白髪赤目巨乳に腰ヘコ夜這いされながらも閉鎖空間から脱出するために推理する話 作:ぽぶきち
玄関で、服を配られた。
塔から持ってきたらしい。
村人たちが俺たちがもともと着ていた服を覚えていたようで、
俺たちは自分の服に、とりあえず着替えた。
これで思い出すこともあるかもしれない。
荷物は塔になかったようだ。
俺たちの名前を聞いたものも、村人のなかには少ないようだから、葬儀がちゃんと終わった後で、村長から話を聞くことになるだろう。
ナツを連れて、村の端を歩く。
ナツはマフラーをつけていた。
名前にそわないが、似合っている。
「ダイヤ様」
「なんだ」
「数々の無礼、お詫びします」
「気にしてない」
少し歩くと、河が見えた。
涼やかに流れている。
綺麗な水なのか、水生生物の姿もあった。
巫女が、呪いを一つずつ使えるとしよう。
あの場には、三人、巫女がいた。
一人足りない。呪いの数は四つだった。
じゃあ、どこに?
────内部か。
俺たちを監視する役割の人間がいたはずだ。
だが、だとしたら、
なぜ、死体が見つかった時点で村人を呼び出さなかった?
俺たちの側にいた女子たちのなかに、"巫女"がいたのか?
じゃあ、いったい、誰だ。
俺は、水面を見ながら、
悩んだ。
目の前の、水が弾け、水面下の魚が揺らいだ。
魚は、下流に向かって泳いでいった。
下流に…………。
「もしかして…………」
「ダイヤ様?」
「死体は、メモを河に流して、誰かに伝えようとしたのか」
おそらくは、村の外で待っている仲間に。
でも、伝えられず、どころか殺害された。
だが動機は?
なぜそんなことをする必要がある?
死体、オコト様は、あれほど慕われていた存在だったんだろう。
むしろこの村の情報を漏洩するのは、
俺たちのような外部からの男子のはず。
「………………」
「ご気分が、優れませんか……?」
「ナツ…………」
「はい」
「…………」
「何かに、気づかれたのですね」
俺は、頷いた。
そして、ナツの手を取った。
その体がびくりと跳ねる。
「あいつに会いにいかないと」
‐‐‐
あいつに会いにいかないと。
クラブに。
俺は、そう考え、
実際にクラブのもとにたどり着いた。
少し先に、
クラブの姿がある。
畑のある畦道を歩いていた。
そして、
そのさらに先に、
歩いてくる、二人の巫女の姿があった。
巫女は、面布をつけている。
面布だ。
口の下半分を隠すタイプの、面布。
顎を隠せる、面布。
俺が殴った箇所を隠せるのだ。
「止まれ。」
俺とナツは、
巫女二人と、クラブの間に割り込んだ。
どちらとも距離がある。
俺は、巫女二人に問いかけた。
「お前たちが、襲撃者だな」
二人は、答えない。
どのみち、面布をとればわかることだ。
俺たちの背に、
タイミングよく、
ハートの声が降ってくる。
「オイ、二人とも、どこにいやがった」
スペードらしき声も聞こえた。
俺は巫女たちを警戒してその姿は見えないが、
どうやら二人は俺もしくはクラブを探しに来たらしい。
「クラブ、」
「……なんだい?」
「お前か? 殺したのは…………」
俺は、クラブに問うた。
殺人者かどうかを。
クラブが、少しだけ笑う声が聞こえた。
「そうだよ」
瞬間、巫女が動いた。
俺の横を通り過ぎようとしたのを、遮る。
足で蹴ろうとしたので、避け、払う。
大きく転げた彼女を上から拘束した。
横を見ると、
ナツがもう一人の巫女を捕らえているところだった。
以前は不意打ちでケガをしたものの、ナツの力は優れているようだ。
「殺してやる……!! お前を……!!」
ナツが押さえつけている巫女、
顎に打撲痕がある彼女が、クラブを睨み、叫んだ。
クラブのことを、自分が愛したオコト様を殺した殺人犯だとみなしてる。
クラブの『そうだよ』という返答には、違和感があった。
嘘か、本当か。
少なくとも、
俺の予想では、嘘だ。
「いまから、予想を話す。
証拠集めもしていなければ、法的機関もこの村にはやってこれない。
想像を交えた、ただの推論だ。」
「うん、聞かせて」
だが、その様子には、どこかわかるものがある。
人が、行動や罪を認めているのに後ろめたさがないとき、
誰かのための行動をとっている場合がある。
自分の大事な人のために犠牲になろうとしてるものは、自己肯定の力が独りよがりのそれとは違ってしまう。
善悪の話ではなく、アイデンティティの話だ。
「でも」
「でも?」
「その子たちは、離してあげて欲しい」
無理な相談だ。
無視することにした。
「この村には、四人の巫女が存在する。そうだな?」
