この素晴らしい世界の強敵たち。興奮するじゃないか♥ 作:あまねく世界のこのすば作者
ベルゼルグ王国。
魔王軍との国境が重なる唯一の国でもあり、防衛ラインとしての役割を果たしている巨大な国。この国には、厄介者扱いされることも珍しくない存在が3つある。
1 アクシズ教徒
水を司る女神・アクアを御神体とする宗教だが、その実態はカルト教団。教義の内容は、要約すると『欲望のままに生きろ』というもの。
そんな教義である故、信者は、奇人変人、乱暴者、独善かつ自己中心的な者が多く、さらにはベルゼルグ王国の国境であるエリス教の信徒を忌み嫌い、様々な嫌がらせを行うため、多くの者たちに忌み嫌われている。
2 紅魔族
黒髪に赤い瞳が特徴の人種であり、生まれつき魔法使いとしての高い才能を持つ。紅魔族の殆どがアークウィザードという魔法使いの上級職であり、その力を疑わぬ者はこの世にいない。
しかし、どいつもこいつも重度の中二病を患っており、変な自己紹介をするわわけのわからん言動を取ることもを珍しくないわで、アクシズ教徒ほどではないが、厄介者扱いされることも多々ある。
3 ベルゼルグ王国第二王子
最後は種族とか教団ではなく1個人である。大したことないと思ったそこのあなた、ノンノンノン! あなたは現実を知らないね♪
彼は紅魔族やアクシズ教徒とは比較にならないほどの超問題児。ベルゼルグ王国の第二王子という高貴な身分でありながら、彼の存在は多くの人たちが迷惑し、厄介者扱いしている。今回は、なぜ彼がそんなふうに扱われるかの理由を見てみようじゃないか!
グルヴォオオオオオ!!!!!
紅魔の里。紅魔族が住むその里では現在、何体ものモンスターたちが大暴れして里を蹂躙しており、紅魔族たちは対処に追われていた。
モンスターたちの名はインフェルノ・ケルベロス。魔法に対して高い耐性を持つモンスターである。魔法を主体として戦い、職業がアークウィザードばかりの紅魔族にとっては最悪の天敵であり、上級魔法でも大したダメージを与えられず、大苦戦を強いられていた。
「くそ! こんな時に限って対魔王軍遊撃部隊はどっか行ってるし、他の人たちも色々忙しくしてるし──うわああああ!?」
「まずい。そっち1匹抜けたぞ! このままじゃレッドプリズンが!」
「回復役来てくれぇ! 娘が重症なんだ。早く!」
里が阿鼻叫喚になり、建物が次々と破壊される。上級魔法をいくら放ってもあまり有効打にならず、その強靭な爪と顎、牙は建物を容易に貫通し、紅魔族を差し貫いて蹂躙していく。
「ぎゃあああ!? もう駄目だああああ!!」
「だ、誰か助け──あああああ!?」
「くそ⋯⋯我が命もここまでか。無念なり」
絶望に打ちひしがれる者も数多く現れる中、悲鳴や騒乱をものともせず、悠々と歩いてやってくる1人の男がいた。
金髪のポニーテールに碧眼の美少年。しかしどこか気味悪く、人を食ったような笑みを浮かべている。何よりその瞳は、まるで蛇のようにおぞましいもので、見る人を怖がらせる異質な何かを秘めていた。
魔法使いのような黒いローブを着ており、その下は気品の溢れる王族のような服が見え隠れしている。腕には手甲のような銀の鎧を着けており、素人が見ても上級の物だと一目で分かるほどの逸品であった。それ故に数多くの人目を引き、その姿を見た1体のモンスターが襲いかかってくるが。
「アイニ!」
彼が腕を振り上げながら叫ぶと、その側に巨大な大蛇が現れた。体長は10メートル以上。全身が炎で作られた存在であり、ただそこにいるだけで、周囲の温度を大きく上げるほどの熱を放っている。
蛇は襲い来るケルベロスに、尻尾で地面がめり込むほど強く叩きつける。
グギャアアアアアア!?
