月曜日の昼休み。
歩佳は青葉と話していた。
「ねえ、青葉ちゃん」
「どうしたの?」
「私、ちょっと株について勉強してるんだよ」
「ほう……」
土曜日、デッキ構築の会議で、『歩佳が怪人に勝つと報道後に空閑ソーラーの株がちょっと上がっている』と言った話の時に『株価って何?』といっていた。
ただ、会社の評判において株価は間違いなく重要である。
社長令嬢であり、これからも会社のために戦い、そして継いでいくことを考えるなら、勉強することはたくさんあるのだ。
「それで、空売りって、何?」
「……」
本を読んでもわからなかったのか? と思う反面、青葉としても、『初心者の直感に反する』ことは理解している。
「……構造の話より、例え話の方がいいかな」
「助かる!」
本を読んでもわからなかったのだ。構造についてあれこれ言っても仕方がないだろう。
「まず、私は『一週間後に返す』と約束して、歩佳からレアカードを1枚貸してもらう」
「ふむふむ」
「で、私はそれを中古店に売る。それはもう嬉しそうな表情で」
「人のものを何だと思ってるの!? ていうかその笑顔の情報っている!?」
借りたものを持って中古店という話に歩佳は驚愕した。
そして何故、嬉しそうに持っていくのか。
「で、1万円ゲット」
「そこそこのレアカードだね!?」
「しかし次の日に発売されたパックの中には、そのレアカードの天敵としか思えないカードが封入されていた」
「うごごごご」
「そして別のパックでは、そのレアカードが再録されている」
「ぐげげげげ……」
天敵の登場とカードの再録。
どちらも、カードの価値を低くする要因としては、よく知られた話だ。
「その結果、そのレアカードの値段は下がる」
「まぁ、下がるよね」
「その時点で、値下がりしたそのレアカードを5000円で買い戻す」
「おっ?」
「私は買い戻したレアカードを歩佳に返却する」
「と、いうことは?」
「私は、『来週に返す』という信用と、『そのカードが値下がりする』という予測だけで、5000円の儲けが出た。これが空売りのざっくりとした構造」
「……」
歩佳は数秒、停止した。
そして……。
「人の心あるんか!?」
「知らんな」
青葉はぶった切った。
「で、土曜日に良悟さんが言ってたでしょ? 歩佳が怪人を倒したら空閑ソーラーの株価が上がったって」
「そうだね」
「逆も起こりうる……というかこの業界だと珍しくないこととして、専属ライダーが怪人に負けたら、その会社の株価は下がる」
「そうだね」
「要するに、歩佳が怪人に負けると思ってる人がいて、空閑ソーラーの株を空売りして、歩佳が実際に負けたら、その人はウハウハになる」
「青葉ちゃんって本当に私の友達なの!?」
「友達」
「お、おぅ……」
即答されてちょっと気圧された歩佳。
「というか……株って、借りれるんだね! そしてそれを売っていいんだ!」
「1株ごとに一切の違いがないから、証券会社にいけば借りられる」
「てことは、証券会社が株をめっちゃ抱えてるってこと?」
「それもあるけど、株を多数持ってる人が、余ってる分を証券会社に貸して、証券会社から手数料を貰ってる」
「なぬぅ!? そこでもお金が発生してるの!?」
「その通り」
「……なんか、こう、直感に反する!」
「金融は初歩を超えたらこんなものだよ」
青葉は弁当の唐揚げを頬張った。
「……ちなみに、これで歩佳が怪人に勝った場合」
「おっ……え、どうなるの?」
「さっきのレアカードの例でいうと、売った次の日のパックに、そのカードとめっちゃ相性がいいカードが封入されていて、価格が上がる」
「そうなったら金額は上がるね」
「私がそのカードを買い戻そうと思った時に、15000円を払う必要が出てきた。それを買い戻そうとすると5000円も損する」
「なるほど!」
「何嬉しそうにしてんだボケ」
人の不幸は蜜の味。ではないが、そこに儲けを出そうとする人間は、当てが外れると大損するのだ。
「まぁ、カードの価値はそんな単純に変動するものじゃないけど、例え話としてはこんなものでしょ」
「ふーむ……要するに、専属ライダーを雇いましたって会社があっても、ライダーが弱そうだったら空売りされるってことだね」
「そういうこともある」
青葉は群堂炎示……仮面ライダーネストを思い出した。
あのクソガキ感。ライダーになったばかりのころは相当、調子に乗っていた可能性がある。