誰も返答しないから、
俺は名指しで呼んだ。
「ハル、お前なんだろ? 四人目の巫女は」
「……な…………」
ハルは、違う、とも、そうだ、とも断言しなかった。
迷っているようだった。
「四つの呪いは、それぞれ四人の巫女が持っている」
「……………」
「ハルの呪いは、心をどうにかする呪い、だな。いや、心をどうにかする能力、と表現したほうが良いか」
この場にいないもう一人の巫女が、結界を生み出す。
「どうにかするっていうが、どうすると思ってるんだ? それが大事だろ」
ハートが言った。
視界に入っていないので見えないが、スペードも頷いているのだろうな。そんな気がする。
「おそらくは"入れ替える"、だと思う」
「ッッ………………!?」
巫女二人の様子が目に見えて変わった。
図星だったのだと信じたい。
「忘却させる能力、心を入れ替える能力、言葉を入れ替える能力、結界を生み出す能力。
能力を使って、お前たちは────クラブを殺そうとしたんじゃないか?」
「おいまて、」
ハートは、納得していないというふうに、俺の言葉を止めた。
「ならどうなるんだよ、実際に死んだあの男子は────────、
おい、まさか、……………………まじか」
「ハート様、どういうことなのですか……?」
ハートは、
額を押さえた。
「よくわかっていないが、村長を呼んできたほうがいいかね?」
「頼む」
スペードが去る足音が聞こえた。
「お前たちは、村長には能力のことを隠していた。教師にまで隠していたのかは知らない。あの教師はお前たちを庇って嘘をついた可能性は大いにある」
俺は、クラブに注意を向けた。
物腰やわらかな雰囲気だ。
「クラブは、最初にこの村にやってきた。
が、俺たちと違って、能力を持っている女性への差別意識が強かった。
それこそ、能力ではなく、"呪い"と表現するほどに。
お前たち巫女の能力を調べ上げ、外に伝えようとした」
あのメモ帳は、メモではなく連絡用のものだった。
河から流して、下流で待っている誰かにメッセージを届けようとしていたのだろう。
わざわざ村から出て渡さなかったのは、村の人間がボディチェックをする可能性があったからだ。少なくとも、入ってくるときにされたのかもしれない。
「もしクラブによってこの村のことが漏れれば、お前たち巫女は、異端として政府に引っ立てられてしまうかもしれない」
「………………」
「だから、お前たちは作戦を案じた、そうじゃないか?」
クラブが、
ふっ、と息を吐いて問う。
「どんな?」
「まず、言葉を入れ替えて、メモの内容をデタラメにする。そうすれば、クラブの発言の信憑性が下がる」
「でも、それだけだと不十分だよ」
「ああ。それは、おそらくオコト様が、クラブが途中でメモを流すことを予想していたのを聞いた巫女たちがやった対症療法。根源治療は別だ。
根源治療は、クラブを殺すこと。
あの塔に男子たちを入れる際、
クラブを殺して、その後入ってくるすべての男子の記憶を消すことで、『誰がやったかわからない』そして『男子には追求できない』という状態を作り上げ、下手人を有耶無耶にする気だったんだろう」
冷凍庫の中に入っていて死亡推定時刻が判断できない。
この村に提供してくれた男子たちを責め、詰めることはできない。
よくできた考えだ。
「が、見ての通り、死んだのはオコト様だった」
巫女の一人が、ギリリ、と奥歯を噛みしめた。
「誰かを殺そうとして別の人物を殺すのは、そうそう考えづらい。
いままでのなかでまだ異能を使っていないのは、ハルだ。
ハルが役割分担として、クラブを殺そうとし、クラブを庇ったオコト様を殺してしまったのか、反対に、逆上したクラブからハルを守ってオコト様が死んだのか。お前たちの身体能力が高いことから察するに、オコト様がクラブを庇った可能性が高いな」
誰かが、どさりと崩れ落ちた。
おそらくは、ナツだ。
「もう少し、やわらかく言えないかな?」
「事実を羅列しているだけだ」
ハルを庇おうとする、クラブ。
それもそのはずだ。
だって──────
「ハルは、死んでしまったオコト様と、クラブの
「────────。」
え、と巫女が顔を上げた。
なんとか後ろを向こうとしたが、拘束する。
「ダイヤ。彼女たちを離してくれ」
「…………」
「お願いだ」
仕方なく、
拘束を解いた。
「オコト様、なのですか…………?」
「…………そうだよ」
「ほ、ほんとうに…………」
巫女たちは、泣きじゃくってクラブに突撃した。
彼の胸元を掴んで、見上げた。
