白髪赤目巨乳に腰ヘコ夜這いされながらも閉鎖空間から脱出するために推理する話   作:ぽぶきち

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第3話

 この世界の男女比は、1:1000だ。

 

 それは、当たり前のことだ。

 

 男の価値は希少で、同じ部屋に五人も集まることなどまずありえない。

 

 だから、おかしいのだ。

 ここにある体が9つあるとして、そのうち5つが男のものであるということが。

 

「なにかの実験なのか?」

 

 スペードが言った。

 俺たちの会話についてきていることに、少し驚いた。

 

 まだ初日、慣れるのにすら時間がかかるはずだ。

 

 それに、さきほど死体が見つかったばかりだ。

 

 少しだけ警戒心を抱いたが、表には出さずに答える。

 

「かもしれないな。俺たち四人の男子を集めて、一人の男子の死体を見せる実験。

 ずいぶんと効率が悪くないか?」

「………………」

「確かにね。男子というのは国の資源であり、各人が強い権力を持っているはずだ。それを実験のために一人殺すというのは、いささか不可解だね」

「んじゃァ、なんだよ。上のヤツがやったとかじゃねぇのか?」

 

 政府がやった可能性か。一理ある。

 何らかの記憶処理を施して、俺たちを巻き込んだ何らかの実験を行う。

 

「もう一つ、俺に構想がある」

「なんだよ」

「これは、懲役であるという説だ」

 

 それならすべて辻褄が合う。

 

 俺たちは、何らかの罪を犯した。

 だから、収監された。

 

 外に出られないように専用の建物を作り、

 人身御供兼世話役としてそれぞれに女子をあてがった。

 

「でも、それも、矛盾点がありそうだ」

「ああ、ある」

 

 眼鏡男子、クラブの言葉に、俺は頷いた。

 

「ここにいる男子の、さらに共通する事項、何かわかるか?」

 

 男子たちは、首をかしげた。

 スペードは俺たちを観察するふうを装っている。

 

 俺は、ナツに視線をスライドさせた。

 

「あ、えーと…………カレーが好き?」

「違う」

 

 俺たちがカレーが好きなのでなく、あのカレーが美味しいだけだ。

 

「優秀だ。」

「うん? なんと言ったかい?」

「俺たちは、優秀だ。」

 

 ナルシストのようにとられたのか、

 あたりがしんと静まり返った。

 

「あー、まぁ、そういう時期もあるさ。なぁ?」

「なにか勘違いしているな」

 

 根拠はある。

 

「ここまで、俺はお前たちを観察していた。」

「…………?」

「まず、眼鏡のお前、クラブ。お前は俺が扉を開けてやってきても冷静だった。いまに至るまで、多少の感情の揺れ動きはあれど、周囲に対処できなくなるほどの状態にはなっていない」

「まぁ、一周回ってね。……褒められているみたいで、気恥ずかしいな」

 

 そして、

 

「そして、ハート。」

「オレかよ」

「お前は、怒鳴ると思っていた」

「はぁ?」

「お前たち、普通の男子を想像してみろ」

 

 男子とは、権力を持った存在だ。

 少なくとも、大抵の要望は叶えられる。

 

「誰も、責任転嫁をしなかった。俺は、このなかの誰かが、女子に責任を押し付けて狂乱すると思っていた」

 

 が、誰もそんな行為は起こさなかった。

 

「ハートあたりが一番怪しいと思っていたんだ」

「ずいぶんな評価だなァ」

「が、お前は攻撃ではなく防御を選んだ」

 

 コーヒーを飲んで眼鏡を直すクラブ。

 

 腕を組んで、全体を観察するスペード。

 

 ハートは、片手を机について、こちらを半目で見ている。

 

「さっきから片手しか机の上に出していない。お前だけが」

「それが?」

「カトラリーからフォークを盗んだだろう。一つ無くなっている。自衛のために持っているはずだ」

「………………」

 

 ハートは、片手でオールバックを撫でつけた。

 一房垂れた前髪を、後ろになでつける。

 

