「佐々木さん」
「なんでしょうか」
「倉庫って名前がついてるところに、美術館みたいな空間があったらどう思いますか?」
水面市の中で一番大きなカードショップ、『ダイソーコ水面支店』。
遊陽はコンシェルジュの佐々木の案内で、この店の『ハイスコア・ルーム』に入っていた。
「館長の趣味なんだろうなぁ。と思うだけですよ」
「保管する空間にわざわざ見せるための要素を与えるのも趣味か。そんなもんですかね?」
「そんなものですよ」
佐々木は頷いた。
「それにしても、一階にもショーケースはありますけど、三階にこんな空間があるんですね」
「ええ、主に、『在庫があるとバレるとめんどくさいカード』が、こうしたハイスコア・ルームに置かれています」
「バレるとめんどくさいカード?」
「はい。カード開発を研究していると起こるんですよ。『作れてしまったけど需要が見込めないカード』や、『希少素材を使った、再現性のない一点物』と言った形です」
「……確かに、『量産できないのか』って急に言われても困りそうだな。とは思います」
「そういうことです」
中を歩く。
静かな雰囲気の場所。
その中を、遊陽は佐々木と歩く。
「『へリオ・スライサー』をかっこよくするカード。でしたね」
「はい。相手をぶっ倒すっていうより、俺は、エースをもっと、輝かせたいんで」
展示されているカードたちを見る。
「……なんか、強いけど、違うな」
「多くのカードはそうですよ」
「あと、なんか、七桁するんだけど」
値段が大体、100万を超えている。
「プレミアム特典で、無料枠がありますよ」
「……えっと、レコックス・コーポレーションが代わりに払ってくれるってことで良いんですよね」
「その通りです。プレミアムスコアを持っている遊陽様は特別ですから」
「……そういえば、170万のDホイールに、フルオプションを付けてもらえるって話を聞いたばかりか。それも『枠』の範囲内と」
「そうなります」
「……プレミアムスコアって、何なんだろうな」
「そこはトップシークレットです」
「だよねー……」
カードたちをチラチラ見ている。
ただ、イラストを見て、効果を読んで、なんだか、ピピッと来るものがない。
「……そういえば、渇明さんって、こういうところに行かないって言ってました」
「ほう、強馬渇明様が?」
「エースモンスターはデュエルディスクから出てきて、あとは全部パックで当てたって。高額カードとか、希少カードのシングル買いをしたことがないって言ってた」
メインデッキに入るグリーディモンスターたち。
エクストラデッキに入る融合モンスター。
デッキの格となるであろう『満たされぬ強欲な壺』と、『グリーディ・フュージョン』など。
これらは全て、渇明はパックで当てたということになる。
「それで、『イベント殿堂入り』とは……デュエルディスクから生成されたカードがそれほどの強さだったということかもしれませんね」
「まぁそれは実際ある。何回もデュエルしてるけど、グリーディアイズが出てきたら空気が変わるし、何度見ても『どうしたらいいんだろう』って思うんだよなアレ」
屋上のデュエルだが、遊陽の様子からして、何度もやっているのだろう。
そのたびにボコボコにされているし、エースが出てくるたびに、どうすればいいのかと毎度迷わされる。
ただ、それでも。
遊陽は、渇明とのデュエルを続けている。
「まぁ、ストレージコーナーにこもって、一枚30円のカードを探すのはよくやるみたいですけど」
「ほう?」
「面白いカードがいろいろあるからって……まぁ、何のカードを買ったのかは、見せてもらってないですけど」
「そうですか……」
カードを見つつ話す遊陽。
そんな彼の視線が。
一つのカードで止まった。
「……これ、なんだろう」
カードを見る。
★
プロミネンス・グランドゾーン
フィールド魔法
このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの戦士族Xモンスターの攻撃力は、装備している「プロミネンス」Xモンスターカード1枚につき、600ポイントアップする。
②:自分フィールドの戦士族Xモンスター1体を対象にして発動できる。自分フィールドの「プロミネンス」Xモンスターを任意の数、装備させる。
③:変身中、自分フィールドに「プロミネンスオリオン」Xモンスターカードが3種類以上存在する場合、自分フィールドのカードは戦闘・効果で破壊されず、自分は戦闘でダメージを受けない。