叩きつけられ、悲鳴を上げたケルベロスに1人の紅魔族の男が驚いて振り返る。その男の名はぷっちん。紅魔の里にある魔法学校『レッドプリズン』の教師である。普段はふざけたりすることもある彼だが、今は生徒を守るため、死に物狂いで戦っていた。
ぷっちんは叩きつけられたケルベロスを見た後、金髪の男に気づいて声を上げる。
「ルーク!」
「やあぷっちん。なんだか凄い数のインフェルノ・ケルベロスが暴れてるね。一体何があったんだ」
「それを聞きたいのはこちらの方だ! 話によると、このモンスターの大群は、貴様が宿泊していた部屋から飛び出したと聞いたぞ。貴様、部屋で一体何をしていた!」
ぷっちんは粉々になった宿を指さしてそう答える。
ルークと呼ばれた男はしばらく考え込んでいたが、何かを思い出したかのようにポンと手をたたく。
「ああ思い出した! そういえば暇潰しになるかと思って、インフェルノ・ケルベロスの卵をいくつか取ってきて育ててたんだった」
「……はあ!? それはどういうことだ!」
「どういう事も何も、王城で厳重に保管されてたケルベロスの卵を盗ん……じゃなくて借りてきたんだよ」
「今盗んだと言ったよな! 明らかに言い直したよなおい!」
「細かいことは気にしなーい気にしなーい。で、色々薬物とか打ち込んでパパっと育成し、戦って暇潰ししようとしたけど、生まれる気配が全く無くてね。失敗したと思って放置してたんだ。まさか今になって生まれるとは思わなかったなあ」
彼は愉快そうにモンスターたちを見て、ふむふむと感心していた。
「ふむ。最初はつまらない結果になると思ったが、中々興味深い結果になったね」
一方、ぷっちんはルークの言葉を聞いて唖然とし、口を大きく開いていた。
「そ、そんな……そんなくだらない理由で」
「くだらないとは失礼だね。俺にとっては強者との戦いというのは大切なことなんだが」
「ふざけるなあ! そのくだらない思い付きのせいで、里がめちゃくちゃになってるんだぞ。一体どうしてくれる!」
「心配するな。俺が起こした問題なら俺が片付けるよ。それくらいの責任感はある。死人が出ても心配はいらない。蘇生魔法を使えるアークプリーストを後で呼んでこよう。だから、君たちはさっさと避難したまえ。せっかくだし、このケルベロスの大群は俺1人で楽しみたいんだ。他の者たちに邪魔されたくない」
ルークのあまりにも身勝手な言葉に、ぷっちんは激しい怒りを覚えた。くだらない考えで可愛い生徒を危険に晒したこと、紅魔の里を破壊している事、極めつけは反省の色1つ浮かべず、まるで実験でもしてるかのようにメモをし、里の被害に目を向けてないこと。
思わず拳を強く握り、瞳は赤い輝きを放ち、我を忘れそうになるほどの怒りに囚われそうになったが、ギリギリの所で理性を働かせて抑えた。
「……里の者たちを一人でも死なせてみろ。俺が貴様を殺してやる! 灰も残らないほどに焼き付くしてやるからな!」
「くふふふふ。あまり強い殺意を向けるなよ。興奮するじゃないか♥」
うっとりとした顔で言う彼に、ぷっちんは思わず身震いした。
「気色悪いことを言うな! おい、ここはルークに任せて、俺たちは避難誘導するぞ!」
ぷっちんや他の紅魔族たちは、逃げ遅れた子供たちの避難誘導へと向かう。ルークは楽しそうな笑みを浮かべ、瞳を獣のようにギラつかせてケルベロスたちと対峙する。
「さあ。目いっぱい遊ぼう。ケルベロスたちよ!」
ルークは狂気の笑み浮かべ、インフェルノ・ケルベロスたちと交戦する。このルークこそ、ベルゼルグ王国第二王子であり、ベルゼルグ王国ではアクシズ教徒や紅魔族以上に色んな奴らから忌み嫌われる存在である。
彼がこんな騒動を起こすのは、実は初めてではない。ある時は。
「ぎゃあああああ!? 俺の家がああああ!」
