この素晴らしい世界の強敵たち。興奮するじゃないか♥   作:あまねく世界のこのすば作者

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第4話 出発の前準備と邪神との再会

 めぐみんが、ルークとの取引を受け入れた翌朝。彼女はゆんゆんの家に向かった。

 

 Side めぐみん

 

「めぐみんがこっちに来るなんて珍しいね。何かあったの?」

 

ゆんゆんがそう言いながら、お茶と美味しそうな茶菓子を用意してくれた。

 

「ええ、ありましたよ。できれば、ゆんゆんには最初に伝えておこうと思いまして。私は明日、旅に出ます」

「……はい?」

「ですから、旅に出るのです。明日」

「早っ!? 急過ぎない!? もうちょっとゆっくりしなさいよ、クラスメイトにお別れだってあるでしょうに!」

 

 ちっとも早過ぎない。むしろ、今までよく待ったものだ。本当なら、今すぐにでも里を飛び出して冒険したいぐらいだが、色々と準備もあるし、こめっこの事もあるのでそうもいかない。

 

「旅立ちは明日の朝です。お別れはまあいいでしょう、紅魔族は孤高の存在です。それでも、縁があればまたどこかで会えるでしょうしね」

「何言ってんの、ちょっと待ちなさいよ! ていうかめぐみん。あなた、アルカンレティアまでのテレポート代はどう捻出したの。まさかとは思うけど、ルークさんとの取引を受けたんじゃ」

「流石はゆんゆん。耳が早いですね。その通り! 私めぐみんは、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ルークと取引をしたのです。アルカンレティアまでのテレポート代は、彼の王族の権限を使わせてもらってタダにしてもらいました。しかも、アルカンレティアで泊まるための宿もタダになるとか。おまけに資金は1億エリスもある上にスキルアップポーションも経験値を得られる食材も豊富。いやー、我ながら良い取引をしたものです」

「良いわけないでしょ! めぐみんはバカなの? おたんこなすなの? だから大きくならないの!?」

「おい誰の胸が真っ平らなのかよく聞こうじゃないか」

「胸が真っ平らは言ってない! 身長のことを言ったの!」

「同じですよ私にとっては! 村長の娘であるゆんゆんには分かりませんよね。私のような貧乏人の気持ちなんて! 自分だけこんなに大きくなって!」

「ちょっと! 胸を叩かないでよ!? 八つ当たりしないでよー!」

 

 恨みと殺意と憎しみと怨嗟の思いを込め、ゆんゆんの胸を何度も叩きまくる中、彼女は無理やり突き放し、真面目な顔をして質問してくる。

 

「話を戻すけど……本当に良いの? 知ってるんだよ。めぐみんとルークさんの取引内容のこと。もし殺し合いしてめぐみんが殺されたりしたら」

「ご安心を。私はルークより遥かに強くなり、彼の生殺与奪の権利を余裕で握れるようになると決めたのです。そうすれば彼を殺す必要もありませんし、殺されることもありません。私たち一家は美味しい所だけしゃぶり尽くせる。実に良い取引と思いませんか?」

「簡単に言うけど、ルークさんの実力分かってるの? 紅魔族の中で彼に勝った人は1人もいない。昨日、ぶっころりーさんが勝負を挑んだけど完敗した。いくらスキルアップポーションや食材の恩恵があるとはいえ」

「分かってますよ。彼は本当に強い。生半可な鍛え方をしても瞬殺されるだけでしょう。しかし、勝てば私は美味しい所だけしゃぶりつくし、家族に楽をさせられる。こんなにも素晴らしい取引は受けないと損でしょう!」

 

 確かに、ルークの実力がとてつもないことは、昨日のアーネスをボコボコにしたところからもよくわかる。今の私では、運よく爆裂魔法を当てられたとしても絶対に倒せない。しかし家族を楽させるため、そして、あの人に素晴らしい爆裂魔法を身につけたのだと見せるためにも、諦めるわけには行かないのです。

 ゆんゆんは私の言葉を聞いても納得はしてない様子で、難しい顔をしています。

 

「……めぐみんが良いならそれで良いけど。本当にいいの? いざ本当に殺し合いが始まっても後悔しない? 本当に大丈夫なの? 辛いことがあったら何でも言って良いんだよ。無理しなくて良いんだよ!」