もちろん、『負ければいい』と『負けるかも』は別なので、そこで空売りするかどうかは直結しないが、『炎示を弱そうだと思った人』が空売りで自爆した可能性はある。
株の売買なので自己責任ではあるが。
「そこで怪人とか、企業対抗戦で他のライダーに勝ったら『ざまぁみやがれ!』ってなるんだね!」
「めちゃくちゃ空売りという概念が嫌いになったのはわかったけど、淘汰されていない以上は残る理由がある。ということで、そこも勉強しておくように」
「うごっ……」
明確に釘を刺された歩佳であった。
★
放課後。
「んああああっ……授業終わり!」
授業が終わって、歩佳は両手を上げて伸びをした。
それだけで、歩佳の大きな胸が少し揺れる。
周囲の男子生徒の視線が、ちょっと揺れた。
……なんとも罪深い少女ではあるが、これまでの言動を振り返ると、歩佳は『自分が可愛くてスタイルが良いこと』は自覚しているし、人をからかう時には利用するのだ。
それでいいのか。社長令嬢。
「青葉ちゃん。ちょっと買い食いしよう!」
「どこに?」
「『スパイシー・ホイール』ってキッチンカーがあるんだよ。ピザとかハンバーガーとか、唐揚げが売ってる」
「あ、知ってる。来てたんだ。行く」
「おお、いつもより乗り気だね……」
というわけで、その『スパイシー・ホイール』というキッチンカーがある場所に、二人で向かうことに。
「そういえば、渇明さんが名前に出してたような……行ってみるか」
遊陽も行ってみることにした。
★
「お、おお……」
スパイスたっぷりのピザを受け取って、歩佳は感激。
「ジューシー。しかもスパイスが効いてる。美味い」
青葉も唐揚げを買って、出来栄えに感動。
「フフッ、たくさん食べてね」
キッチンカーだが、以前、渇明と炎示がデュエルした広場を使っている。
なかなかの順番待ちとなっており、それだけ人気のようだ。
そして、その人気の一端だが……。
「
「はいはーい。直ぐに作るから、お母さんはお客さん篭絡しといてねー」
「適当な事言わないの」
スパイシー・ホイールを営業しているのは、
灼夜は、金髪を長く伸ばして、スタイル抜群で妖艶な雰囲気を放っている。
娘の刺喜は、そんな杓夜に似て美人であり、雰囲気は大人なのにどこか軽い印象だ。
美人の母娘が運営する、美味くて値段もそこそこのキッチンカー。
こう言っては何だが、『そりゃ稼げるだろう』という話ではある。
「ピザめっちゃ美味いね。それに、灼夜さんの胸。何度見てもすごいね」
「Gと誰かが言ってた」
「そうだね。私よりカップサイズが二つ上とは、なかなか見ないよあれは」
「……娘の方も大きくない?」
「Dはありそうだね。是非ともハグハグしたいね! いっでぇ!」
頭に手刀が叩き込まれた。
「ふざけてるともういっぺん入れるからな?」
「ごめんなさい。真面目にやります……」
どつき漫才こそ行われているが、それでも美少女二人の話だ。
この町の人間なら、この半年で見慣れたものである。
「……一体何やってんだか」
遊陽としては、まだ、ため息をついていたが。
「えーと、注文は」
「あ、ダブルチーズバーガーのセットで以上です」
「はい。お支払いは……」
「あ、スマホで」
スマホを当てて決済する。
「FIELD 23PRO……珍しいですね」
「あー。型落ち品を買いまして」
「そうですか」
「お母さん。できたよー」
刺喜がセットを用意して、遊陽に渡した。
「ありがとうございます」
「またいらっしゃってくださいね~」
良い笑顔の刺喜。
顔立ちは美人だが、表情はとても柔らかい。
「あぁ、はい」
遊陽は適当にうなずいて、キッチンカーを離れていった。
「……これで、行列はひとまず終わりかぁ」
刺喜は、離れていく遊陽を見ている。
「で、あれが、
「そうね。聞いてた通りよ」
二人はそういいつつも、作業の手は止めない。
「あ、次のお客さん」
「いらっしゃいませ。ご注文は何に――」
灼夜がそういった時だった。
広場の中央に、ズドオオオオオオンッ! と、何かが降ってきた。
「っ! ……青葉ちゃん」
「あれは……」
ベンチで食べていた歩佳と青葉は、降ってきた何かを見る。
「……ふむ、なかなか誘えそうもなかったのでお邪魔させてもらったよ」
全身を装甲で覆って、それを胸元の大きなネジで止めているような歪な外見。
ネジ怪人が、広場に、突如として現れた。
「怪人か、なら、私の出番だああああっ!」
歩佳はデュエルディスクを腕から外して、腰に付けた。
『DUEL DRIVER』
スイッチを押す。
