ブルーアーカイブ -蒼宙に刻まれた異端-   作:カメオ >o-o<

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これで日常系が終わります。(たぶん)
今回もよろしくお願いします!


第八話 初めて知る、痛みの楽しさ

 

 

 

 

楷出タキナがいる校庭に着いた。会場の周りは大勢の生徒に囲まれていて、みんなそれぞれ会話していた。だが、そんな中で人々が話している話題は一つだけだった。

 

 

『リリス先輩が、あの狂人の挑戦を受けるそうよ…』

『なんでそんな危険なことするの!?あいつの所業は聞いてるはずでしょ!?』

『リリス先輩にも、リリス先輩なりの考えがあるのでしょう。私たちにできるのは傍観だけです』

 

 

みんな私とタキナについて話していた。

 

もちろん、話題の中心は、タキナがこれまでに起こした問題についてだ。冷静な子もいるが、狂人だとか言ってる子もいるし…。

 

 

……どうして、そんなことを言うのだろう。

 

後輩たちはあの子の何を知っているの?自分のことではないけれど、いい気分はしない。

 

 

「あの子について、悪く言わないであげて。まだあの子について何もわからないんだからさ。断定するようなことは言わないで」

 

「…でもリリス先輩。あいつが同級生を傷つけたのは本当のことで…」

 

「そうだね。その事実だけは変わらない。ただ、私はタキナと話をしてみたいだけ。知りたいだけなの。それであの子が快楽のためにやってるとか言ったら、その時は…」

 

 

そんな理由で人を傷つけているとは、今は思いたくない。

 

でも、絶対に違うとも言い切れない。私はまだ、タキナという子のことを何も知らないのだから。

 

 

「あなた達後輩のために、彼女に罪を償わせてやる」

 

 

言葉にした瞬間、胸の奥で何かが大きく揺れた。

 

 

「うっ…!?」

 

 

力が溢れ出してしまう。目の前の後輩が呻いた。

 

 

…なんなの、これは?自分の中で、何かが渦巻いている。その動きに呼応するように、力が溢れ出してくる。抑えようとしても、うまくいかない。

 

大切な後輩の前でこんなに力を解放してしまったら、悪影響が出かねない。

 

(収まれ…、収まれ…!)

 

何が起きているのかわからない。うまく形を捉えられないものが膨れ上がってくる。私はそれを押し戻すように、必死に力を抑え込もうとした。

 

 

「…そんなことにならないのを祈るばかりだね。あなた達はここで見守っていること。わかった?」

 

「…わかりました。頑張ってください、リリス先輩」

 

 

強張っていた表情が、ほんの少しだけ和らいだ。まだ、不安が消えたわけではないのだろう。それでも後輩たちは私を送り出してくれた。

 

彼女たちの態度が改善されるように事が運んでほしいものだ。

 

 

「…じゃあ、行こっか」

 

 

会場の中心部分で、仁王立ちをしてこちらを睨んでいる子を視界に収めて軽く息をつく。おそらくあれがタキナって子だろう。

 

 

いつもなら戦うことに高揚感を感じるのだが、今回はその感情とは真逆のものを感じていた。

 

 

(…拳で語る、みたいなことになりたくないんだけど…)

 

 

彼女のあの様子では、難しいだろうなぁ……。半ば諦めたように考えながら、会場の中に入っていった。

 

 

 

 

 

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…やっと来た。どれだけ待たせるつもりなんだ、あいつは。

 

 

あたしと戦う意思を見せたなら、さっさとあたしのところに来いって話だ。昨日の時点で戦えると思ってたのによぉ…。消化不良感がすごくて気分が悪いんだよ。

 

 

「よぉ!あんたが常光リリスだな?遅いじゃねえか。そんなに力を持っていながら、意外と焦らす

のが好きなタイプなのか?」

 

 

軽く煽ってみた。それと同時にこいつの格好を見る。

 

 

…かなりの軽装だな。あたしと同じ、動きやすさ重視なのか?武器も取り回しの良い拳銃…、あれデザートイーグルじゃねえか?

 

しかも二丁ぶら下げてるし…、片手で扱えるってか?こいつ、もしかして筋肉バカか?