★
「……ブレイブゾーンと同類のカードかな」
「そのようですね」
「プロミネンスを装備した戦士族エクシーズの攻撃力が上がるのは、ブレイブゾーンと同じで一枚につき600か。ただ……」
「プロミネンスオリオン、というカードは聞いたことがありませんね」
佐々木はタブレットを取り出して検索しはじめた。
「……確認したところ、『プロミネンスオリオン』エクシーズをフィールドに要求するカード。というものは存在しますが、『プロミネンスオリオン』エクシーズそのものはまだ存在しないようです」
「そんなことあるんですか?」
「ええ、備考欄に、『このカードを作った開発室ですら、プロミネンスオリオンカードを製造できなかった』とあります」
「……確かに、一階に置かれてたら、『プロミネンスオリオンカードを少しでも早く製造しろ』って言われそうですね」
「そういう理由でここにあるというわけですね」
一階には置けない明確な理由があるカードのようだ。
「それにしても、完全破壊耐性に加えて、自分が戦闘ダメージも受けなくなるのか。これが使えたら、バトル・フュージョンで急にリーサルが飛んでくることもないってわけか」
「私なら魔法カードを手札に戻すカードを使って、グランドゾーンを剥がしてからバトル・フュージョンを叩き込みますが」
「意外とカードって隙があるんだな……」
「完全耐性ではありませんからね」
少しの間、ジーッとカードを見る。
「……これにします」
「わかりました。では、私は今後、プロミネンスオリオンを指定するカードがあれば、確保しておきますね」
「ありがとうございます」
「ただ、これは私の勘ですが……プロミネンスオリオンカードそのものを手に入れるのは、至難の業と考えています」
「俺も、なんかそう思います。デュエリストとしての勘ですけど」
というわけで、『プロミネンス・グランドゾーン』をプレミアム枠で手に入れて、ハイスコア・ルームを後にした。
★
部屋を出た後、佐々木と別れて、遊陽は建物の一階に降りてきた。
平日の夕方ではあるが、まだまだ人は多い。
「あ、雑誌……」
フロアの隅の方に本のスペースがあり、『月刊みなもデュエル』とある。
地元の企業が発行している地方雑誌だろう。
「ランダムのパックが一つ付いてるのか」
表紙には、平日は毎日見る金髪の美少女が写っている。
「……」
ページがテープで止められている。
とりあえず、カウンターに持っていって、会計を済ませた。
そのまま、近くの椅子に座って、雑誌を開く。
表紙に歩佳が写っているくらいだから、中も、しっかり特集が組まれている。
いろいろ書かれているが、序盤に載っているのは基本情報と言ったところか。
二年前。中学二年のころにライダーカードを手に入れて、そこから戦い続けていること。
ほぼ負けなしで、怪人から水面市を守り、企業対抗戦では空閑ソーラーの仮面ライダーとして会社を守っていること。
会社が作った様々な砲台を使い分けて戦うデュエリストであるということ。
そして……。
『エースモンスターはありますか?』
『んー! みんな頼りになるから決められないかな!』
『デュエルは、楽しいですか?』
『とても楽しいです! 会社のみんながカードを作ってくれて、いつも全力でデュエルしてます!』
そんな、質問コーナーが載っている。
「……エースがいないデッキ。か」
遊陽にとってのヘリオ・スライサー。
そういうモンスターが歩佳にはいないと、雑誌に書かれている。
「……こんなに勝ってるほど、強いのに、いないってことあるのかな」
少し、遊陽の胸が、ざわついた気がした。
その時だった。
「ねえ青葉ちゃん! これ、この前の怪人が避けてたやつだよね!」
遊陽の耳に、聞き覚えがある声が届いた。
一階のショーケース。
そこにも、高額カードが入っている。
歩佳は青葉を連れて、ショーケースを指さしていた。
「トリビュート・ボックス製で一番頑丈なやつみたい」
「へぇ、それだけ信頼されてるって凄いね」
「特殊ガラスも凄いけど、
「えっ、この金具が!?」
ショーケースと聞けば、基本的に思い浮かぶのは『バールのようなものでガラスをぶち破る光景』だ。
ただ、このケースに関しては、頑丈なのは蝶番らしい。
「うん。まぁ、ガラスが頑丈でも、ムリヤリ引っ張って蝶番が外れるなら、あんまり意味ないからね」
「それはそっか!」
怪人の腕力は常人よりも強い。