『Your name is……』
「変身!」
『KAMEN RIDER SOLAR!』
光が増幅し、アーマーとなって、歩佳に装着される。
仮面ライダーソーラーになった。
「さあ、不思議な宝石でバチッとする魔法を使っちゃうよ!」
ソーラーの登場……というより、すでに広場に歩佳がいたことで、広場では混乱が少ない。
「早く、デュエルディスクの電源を切って避難して」
青葉は近くの子供たちのところに行って、避難誘導している。
「大丈夫、大丈夫だ。焦らずに行こう」
腰を抜かしている人も多くいる。
遊陽はそんな人たちに手を貸して、奥に連れていく。
「手札から『サンライズ・コンストラクション』を発動! デッキから『サンライズ・バリケード』を手札に加えて、特殊召喚!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
怪人と人の間を遮るように、バリケードが出現。
「モンスター効果で、デッキからフィールド魔法、『サンライズ・クリスタルヤード』を手札に! このまま――」
「手札から永続魔法、『螺芯兵の地盤締結』を発動。発動時の効果処理として、デッキから『螺芯兵スクリュード』を名称指定して手札に加えつつ……これがフィールドにある場合、相手はフィールド魔法を発動できない」
「んなっ……」
フィールド魔法の発動封殺。
ソーラーのデッキは、『フィールド魔法によってモンスター全てのレベルを上げて、レベルが高いシンクロモンスターにつなげる』というものだ。
それを止められると、レベルを上昇させることはできない。
「だけど……手札から『サンライズ・スクリーン』を特殊召喚! 自分フィールドに『サンライズ』カードがあれば特殊召喚できる!」
サンライズ・スクリーン DEF1500 ☆2
「ほう、諦めないか」
ネジ怪人は歩佳に向かって突撃した。
「スクリーンの効果で、サンライズ永続魔法であるパルスガンを手札に、発動!」
歩佳の右手に、結晶から削り出して作ったような銃が出現。
電撃弾を放った。
しかし、ネジ怪人は一切避けることなく、その身に受ける。
一切怯むことなく、突っ込んでくる。
「威力不足か……」
殴りかかってくるネジ怪人の拳を回避して、その腹に左手でパンチを叩き込む。
「づぁ、が、頑丈すぎ」
「当たり前だ」
しかし、歩佳は痛がりつつも、素早く距離を取る。
「ふむ、まだ諦めていないようだ」
「そりゃ、そうだよ。私は魔法カード『サンライズ・サンシャイン』を発動。デッキから『サンライズ』モンスターを1体、特殊召喚できる!」
「それは何とも、無駄なことを……」
「変身中なら、『サンライズ』フィールド魔法を捨てて発動することもできる。『サンライズ・クリスタルヤード』を捨てて発動するよ!」
「むぅ」
少し、ネジ怪人は不審に思ったようだ。
「私は『螺芯兵スクリュード』を召喚しよう。変身中なら、『激流葬』を発動可能状態でセットした後、特殊召喚できる」
「んなっ……」
螺芯兵スクリュード ATK2700 ☆8
フィールドに出現したのは、右手にパイルバンカーを装備した二足歩行ロボットだ。
「で、サンシャインの効果は何かな?」
「ぐっ……で、デッキからチューナーモンスター、『アサルトバリア』を特殊召喚!」
サンライズ・アサルトバリア ATK1000 ☆1
「フィールド魔法を使って発動したなら……自分フィールドのサンライズモンスターのレベルが、1つずつ上がる」
サンライズ・バリケード ☆1→2
サンライズ・スクリーン ☆2→3
サンライズ・アサルトバリア ☆1→2
「合計レベル7か。さて、シンクロ召喚するのかね?」
「ぐっ……」
歩佳は仮面の下で顔を歪ませた。
歩佳のエクストラデッキに、レベル7以下のシンクロモンスターは入っていない。
良悟たちが組んだデッキだが、レベル7は、入っていない。
「都合よく、カードは作れないんだよねぇ……」
歩佳は残りの手札を見る。
「まだ、諦めていないか。いいだろう。『螺芯兵スクリュード』、私に装備だ」
命令を受けたスクリュードは、右腕のパイルバンカーを残して消滅する。
それが、ネジ怪人の右手に装着された。
「も、モンスターを武器に……」
「そういうこともある。さてと……」
ネジ怪人は歩佳に急接近した。
「くっ……」
パイルバンカーの先端を歩佳に向ける。
そのまま、体を逸ら……。
「えっ」
地面に、釘が刺さっていて。
うまく、姿勢が……。
ズガンッ!