 

 

「…こんにちは。遅れたのはごめんなさい。他の後輩と喋るので忙しくてね」

 

 

気まずそうな顔でそう言ってくる。後半部分には触れもしなかった。

その代わりに、あたしが欲しかったものを何気なく話題にしやがった。

 

……無自覚だろうが、その一撃はだいぶ効いたぜ。

 

 

「はん!随分なご身分で楽しそうじゃねえか。そんだけ強いんなら、自分から喋りに行く必要もないだろうに」

 

「?…何の話をしているの?」

 

 

本気でわからない、そんな顔をして言った。⋯なんか噛み合わねぇな。もしかして、あたしの気持ちをわかってないのか?

 

 

「⋯あなたのその銃、だいぶ使い込んでるね。前から戦うのが好きなの?」

 

「⋯なんでそんなことを聞く?」

 

 

何なんだこいつは?あたしは目の前のこいつと戦いたいだけだ。なのに、なんでこいつは会話しようとする?

 

 

「私はあなたと話をしたいの。できれば戦いたくもないしーー」

 

「は?」

 

 

戦いたくないだと?あたしの挑戦状を受け取ったじゃねえか。

 

⋯はっきりわかったよ。こいつは、リリスはあたしを舐めてるんだ。

 

 

「もういい⋯、構えろ。お前の話にはうんざりだ」

 

「え、え?ただ、私はあなたをーー」

 

 

本当に苛つく。そもそも戦いの場で言葉なんか通用しない。通用するのは己の戦闘技術のみだ。

 

 

「さっさと構えろ!!これ以上待てない!」

 

 

そう怒鳴るように言ってやった。戦うお膳立てをしてやったのだ。

 

それなのに、リリスは悲痛そうな顔をしながらこんなことを言ってきたのだ。

 

 

「…わかった。じゃあ、一つだけ約束して。私が勝ったらあなたと話をさせて。いいかな?」

 

 

…あぁ、なるほどね。舐めてるわけじゃないんだな。あたしを、煽ってるんだ。あたしに本気を出させようと。

 

 

「…はは。最初は様子見しようと思ってたが、まじでやってやるよ。いいぜ!じゃあ、あたしからも。あたしが勝ったら二度と逆らうんじゃねえぞ?」

 

「…私の約束を守ってくれるなら、いいよ」

 

 

あたしは気づかぬうちに弱気になってたんだな。それに気づかせてくれたリリスには感謝しねえと。

 

…マジでやるとすぐに倒れちまうからな。すぐに終わらせないと勝てねえ。

 

強くなるために理解を深めてきた自分の力を引き出しながら、愛銃を構えて思いをぶちまける。

 

 

「最高の戦いにしようぜ、リリス!!あんたはあたしの人生で一番の敵(・)だ!!」

 

 

リリスの存在感が増していく様を視て、あたしは笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

あ~あ、やっぱりこうなっちゃうのか。

 

 

完全にやる気になった様子のタキナを見て、内心でため息をつく。

 

会話しようとして分かったけど、やっぱりなんか抱えてそうだね。まともに話そうとしないし、私のことを敵だとか言ってるし…。

 

 

まあ、そこらへんは追々考えるとして、今は目前で始まろうとしている戦いに集中しよう。

 

 

タキナを見ていてわかった特徴は、猫耳に尻尾、かなり使い込まれているように見えるライフル、腕や足に重点的にある青あざだ。あの猫耳、触ってみたいなぁ。

 

 

そんな腑抜けたことを考えていると、あの時と同じように上空からドローンが下りてきた。

 

 

『これより、常光リリス/楷出タキナの試合を開始します。空砲を合図に試合を始めてください』

 

 

それだけ告げると、また上空へ戻っていった。体と銃の調子を確認して、タキナを見ながら考えてしまう。

 

 

決して集中していないわけではないが、さっきのやり取りを思い返してしまう。

 

使い込まれているように見える銃を話題にしたアプローチ、あれ結構いい線いったと思ったんだけどなぁ。なにが悪かったんだろう?

 

 

さすがにこれ以上考えるのはやめよう。相手にも失礼だしね。戦うからには全力でやろう。

 

目の前のタキナは、身の毛がよだつほど攻撃的な雰囲気を放ち、こちらを睨んでいた。その雰囲気に呑まれるように、私は無意識に力を解放してしまう。

 

 

…やっぱり、私はどうしようもなく戦いが好きなようだ。

 

 

今回の戦い方の方針は、とにかく様子見することだ。タキナがどんな戦い方をするのか、私はまだ何も知らない。どんな戦い方をするのだろう?