 そして、

 ゆっくりと、両手を上げた。

 

 そこには、何も握られていなかった。

 

「ひどい勘違いだぜ、まったく」

「そうか。

 ────じゃあ、隣の……アキだったな。お前も手を上げてみろ」

 

 びくりとアキが肩を跳ねさせた。

 

 おそらくこいつは、さっきハートから受け取ったはずだ。

 

「ハート様…………」

「……チッ……。しゃあねぇな、オレの負けだよ」

「………………」

 

 アキが、うつむきながら、テーブルの上に手を出した。

 握ったフォークを、ゆっくりと机の上に置いた。

 

「満足か? 名探偵さんよ」

「いや、ただ俺の考えの前提のために確かめた、それだけだ」

 

 これで、ハートの用意周到さもわかった。

 あの死体があったことから、このなかに犯人がいる可能性を考えた。

 

 男子の誰かが"成り代わっている"可能性だ。

 

 俺たちをここに閉じ込めた経緯が実験にしろ懲役にしろ、

 一人の男子につき一人の女子をあてがうはずが、外れた男子の死体のみが出てきた。

 誰かが成り代わっている。その誰かが男子を殺した。

 自分も殺される可能性がある。そう考えるのは道理だ。

 

 ハートは死体をみつけて皆がそれを確かめて、大部屋に戻るまでにそんな思考を完成させていた。

 

 もしくは、なんとなくの勘での行動かもしれないが、それも言語化されていないだけで論理ではあるはずだ。

 

「で、スペードさんはどうして賢いんだ? さっきから黙りこくっているだけだが」

「…………情報がないからね。無手で論を繰り出すわけにはいかんよ」

 

 仕方なさそうに口を開いたスペードに、ハートは話題を背けることが出来てラッキーだと言わんばかりにニヤけた。

 

「スペードは、警戒しているんだろう?」

「何がだ? 殺されることにか? あいにくコイツはスプーンさえ握ってねェが」

「自分以外の誰かが殺人犯である可能性と、自分が殺人犯である可能性を、警戒している、

 そうじゃないか?」

 

 スペードは無言だった。

 だが、ほほに伝う汗が真実だと告げているようなものだった。

 

「まず、可能性を分けて考えれば良い。

 ・冷蔵庫のなかの男子がこのなかの誰かによって殺された可能性、

 ・冷蔵庫のなかの男子がここにいない他の誰かに殺された可能性、

 がある」

「MECEだね」

 

 クラブが微笑んだ。

 その隣でハルがキラキラした瞳でクラブを見ている。

 

 ちょっと気になって、ナツを見た。

 似たような目で俺を見ていた。

 

「冷蔵庫のなかの男子がこのなかの誰かによって殺された可能性、のなかには────、」

 

 まとめると、こうだ。

 

 ・冷蔵庫のなかの男子がここにいない他の誰かに殺された可能性

 ・冷蔵庫のなかの男子がこのなかの誰かによって殺された可能性

    ・このなかの女子によって殺された可能性

       ・殺人犯の女子が記憶喪失になっている可能性

       ・殺人犯の女子が記憶を保持し、記憶喪失だと嘘をついている可能性

    ・このなかの男子によって殺された可能性

       ・自分が殺した可能性

       ・他の男子が殺した可能性

          ・殺人犯の男子が記憶喪失になっている可能性

          ・殺人犯の男子が記憶を保持し、記憶喪失だと嘘をついている可能性

 

 俺は、少し頭をひねりながらもなんとか説明した。

 

「つまり、俺たちはバカみたいな人狼ゲームをしないといけねぇってわけだな?