「がっ……」
パイルバンカーが歩佳の胸に炸裂して、そのまま吹き飛んだ。
「さて、ドローしようか……永続魔法、『螺芯兵の陣地』を発動していた。その変身効果により、フィールドに『螺芯兵スクリュード』がいるなら、地面に釘を打ち込める。ただ頑丈なだけのシンプルな釘だ」
「がふっ、はぁ、はぁ……」
「しかし、足腰が上手く使えないことは、戦闘において非常に重要だ。陣地とはこうして用意するものだよ」
「じ、助言どうも……」
歩佳は立ち上がる。
しかし、その視線が、下に、チラチラ向かっている。
「フフッ、そうだ。君は足元にネジが刺さっていないか、それがここから気になり続ける。そしてそれは……」
再度、ネジ怪人は歩佳に急接近する。
「あっ」
「集中力の低下だ」
パイルバンカーが、炸裂する。
「っ!」
歩佳は上半身だけをひねってパイルバンカーを回避すると、その右腕を掴んで、そのままの勢いで背負い投げ!
「おりゃあ!」
「ぐおおっ……」
ネジ怪人の体が、背中から地面に墜落する。
「よし、ドロー! 手札から2体目の『サンライズ・バリケード』を特殊召喚! 2枚目のクリスタルヤードを手札に!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
「これでレベル8――」
「『激流葬』を発動。忘れたのかな?」
流されていく。
フィールドにいた4体の壁が、流されていく……。
わけにはいかない!
「速攻魔法、『サンライズ・セーフティ』を発動! このターン、私のレベル7以下のサンライズは効果破壊されない!」
「そうか。私のスクリュードも、永続効果で破壊されない」
激流葬は、発動しただけで終わった。
ただ……。
「フンッ」
ネジ怪人は、右腕で、パンチを繰り出す。
「えっ、ぐっ……」
そのパンチが、歩佳の腹に突き刺さった。
「はっ……え、パンチって」
「スクリュードなら装備解除してあそこだ」
「えっ」
歩佳はそちらを見る。
そこでは。
二足歩行のロボットとしての体を取り戻した螺芯兵スクリュードが。
アサルトバリアを、粉砕していた。
「あっ……」
「永続魔法、『螺芯兵の墓地締結』を発動。変身中なら、螺芯兵スクリュードが破壊した相手モンスターと同名モンスターは、このデュエル中、特殊召喚出来ない」
「そんな……」
「君のデッキに、チューナーモンスターはアサルトバリア3枚しか入っていないのだろう? 企業対抗戦。というのだったかな。それの映像で、他のチューナーを見たことがない……ただ、『アサルトバリア』を名称指定して展開する強力なカードをいくつか用意して、それで問題ないようにしている」
「うっ……」
「ただ、そのアサルトバリアを指定して封じてしまえば、君のデッキに、チューナーはいない」
「そんな……あっ」
再び、ネジ怪人の右手に、パイルバンカーが……。
「あっけないな」
ズガンッ!