「いちいち心配しすぎなんですよ! あなたは私のお母さんですか!」

「ライバルだよ! 心配するのは仕方ないでしょ。あのルークさんと個人的な取引結んだって聞いたら誰だって心配するよ。昨日、あるえが彼に変な薬打ち込まれて暴走したのも知ってるでしょ」

 

 当たり前です。聞いたときは、ルークはマジで頭おかしいのかと思いましたよ。しかも、薬は王城から盗んできた物を改造したものだとか。彼は己の欲望のためなら、法なんざ平気で破るやべー奴なんだなぁと改めて思い知らされましたよ。

 

「それに……私も彼に酷いことされたし」

 

 彼女は遠い目をしながら家の天井を見る。そこは大穴が空いて空が見えており、木板を複数使って急ごしらえで塞がれていた。

 さらには彼女の家の中。何かで燃やしたような跡や何かで斬ったような跡が無数についており、まるでボロ屋である。さらには人1人余裕で通れそうな穴が開けられており、そこも木板を使って塞がれている。

 なぜ家がこんな惨状になってるのかと言うと、4日前、ルークがこの家にやってきてゆんゆんに薬を投与したらしい。そして薬の副作用で暴走した彼女と戦い、家をめちゃくちゃに破壊したのだとか。おかげで酷い状態ではあるが、これでもかなり直った方らしく、直る前は家全てが瓦礫の山になっていて、服も殆ど燃やされていたんだとか。

 

「絶対に無理はしないでね。何かあったら私に言って。めぐみん1人じゃ無理でも、紅魔の里皆が力を合わせれば、きっと何とかなるから!」

「本当に心配性ですね。まあ……どうしようもなくなったら相談しますよ」

「ちゃんと相談してよ。約束だからね!」

「そんなに何回も念押しされなくても分かりましたから……全く。ライバルをそこまで心配する人など聞いたことありませんよ」

「ライバルだから心配するの。あと、今から皆に声掛けてくるから、このままフラッと出ていったりしたら許さないからね! はい、このお菓子全部あげるから、食べながら待ってて!」

 

 ゆんゆんは、そう言いながらどこかへ駆け出していき、私は待ちぼうけをくらってしまった。

 

「そういえば、ルークは今どこにいるのでしょう。果たし状が来たとか何とか言ってましたけど」

 

 

 

 

 

 里から遠く離れた平原にて。

 

 ルークは1枚の紙を持って相手を待っていた。持ってる紙は果たし状であり、内容は、指定した場所にて殺し合いをしようというもの。故に、彼は指定された場所であるこの平原にやってきたのだ。

 

「くふふふふ。良い緊張感だ。それにこの静けさ。来るやつは只者ではないな」

 

 彼のいる平原は、平時ならモンスターたちが大量に湧く場所として有名であり、1歩歩けば10体のモンスターが遅い来るとも言われているほど。しかし、今はモンスターの影1つ見えない。本来ならあり得ない光景だが、彼はなぜそんなことが起きてるのか、原因を理解していた。

 

「圧倒的な強者の気配に、付近のモンスターたちが怯えて隠れている。しかもここまで徹底して姿や気配を隠してるとなると、相当な強者ということだ。くふふふふ。さあ、どんな怪物なのか確かめようじゃないか。アイニ!」

 

 彼は体長10メートル以上の炎の大蛇を召喚する。召喚された蛇は手加減抜きの強力な火炎弾を背後にいる何者かに放ちつ。火炎弾は着弾と同時に大爆発を起こし、地面を深くえぐりながら焼き尽くしていく。その強烈な爆風は彼にも襲い来るが、蛇が包み込むように守っていたため、無傷だった。

 

「誰だい、君? どう考えても人間じゃないね。人間より上位にいるような圧倒的なオーラと気配。もしかして、神や悪魔の類だったりするのかな?」

 

 ルークは愉快そうに笑いながら聞いた。彼の瞳に映るのは、爆心地の中心にいる1人の人物。アイニの攻撃で地面は深く抉れていたが、その人物の中心だけは何もなかったかのように無事であった。魔法使いのようなローブを身に纏い、胸の部分が大きく膨らんでいる。フードを被ってるため顔は見えないが、その見た目からして女性だということは分かった。

 何者なのかは不明だが、彼にとってそこはどうでもいい。重要なのは、その女は、アイニが放った全力の攻撃を無傷で受け切ったという事。彼の心は大きく高鳴り、久しぶりの強者に出会えたことに喜びを感じてた。