「すまない。王国から盗んできたモンスターの卵を孵化させて戦おうとしたら、失敗して君の家が壊れてしまった。修理費用はこちらの方で出しておこう」
「当たり前だろボケがああああ!」
とある村にて、王国から盗んできたモンスターの卵を孵化させようとしたら誤って爆発させてしまい、人の家を粉々に壊したこと。
「いやあああああああ!? 気持ち悪い虫が大量にいいいい!」
「くふふふふふふ。良いねえ。これがダークコックローチ。繁殖も早いし頑丈で素早さもある。興奮するじゃないか♥」
またある時は、とある巨大船にて。全長3メートルを超えるゴキブリ型モンスター、ダークコックローチを大量繁殖させて暇潰しに戦ったりしていた。ちなみに、ダークコックローチはその異形故にトラウマを持つ人も数多くおり、発狂した多くの船員たちが暴れる中、鬱陶しく思ったルークの攻撃の巻き添えを喰らってボロボロにされるという悲惨なことになった。
紅魔の里だけでなく、各地で起こした事件を数えるとキリがない。故に彼はベルゼルグ王国ではかなりの厄介者扱いをされている。彼に比べれば、アクシズ教徒や紅魔族なんて霞んで見えてしまうだろう。
だって、彼らは娯楽のためにモンスターを繁殖させるなんていう脳に蛆が湧いてるかのような狂った行動は取らないのだから。というか魔王軍の中でも、そんな頭おかしいことやるのは極少数である。
そしてこの物語は、そんなはた迷惑な騒ぎを起こす戦闘狂で誰よりも頭のおかしい男、ルークの物語なのだ!
彼は強者との戦いという最高の娯楽を楽しむため、今日もあちこち奔走する。
Side めぐみん
邪神の下僕騒動が収束し、月日が経ったある日のこと。魔法を覚えた事で学校を卒業した私は現在、仕事を探すニートとなっていた。
里を出て冒険者になり、爆裂魔法を教えてくれたあの人に会う。それが、私の目標だったというのに⋯⋯。
里を出て冒険者になるには、まず街に行く必要がある。だが、紅魔の里周辺には、強いモンスターが数多生息している。爆裂魔法を放てば動けなくなる私だけでは、とても他所の街まで辿り着けない。
そこで、転送屋と呼ばれるテレポートを生業としている人に頼み、街まで送ってもらおうと思った。ところがどっこい! 現実は甘くなく、ブラックコーヒーよりもなお苦かった。
「アルカンレティアへの片道切符が30万エリス。私の手持ちが4000エリス……はあ。手っ取り早く稼げる美味な仕事はありませんかね」
自分の薄い財布の中を覗きながら、深々とため息を吐く。私が行きたいのは、駆け出し冒険者が集まると言われる『アクセル』という街。
しかし、紅魔族にとってアクセルは特に需要のある転送先ではなかったらしい。
テレポートの転送先は、事前にその場所へと出向き、登録しておかなければならないのだが、行く需要がないアクセルは、転送屋の登録先には名前がなかった。
なのでアクセルの街に行くには、最寄りの街、アルカンレティアまで転送してもらい、そこから徒歩か馬車で向かうしかない。そのためにも、転送代を稼ごうと里で仕事を探しているのだが、これが中々上手く行かなかったのだ。
その日も仕事が見つからず、トボトボと歩きながら家の扉を開けようとすると、中から良い匂いが漂ってきた。
「これは……ご飯の匂い?」
しかし、その匂いはいままで嗅いだことのないものであった。それに嗅いだだけで分かる。これは相当美味で高級な食材が使われているのだと。しかし、貧乏な我が家ではそんな食材を用意することなど不可能だ。
不思議に思いながら扉を開けると、玄関先に見慣れない靴が1つある。素人でも高級な物だと分かるほどのもので、もしこれを売れたら30万エリスなんて余裕なんじゃないかと、人として危険な考えに傾きかけていたその時。
