安アパートに、佐々木が迎えに来た。
「遊陽様。お迎えに上がりました」
「あ、はい。スタジアムまで、お願いします」
遊陽は後部座席に乗って、佐々木が車を運転して、スタジアムに向かう。
佐々木の運転はとても丁寧で、後ろに乗る遊陽はあまり揺れを感じない。
座席には飲み物があり、自由に飲んでいいらしい。
「……あの、佐々木さん」
「なんでしょう」
「企業対抗戦って、何を掛け合うんですか?」
「法人スコアです」
佐々木は即答した。
「デュエリストなら誰もがデッキを持ち、デュエルスコアを持っている人もいます。それは企業も同様です。法人スコアと言う形で持っているスコアを奪い合うわけですが、そこに『秩序』を与えようとしたのが、『企業対抗戦』の始まりとされています」
「企業のアンティに、秩序……」
「法人スコアがあれば、税制優遇の他にも、レコックス系列の銀行に融資が通りやすくなったり、各メーカーに注文が通りやすくなったりします。そのために掛け合うのです」
「……企業向けの特典ってことですか」
何かを手に入れやすい。何かをとられない。何かが通る。
凄く単純だが、単純なものが多くなればなるほど、目に見えて成果も出る。
「その通りです。加えて、今回は四つ巴。珍しいですよ。四つの企業が一度に戦うバトルロイヤルルールです。全ての企業が同値のスコアを掛け合い、勝った会社のライダーが総取りです」
「そうですか……」
バトルロイヤルルール。
全員が敵で、一時的な共闘はあっても、絶対に一位が決まる戦い。
勝てばスコアを得て、負ければスコアを失う。
「企業の価値は法人スコアだけではありません。株価だったり、企業が持つ技術だったり……ただ、法人スコアという、デュエリストにとって一番シンプルなものを掛け合うがゆえに、その『解釈』は各々に任される。そういう戦いです」
「……じゃあ、ライダーって負けたら、責任を問われるってことですよね」
遊陽が呟くと、佐々木は少し、考えた。
「そうですね」
「……あの、ここでいうのもアレですけど、企業対抗戦について調べていて、ちょっと思ったことがあるんです」
「なんでしょうか」
「あの、企業がデュエルイベントを開いた時って、レコックスから承認を得て、『一位の人にデュエルスコアをディスクに入力できるカード』を渡したりするじゃないですか」
「ありますね」
あの金曜日。
遊陽が裏路地で拾った『プレミアムスコアカード』。
それを拾った瞬間に、デュエルディスクに『プレミアムスコア1』が入力されたが。
あれも『スコアカード』の一種だ。
ただ、普通はイベントで、普通のデュエルスコアが入ったカードを配られることもある。
「その企業対抗戦も、一位の企業に、レコックスがスコアを渡すみたいな、そういう形式でもいいんじゃないかって、誰も失わない。でも、勝てば得られる。そういう戦いの方が、平和じゃないですか」
「……昔は、そういうイベントも開かれていましたが、ずいぶん昔に廃れて、なくなったそうです」
「えっ?」
遊陽は首を傾げた。
「企業対抗イベント。昔はあったのですが、『一位のライダーに配られるスコアカード』に記される報酬に満足できなくなったそうです」
「満足できなくなった? 獲得スコアが少なかったんですか?」
「レコックスは明確に、『企業対抗イベントで一位のライダーに配るスコアの値』の限界値を決めていたので、満足できなくなった企業が離れていったそうです」
「……今の企業対抗戦は、そのイベント以上に、大きなスコアを一度の戦いで得られるから、企業だけで協定を結んで、戦い始めたってことですか?」
「ええ」
佐々木が頷いたのを見て、遊陽は、少し考える。
「……でも、企業がイベントから離れても、企業対抗戦が行われるスタジアムの運用に、レコックスはアレコレ言えるんですよね。ハイスコア・シートがあることや、プレミアム特典で入れることとか」
「それはそうですね」