 

空砲が鳴るのを待つ間にまた考えてしまう。そんなことをしているから私は反応が遅れたのだ。

 

 

パァン!

 

 

「うっ…!?」

 

開始された瞬間に左腕を撃たれた。恐ろしいほどの痛みが走った。焼けるような、そんな痛みだった。

 

「なにボーっとしてやがんだぁ!?もう始まってるぜ!?」

 

遮蔽物に隠れる隙がないので、翼を広げて左腕をかばうように防御しながら、左腕の状態を確認する。

 

…最悪だ。撃たれた部分が凹み、赤黒く変色している。こんなんじゃ銃は撃てないだろう。

 

こうしている間にも、タキナは無言のまま撃ち続けてくる。

 

 

バキッバキッ!

 

何かが砕けるような音がした。

 

 

「……え?」

 

 

思わず、翼へ目を向ける。鱗の一部に亀裂が走っていた。

 

 

(なんで!?ただの銃弾じゃ、傷一つつかないはずなのに…)

 

 

次々と撃ち込まれる弾丸。そのたびに、バキッ、バキッ、と鱗が砕ける音が響く。

 

このままでは、翼が使い物にならなくなるのも時間の問題だろう。

 

(…様子見してる余裕なんかないね。とりあえず隙を見てこの状況を脱しよう)

 

 

鱗の砕ける音に冷や冷やしながら凌ぐ。

 

タキナが再装填しようとした瞬間に、邪魔するように数発撃ち込んで離脱した。撃ち返した銃弾は、すべて最小限の動きで躱されてしまった。

 

あの時と同じように、タキナの周囲を走り回る。

 

前よりも正確に力を扱えるようになって、体力も走る速度も大幅に上がっている。走り回って撹乱しながら、タキナの隙を探していたのだが…

 

 

(…隙だらけに見える。けど、なんだか近寄りがたい…?)

 

 

タキナは銃を構えることなく下ろして、リラックスしているように見えた。でも、その敵意に満ちた目はこちらをしっかりと見ていて(・・・・)…

 

「逃げてばかりじゃ勝てねえぞ?」

 

「なっ…!?」

 

気づいたときには目前まで迫ってきていた。そして腹に銃を突きつけられて、避けることもできずに撃たれる。

 

「ぐぅ!!このっ!」

 

体中の痛みに理性が飛び、咄嗟にタキナを全力で殴り飛ばした。続けざまに銃弾を浴びせる。

 

「クソッ、痛えなあ!!」

 

体に新たな傷を作りながらも反撃をしてくる。痛む箇所が増えていくが、関係ない。また接近して格闘する。

 

殴り殴られ、撃ち込み撃ち込まれ、それを何回も何回も繰り返した。

もうどこが痛むのか自分でもわからなくなって、体を思い通りに動かすのも難しくなってきた。

 

 

 

でもそんな戦いの中、私は、笑っていた。

 

 

 

 

「あははは!!!もっと!!もっと見せてよ!!」

 

「あああ!!なんなんだよお前ぇぇぇ!!」

 

タキナの動きを盗んで、自分の戦い方に組み込む。これを何度もやってタキナの動きに慣れていく。

 

最初は押され気味だった私は、今では逆転して押すようになっていた。

 

 

 

あぁ…、楽しいなぁ。

鈍く痛む傷が気にならないほど、楽しい。

自分の力の形がはっきりしていくのが感じられて、楽しい。

戦いが、楽しい。

戦いって、こんなに楽しかったんだ。

 

 

 

でも、そんな楽しい時間は唐突に終わりを迎えた。

何発目かわからない銃弾を撃ち込むと、タキナが力を失ったように倒れたからだ。

 

 

「はぁはぁ…。もう、限界か…。ほら、撃てよ。あんたの勝ちだ」

 

 

悔しそうに声を漏らして、そうぶっきらぼうに言ってきた。

 

戦いが終わったと体が理解して冷静になってくるのと同時に、体の疲労感や痛みがはっきりとしてきた。あ、これやばいかも。

 

 

手から力が抜けて銃を落としてしまう。正直立ってるだけで精一杯だ。

 

 

「…撃たないよ。私の勝ち、それだけで十分だね」

 

「…ふん。あんたのそういうところ好きじゃねえわ」

 

 

そういうところとは、何のことだろう?これも今度聞いてみたいね。あ~、本当に限界。

 

「でも、さっきの戦い、楽しかったよ。また一緒に戦おう(やりあおう)ね」

 

「…ははっ。それは好きだぜ。あたしの負けだ!」

 

 

だから、そういうところとかそれだとか、何のことを言ってるの?そう聞きたかったけど、今は無理みたいだ。

 

前もこうなったなあ。デジャヴってやつ?