「ぎゃっ、ああああっ!」
「歩佳!」
青葉が叫んだ。
パイルバンカーの直撃を受けた歩佳が吹き飛んで、そのまま、地面を転がる。
「ドロー……さて、そろそろ終わりで良いか」
ネジ怪人はパイルバンカーの杭を巻き取ると、転がる歩佳に向かって突撃し……。
『KAMEN RIDER HELIOS!』
「むっ……」
「させるか! 『ハイドロキッズ・シールド』を発動し、そのまま『プロミネンス・シールド』だ!」
プロミネンス・シールド DEF2500 ★4
仮面ライダーヘリオスが、ネジ怪人の前に飛んできて、盾を構える。
ネジ怪人はパイルバンカーを起動して盾に炸裂させたが、遊陽の構えは揺らがない。
「グッ……なかなか良い構えだ。殺気や闘気は薄いが、『守れる自分でありたい』という強い意志を感じる」
「そりゃどうも。ここからは好き勝手にさせねえ」
「そうか……ほう」
ネジ怪人はデュエルディスクを見て、感嘆の息が漏れた。
「なるほど。君が、仮面ライダーヘリオスか」
「さっきベルトから鳴り響いた通りだよ」
「新しい仮面ライダーとはな。出てくるとは思っていなかった」
「……いるとは思ってなかった。じゃないのがなんか不気味だが、今は、お前を倒すことにするよ」
ヘリオスはしっかりと、盾を構える。
「はぁ、はぁ……仮面、ライダー。私が知らないライダーが、この町に……」
「ソーラー。まだやれるか?」
「も、もちろん、だよ!」
「そうか……それなら」
ヘリオスは、カードを使う。
「俺は『プロミネンス・シールド』の素材を使って、1枚ドロー。ハイドロキッズ・シールドが墓地に送られた時、デッキから永続魔法以外の『ハイドロキッズ』魔法……『ハイドロキッズ・プレゼント』を手札に加える。このまま発動だ」
「プレゼント?」
「変身中なら、手札のモンスター1体と、デッキのハイドロキッズ1体を、相手フィールドに特殊召喚できる」
「えっ?」
「デッキの『ハイドロキッズ・レスキュー』と、手札の……『リスト・クロック』を、ソーラーのフィールドに特殊召喚だ」
ハイドロキッズ・レスキュー ATK1400 ☆4
リスト・クロック ATK 400 ☆1
『お、ユ……ヘリオス! 今日は胸のでけぇ嬢ちゃんと共闘だな!』
「ふざけてる場合か!」
『わりぃわりぃ!』
出てきてすぐにふざけるレスキュー。
「リスト・クロック……」
歩佳は、自分のフィールドに特殊召喚されたモンスターを見る。
★
リスト・クロック
レベル1 光属性 機械族 ATK400 DEF400
通常・チューナー
かっこいい腕時計も、誰かが、時間に追われながら作っている。
人を白昼夢に誘うウサギの、安息の時はいずこへ。
★
「……チューナー」
「レベル3がすでにいる。レスキューと腕時計で出せばいい」
「……わかった!」
歩佳は立ち上がった。
「私は、レベル3のスクリーンと、レベル4のハイドロキッズ・レスキューに、レベル1のリスト・クロックをチューニング!」
『よっしゃ! 行くぜ嬢ちゃん!』
「シンクロ召喚! 『サンライズ・コンバークル』!」
サンライズ・コンバークル ATK2600 ☆8
頭に宝石が付いた、小さなウサギが出現。
「来た。コンバークル。歩佳の、エースモンスター」
青葉が、壁の後ろで口にした。
「エースモンスター……そうか、そういうことか」
ヘリオスは頷いた。
「……ヘリオス?」
「いや、なんでもない。俺も俺の展開をやるか。『ハイドロキッズ・スクランブル』を発動。デッキから……スプラとジェットを特殊召喚!」
ハイドロキッズ・スプラ ATK1200 ☆4
ハイドロキッズ・ジェット ATK1400 ☆4
出現する、水鉄砲を持った子供と、ジェットパックを背負った子供。
どちらも、二等身でどこかマスコットのような見た目であり……。
コンバークルの背中に、二人で乗っかった。
「「はっ!?」」
歩佳とヘリオスは同時に驚愕した。
『お、良い感じの乗り心地だぜ!』
『よっしゃぁ! 行くぜコンちゃん!』
『きゅうっ! きゅううっ!』
スプラとジェットがしっかり背中を掴むと、コンちゃんは上機嫌で走り出した!
「ちょ、コンちゃん!?」
「何してんだアイツら!?」
コンちゃんが、ネジ怪人に突撃する。
「……ふざけたことを」
ネジ怪人はパイルバンカーを向ける。
だが、スプラが水鉄砲でネジ怪人の顔面を狙った。
「むっ……」
左手で目元を隠して……。
『今だジェット!』
『よしっ!』
ジェットの背中にあるジェットパックが点火!