 自分が人狼で、もしかしたら記憶を失って村人だと誤解しているだけかもしれねェ。

 いつか満月を見てすべてを思い出しちまったらパッカーン、殺人罪渦が脳内でハジけるってことかよ?」

 

 おちゃらけながらハートが言った。

 クラブは、何やら考え込んでいる。

 

「僕たちが…………」

 

 クラブが、口を開いた。

 

「僕たちが、まとも(・・・)なのはわかった」

「比率で考えたら少数派だがな」

「いや、それでもまともだよ。男子だから考えなくて良いとか、男子だから女子におんぶにだっこで良いというのは間違っている」

「役割分担があるだけだろう。違うか?」

「…………そうかな」

 

 釈然としない様子だ。

 どうやら、一家言があるらしい。

 

「男子は、与えられる知識が少ない」

「そうだな」

 

 男子は、政府によって管理されながら育つ。

 居住地などは分散しているものの、そのほとんどを政府から派遣された観察官や警護官に見張られながら過ごし、こなすべきカリキュラムで得られる知識も制限されている。

 

 比較的自由になってからそういった知識を自分から得ることも可能だが、多くの場合、人は知らないものを認識できないものだ。

 

「僕たちは、井の中の蛙で大海を知らないけれど、井の中で水質調査をすることはできる。水が何なのか、芽吹く命が何なのか考えることはできると思うんだ」

 

 なるほど、

 それが、この男の思考の本懐か。

 

「人は相対的な存在だ。他者がないと、自分を規定できない。その他者をないがしろにすることは、生きることを放棄していることと同義だ」

 

 俺は小さく笑った。

 

 そういうことを言っているが、

 たぶん、この男子は、ただ女子を慮ってしまう気性なだけだろう。

 

 嫌だから、したくない。

 きっと根っこはそれだけだ。

 

「話を、戻すね。

 僕たちがまともだとして、だからこそ政府から危険視されてここに囚われた可能性はないかな?

 記憶を失うまでの僕たちが結託して、なにかしていたとか」

「何か…………」

 

 スペードが顎髭を撫でて考え出した。

 

 殺人犯がいるとして、その殺人犯と、俺たちをここに閉じ込めた組織は違う、クラブはそう言いたいのだろうか。

 

「優秀、といっただろう? 知性だけの話じゃない」

「…………? というと?」

 

 俺は、となりのナツを見た。

 ナツは、こてんと首をかしげてこちらを見返してくる。

 

「俺は昨日も一昨日も、

 夜に、

 ──────ナツとセックスしている」

「はぇっ……!?!??!」

 

 ナツが上半身だけで飛び跳ねた。

 

「なななななななんで言うんですか!?!??」

「? 隠すことじゃないだろう」

「で、でも、でもぉぉ!!」

 

 とりあえず肩を掴んで落ち着かせる。

 頭を撫でる。

 昨日もこうしたらずいぶん鎮静していたはずだ。

 

「お前、それって…………」

 

 ハートが、疑うように睨んでくる。

 

「ああ、知識だと、普通の男子なら、一回出したら一週間は使い物にならなくなるはずだ。

 だが俺は普通にこの女子の旺盛な性欲に応えることができた」

「おかしい、ね……。それは、あまりにも」

「普通なら、そんな男子は国家転覆でもしない限りは赦免されるものだね」

 

 クラブの反応。

 スペードの推察。

 

 精力の強い男子は、優遇される。

 そもそも間接源液提供────精液を政府に納める行為──で多額の控除金を得られるうえに、権限が強化されるのだ。

 

 いくら大罪を犯しても、こんな場所で腐らせておくとは思えない。

 

「もし政府がここに送ってきたのだとしたら、記憶処理をしたのも政府だろう?

 記憶を消せるのに、なぜ俺をわざわざこんな場所に座らせておく必要がある。

 生活管理区域にでも送って種馬にしたほうがいいだろう」

 

 ナツが、「そんなのはいけません」と息を荒くしていた。

 もう一度撫でて落ち着かせる。

 

「生活管理区域ってなんだい?」

「政府が男子を管理する都市だ。見込みのないものや色々とやらかした男子がそこに集められる」

「…………そんなものも、あるんだね」

 

 俺は驚いた。

 これは一般知識じゃなかったのか。

 

 ハートもスペードも初耳といったような様子だ。

 

 

 






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