白髪赤目巨乳に腰ヘコ夜這いされながらも閉鎖空間から脱出するために推理する話 作:ぽぶきち
「この建物はおかしい」
出口がないのだ。
ならどうやって、俺たちはこの場所に運ばれたのか。
もしくは入ったのか。
入口がない、ということはないだろう。
少なくとも、この空間に本当に閉じ込められていたのなら、
四日目に現れたスペードは少なくとも72時間以上ほど何も食べていなかったはずだ。もしかすると水も飲んでいなかったのかも。
部屋からもそういった飲料などは見つからなかった。
それで、体調不良にならずにすむものなのだろうか?
俺、ハート、スペードの食事への食いつき方はそれほど変わらなかった。
飢えていたのではなく、カレーが好きなのだと、そうナツが判断する程度には、普通だったのだ。
「出口があるとすれば、まだ見ていない俺以外の個室にあるのか、
それとも、別の場所か」
「ねェだろ」
ハートが言った。
その声色には確信があった。
「オレは自分の部屋を周到に調べた、ベッドまで移動させてな。
お前らだってそうなんだろ? 調べていないはずがない。
でも何も出なかった。男子を閉じ込めるとなったら、なかに入れたあとに溶接もしくはネジ止めで建物を作り上げたんだよ」
それは筋が通っている。
男子複数人を拘束するなら、相当な予算がかかっているはず。
建物一つ作る程度なら造作もないだろう。
「だが、その仮説通りで俺たちに待っているのは、死、だ」
「…………」
「絶望はあとでいくらでも語れる、でも、いまは希望の話がしたい」
「……ぁあ」
俺は、息を吸った。
「まず、気づいたことが一つある」
天井を指さす。
「これ、なんだと思う?」
「天井かな?」
「不良品の電灯だ」
「電気の不具合かね」
俺は首を振った。
「これは、電気で稼働するライトではない」
「じゃあなんだっていうんだ」
「太陽光だ」
「は…………?」
ハートが唖然とした。
そして、段々と理解が追いついたのか、口があんぐりと開いた。
「そういうことかよ…………」
「ああ、これは空の光を取り込んで擬似的に室内ライトを演出していた」
「……今日、薄暗いのは、もしかして
──曇り、だからかい?」
頷いて返す。
灯りに手をかざすと、ほんのり、わずかに、温かい。
これなら、個室の換気性能と合わせれば容易に洗濯物を部屋干しすることができるだろう。
「太陽の位置などで機構を作り込めば、夕焼けを取り込ませずに消灯させることもできる……」
「あァ。太陽のルクスは室内の光の何倍もある、多少機構で減衰しても十分なはずだ」
「ともすると、換気そのものも、ビル風を取り込んでいる可能性があるな」
「……………………」
スペードが、顔を手で覆った。
「私はずっと、この場所が地下の閉鎖空間だと思っていた。」
「俺もだ」
「だが、違ったんだな。ここは、
塔の最上階、か?」
その答えはまだわからない。
だが、推察としては俺も同意見だ。
高所、太陽光。
この空間の上に、遮る別階はない。
「だから、出口があるとすれば、地下に続いているはずだと思った」
誰も、否定しない。
おそらくは、俺と同じ考えを辿ったのだろう。
「じゃあ、いったいどこに…………?」
クラブが、恐る恐るといった様子で俺に尋ねた。
俺と、ハートの、目が合う。
そして、互いに立ち上がった。
俺とハートが、
円卓越しに向かい合う。
「本当にそう思ってんのか?」
「お前も、考えは同じだろう」
同時に、
円卓の縁に手をかけた。
力を入れて、
左に回す。
変わらない。
右に回す。
ガコン、
と何かの音がした。
他の者たちを脇に退けて、
俺とハートは右周りに移動しながら、円卓を回していく。
少しずつ、
ほんの少しずつ、
地面が下がっていった。
「まさか、そんな…………」
クラブが、震える手で眼鏡を取った。
もう回らなくなるまで、
俺たちは、円卓を回転させ、
そして、
下がった大部屋の床は、
他の部屋につながった。
円卓を大きなネジのような機構として、大部屋の地面が昇降するように作られていたのだ。
俺たちの個室と似たような配置だが、扉がついているものとついていないものがある。
物置、洗面所のようなもの、ブレーカーなどが設置されている場所。
扉が一つあり、すりガラスがついていて向こう側は見えない。
「ダイヤ様」
ナツが、俺を見た。
「いつから、これに気づいたのですか?」
「さっきだ。曇りだったからな」
「……ご慧眼です」
なんだかこそばゆい。
物置には、食料などが積んであると同時に、ベッドのようなものがあった。
そして、誰かの脱ぎ捨てられたような服も、何着かあった。
「俺たちのかもしれない。どうする、着るか?」
「…………まだ止めておこう。誰が誰のかわからないよ」
「そうだな」
クラブの言葉を受け入れ、
俺たちは、
扉に向かった。
ドアノブに手をかける。
開く。
暗い。
薄暗い通路が続いていた。
「おそらく、この先に、出口がある」
「早く行けよ」
「急かすな。もしかしたら、殺人犯がいる可能性だってあるんだ」
その言葉で、ハートと、ハートの側のアキが重く息を吐いた。
落胆ではなく、逆、周囲を疑わなくていい可能性がでてきたから、安心しているのだ。
通路を歩く。
曲がり角があった。
そこで、いくつかに分かれるか相談し、
結局はみなで一方に進むことになった。
なんとなく、連帯感のようなものが生まれている。
俺たちは記憶を失う前に友人だったのだろうか?