そのまま、ネジ怪人に向かって加速!
コンちゃんの頭の宝石が、ネジ怪人の腹に直撃した!
「ぐ、ごぉ」
なんか変な声が出た。
「こ、コンちゃん……」
普段なら、もう、パルスガンの先端に接続している。
だが、今は。
スプラとジェットを乗せて、あんなに……。
「しゃーない。手札から永続魔法、『ハイドロキッズ・フィーバー』を発動。変身中なら発動時の効果処理で、デッキから『湿地草原』を1枚、フィールドに置く」
デッキから、1枚のフィールド魔法が場に。
「永続効果で、俺のフィールドのハイドロキッズはレベルが2つ下がり、攻撃力が500アップだ」
ハイドロキッズ・スプラ ATK1200→1700 ☆4→2
ハイドロキッズ・ジェット ATK1400→1900 ☆4→2
「さらに、フィールド魔法、『湿地草原』の効果で、水属性、水族、レベル2となったハイドロキッズたちは、攻撃力が1200アップだ!」
ハイドロキッズ・スプラ ATK1700→2900
ハイドロキッズ・ジェット ATK1900→3100
『よっしゃああああああっ!』
『張り切っていくぜえええ!』
スプラとジェットは大盛り上がりだ。
「え、ちょっ、なんで『湿地草原』を発動できるの!?」
「発動じゃなくて、フィールドに『置いた』んだよ。これは『地盤締結』の影響を受けない」
「ズルい!」
「ズルくて制約をすり抜ける効果だから、変身中しか扱えないんだよ」
実質、永続魔法1枚で、自分フィールド全てのモンスターの攻撃力を1700上げているのと同義だ。
変身しているときだけの強力な効果といわれれば、歩佳としても納得せざるを得ない。
「ぐっ、ふざけないでもらおうか! 魔法カード『螺芯兵の電磁魔王』を発動!」
地面から、ネジが連なったようなイカを思わせるモンスターが出現する。
電磁魔王ダイオースクリュー ATK? ☆10
「な、なんだ、このモンスターは……」
「で、デカい。足が10本あるけど、これは……」
「『螺芯兵の電磁魔王』は、自分フィールドの『螺芯兵』永続魔法を全て墓地に送ることで、エクストラデッキの融合モンスター、『電磁魔王ダイオースクリュー』を特殊召喚するカード! 攻撃力は、墓地に送られた永続魔法1枚につき、1000ポイントとなる!」
墓地に送られたのは、『地盤締結』と『墓地締結』と『陣地』の三枚。
電磁魔王ダイオースクリュー ATK?→3000
「え、わ、私にとって邪魔なカードを、全部墓地に……」
「ライダー二人が相手なら、その強さを問わず、『自分の最大の強さ』で押しつぶすべき」
「……怪人は報道されるから、本来なら表で切り札を出したくはないってわけね」
「え、どういうこと?」
「まぁまぁ……で、どうすっかなアイツ」
ダイオースクリューはネジが連なったような姿のモンスターだ。
ネジに電気を流して電磁石にすることで、ネジをつなげて体を維持している。
『ヘリオス! このデカいのは俺たちに任せとけ!』
『そっちはそっちでネジ怪人と戦ってくれ!』
『きゅうっ!』
三人とも、どうやら、このイカの相手を引き受けてくれるらしい。
「……だそうだ」
「なら、やるしかないね」
歩佳はパルスガンを構える。
「……本当はコンちゃんが接続されてる方が性能が良いんだけど、『武装情報の再現』は可能。ある程度は自由な弾を撃てるよ」
「自由な弾?」
「こんな感じ!」
歩佳はパルスガンのトリガーを引く。
すると、散弾のようにばらまいたと思ったら、誘導弾のようにネジ怪人に向かっていく。
「フンッ!」
ネジ怪人がパイルバンカーを振り回して、電撃弾を弾き落とした。
「……なるほど」
「で、ヘリオスはどうする?」
「俺はこのまま、壁になっておくよ。ソーラーは自由に戦ってくれ」
「へぇ……わかった!」
歩佳は前に飛び出た。
先ほどまでのダメージを感じさせない軽やかな動きで、ネジ怪人に近づいていく。
「フンッ、攻撃力不足のオモチャで、何ができる」
「いろんなことだよ!」
歩佳はトリガーを引く。