 

 

勝ったことに安心して、私は意識を手放した。

 

『勝者・常光リリス。対戦お疲れさまでした』

 

 

 

 

 

 

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「『神秘』の枯渇による気絶、か。…はぁ、とんだ無茶をするものだな、リリス」

 

「ごめんなさい、お父さん」

 

私は今、病室のベッドに仰向けで寝かされている。

 

なんと私は気を失った後、一日近く眠り続けていたようだ。父は私が倒れたと聞いて、仕事を中断してずっとそばにいてくれてたみたい。悪いことをしてしまった。

 

「いや、私に謝る必要はないよ。私はお前が無事なら安心だ。…少しくらいは自分を大事にしてほしいがね」

 

「…気を付けます」

 

全くその通りだ。でも、私だってあんなに熱くなると思わなかったし…

 

「わかったならいい。さて、私はこれで仕事に戻るとするよ。お前は退院してもいいが、当分の間は『神秘』を使わないように」

 

「もう帰っちゃうの…?」

 

「また家で会うだろう?私は外で待っている二人と、お前との時間を邪魔したくないのでね」

 

外で待っている二人…、ユメとニアのことだろうか?心配させてしまってるだろうなぁ。

 

二人への対応の仕方を考えていると、父がベッド横の椅子から立ち上がり扉へと向かいながら言う。

 

「友達は大切にしなさい。お大事に、リリス」

 

「またね、お父さん」

 

それだけ言って出て行ってしまった。

 

本音を言えばもう少しだけ一緒に居たかった。私より大事な仕事っていったい何なのだろう?なんだか胸がモヤモヤする…。

 

形容しがたい不思議な気持ちに困惑していると、扉の間から薄緑色の跳ね毛が覗いていることに気づいた。

 

「…入ってきていいよ!」

 

思わず声を掛けた。数瞬の間をおいて、予想した通りユメとニアが入ってきた。

 

何か言おうとしたところで、二人の表情を見て、言葉が出なかった。

 

ニアは目を腫らし、顔を涙でぐしゃぐしゃにしていて、ユメはいつものような天真爛漫な雰囲気はなく、悲しそうな顔をしていた。

 

…本気で心配させてしまったみたい。何か言わなくては…

 

「お、おはよう、二人とも!」

 

「っ…、リリス様ぁ!!」

 

声を掛けると、ニアがバネに弾かれたように勢いよくベッドに飛び込んできた。

 

「何がおはようですか!!本気で心配したんですよ!!?無茶しないでって言ったじゃないですかぁ…!」

 

吐き出すように言って、胸元で泣き始めてしまった。背中に腕を回してもう放さないと言わんばかりに抱きしめてくる。

 

…力強いね!?いつもなら頭を撫でるなりできるのだが、今の私は怪我人だ。腕を軽く動かすのも難しい。完全に治りきってない傷が痛いぃ…。

 

「ご、ごめんね、ニア。あんまり激しい動きはしないでほしい。傷が痛むからさ…」

 

「あ…。ごめんなさい、リリス様」

 

ニアは慌てて私から離れ、ベッドの端に正座した。腕で涙を拭き取り、呼吸を整えた。

 

「ふぅ…。すみません、取り乱しました。改めて、ご無事で何よりです。リリス様」

 

「そうそう!私もとっても心配したんだからね!?私にも少しぐらい相談してよ!」

 

ベッドの横まで近づいてきて、腰に手を当てていかにも『怒っています』といった様子のユメに言われた。

 

そういえば、ユメには何にも言ってなかったね。完全に忘れていた。でもまあ、二人とも来てくれてよかった。

 

「ごめんね、ユメちゃん。あの時は気が張り詰めてて、そこまで頭が回らなかったよ」

 

「わざとじゃないならいいよ!…無事でよかった」

 

ユメは私の右手を包み込むように握ってそう言う。

 

…温かい。優しく包み込んで、ユメの心地よい体温が私をリラックスさせる。

 

その温もりを感じていると、ニアが質問してきた。

 

「それであの日、何が起きてたんです?見ていたんですが、リリス様の方から接近していって取っ組み合ってませんでしたか?」

 