それを想定したものを作らないと、簡単に破られるということだろう。
「空閑ソーラーの玄関ロビーにもあったよ? 会社の製品が入ってた」
「知らんかった!」
「セキュリティ意識どうなってんの?」
「私の胸くらい柔らかいね! いっでぇ!」
脳天に手刀が叩き込まれた。
「もう一発入れたろか?」
「ごめんなさい。真面目にやります……」
いつも以上に表情が消えた青葉に謝る歩佳。
「……」
遊陽は疲れてきた。
何もしてないけど疲れてきた。
「……あ、遊陽君!」
視線に気が付いたのだろうか。歩佳がこちらを向いて、走ってきた。
「遊陽君もいたんだね。何買ったの?」
「雑誌」
「おっ、私が載ってるやつだ!」
目をキラキラさせる歩佳。
……遊陽は、『パックが付いてるから』とは、口が裂けても言わないことにした。
「……」
青葉がジト目になる。
遊陽は、『なんか、バレたかもしれん』と思いつつも、口を閉じた。
まぁ、歩佳にバレなければ問題ないのである。多分。
「何か気になるところってある?」
「ん? ああ……」
遊陽は内容を思い出して……。
「エースがいないって書かれてたところかな」
ポツリと、口から漏れた。
その、次の瞬間だった。
『怪人出現! 怪人出現! 道路に怪人が出現しました。付近のデュエルディスクを持っている方は、直ちに電源を切って退避してください!』
甲高い警告音が響いた。
「道路だね! 青葉ちゃん。ちょっと行ってくる!」
「あ、歩佳……」
歩佳は走り出して、店から出ていった。
青葉は追いかけようとして、ふと、遊陽を見る。
「……」
その、遊陽は。
信じられないものを見たような、そんな顔になっていた。
「……遊陽君?」
「……チッ」
遊陽は舌打ちすると、椅子から立ち上がって、店から出ていった。
「……はぁ」
青葉はため息をつくと、歩佳と遊陽を追って走り始めた。
★
怪人に襲われると、スコアを食われる。
そんな話が浸透している世の中だ。
怪人の警報が鳴れば、人はデュエルディスクの電源を切って、そこから離れる。
歩佳がたどり着いたとき、人はすでに、ほとんどいなくなっていた。
「さあ、私の出番だ! ……怪人、どこ!?」
きょろきょろ見渡すが、怪人が見当たらない。
「警報がここからなってるんだから、ここで発見されて、誰かが鳴らしたはずなんだけど……」
うーん。うーんと唸る歩佳。
そんな、歩佳の背後から。
太ももに、何かが、近づいてきていた。
「むっ! 唐辛子スプレー攻撃!」
ブシャアアアッ!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ライダーキックをクリティカルで叩きこまれてもそこまで声は出ない。と思わせるほどの悲鳴が聞こえた。
緑色の体をした、舌が長く、どこか半透明な体を持つ怪人が、伸ばした舌を痙攣させている。
「よし、お前が怪人だね!」
「血の色は何色だテメェ!」
「怪人相手に遠慮なんてしないよ!」
歩佳はデュエルディスクを腕から外した。
……ちなみに。
「……」
「ねえ、遊陽君。大丈夫? もうすでに疲れたような顔になってるけど」
「気持ちはわかるよな」
「わかる」
近くまでたどり着いた遊陽と青葉は、10キロくらいマラソンした時くらいの倦怠感を感じていた。
そんなことを話している間に、歩佳はディスクを腰に当てる。
『DUEL DRIVER』
『Your name is……』
「変身!」
『KAMEN RIDER SOLAR!』
光のアーマーが出現し、それらが歩佳に装着されて、仮面ライダーになった。
「仮面ライダーソーラーか。面倒なことになったぜ」
「さあ、不思議な宝石でバチッとする魔法を使っちゃうよ!」
歩佳とカメレオン怪人の傍に、5枚のカードがホログラムで出現した。
「『サンライズ・コンストラクション』を発動。デッキから『サンライズ・バリケード』を手札に加えて、変身中だから特殊召喚!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
結晶の角柱が床に刺さって、そこから雷の柵がバチバチと生成される。
これで、カメレオンはその方向には逃げられない。
「バリケードの効果でデッキからフィールド魔法、『サンライズ・クリスタルヤード』を手札に! 発動! レベルが上がって、さらに魔法もサーチできる! 永続魔法、『サンライズ・パルスガン』をサーチして、発動!」
サンライズ・バリケード ☆1→2