多種多様な弾丸がばらまかれて、ネジ怪人を襲う。
「ぐっ……な、なんだ、パルスガンの威力が……データ以上の出力に……」
「なんだかわかんないけど、今なら負ける気がしないんだよね!」
次々と電撃弾を銃口から放っていく。
一方。
『よっしゃイカちゃんよぉ! 俺たちを倒せるかな!』
『そんな遅い足捌きじゃ、俺のジェットパックの加速はとらえきれないぜ』
『当たりそうになったら、俺の水鉄砲でぶち抜いてやるけどな!』
『きゅうっ! きゅううっ!』
ダイオースクリューは足を叩きつける。
大量のネジが集まって太くなっており、当たれば大ダメージは免れない。
しかし……ジェットパックの加速と、水鉄砲による足の迎撃。
何より、コンちゃんの動きが元から精度が高く、全て避けている。
『うおっ、あっぶな! 今ちょっと
『水鉄砲でしっかり迎撃しろや!』
『掴まってるだけで大変なんだって!』
『俺もそれには心の底から同意するぜ!』
いや、ちょっと怪しい部分もあるにはあるが。
「……心の底から、か」
歩佳はジェットが口にした言葉を、自分も呟いた。
「ぐっ、な、なんだ、先ほどよりも、動きが良すぎる。時々繰り出す拳も、何故、私に通るのだ。さっきは、君の方が痛がっていたはず……」
「それはそうなんだけど、今ならいける!」
「ふざ、けるなああっ!」
ネジ怪人が手札のカードを使う。
「魔法カード『螺芯兵の激流葬歌』を発動! デッキから『激流葬』1枚を墓地に送り、その効果を適用する!」
「全破壊か……『プロミネンス・シールド』の効果発動! 俺のモンスターは、効果破壊されない!」
ヘリオスも移動する。
その先は、すでにフィールドにある、レベル1と2の、『サンライズ・バリケード』だ。
その前に立って、激流葬の水圧をプロミネンス・シールドで受ける。
そして……。
『うっひょおおおおっ! プールだあああっ!』
『あっはっはっ! コンちゃん! 俺たちに動きを合わせろ! そうすりゃ破壊されねえ!』
『きゅうっ!』
激流の中。
水の子供たちは元気にはしゃいで、コンバークルもバシャバシャと遊ぶ。
「……コンちゃん」
歩佳は、そんなコンちゃんを見て……。
「……楽しそう」
戦いの中で、そう、呟いた。
「グッ、げ、激流葬が受け流されるとは」
「受け流すっていうか遊んでるけどなアイツら……あー、手がしびれる」
「なら、さっさと決着を付けようか! 『クリスタルヤード』を発動!」
サンライズ・バリケード ☆2→3
サンライズ・バリケード ☆1→2
「2体目のバリケードの効果で、フィールド魔法『サンライズ・ルーフトップ』を手札に、そのまま発動!」
サンライズ・バリケード ☆3→4
サンライズ・バリケード ☆2→3
「これで合計7! 手札から『死者蘇生』を発動! ヘリオス、もう一回借りるよ!」
「ああ!」
「『リスト・クロック』を特殊召喚!」
リスト・クロック ATK400 ☆1
「レベル4と3のバリケードに、レベル1のリスト・クロックをチューニング。シンクロ召喚! 『サンライズ・レールガンナー』!」
サンライズ・レールガンナー ATK2800 ☆8
現れたのは、結晶でできた、レールガンの砲台。
「コンちゃんが遊んでるんだし、こっちで行くよ。コンちゃんを手に入れる前まで愛用してたエースだからね!」
「……そうか、そっちも、エースと言えばエースなのか」
ヘリオスは、何かに納得した。
「さーて俺は……出せるのはこれだな。『ハイドロキッズ・サイダー』を召喚!」
ハイドロキッズ・サイダー ATK1000→1500→2700 ☆2
『よっしゃ、参上!』
右手のボトルを持った子供。
が、レールガンナーの上に登場した。
「あれ?」
『俺はどうするかな……ん? なんでこのレールガン、上に穴があるんだ? ……サイダー入れちゃえ』
「こらあああああっ!」
レールガンナーの上にあったらしい穴にボトルからサイダーを投入。
流石の歩佳も絶叫した。
「ちょ、お前何やってんだ!?」