「蛇の兄ちゃん! これすっごく美味しい!」
「喜んでもらえて良かった。たくさんあるから遠慮せずに食べると良い」
妹であるこめっこの声と、聞いたことのない男の声が聞こえてくる。
「私、こんなに美味しいもの食べたことない。蛇の兄ちゃんは毎日こんなに美味しいもの食べてるの?」
「小さい頃は食べてたが、今はあんまり食べないな。俺は食べて経験値を稼ぐより、戦って稼ぐ方が好きなんだよ。命を脅かすほどの強敵ならなおよろしい」
「おお。蛇の兄ちゃん、戦闘狂の鑑だね」
「そうか? 普通のことを言ってるだけだと思うんだがな」
妹は楽しそうに男と話をしているが、話の内容はかなり物騒である。
私は警戒しながら部屋の扉を開けると、そこには妹の他に一人の男が立っていた。かっちょいい黒いローブを着ており、その下は気品の溢れる王族のような服が見え隠れしている。腕には手甲のような銀の鎧を着けている。
顔立ちは王族のような気品に溢れ、腰まで伸ばした金髪をポニーテールのように纏めているが、その瞳は何故かは分からないが、どうにも気持ち悪く思えてしまった。
(この男は一体。それに)
男の次に目を引いたのは、テーブルの上に所狭しと豪華そうな料理。どう考えても貧乏な我が家が用意出来るものではなく、こめっこはその料理を幸せそうに食べている。しばらくして、ようやく私のことに気づいたようで話しかけてきた。
「あ、姉ちゃんお帰り!」
「こめっこ。この料理は一体」
「ここにいる蛇の兄ちゃんが持ってきてくれたの! 姉ちゃんが帰ってくるまで外で待つって言ってたんだけど、こんなにも美味しい物を外で持たせるのは勿体ないと思って家にいれの。うん、このお肉も美味しい! 舌の上でとろける〜」
こめっこは幸せそうにステーキを頬張っている。よく見ると、男のそばには巨大な箱が3つほど重ねられて置いてあり、一番上の箱は蓋が開いていた。そしてキッチンは片付いてるが、料理を作った痕跡がある。
あの巨大な箱から食材を出してこの料理を作ったのだろうと推察してると、男が話しかけてきた
「初めましてめぐみん。俺はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ルーク。ベルゼルグ王国の第2王子だ。蛇遣いと言えば分かるかな?」
「蛇遣い!? まさか⋯⋯あの」
蛇遣い。それは紅魔の里では有名な異名であり、めぐみんも魔法学校で何度も聞いたことがあった。召喚魔法を駆使するアークウィザードであり、使役してる召喚獣が全て蛇の形をしているため、蛇遣いと呼ばれている。
彼は紅魔の里に莫大な資金や資材をつぎ込んで支援しており、王族しか使えないようなスキルアップポーションも渡したりと、普通にアウトな行為もいくらかやっていると言われている。彼のおかげで紅魔の里はかなり発展したらしく、紅魔族全体の実力も飛躍的に上がったという。
なぜ彼がそんなことをしてるのかというと、強くなった紅魔族と戦うためだ。
彼は強者との命を賭けた戦いを何よりも楽しむ戦闘狂であり、生まれつき魔法使いとしての高い才能を持つ紅魔族は彼の琴線に触れたらしい。
故に彼は数ヶ月に一度、紅魔の里に赴いて、気に入った相手をギリギリ死なないレベルで完膚なきまでに潰すということを条件にし、里を支援しているのだ。そんなことを条件に支援してる上、とんでもない問題を起こしたりするため、里ではかなりの厄介者扱いをされているが、持ってきてくれる物資だけは皆感謝していた。
(そういえば2カ月前にも、そけっとが蛇遣いに叩き潰されたと噂になってましたね。で、敵討ちに行ったぶっころりーも完膚なきまでに潰されたとか。金髪碧眼の男とは聞いてましたが。彼があの蛇遣いだとは思いませんでした)
後退りしながら、いざという時のため、魔法を放つ準備をして話しかける。
