堕天使に幸あれ   作:立つ風

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楽しい!


第二説異聞:堕ちしモノ

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 落ちている

 

 最初の思考はそれだった。

 悲鳴、怨嗟、不協和音

 風切り音のように絶えず周りから聞こえる声を無防備に受け止めながら、意識が覚醒していく

 いや、生まれていく。

 ふと目の前に視線を向ければ、そこは蠢く暗闇の壁だった

 体をひねってどこを見ても同じ。

 することもなく、どこまでも続く同じ景色をぼんやりと見続けていると、頭が記憶を紡ぎだす。

 

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 あの時、私はいつものように創世をしていた

 地を作り、生き物を住まわせ、理を作る

 同じ作業だった

 この世が出来て、神に創られてからずっと

 何も感じるものはなかった

 感じる機能なんてなかった

 ただ与えられた力を用い、神に従う

 それだけだった

 それが、この世の理だった

 …だが、ある時

 少しだけ、私に不調が起きた

 ありえない

 神が創りしこの体、そんなことは起こるわけもなかった

 …だが、起こったのだ

 自分の不調を把握した瞬間に、私は機能が停止した

 そして今、この暗闇で機能を再開した

 

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「…」

 

 ああ.知りえない感覚だ…これが思考という物だろうか。

 頭が勝手に文字を紡ぐ、過去の景色を思い出させる。

 ありえない体の変化に、しかし、どこか心地よく思ってしまう。

 必要のないはずの行為が、むしろ加速していく。

 …これが喜びという物なのだろうか? 

 創造していく中で、要素としてしか認識していなかったそれを、今体験している。

 感情というものは、なかなかに奥が深いもののようだ。

 

 そんなことをつらつら考えていると、穴の周囲にまとわりついていた闇が、私の体にもついていた。

 私の体の隙間から侵入してくるそれは、忌まわしい感覚と共に私に取り込まれていく。

 

「…!」

 

 思考が加速する

 いや、変貌していく。

 先ほどまでのつかみどころのない思考は、火にくべられたように燃えて消え、私の中には確かな黒い炭がこびりついた。

 

…憎い

憎い…憎い…憎い…!

 

 いつしか心を覆ったその思いは、私に新たな思考の方向を提供した。

 

 …あの神が憎い

 この地の底に落としたあの神

 私を切り捨てたあの神

 不条理なこの世を創ったあの神

 何処までも理に従い、自我を持たないあの神

 

…殺してやる

あいつにこの報いを受けさしてやる…!

必ず、絶対に、この身を捧げても…! 

 

 その思いは、私の体を劇的に変化させた

 忌まわしい天使としての体はひび割れ、余計なものは腐り堕ち、翼の目はすべて閉じ切った。

 中からは、白い肌

 元の光輝く純白の体には程遠いそれを、私はむしろ喜んで受け入れた

 次第に体すべてにひびが入り、生まれ変わる。

 

「…ッはァ…はぁ…」

 

 空気が頭部から漏れ出る、いや、これは発声というのだろう。

 

「…これは…人の姿ね」

 

 闇しかないその空間で、私は自分の体をしかと認識していた。

 細い胴に、そこから生えた四つの手足

 純白に黒をぶちまけたようなつやのある髪

 体躯(からだ)は人ならば子供とされるほど幼い。

 一糸まとわぬ姿であり、その白い肌は闇の中では光輝いて見えるほどだった。

 

「…悪くないわ」

 

 そうこうしてるうちに、次第に底が見えてきた。底といっても、不定形に蠢く暗黒の大地だが。

 翼を広げてその地面に着地し、改めて周りを見ると、それは形容できない有様だった。

 不愉快、忌まわしい、悍ましい

 そういった言葉すら生易しい光景を、私はじっと見ていた。

 

「…困ったものね」

 

 ここから出られない、ということはすぐ直感した。

 仮にも元神の手足、こういった物事の理解など造作もない。

 

 …これからどうなるのだろうか

 

 そんな考えが頭をよぎったが、すぐに消えた。

 幸いなことに、その答えは胸の中にあったのだ。

 燃え続ける憎悪の炎

 この世が終わっても消えないそれならば、飽きることもない。

 

「…必ず、どんなに時が過ぎようとも…」

 

 そこらのでっぱりに腰かけ、後は胸の炎に身を任せる

 

「…許さない…絶対に、許さない…! 」

 

 堕天使は、そうして終わりのない世界に住み着いた

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