「うんうん。私もそんな風に見えたよ?」

 

あ~、二人にはそんな感じに見えてたんだね。確かに、あの時は目まぐるしく状況が変わっていたからね。ずっと目で追うのは大変だったかもしれない。

 

「あの時のことね。あの時、私はタキナに一発撃ち込まれてさ。そこから理性が飛んじゃって、夢中で戦いを楽しんでたんだよね。気づいた時には試合が終わってたよ」

 

あれは楽しかった。楽しかったけど、めちゃくちゃに痛い思いをした。またやるとしても、本気でやろうとは思わないね。

 

「…楽しかった???」

 

「…去年も思ったけどさ、リリスちゃんって結構、戦闘好きなところあるよね?でも、そこまでだったっけ?」

 

うん?なんだか二人の反応がおかしかった。ニアは理解できないって顔と声色をしていたし、ユメは私がここまで戦闘好きだとは思っていなかったようだ。

 

私が戦闘好きなのは、みんな知ってることじゃないの?

 

「戦闘が楽しい、ですか…。私にはわからない感覚ですね」

 

「私もだね。戦いって痛みしか生まれないのに、それが楽しいってのはちょっとわからないね」

 

あれ?二人にはあの楽しさがわからないようだ。もったいないなぁ。

 

「まあ、何が楽しく思えるかなんて人それぞれなんだからさ。それに、前までなら私もここまで戦いが楽しいって思えなかっただろうね。だから、教えてくれたタキナには感謝してるよ」

 

「…リリス様は、あいつに感謝しているんですか?」

 

当たり前だ。まだわかってなかった、自分の新たな一面を知ることが出来たからね。

 

「うん!自分でも知らなかった一面を知るきっかけになったからさ」

 

「……そうですか。それで、あいつはどこです?」

 

「うん。私も会ってみたいんだけど…」

 

私から見てもわかりやすいぐらいに、ニアがタキナの名前に敵意を示した。ユメはそれほどではないけれど、あまりタキナのことをよく思ってなさそうだ。

 

少し勘違いしてるね。

 

「タキナを悪人だと決めつけるのは違うよ。私にけがを負わせたのは本当だけど、私もあっちに負わせたし。

それに挑戦を受けたのは、私。ニアにはもう言ったけど、タキナについて知ってからこれからの対応を考えよ?」

 

「…そんなに傷ついてまで、まだあいつを気にするんですね。本当に優しい人です」

 

「リリスちゃんがそう言うなら…」

 

私の考えを伝えて、二人が理解を示そうとした、その時だった。

 

コンコン

 

不意に扉を叩く音がした。

 

「「⋯」」

 

「誰だろ?」

 

二人は警戒心を強めて扉を睨みつけている。それに対して私は『誰が来たんだろ?』、そんな素朴な疑問から声が出てしまった。

 

今他に誰か来るとしたら⋯、私のクラスの担任とか?

 

ノックに反応せずにいると、再びノックの音がして、聞き覚えのある声が続いた。

 

「先輩(・・)。あたしだ、タキナだ」

 

タキナだった。⋯何しに来たんだろ?というか、タキナも怪我をしていたはずだ。もう動いて大丈夫なのだろうか?

 

いろいろなことを考えていて、タキナに返事をするのを忘れていた。

 

「⋯入るぞ」

 

反応がないことにしびれを切らしたのか、扉を開いて入ってきた。

 

 

⋯やっぱり、治りきってないみたい。顔は私が殴りまくったせいで湿布だらけだし、病衣から覗いている腕や足には包帯がグルグル巻きにされている。そんな状態なのによく動けるね。

 

 

「なんだ、いるじゃねえかよ。返事ぐらいしろっての⋯」

 

「⋯もう動いても大丈夫なの?傷は痛くないの?」

 

「はあ?なんであたしの心配するんだ?自分の心配しろよ⋯」

 

 

呆れたように言って頭を掻くタキナ。やっぱり質問には答えてくれないのかな⋯。

そう考えたところで、タキナが思い出したように呟いた。

 

 

「⋯ああ、そういえば話をしにきたんだった。はぁ、傷はまだ痛むが動くのに問題はない。これでいいか?」

 

どこか適当な言い方だったけど、しっかりと答えてくれた。

 

初対面の時はこんなに素直じゃなかった。なぜ今は答えてくれるんだろう?