「まさかとは思いますが……私の家にやってきたのは、私かこめっこのどちらかを潰すためですか?」
「そんなくだらないことはしない。今の君やこの子と戦っても何にも楽しくないからな。俺がここに来たのは、新しい取引をするためだ」
そう言って、彼は蓋の空いてない箱を取り出して開ける。そこには魔力上昇のポーション10個、スキルアップポーション10個がある。その他にも経験値が豊富な食材が大量に入っている。
「君を強くするために、王都から盗ん……じゃなくて持ってきたものだ」
「今盗んだって言いましたよね」
「細かいことは気にしなーい気にしなーい」
「気にしますよ! というか、なぜ私にこんな物を渡すのですか」
「簡単だよ。君の将来性や魔法の強さに、俺は心を奪われ、今までにないほど劣情を煽られた。だから優先的に支援しようと決めて持ってきたのさ」
彼がそう言うと、こめっこが不思議そうな顔をして質問する。
「でも蛇の兄ちゃん。姉ちゃんって爆裂魔法っていうネタ魔法しか覚えてないんだよ。里の皆が言ってたけど、爆裂魔法って消費魔力が多いし、習得が大変だし、使った際の爆音でモンスターを呼んじゃうし、威力が高すぎて使い勝手も最悪なネタ魔法なんだって。しかも姉ちゃんは爆裂魔法を1発撃ったら動けなくなるから、将来性あるように見えないけど」
心ない妹の言葉はナイフのように私の胸に突き刺さった。何とかしてこいつの言葉を否定したかったが、否定する事が出来なかった。
確かに妹の言う通り、周囲の人たちは爆裂魔法を使い勝手の悪いネタ魔法として認識しており、私の友達であるゆんゆんですら、その認識は変わらない。しかし、彼はこめっこの言葉を鼻で笑う。
「ふん。爆裂魔法をネタ魔法なんて言うやつは、目が曇ってる馬鹿の意見だ。俺からすれば、なぜ他の紅魔族が習得しようとしないのか不思議でしょうがない。神や悪魔さえ殺せる究極にして最強の攻撃魔法。極めれば世界を滅ぼすことも容易となるだろう。確かに魔力消費の多さや習得までの大変さは無視できない所はあるが、それを差し引いても、あんなに素晴らしい魔法は絶対に身につけるべきだ。いや、身につけなければならない。それはアークウィザードとして生まれた者たちの宿命だ! なのに、アークウィザードの大半は殆どが上級魔法で満足し、爆裂魔法に手を伸ばそうとしない愚か者ばかり。正直、心底失望していたよ」
彼は話をしながら、怪しげな笑みを浮かべて私を見つめる。その目はまるで、肉食獣が舌なめずりしているような雰囲気があった。そこが少し気味が悪かったが、今の私にとってはどうでもいい。
なぜなら、今までネタ魔法と馬鹿にされまくった爆裂魔法を、こんなにも褒めてくれる人が目の前にいるからだ。
「しかしめぐみん。君は魔法学校でスキルポイントを必死に貯め、苦労の果てに爆裂魔法を身に着けた。その若さで爆裂魔法を身に着けるまでスキルポイントを貯めるのはかなり苦労したはずなのに、君は諦めることなくその困難を乗り越えた。さらには、1発だけとはいえ爆裂魔法を放てる膨大な魔力量。俺が今まで見てきた中で、君は誰よりも最強のアークウィザードになれる素質がある! だからこそ、支援しまくって限界まで強くなる手伝いをしたいと思い、こうしてポーションや経験値を稼ぐための食材を持ってきたのだよ」
私は内心躍るように歓喜していた。もしこの場に人がいなければ、私は決めポーズを取りながら踊りまくっていたことだろう。彼は爆裂魔法をネタ魔法とバカにせず褒めちぎっている。一瞬、ご機嫌取りをするための嘘かとも思ったが、楽しそうに話す彼の言葉に嘘は感じられない。
そして、最強のアークウィザードになれる素質があるという言葉。間違いなく私の才能を理解してる人間だ!