周囲が少し明るくなる。
そして……ソーラーの右手に銃が出現。
「チッ、もう、武器を用意しやがったか」
「最低限のモンスターと武器の用意は最速で済ませるべきだからね!」
雷撃弾を銃口から放つ。
カメレオンは素早く回避した。
「ハッ! 俺は魔法カード、『ステルス・ブースター』を発動するぜ」
次の瞬間、カメレオンの体が消えた。
「消えた! ……っ!」
頭を下げる。
そこに、カメレオンの蹴りが通り過ぎた。
「なっ、何故分かった!?」
一度、擬態を解除したようだ。カメレオンが驚いている。
「まず、仮面ライダーのマスクの感知機能は結構優れてるんだよ」
「チッ」
「あと、隠してるけど呼吸が荒いよ?」
「お前のスプレーのせいだろうが! 舐めてんじゃねえぞクソガキがっ!」
「まぁとりあえず、手札から『サンライズ・フェンス』を特殊召喚!」
サンライズ・フェンス DEF1900 ☆3
「デッキから『サンライズ・ルーフトップ』を手札に、そのまま発動!」
サンライズ・バリケード ☆2→3
サンライズ・フェンス ☆3→4
「ルーフトップの変身中効果で、『雷の遠距離攻撃を拡散できる』よ!」
そのまま引き金を引く。
拡散された電撃弾がカメレオンを襲った。
逃げようとしても、拡散範囲から逃れられない。
「ぐっ、うおっ……」
「そりゃ!」
「ぐあっ!」
そのまま蹴りを入れて、カメレオンが背中から地面に墜落する。
「よし、ドロー!」
歩佳はカードをドローした。
「く、クソッ……」
カメレオンは起き上がった。
「永続魔法、『カメレオン・イントルーダー』を発動! 変身中なら、壁をすり抜けることができるぜ!」
「わおっ、そりゃ厄介だね」
歩佳は手札のモンスターを、フィールドに召喚した。
サンライズ・アサルトバリア ATK1000 ☆1
「アサルトバリアはチューナーモンスターだよ」
「なっ……」
「行くよ! 私はレベル3のバリケードと、レベル4のフェンスに、レベル1のアサルトバリアをチューニング!」
歩佳はエクストラデッキから、一枚のカードを掴んで……。
「……歩佳?」
「く、空閑ソーラーのご令嬢さんですか。生で戦っているところを見られるのは幸運ですね」
近くに、車が止まっていた。
怪人が暴れてもすぐに逃げられる距離。
ただ、後部座席から、空閑ソーラー社長の空閑義春と、まだ20代後半と思われる若い男性がこちらを見ている。
「……お父さんと、取引先の人……」
歩佳はエクストラデッキから、一枚のカードを取り出した。
「シンクロ召喚! レベル8、『サンライズ・レールガンナー』!」
サンライズ・レールガンナー ATK2800 ☆8
出現したのは、電磁砲を放つことができる、結晶を削り出して作った砲台だ。
「パルスガンは、自分フィールドのサンライズシンクロモンスターの武装データを再現できる」
「チッ、実質、レールガンがフィールドに2台あるようなものか!」
「そういうことだよ!」
「だが……そんな直線しか撃てねえ銃で、俺にあてられるかな!?」
カメレオンは再び透明になる。
「手札から、『サンライズ・バリケード』を特殊召喚!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
「デッキから『サンライズ・クリスタルヤード』を手札に加えて発動!」
サンライズ・レールガンナー ☆8→9
サンライズ・バリケード ☆1→2
「さらにデッキから、サンライズ魔法を手札に……ぐぇ」
伸ばされた舌が、歩佳の脇腹に直撃した。
だが、その舌を、歩佳は左手で掴んだ。
「ぐっ、は、放せ!」
「誰が! 私はデッキから魔法カード『サンライズ・マーカー』を手札に! そのまま発動!」
発動と同時に、パルスガンの銃口を、左手の先にある舌に向けて、引き金を引いた。
「チッ……ん?」
何かが付いたような気がするが、痛みはない。
「ハッ! だったらこうだ!」
「うわっ!?」
歩佳の体が持ち上げられる。
伸ばされた舌とはいえ、怪人のものだ。
その力は、人を持ち上げる程度は造作もない。
「擬態した俺をお前は見つけられない。俺を手から放せないだろう! このまま地面に叩きつけて――」
怪人がそういった時。
歩佳は、左手を舌から放した。
「えっ……」
そのまま、スイッチを押す。
『LETHAL PHASE』
サンライズ・レールガンナーと、サンライズ・パルスガンの銃口に、エネルギーがチャージされる。