 

「…なるほどね。それで、ここに何しに来たの?」

 

「…先輩が約束したことだろうが。勝ったら話をしようって。しっかりしてくれよ…」

 

「あ、そうだったね!来てくれたんだ!」

 

確かにそんな約束したね。早速守ろうとしてくれてるんだ。

そんなタキナにうれしく思っていると、ユメとは反対側の位置まで来て、椅子に足を組んで座った。

 

「それで、何の話をするんだ?」

 

「ちょっと、口調と姿勢を正しなさい。リリス様は許すでしょうが、私はそうはいきませんよ」

 

タキナの態度に対して、さっそくニアが嚙み付いた。

ニアなりにタキナのこと知ろうとしているのだろう。ユメはタキナが入ってきた時から、口を挟まずに様子を見ている。二人の性格の違いがよく表れているね。

 

「…」

 

「は?無視、ですか?」

 

ニアの言葉を完全にスルーした。

わざと?いや、まだわかんない。とりあえず、私が気になることを聞いてみよう。

 

「なんで先輩って呼ぶの?」

 

「…あの日、あたしは先輩に負けたから。負けた身として、呼び方くらいは変えておこうと思ったから」

 

勝負に関わる話になると、妙に真面目に答えてくる。そして、私の言葉にはしっかりと反応をした。その様子を見たニアが再び声を上げる。

 

「もう一度言いますよ。口調と、姿勢を、正しなさい」

 

そう諭すようにはっきりと言ったが、タキナは鬱陶しそうにニアの方を一瞥しただけだった。

変わらないタキナの態度に、ついにニアが爆発しかけた。

 

「どういうつもりですか!?なぜ私のことをーー!!」

 

「ニア、少し落ち着いて」

 

このまま放っておいて、会話が更に拗れるのは避けたい。

ニアの気持ちはわかるけど、今だけはそれを抑えてほしい。

 

ベッドから立ち上がろうとしたニアは、少し私の方を見てから再び座った。

 

「ありがとう、ニア。…タキナ、どうしてニアを無視してるの?」

 

遠回しに言わずに、直球で聞いた。

タキナにはこうするのが一番だと思ったからね。

 

「言わなきゃダメか?…あたしは相手を視れば、そいつの力の大きさから、どれくらい強いか大体分かるんだ。そこにいるやつは私より弱い。だから会話する意味がねえんだよ」

 

ニアはその言葉を聞いて悲しそうな顔をした。けれど、理由を聞いて何か納得したのか、先ほどまでの刺々しい雰囲気は少し和らいでいた。

 

弱いから会話する意味がない…、筋が通っているようで、全く通っていない理由だ。

これはタキナの価値観が関係してるのかも。

 

「弱いからってのは?」

 

「そのまんまだろ。あたしより強くないから得るもんがない、ってことだ」

 

…なるほどね。少しずつ分かってきたかも。

同級生を傷つけたことも、私に強く執着していたことも関係してるのかも。

 

「私と接してくれてるのは、私の方がタキナより強いから?」

 

「当たり前だろ?それ以外に理由はねえよ」

 

やっぱり…。ニアと同じ、何かよくないものが強く根付いているような感じがする。

タキナに核心を突くような質問をする。

 

「タキナ、言いたくなかったら答えなくていいからね。タキナは、もっと強くなりたいと思ってるの?」

 

「そうだ」

 

「じゃあ、強くなりたい理由は?」

 

「…言いたくねぇ」

 

初めて明確に答えるのを拒否した。

これだね。これが今のタキナを形作っているものだ。

 

本人が言いたくないことを知ろうとするのは酷だろう。少し質問の方向性を変えよう。

 

「じゃあさ、強くなったらどうしたいの?」

 

「……は?強くなったら…?」

 

「何か夢だとか、目標だとかないの?」

 

「…ない」

 

これで少しはっきりした。タキナの過去についてはわからないが、今のタキナがどんな状態なのかはわかる。

 

どこで止めればいいのかわからない。そして、手に入れた力を何のために使えばいいのかもわからない。おそらくこの二つだろう。

 

この二つが欠けているから、今のタキナはブレーキのない車両のような危うさを持っているのだ。

 

ただ、それがわかったからと言ってタキナにそれを強制しよう、だとかは考えない。

まずは、タキナが自分で進む方向を見つけられるように、手助けしてみよう。

 

「どうすればいいのかわからないならさ、私からちょっとしたアドバイスをあげるね」

 