「素晴らしいです! まさか、爆裂魔法の偉大さを理解してくれる人が現れるとは! それに、こんなに沢山のポーションや食材を用意してくれるなんて」
「タダというわけじゃないよ。君にはやってもらうことがある。言っただろ。これは取引だって」
その言葉に、冷水をぶっかけられたかのごとく、一気に現実に引き戻された。確かにそう言っていた。危なかった。危うくただで貰えると勘違いするところでした。
「そ、そうでしたね……あの。まさかとは思いますが、これを使ったら、あなたと戦わなくてはならないとかですか?」
「だから、今は戦わないって言ってるだろ。強くなる前の獲物を潰すことほど、つまらないものはない。取引内容について説明しよう。俺は王都から盗んだ食材やポーションを優先的に君に与え、資金も出来る限り用意する」
そして、彼は3つ目の箱の蓋を開ける。そこには大量の札束と金貨、更には綺麗な宝石も大量に入っていた。
「ざっと1億エリス。君を支援するために用意したものだ。何を買おうと、どんなことに使おうと君の自由。もしこれでも足りないというののなら、3倍の金額まで追加で用意することも出来る」
「つまり……合計で4億エリスまで使える? わ、私は一体なにをすればばばば」
「落ち着け。そんなにビビらなくて良い。やってもらうことは簡単だ。君が爆裂魔法を極め、最強のアークウィザードになったと俺が判断した時、命を賭けた殺し合いをしてもらう。それが、支援を受ける条件だ。とはいえ、すぐに殺し合いをするわけじゃないから安心してくれ。どんなに早くても、数年後くらい先の話になるだろうからね」
彼の言葉に、今度は別の意味で唖然とし、さっきまでの喜びや驚きは一瞬で恐怖へと変わった。
「こ、殺し合い……ですか?」
「ああ。この里でやってるような模擬戦もどきとは違う。正真正銘、命を賭けた殺し合いだ」
「え、えっと……その、私は。人を殺すのは流石に」
爆裂魔法を褒めてくれた彼の言葉は嬉しかったし、支援もとても欲しいが、その見返りが殺し合いとなるて、流石の私も及び腰になってしまった。
殺す? 殺される? 私が未来で彼と殺し合う? い、いいいくらなんでもそれはあまりにもきつすぎます。もし負けたら死んでしまいますし、勝ったとしても殺してしまう。そんなのは嫌です。
とはいえ支援は欲しいし、彼の目が提案を断るなと急かしてるように感じてしまって、なんとか勇気を振り絞って了承を受けようとする。
「どうした? 流石に人を殺すのは遠慮したいか?」
「くっ……わ……わか……分かり……分かかかか……えっと。あの」
しかし、肝心なところで言葉が出てこない。この取引を受け入れ、いずれ来るかもしれない彼を殺す未来。あるいは彼に殺される未来を想像して怖くなってしまい、言葉が出せなかった。
「う⋯⋯うううう⋯⋯うけ⋯⋯うけけ」
駄目だ。呂律がまわらない。彼が失望したかのような目で見てる。いやだ。せっかく、こんなにも素晴らしいプレゼント我目の前にあるというのに。
「……今日は決められそうにないな」
「ま、待ってください! 後少しで勇気が入りますから! もう少し待ってください!」
「落ち着け。別に今日決めなかったからと言って、取引を反故にするつもりはない。俺も色々やることがあるし、しばらくはここに滞在するつもりだ」
彼はメモ帳を取り出し、日付を確認する。
「そうだね。2週間後までに答えを出してくれるとありがたい。それと今日用意した箱だが、君が取引を受けるにしろ断るにしろ、好きに使うと良い。これらは前金として用意したものだからね。どう使おうと君の自由だ。あとはこれだな」
彼は懐から青い水晶を取り出して渡してきた。
「この水晶に話しかければ、俺が里のどこにいても会話することができる。答えが決まったら話しかけてくれ。良い返事を期待してるよ。めぐみん。君は、俺が今まで見てきた中で最高峰の素質を持つアークウィザードだからね。君以上に劣情を煽ってくる紅魔族を、俺は他に知らない」
その言葉を最後に、彼は家を出ていった。私はしばらく唖然としており、水晶や彼の用意した箱、箱の中にある札束やポーション、食材を見ていた。
「……なんだか、とんでもないことになってしまいましたね」
これが、私と彼の出会いであり、アクセルの旅へ行く始まりとなる出来事でした。