白髪赤目巨乳に腰ヘコ夜這いされながらも閉鎖空間から脱出するために推理する話 作:ぽぶきち
「僕は世界が渦でできてると思っている」
「…………デカルトの渦動説か?」
「それは知らないけど、同じことを考えている人がいたんだね」
クラブとハート、
二人はやはり、相性がいいらしい。
「物理法則は多様な形があるけど、突き詰めれば一つの法則の表象であるはずだ、じゃないと美しくない」
「…………続けろ」
「大きなものと小さなものはスケールが異なるだけで同じ動き、同じ法則が適用されているはずなんだ。それが」
「渦、ってわけか。
多分だが、原子構造と天体が同一の動きをするってことだろ?」
「そう。」
クラブの言っていることはわからないし、
ハートもそれを完全に理解しているとは思えない。
多分、だからこそハートは興味を惹かれているのだろう。
俺は、スペードと目を合わせた。
面倒なことになった。
互いにそう思っているようだ。
椅子をスペードのほうへ寄せる。
「お前、どう思う?」
「二人が共犯って線はなさそうだとは思ったがね。もしそうなら知識が合一しているはずだ」
「そうじゃない」
俺は、手帳を掲げた。
「これは、あの死体の持ち物だと思うか?」
「………………」
スペードは、顎髭を撫でて考え込んだ。
「どうだかね。何とも言えん……が、同じ部屋に、死体と手帳があったとすれば、まぁ可能性は高いだろう」
「………………」
「死体は、ダイイングメッセージを残した、などはどうかね? 犯人に見られないように、あえて幽霊文字を使った」
「…………待て、幽霊文字とはなんだ」
俺は、聞き捨てならない言葉を聞いて、片手を上げてスペードの話を止めた。
「読み仮名のない言葉だよ。世には、読み方も意味も持たない漢字が存在する。それが幽霊文字。」
スペードは、手帳に書かれた、『彁化』の文字を指した。
「私たちがこの熟語の読み方をしらないのではなく、そもそも存在しないのかもしれないな」
「なる、ほどな」
スペードの言葉に、
納得はした。
だが納得しただけだ。
「ダイイングメッセージの線はないだろう。そもそもあの死体は他にも持ち物をもっていたはずだ。だが死体から俺たちは他に何の荷物を得ることはできなかった。おそらくは、犯人が持ち去った」
「そのようだ。死体は靴も履いていなかったんだ。」
「おそらく冷凍スペースに入りきらないから、靴を取ったんだろう」
「この手帳だけが、ベッドの下に転がり込んで、犯人が回収しそこねてしまった。確かに、そう考えると辻褄はあうなぁ」
スペードはうんうんと頷いた。
ダイイングメッセージではない、と考えると、
他に言えることは、
「俺たちに、何かメッセージを送っていた?」
「…………確かに、もともとメモを書かないであろう人がわざわざまだ使っていない手帳を取り出して書いたのだとすれば、記録ではなく伝達を目的としていた可能性が高い」
「だが、俺たちはいまのところメモの内容を読み取れていない。『彁化』の意味を忘却させられた可能性もあるが、『彁』には"意味がない"という意味がある。とすれば、意味記憶を忘却させられた線も薄い」
「犯人が回収し忘れたとすれば、メモの存在を知らなかった可能性が高いからな。私たちから記憶を消したという可能性は低いだろう。…………もちろん、可能性が低いというだけだが」
もし俺たちが、記憶の"捏造"まで施されているとすれば、もっとやりようはあったはずだ。
こんなあからさまに怪しい状況を納得させる記憶を注入すればいい。
「私はいまだに、私以外の全員が記憶喪失であるというのを疑っている」
スペードが、ふいに言った。
「有り得るのか? 全員が同時に記憶を失うなんて」
「有り得る、と俺は思っている」
「…………」
超常は、存在する。
確信があった。
‐‐‐
灯りが消え、
みなが就寝し、
そして目覚める。
朝、
俺は、横にいるナツの頭を撫でながら、鈍い倦怠感にまどろんでいた。
俺の背中には、ナツの残した爪痕がある。
本人がみれば激しく後悔するだろう。
俺は服をとって、いつでも着れるように準備した。
今日はナツより早めにシャワーを浴びよう。
「お前じゃなかったら、許してないからな」
昨晩の猛獣の様子からは考えられないほどの無垢なナツの横髪を撫でてから、
立ち上がる。
シャワーを浴びた。
そして、体を拭いて着替え、
ナツを起こす。
「おい。」
「…………みゅ……」
「起きろ。」
「…………?」
寝ぼけ眼で、ナツがこちらを見る。
その眠たそうな顔に、やはりもう少し眠らせてやるべきだったかと考える。
「あぉ…………だいや、さま……」
「朝だぞ、少し、まだ早朝だがな」
「…………」
ナツが、何を思ったのか、俺に抱きついてくる。
その勢いを回転して流し、
ベッドに腰を落ち着けた。
「おい……」
「ダイヤさま、ちゅー……」
「しないぞ」
「ちゅー…………」
「…………」
諦めて、
その頬に、軽くキスをする。
が、顔を傾けられ、唇と唇を重ねた。
キスをしてから、
ナツの瞳が、少しずつ、大きく開かれた。
はっとして、ナツが顔を背ける。
そして、ベッドの上で俺に土下座した。
「も、申し訳ありません!!」
「……いい、いつものことだ」
いいと言っているのに、
その背中は震えたままだ。
「おい、ナツ。こっちを見ろ」
「え、あ、」
顔を上げたナツ。
その唇に、再度俺の唇を重ねた。
「ん、は……ぇ……♡♡??」
「だから気にしてないって言っているだろ」
「………………」
ナツは、
しばし固まった。
そして、再起動────
することはなく、
そのまま後ろに倒れた。
ベッドの棚に頭を打たないように反射的に支えたが、
すでにナツは気絶していた。
‐‐‐
時間をおいて、
復活したナツとともに、大部屋へと向かった。
だが、
「…………一番乗りだと思ったんだがな」
今日も、俺が最後だった。
暗がりの早朝に起きたというのに、他の四人はすでに朝食を取り始めていた。
「なんでこんなに早くに集まっている」
「違うよ。ダイヤ」
クラブが、眼鏡を上げてこちらを見た。
「君が遅かったんだ」
「いや、まだ暗いだろう」
「そう。起きる時間になってしばらく経つのに、まだ暗い」
まさか、いや、そうか。
俺たちが早起きしたのではなく、電気の光量が弱いだけなのか。
電気が枯渇しているのか?
「なぁ、どうするんだよ」
ハートが、少しだけ元気が無くなった様子で言った。
「このままオレたちがここで暮らしても、いずれ物資・食料が枯渇する。
そうなったら」
「…………奪い合いになるか」
わかっていたことだ。
最悪の展開。
もしそれまでに俺たちを監視しているかもしれない誰かが助けに来なかったら、俺たちは終わる。
疑心暗鬼が加速し、
空腹で理性が働かなくなり、
ともすると殺し合って食人までしだすかもしれない。
八人が胸に抱えてもこれまで言い出さなかった、結末の可能性だ。
「すでに死体がひとつ出来上がっているんだ、増えるのにそう時間はかからねェだろ」
俺は、テーブルに手を置いた。
そして、天井を見上げる。
「一つ、長話をしてもいいか?」
そう、俺以外の全員に問いかけた。
ただの思いつき。
それに至るまでの経緯。
ちょっとした暇つぶし。
だが、
もしかしたら、
今から言う説明が正解なら、
俺たちは、
この牢獄から出られるかもしれない──────