いや、この胸の感覚は、違う。
話のわかる者たちと出会えた、という歓喜、だろうか?
「………………」
ふいに、止まる。
誰かがこちらを見ているような気がした。
実際に、見ていた。
お面のようなものを付けている女子、二人。
目が合った。
「お前たちは、なんだ?」
「………………」
答えない。
二人とも、少しだけ互いを見つめ合って、相談のようなアイコンタクトをしていた。
そして──────
一人が飛びかかった。
反応が遅れた。
暗がりで、初動を見ていなかった。
その俺をかばうように、ナツが立った。
女の拳が、ナツの側頭部をとらえる。
髪が反動でゆらめいて、ナツが床に倒れる。
その女を、
反射的に殴った。
躱された。
身体能力が高い。
向こうが、再度拳を繰り出してくる。
避ける、避ける、避ける。
スウェーで躱す。
一度腕で受けたが、重い。
本当に人間か?
ステップを踏む。
膝を少しだけ落として、体幹を整える。
迫る手を、弾いた。
拳を躱して、カウンターで顎に一撃を当てる。
「はっ……はっ……」
そうか、
俺は、
────ボクシングを習っていたのか。
躱す。
躱す。
いなす。
躱す。
右の肘を落とすと、相手は右フックを警戒する。
が、上に回転させた左を旋回させて顎にぶち当てた。
「ッ…………!!」
相手が、よろめきつつ後退する。
俺が、距離を詰める。
もう一人が、俺に踊りかかった。
躱した。見えている。
もう最初のヘマはしない。
フットワークで一瞬だけ後退して、戻って前進する力をそのまま拳に乗せ、もう一人を殴り飛ばす。
復帰した女が、
俺の顔めがけて拳を放った。
が、
それを、
ステップで、
かわしつつ、
顎に、
カウンター。
女は吹き飛んだ。
何かの物を崩し転がしながら、暗闇の向こうに倒れた。
「クラブ様!」
ハルに言われて気づく、
クラブが、もう一人の女に襲われていた。
割り込む前に、女が離脱する。
倒れている女を抱え、こちらを見ながらじりじりと後退した。
後退しつづけた。
見えなくなるまで。
逃げたのだ。
「ナツ……!!」
俺は、ナツにかけよった。
側頭部の下を撫でる。血は出ていない。
「問題、ありません…………」
ナツは、少しふらつきながらも起き上がろうとした。
その体を支える。
「申し訳、ありません……私が、ダイヤ様を、守るべきだったのに」
「そんなのはどうでもいい、視界はぐらつくか?」
「いえ、おさまってきました」
スペードが、俺の肩を叩いた。
「応急処置をしたほうがいい」
「もう一度、個室に戻って氷を取ってくるか」
「そうじゃない」
スペードが、俺の手をじっと見る。
「お前だ」
いわれて初めて、
俺の拳が内出血していることに気づいた。
「軽度の中手骨骨折だな。布を巻く」
「…………ああ、頼む」
スペードが、懐から布を取り出した。
用意周到だったようだ。
布自体は個室にあったものだ。
「アイツらは、何なんだ」
ハートが、額に手を当てて、少し怯えている。
「わからん」
「この建物の外には、敵が大勢いるのか?」
「それも、わからん」
俺は、アドレナリンが引いて鈍い痛みが走るのを感じながら、
ハートに言った。
「このまま進んで、刈られるか。
それとも、部屋の隅で枯れるか」
「………………」
ハートは、しゃがみこんで、何かブツブツと呟いたあと、
勢い良く立ち上がった。
となりのアキがびっくりしていた。
「一択じゃねェかよ。ちくしょう」