ヘリオスも叫んだ。
レールガンナーは、『ガギギギッ……』と変な音が響きだした。
そのまま、砲身を上に。
「えっ、どうなっちゃうの!?」
歩佳が驚いていると。
レールガンナーの砲身から、ブシャアアアアッ! と、噴水が。
『うおおっ! 噴水だ!』
『いいぞいいぞ!』
『わっはっは!』
その噴水が、スプラとジェットにも降りかかり……。
『……あれ、ジェット、なんかちょっとピリピリしてこねえか?』
『当たり前だろ。デカい電磁石の傍だぜ? 炭酸を含んで純水じゃなくなった俺たちが無事なわけねえだろ?』
『そりゃそうだぜ! ってヤベェじゃねえか!?』
『問題ねぇ! お前たちはコンバークルと一緒に居るんだ! 電気は良い感じに制御してくれる!』
『『そうなのか!?』』
『きゅうっ!』
『そうみたいだ!』
『え、そうなの!?』
『いや俺もウサギ語はわからん!』
『胸張って言うな馬鹿野郎!』
……何をしているのやら。
「ふふっ……あははっ! あっちは大丈夫だね」
「ああ」
歩佳とヘリオスは、ドライバーのスイッチを押す。
『『LETHAL PHASE』』
歩佳の足に電気が集まり、ヘリオスの足に炎が集まる。
「ふ、ふざけるな。こんな戦いで、負けるわけがあるかああああっ!」
ネジ怪人が絶叫する。
『それがそうでもねえんだよ!』
スプラがレールガンナーの上に着地して、水鉄砲をダイオースクリューに向ける。
レールガンナーも、砲身が電気を帯び始めた。
「いくよヘリオス」
「ああ」
ライダー二人で、上に飛んだ。
『いくぜレールガンナー!』
スプラが水鉄砲を放つと同時に、レールガンナーも電撃弾を放つ。
ダイオースクリューは足で体を守ろうと重ねたが……すべてを貫いた。
「おりゃああっ!」
「せりゃああっ!」
ソーラーとヘリオスのライダーキックが、ネジ怪人の胸に、叩きこまれる。
「そんな、バカな、私が……ぐあああああああああああああああああああああっ!」
ネジ怪人は吹き飛んで、ダイオースクリューに激突し……そのまま、爆散した。
★
「ありがとうヘリオス。おかげで助かったよ」
「いや、礼は要らないよ」
ヘリオスは、自分のデッキから『リスト・クロック』のカードを取り出して、歩佳に見せる。
「えっ……」
「これ、あげるよ。俺のデッキにシンクロモンスターは入ってないからな」
「そ、そうなんだ……」
「別にレアカードってわけでもないしな」
「フフッ、ありがとう、貰っておくね!」
ヘリオスからカードを受け取って、歩佳は微笑んだ。
「それじゃ、俺はもう行くよ」
「うん。それじゃあ、機会があったら、また一緒に戦おうね!」
「……そうするよ」
ヘリオスはそう言って、広場から去っていった。
「……歩佳、大丈夫?」
「お、青葉ちゃんも大丈夫だった? 波が凄かったけど」
「私も、みんなも大丈夫だった」
「そっか! それならよかった! それにしても、この町に、まだ、仮面ライダーがいたんだね」
「うん」
「それはそれとして……コンちゃん、すごかったね」
ライダーがいた。
それすらどうでもいいと思えるほどに……。
「ジェットと水鉄砲で、あんなに飛び回ってさ。ネジ怪人に突撃したり、あのイカの足をぴょんぴょん避けたり」
「確かに、あんなに軽やかに動けるとは思ってなかった」
「そうそう! 激流の中でバシャバシャ泳いでたのもすごかった! とても楽しそうで――」
「ねえ、歩佳」
「何、青葉ちゃん」
青葉は、歩佳に聞いた。
「歩佳、なんで、泣いてるの?」
「……えっ?」
歩佳は、自分の目元に手を当てた。
水が、流れていた。
歩佳は。
大粒の涙を、ボロボロとこぼしていた。
「わ、私、なんで、泣いて……」
「あの……」
「私は、あ、ぐすっ、うあっ」
「歩佳……」
「うわあああああああああああんっ!」
「歩佳!」
青葉は歩佳を、胸に抱きしめた。
「ぐずっ、うええんっ」
「……」
広場のど真ん中で泣きじゃくる歩佳を。
落ち着くまで、青葉はずっと、背中をさすっていた。