覚えていることはないかな?」
「ない…………が、信じられんね。君たち全員が私と同じように記憶喪失とは」
顎髭を撫でながら、四日目に現れた青年、スペードは俺たちを睥睨しながら答えた。
「大規模な茶番なら、さっさとネタバラシしてほしいところだが」
「残念だけど、茶番じゃない。だから、僕たちは君に希望を求めてる。何か覚えてはいないかと」
「同時に、お前を疑ってもいるがなァ」
三日目に現れた男子、ハートが皮肉げに言葉を挟んだ。
ちょっとだけ俺のとなりの彼女、ナツに睨まれている。
ハートのとなりの……アキが、ナツと睨みあっていた。
俺は、ふと疑問に思った。
「一つ聞きたい。クラブ」
「ん? 僕かい?」
「ああ。お前はなんでトランプカードなんて持っていた」
「……? 部屋にあったからだけど」
「なんでそんなものが部屋にあるんだ?」
俺の部屋にはそういったものはなかったはずだ。
調べたからな。
隣を見ると、ナツも頷いていた。
二人で調べたはずだ。
ナツが上手いこと俺からそういったものを先んじて見つけて隠していたなら話は別だが、そうではないと思う。
…………なぜだろうか、ナツのことは疑えない。
「そういえば…………」
俺は忘れてしまっていた。
さっき、四番目に開いた部屋、つまりスペードの部屋を開いたとき、冷蔵庫があったはずだ。
あれは、俺たちの部屋にはなかったもののはず。
立ち上がる。
側にいたナツも、察したように席を立った。
「おい、お前何して────」
ハートの言葉を意に介さず、
俺はスペードの部屋を開く。
同時に、スペードに尋ねた。
「この冷蔵庫は確認したか?」
「……いや、そもそも私たちが起きたのはお前たちが入ってきた直後だろう」
「それも、そうか」
冷蔵庫に近づく。
大部屋にあったものと型は同じであるように思える。少なくとも見た目からわかる違いはない。
その少し大きめの冷蔵庫を、開いた。
何も入っていなかった。
だが、少し、なんというか、
違和感があった。
腐臭……?
なかに何も入っていないのに、
なんで腐った臭いがする?
換気扇か?
ダクトのなかに何かあってこの部屋自体が臭っているとか?
いや、明確に冷蔵庫のなかの臭気のみが淀んでいる。
俺は、ふいに冷蔵庫の下側を見た。
まだスペースがある、冷凍部だ。
その大引き出しを、引っ張る。
固い。
なかなか引けない。内部でロックが掛かっている感じではない、そもそも動かない状態だ。
俺の手に、
ナツの手が重なった。
二人で引く。
床を少し滑りながらも力を込めて、
一気に引き出しが開いた。
尻もちをつきそうになるナツを、反射的に抱える。
「凍ってたのか」
冷凍スペースの縁は氷結していた。
おそらく、うまく閉まっていなかったのだ。
それが冷蔵部分に臭いを漏れ出させていた要因でもあったのだろう。
この部屋と違って冷蔵庫自体には換気機能がないから、冷蔵棚部分が冷凍スペースの臭いを溜め込んでいた。
「おい…………」
ハートが、顔を青ざめさせていた。
その目が、冷凍引き出しを見ている。
見ているものは座っている俺たちからはわからない。
立って、覗き込んだ。
そこには、
「髪……?」
人間の髪。
いや、正確には人間の後頭部だ。
冷蔵庫のなかに、
人間が、
長座体前屈をする形で、
収納されていた。
‐‐‐
その人体、
いや、
死体を引っ張り出した。
引っ張り出して、死体であることが確定した。
最悪だ。
八人の男女。
接触を避けられない閉鎖空間。
死体。
「男性だったな。」
スペードが言った。
自分の出てきた部屋の冷蔵庫に死体が入っていたとは夢にも思っていないように顔を青ざめさせていた。
が、演技でないと断定することは出来ない。
クラブはコーヒーカップに触れるが、その手は小刻みに震えている。
隣の少女、ハルが手を重ねるが、震えはおさまったようには見えない。二人とも震えているからだろう。
「男性の死体、か」
クラブが、なんとかコーヒーを一口呷ってそう言った。
眼鏡をかけなおして、
俺たちを見る。
何を言いたいかはわかった。
「四つの部屋に、全員がいた。出た順番は違えど、五日以上前に殺人をすることはできるな」
「少なくとも、この部屋に出口は…………ないよね……」
「おいおいおい、ざけんなよ……」
俺、クラブ、ハートが視線と言葉を交わした。
スペードは、俺たちをじっと観察していた。
スペードが無実だとすれば、自分がハメられたと思っていてもおかしくない。
聞きに徹するという行為は整合する。
「俺たちはこれから、このなかに殺人犯がいることを考慮しなければいけなくなった」
俺の言葉に、誰も反論しなかった。
「なぁ、」
だが、一人だけ、異議を唱えるものがいた。
ハートだ。
「リスクの前に、明らかにおかしいところがあるだろ」
ハートの視線が、ぎろぎろと巡る。
俺たち全員を、睨みつけるように確認した。
「ああ、確かにな」
殺人犯を当てずっぽうで警戒するよりも、
まずは目につく違和感から推察を行ったほうが良いだろう。
俺は、ハートの言葉を肯んじた。
この空間にいるのは、男子四人、女子四人。そして男性の死体が一つ。
「どう考えても、────────」
椅子がぎしりと音を立てた。
「男子が多すぎる。」
だってこの世界は、
男女比1:1000なのだから。
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