「…あぁ」

 

「強くなろうとするのをやめてとは言わない。でも、その過程で強くなるためだからって、誰かを傷つけることを当たり前にしちゃいけない。そして、力を持つのは悪いことじゃない、使い方によって変わるんだよ」

 

強くなりたい、そう思うのは悪いことじゃない。私だってもっと強くなりたいと思ったことがある。でも、そう思えるのはしっかりとした目的があったからだ。

 

みんなを守ってあげたい、みんなの未来を守ってあげたい。そんな願いがあったからだ

 

でもタキナは、強くなりたいと思ってる。でも、その先に何があるのかはわからない。

それでも、進み続けようとする。まるで迷路の出口を、暗闇の中で探し続けるように。

 

それって、とても怖いことじゃないかな。

 

「みんなを守ってあげたい、憧れの人を越えたい。目標なんて、なんだっていいんだよ。間違った目標を作っちゃうかもしれない。でも、それは生きていくうえで当たり前にある間違いなんだよ。みんなそう、私だってそうだった」

 

間違えることがいけないんじゃない。それを次に生かせないことがよくないんだ。そして、挑戦すらしないのは……ただただ、もったいない。

 

「タキナも、なにか目標を作ってみるといいよ。困ったら私でも、ニアでも、ユメでもいいから、相談してほしい。支えてあげるからさ。そうしたら、自分が何をしたいのかわかるんじゃないかな?」

 

「…」

 

タキナはただ静かに聞き入っていた。

 

私の言いたいことが伝わったかは分からない。わかってくれたらいいなと思う。今はただ、挑戦してみてほしい。

 

「…そうかよ。目標を持て、か」

 

考えをまとめたのか、タキナは椅子から立ち上がり、そのまま扉へと向かっていく。

 

「帰っちゃうの?」

 

「話すことは話したからな。それに、ここにいると気が滅入っちまいそうだ」

 

「そっか…。またね、タキナ」

 

「っ…ああ、またな」

 

タキナは少し苦しそうな顔をしながらも、ちゃんと返事をして出ていった。

タキナがいなくなって、ニアとユメが大きく息を吐いた。

 

「ふぅ、なんだか前の私を見ているような気分でした」

 

「ね、私もそう思ったよ」

 

昔を思い出すかのように、どこか遠くを見つめながら声を漏らすニア。

 

確かに言われてみればそんな感じがした。ニアが大人しくなったのは、過去の自分をタキナに重ねていたからかもしれないね。

 

「これでわかったんじゃない?タキナは根から悪い子じゃないよ。これから支えていく必要はあるかもしれないけどね」

 

「というかリリス様。貴方、勝手に私も手伝うことにしてるじゃないですか」

 

「私もそうだけど、別に平気かな?」

 

ニアは私の発言をちゃんと覚えていたみたい。タキナのことを助けてあげたいって気持ちが強くなっちゃって、咄嗟に二人も助けてくれるって言っちゃった。ユメは問題なさそうだけど、ニアは文句がありそうだ。

 

「ごめんね?後でタキナにーー」

 

「いや!別にダメとは言ってませんよ!?…あいつには私を怒らせたことを後悔させてやらなければいけませんしね?」

 

急に否定しだしてちょっとびっくりした。今日のニアは感情豊かだね!

 

「ふふふ♪必死なニアちゃんもかわいいね~!」

 

「ちょっとユメさん!?いきなり抱き着かないでください!リリス様、助けてください…!」

 

ユメがベッドの上にいるニアに抱き着き、じゃれ合い始めた。

 

助けてほしいって言われても、私は今動けないんだよね。だから私はじゃれ合ってるところを見ることしかできない。心なしか、ニアも楽しそうだし。

 

「フフっ、ユメもニアも楽しそうだね」

 

「リリス様!決して、こんなの楽しくないからですね!?」

 

「もう!素直じゃない子は好かれないよ?」

 

さらに病室が騒々しくなった。今日、二人と初めて顔を合わせたときの重苦しい空気は、すでになくなっていた。

二人とも元気になってくれたようでよかった。早く動けるようにならなくては…。

 

これからについて考えていると、不意にタキナのなんだか苦しそうな顔を思い出した。

 

(タキナ、これからどんなことをしていくんだろうね。私たちでできる限り支えて、目標を達成させてあげたいなぁ)

 