一方、女の方は彼の質問に何も答えず、冷めきった雰囲気を出している。

 

「ダンマリかい? 寂しい女だなあ。礼儀を知らない者は嫌われるよ」

「あなただけには、礼儀についてどうこう言われたくないわね。蛇遣い」

 

 風でフードがずれ、その顔が露わになった。赤い髪のショートヘアー、額にあるのは赤い宝玉のようなアザ、凛とした黄色の瞳。その姿を見て、彼は目を見開いて動揺していた。

 

「ウォルバク!? 君がここにいるということは」

 

 動揺する彼に向け、ウォルバクと呼ばれた女性は手を突き出した。すると彼の周囲に、赤い魔法陣が3つ出現する。魔法陣の中心には膨大な魔力が圧縮された光があり、その魔力が大地を揺らしていく。

 

「多段式爆裂魔法だと!? アイニ!」

「女誑しに天罰を。トリニティ・エクスプロージョン」

 

 蛇が彼を包み込むように覆い、炎のバリアを周囲に展開して守りに入った直後、輝ける光が昼間の空を赤く染め上げる。吹き荒れる爆炎と衝撃波は、先ほどアイニが放った攻撃を遥かに凌駕し、地面を大きく抉り取り、遠く離れた場所にある木々も、攻撃の余波で根こそぎ灰になって消し飛ばされていく。

 

 攻撃が終わって煙が晴れると、そこは凄惨なことになっていた。爆心地はまるで、巨大隕石がいくつも落ちてきたかのように大きく、深く抉られており、その大きさは小さな村1つならすっぽり入ってしまいそうなほどに巨大で、アイニの作った攻撃の跡も飲み込まれ、どこにあるのか分からない。

爆心地の大半はガラス化しており、ガラス化してない場所も黒焦げになって草木1本も存在していない。

 

 攻撃をした女性は空高く浮遊して避難しており、爆心地の中心を見ている。そこには、ボロボロになったルークの姿があった。

 

 全身や顔が焼け爛れ、両足は膝から下が消し飛んでいる。両腕は不自然な方向に折れ曲がってるし、無事な骨は1本も残っていない。呼吸することもままならず、口から血が溢れ出している。 それだけのダメージを受けながら、彼は幸せそうに、血を吐きながら笑っていた。

 

「げほっ……は、はは……あははははははは♡!! 最高だよウォルバク。がほっ、まさか……こんな素晴らしい攻撃を味わえるとは思いもしなかった。多段式の爆裂魔法なんて初めて見たよ。こんな攻撃を味わえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ。あははははははは♡!!」

 

 高笑いする彼を、女性は呆れたように見つめながらゆっくりと彼の近くに降り、回復魔法をかけて損傷した部分を回復させていく。

 

「少しは気が晴れたかしら。蛇遣い」

「まあね。今までにない最高の気分だ。興奮しすぎて死ぬことも出来ないよ♡ それにしてもウォルバク。この感じを見るに、全盛期の力を取り戻したみたいだね」

「全盛期以上よ。どこぞの誰かさんが、私のことを研究しまくって、色んなポーションや食材を与え、最後は2年間も培養槽に閉じ込めてくれたから。1年前に培養槽から出てきたのだけど、あなたの痕跡を辿るのは骨が折れたわ」

 

 ウォルバク。彼女はかつて、紅魔の里の邪神の墓という場所に封印されていた存在であり、怠惰と暴虐を司る邪神である。

 

 7年前、幼いめぐみんが封印を解いたために復活したのだが、その際に女神と魔獣の2つに分離した。そして、分離したことで暴走した魔獣がめぐみんを襲おうとした所を止めて瀕死に追い込み、魔獣が危害を加えないように自身の手で再封印し、その後は力を蓄えるために里を去った。

 

 そして3年前。各地を放浪していたウォルバクは、強者を追い求めて放浪していたルークと遭遇。彼は彼女の圧倒的な強さに魅せられて喧嘩を売り、彼女も嫌々ながら応戦し、出来るだけ殺さないように努めながら彼と戦っていた。しかしそんな中、彼に自身の力の半分が失われてることを看破された。

 