「マーカーで丸見えだよ。あと……今なら君の後ろに、バリケードがある!」
「チッ!」
カメレオンがジャンプして、バリケードから離れようとした。
「遅い!」
チャージ完了。
引き金を引く。
レールガンナーとパルスガンから高エネルギー弾が放たれて、カメレオンに、一直線に向かった。
「ぐ、ぐああああああああああああっ!」
叫び声をあげて、弾丸をその身に受けた。
そのままの勢いでバリケードに激突し、それすらも破壊しながら後ろに吹っ飛んで、地面に墜落する。
カメレオン怪人は、動かなくなった。
★
「すごい! 素晴らしい! あれがレールガンナー。そしてパルスガン戦略ですか。生で見るのは迫力が違う!」
「ええ、これが、弊社の技術力です」
取引先の社員と思われる若い男性が感激している。
「まさか取引先の人とばったり遭遇なんてびっくりしたよ! どうせだから張りきっちゃった!」
笑顔の歩佳。
レールガンでカメレオンをぶち抜いたのは非常に痛快であり、実際、会社の技術力でレールガンナーが開発されたならば、確かなものだ。
その笑顔はいつも通りの朗らかで元気いっぱいなもの。
それを。
少し離れたところから、遊陽は見ていた。
「……あの笑顔に、嘘はないな。じゃあ……」
あの、レベル8のシンクロを行う時。
手の動きが、明らかに。
他のモンスターを出そうとして、それを辞めて、レールガンナーを出したかのような。
「あれは、一体……」
雑誌に書かれていたこと。
『エースモンスターはありますか?』
『んー! みんな頼りになるから決められないかな!』
そして……。
歩佳に気になるところを聞かれて、『エースモンスターがいないと書かれていたこと』と答えた時の……。
「人間ってあんなに、悲しそうに笑うものなのか?」
思うところはいろいろある。
ただ、遊陽は。
それ以上は歩佳に近づかず、そのまま離れていった。
★
「ふぅ、まさか、あんなタイミングで怪人が出てくるなんてねぇ」
「確かに、驚いた」
取引先との話を終えて、歩佳は、青葉と一緒に帰っていた。
デュエルディスクを操作して、エクストラデッキから、1枚のカードを抜き取る。
頭に宝石が付いた、小さなウサギのモンスター。
『サンライズ・コンバークル』
レベル8の、シンクロモンスター。
「さっきは、出せなくてごめんね。取引先の人がいたからさ」
「……」
「また、今度ね」
カードをエクストラデッキに戻した。
「……ねえ、歩佳」
「ん?」
「今日はゆっくり休んだ方がいい。あの場面のレールガンナーは、誤射したときに道路に出る被害が大きすぎてまともに撃てないし、脇腹だって無防備に攻撃が入ったはず」
「あはは、そりゃ、私だって無茶はしないよ」
「でも、相当な集中力だったはず。コンバークルならどうとでも――」
「フフッ、青葉ちゃん。いつも言ってるでしょ? 確かに……コンちゃんは、私のエースモンスターだよ。でも……仮面ライダーソーラーとして、空閑ソーラーのみんなが作ったカードを、活躍させたいんだよ」
レールガンナーを取り出す歩佳。
歩佳の笑顔は、取り繕ったものではなかった。
「コンちゃんと遊びたいけどさ。あの場で、お父さんと取引先の人が来ちゃったら、そりゃ、『怪人戦』でもレールガンナーたちが強いところ、見せないとね」
フフッと笑って、レールガンナーをエクストラデッキに戻した。
「さて、青葉ちゃん。ご飯食べよっか!」
★
「……」
安アパートで、遊陽はニュースを見ていた。
スマホの画面に載っているのは、先ほど、カメレオン怪人を倒した歩佳の情報。
そこに。
サンライズ・レールガンナーの文字はない。
「……そういえば、怪人を倒したニュースで、どうやって倒したのかを書いてる記事ってみたことないな。怪人の恐ろしさとか、仮面ライダーが倒さなかったらどういう被害が出てたとか、災害の報道みたい」
遊陽はスマホを机に置いて、天井を見つめる。
しばらくした後……。
「……ん? 俺、ポケットに何入れてたっけ……あ、雑誌についてたパックか。まだ開けてなかった」
パックを開封する。
5枚のカードが入っていて、どれも、使えないな。と思いつつ……。
最後のカードが……。
★
リスト・クロック
レベル1 光属性 機械族 ATK400 DEF400
通常・チューナー
かっこいい腕時計も、誰かが、時間に追われながら作っている。
人を白昼夢に誘うウサギの、安息の時はいずこへ。
★
「……ウサギ。か」
遊陽は、そう、呟いた。