そこにはタキナに呆れたように言われた、『自分の心配をしろ』ということをすぐに忘れて他人のことを気にかけ始める、変わらないリリスの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか自分がおかしい。こんなことを考えるのは、何回目だろうか。

 

 

あたしは病室から出て、壁にもたれかかるようにして休んでいた。

 

 

「まったく…、本当になんなんだ先輩は。会うたびに頭がおかしいんじゃないかと思っちまうぜ…」

 

 

それは自分にも言えることだ。先輩に会うたびに不思議な感覚に襲われる。

 

 

今までに感じたことがない…、いや、最初のころはあそこでいつも感じていたものだったな。

 

 

あたしはこの感覚を知らぬ間に忘れていたのか。あの胸が締め付けられるような感覚だけは、一度たりとも忘れたことがないのに……。

 

「うっ…」

 

 

胸が痛い。あれを思い出してしまって、どうしようもない痛みに襲われる。

 

 

『なんでこんなこともできないの?』

『ずっと一緒に頑張ってきたじゃん。なんでできないの?』

『出来損ないが!』

 

「クソッ、クソッ!」

 

 

 

拳を壁に打ち付けて胸の虚しさを打ち消す。

あんな思いは二度としたくない。もう、二度と。

嫌な記憶を忘れようとしていると、不意に先輩の姿が思い浮かぶ。

 

 

 

『私はあなたと話をしたいの』

『⋯もう動いても大丈夫なの?傷は痛くないの?』

『またね、タキナ』

 

 

「…なんなんだよ、ほんとに」

 

 

話しかけられただけなのに、温かさを感じてしまうような、優しい人。

常にあたしを気にかけてくれる、優しい人。

あたしのことを知ろうとしてくれる、優しい人。

 

 

温かさなど感じたくない。

気にしてほしくなんかない。

知ってほしくなんかない。

 

 

 

相反する感情が荒ぶる。でも、どちらもあたしの本音だ。

 

…胸の中がぐちゃぐちゃだな。整理する時間が必要になりそうだ。

 

 

あの温かさに埋もれてしまいたい。でも、それを失ってしまうのが怖い。

なら、最初からなければいいんじゃないか?

 

 

そう考えてここまで来た。なのに…、なのにその決意が揺らごうとしている。

 

 

騒がしくなり始めた病室を扉の窓から眺めて言葉が漏れる。

 

 

「…はぁ、自分がわからねえな」

 

 

わからない、久しぶりに感じた感情だ。でも、なんだか前ほど緊迫したような感じではない。

どこか、自分が安心しているような気がする。

 

 

「…はは、頼ってくれてもいいって言われたからか?」

 

 

心当たりが出てきて自嘲する。あたしはそんな軽い言葉に安心しているのか?

 

 

…いや、軽くなんかない。あの言葉にも温かさがあった。先輩は本気で言ってくれていたのだ。

 

 

「…目標、か。確かに、新たな挑戦だな」

 

 

明確な目標を持つ、簡単なようで難しいことだ。

でも、大丈夫だ。失敗しても支えてくれる人たちがいる。

 

 

「…もう帰ろう。今日はもう疲れた」

 

 

とりあえず休むことにした。いつもなら『強くならなければならない』という焦燥感で疲れなど感じないが、なぜか今は感じていた。

 

 

そして目標は…、リリスを越えたい。その思いはずっとあった。

 

けれど、それを自分の目標として考えたことはなかった。

 

 

「先輩、見ててくれよ。あたし、頑張るからさ」

 

 

あたしは、以前は一寸先も見通せなかった未来が、しっかりと見えるようになった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




12000文字…。いや~、今回はま~じで疲れましたね。

タキナのステータス
テクスチャ:ネイコス
身長:153㎝
外見:赤毛のショートへア、赤い猫目と尻尾
趣味:戦い
武器:四式自動小銃『不退ノ誓(ふたいのちかい)』
   その名に込められた誓いは、まだ誰にも語られていない。

野良猫や小動物によく近づかれては懐かれる
実はかわいいぬいぐるみや小物に興味がある
時々遠くを見つめてなにか考え事をしている

苦手なもの
目的のない雑談、見境ない好意、サプライズ




我ながらかなり出来がいいんじゃないでしょうか?

次回は連続投稿をしてみようと思います!

11月2日 Ex話 リリスに対する名前のない感情

11月3日 九話 日常が壊れた日

楽しみにしてくれたらうれしいです!
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