『くふふふふふふ。やめだやめだ。こんなにも楽しい相手の全力を見れずに終わるなんて勿体なさすぎる。君が全盛期の力を取り戻せるように協力しようじゃないか』

『……あの、協力してくれるのはありがたいけど、私は魔王軍幹部なのよ? つまりは人類の敵のような存在。そんなのを助けるのは良くないと思うけど』

『関係ないね。俺の最優先事項は、命を賭けた強者との戦いを楽しむこと。最高の戦いを味わうためなら、相手が神だろうと悪魔だろうと喜んで協力してあげるよ』

 

 そして、半ば強引に彼女は彼に連れられ、研究対象にされ、軽い喧嘩をして彼が勝手に楽しんだり、経験値を大量に得られる高級食材や王族しか使えないような超高級ポーションをふんだんに摂取したり、挙句の果てには、彼の開発した培養槽の中で2年間、強制的に眠らされるなどした。しかし、その培養槽のおかげで、今の彼女は半身を取り戻してないのにも関わらず、全盛期以上の力を取り戻していたのだ。

 

「懐かしいねえ。あの頃もとても楽しかった。にしても、君がこんな果たし状を送ってまで呼び出したのは、全盛期の力を取り戻したということをアピールするためかい?」

「4分の1はそれで正解よ」

「ほお。じゃあ、あと3つ理由があるということかな?」

「まあね。1つは、あなたの退屈しのぎにちょうど良いと思って。もう1つは私以外の女に現を抜かし、可愛い弟子を誑かして、その子が住む故郷に迷惑をかけてるお仕置きをするため」

「⋯⋯へえ。君に弟子がいた事も驚きだが、そんな独占欲の強い女のような言葉を使うとは思わなかったよ。意外と嫉妬深いんだね」

「そりゃあ、長い間共に旅してきた男が他の女に夢中になってるのを見るのは、私としても面白くないもの。しかも、調べてみたら紅魔の里でめちゃくちゃやってるみたいだから、ついお仕置きしたくなって」

「くふふふ。それはまた愉快な理由だ。で? 最後の1つは一体何かな?」

「取引の代価を支払いに来たのよ。近い内に、色んな奴らが動き出すみたいだから」

 

 その言葉に、ルークは目を大きく見開いて、楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「ほお! それは素晴らしい理由じゃないか。ついにあいつらが動き出す⋯⋯いいねぇ。興奮してくるよ♡」

 

彼女は瞳をギラつかせる彼に呆れながら、筒のように丸めた紙束を渡す。

 

「そこれは、私が知る限りの幹部たちの情報。あなたが楽しむためにたっぷり活用してちょうだい」

 

2人はある取引をしていた。取引内容は、『ウォルバクがルークの研究成果によって全盛期の力を取り戻した時、代価として魔王軍幹部たちの情報を与える事』

 

 彼女としては、まさか本当に力を取り戻せるとは思っておらず、問題ないかと思って安請け合いした部分も大いにあった。しかし、その他に恩を返したいという理由もあった。色々研究されながらも彼の世話になっていたことは事実であり、物資の工面してくれたり、彼の好き勝手な権力乱用に助けられてることも多かったため、彼女に断る選択肢はなかったのだ。

 

 ルークはと言うと、彼女から渡された紙を獣のようにギラついた目で見ており、遊具で遊ぶ子供のように輝かせていた。

 

「なるほど。ベルディアが近い内にアクセルに来るのか。これは良い情報を得られた。感謝するよ。ウォルバク。お礼のして、全ての魔王軍幹部を倒した後は、君を食い殺してあげよう」

「それがお礼になるのはあなたのような戦闘狂ぐらいよ。ま、楽しみにしてるわ。あなたがどこまでやれるのか。もし、全ての魔王軍幹部を倒せたなら、その時は、私が本気で相手してあげる。私が本気になったら、このレベルの攻撃はポンポン飛んでくるから気をつけてね」

 

 そう言った後、彼女は彼を万全の状態に回復させた後、テレポートで姿を消した。彼はそれを見届けながら、紙を見て笑みを浮かべる。

 

「くふ……くふふふふふ。そうか。幹部が動くのか。あーはっはははははは♡! あははははは♡!! これは最高の乱闘パーティーになりそうじゃないか。あははははははははははは♡!!」

 

 爆心地の中心。そこには目を見開き、狂ったように笑い続ける彼の声が響いていた。

 

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