ハルは、オコト様の死が受け入れられなかった。
そして、依然としてクラブをどうにかする必要があった。
だから、オコト様の人格をクラブに入れ込んだ。
「もし途中でオコト様の死がバレれば、俺たちの提供も中止になる。それが嫌だったから、クラブに憑依したオコト様は、村にこの事実を隠した」
「本当に、そんなことまでわかるんだね」
「毎晩、巫女たちが記憶喪失の俺たちを部屋に運んだのも、お前とハルなんだろう。」
「それで、どうするつもりだい? 僕たちを」
「これといって決めていない」
「そっか。何時から疑ってたの?」
「全員を平等に疑っていた」
ナツ以外の全員を。
「強いて言えば、お前は眼鏡を掛け直す仕草をよくしていたな」
「うん、そうだね」
「眼鏡を掛け直す動作をあれほど頻繁に行うのは、眼鏡が顔に合っていないか、眼鏡を掛けなれていないか、どちらかだ」
「……うわ、はは、確かに」
やってしまったとばかりに笑いながら、
「でも、それだけでわかるものなんだね」
「それだけといえばそれだけだが、俺は一つ、知識を持っている」
「………………?」
「この世界に、超常は存在するということだ」
おそらくこれは、
「お前たち巫女のような存在は、外の世界では "ソメイユ" と呼ばれている」
「ソメイユ……」
「男性の精を食い潰す存在として、差別、迫害されている」
「………………」
おそらく、憑依される前のクラブは、その差別意識が強かった。
だから、ソメイユである巫女たちを嫌い、外に報告しようとした。
「もともとは、男子が他の女子から襲われ死なないようにするための騎士的な存在として発生したとあるが、詳しいことは俺にもわからない」
「……そう、か」
納得したように、
「実はね、ハルの異能は、可逆だ。もう一度、この体に、クラブの心を戻せる」
「ですが、ですがっ……!!」
「ハル。」
三人を抱きしめながら、
言った。
「みんなと最後に話ができるだけで十分だ。そうじゃないか。
僕たちは、人生に自分で意味を規定できる。僕の幸せは、君たちと出会ったこと」
口ぶりからすると、
もし入れ替えた心を戻せば、オコト様は完全に死ぬのだろう。
クラブの体にはクラブの心が戻り、オコト様は肉体とともに死の者となる。
「クラブが目覚めたら、説得してくれないか?」
「当たり前だ。任せろ」
「オレも、まぁ、協力するよ……。この村は、差別がなかった。全員が、文化的に生きていた」
想像以上に、ハートはしょげていた。
眉尻を下げて、
「うん、この四日間、楽しかったよ」
「すぐに逝くのか?」
「あまりここにいると、名残り惜しくなってしまうからね」
遠くから、
足音が聞こえる。
見ると、村長が教師らを連れて走ってきていた。
「ひとつね、君の推理で違う点がある」
「なんだ? あと、推理じゃなくて推論だ」
「ふふ。
"神輿"の塔にいるあいだ僕の死を村に隠したのは、
みんなの提供を中断させたくなかったからじゃない。
正直、そこまで考えていないよ。
僕たちは、いつだって、脳みそに操られている。
僕はただ、
昨日までの、村の祭りが、好きだったんだ。
それに水を差したくなかった。
少なくとも、出店で買い食いして、踊りを踊っているあいだは、みんな、神輿には僕たち男子がいると思っていた。
そんな心につや消しのような真似はしたくなかった。
うん……。
うまく言えないな。
なんというのだろう。
この感情は。
とにかく、
最後に友達ができてよかった。
僕がオコト様という立場を維持していたら、ここまでみんなと仲良くなれなかったと思う。
…………ハート。君がそう言っても、僕は君のことを友人だと思っている。
…………うん。うん、わかっているよ。
じゃあ、
もう少しいたいけど、
これ以上いると、判断を誤りそうだ。
ハル、頼んだ。
」
‐‐‐
「しかし、私が、あなたの婚約者だとは驚きました」
「だな。記憶を消されるまで、ただの痴女だと思っていた」
「そ、それは…………忘れてください…………」
俺たちは、村を出て、山道を歩いていた。
後ろには、ハート、スペード、アキ、フユ。
それぞれ記憶を取り戻した状態でついてきている。
「しかし、良かったのですか?
我々は、優秀な異能を求めてここに来たはずです」
「別にいい。」
「…………」
「お前がいるだろ」
「…………そうですねっ……」
俺の肩に、ナツが抱きついた。
この村に入るときより距離が近くなっている。
だが、悪い気はしない。
来るときはそうとうに息を切らしただろう坂道を、
俺たちはどこか神妙な気持ちで下っていった。