「……イベントが廃れるかどうかと、インフラから独立できるかどうかは別ってことで良いですか?」
「身も蓋もない着地点ですが、良いと思いますよ」
★
デュエルスタジアムは巨大だ。
すり鉢状の観客席で、中央にあるフィールドを囲っている。
そんな観客席の少し上に、ガラス張りの個室が並んでいた。
そんな個室の一つに、遊陽は案内される。
「……広いな」
「通常は、企業が接待のために使うものですから」
モニターが並び、大きなガラス窓から、客席とフィールドを見下ろせる。
「接待って……」
「企業対抗戦は企業の威信をかけた戦いでもあります。企業としては、この席をおさえておけば成約間違いなしと言える席とのこと」
「……」
「この部屋は、遊陽様の貸し切りですが」
「凄いな。プレミアム特典」
「もちろん、それだけではありません」
佐々木は、テーブルに置かれたデュエルモンスターズのパックのボックスを示した。
「このスタジアムの運営会社が用意したプレミアムボックスです」
「プレミアムボックス……」
「スタジアムに、『ハイスコアシート』はあっても『プレミアムシート』はありません。ただ、こうした運営会社としては、また来場していただくために、ボックスが用意されるのです」
「……俺がここに来ると、このスタジアムにとって良いことってあるんですか?」
「まぁいろいろ」
「そうですか」
佐々木にしては何とも抽象的だったが、スタジアムにとっての特典の話をされても遊陽としては実感がわかないのは事実である。
「さて、そろそろ、始まりますよ」
佐々木がそういった時だった。
『お待たせいたしました!』
アナウンスが響いた。
『本日の企業対抗戦の時間となりました! 今回は四つ巴。四社のライダーがスコアを掛け合うバトルロイヤルとなっています!』
観客席の方も沸き上がっている。
どうやら、四つ巴というのは本当に珍しいようだ。
『まずは、エーサーバー・クリエイション! 情報処理とクラウドシステムで近年注目を集めている企業です。専属ライダーは、
身長が高く、メガネをかけたスーツ姿の男が現れる。
『続いて、三隅開発! 長年、多くの筋肉を鍛えてきたトレーニングマシンメーカーです! 専属ライダーは、三隅力馬《みすみりきま》、仮面ライダーギガント!』
マッスルポーズをした筋骨隆々の男が現れる。
『さらに、アトリエ・ルルリキッド! カード開発で近年、そのファンを増やしている新進気鋭! 専属ライダーは、
小柄な女性が笑顔で手を振りながら登場した。
『最後に!』
アナウンサーの声が、少し高くなった。
『長年、レコックスのデュエルディスク用のバッテリーを開発する企業、『ボルトピア』! 専属ライダーは、
その女性が会場に足を踏み入れてから、会場の空気が一変した。
身にまとっているのは、学校の制服だろう。
紺色のブレザーに白のブラウス、ミニスカートに黒のパンスト。
一切、着崩していない、規定通りのそれ。
「……なんだ、あの、綺麗な人……」
遊陽の口から、驚愕の声が漏れた。
黒髪をロングストレートにして、大人びた美貌。
外見は20代半ばと言われても納得できるほど成長しつつ、その制服の魅力も損なわれていない。
身長は170センチ近いだろう。背筋も良すぎて何を着ても似合うのは間違いない。
おそらく胸もFはありそうで、ミニスカートから見える太腿はモニター越しで、黒のパンストに包まれていても柔らかそうなのがわかるほど。
「……うーわ、実物はマジで綺麗じゃん」
小柄な女性、瑠々が呆れた様子で手を振った。
「あれで17歳。高校二年生か。それよりも10は上に見えるな」
力馬は腕を組みながらそういった。
「会場の視線を全て集めながら一切動じないとは、どれほどの修羅場を潜ってるんだろうね」
一輝はメガネのブリッジを押し上げながら美雪を見ている。
『さあ、会場も温まってきたところで、始めましょう!』
アナウンサーが叫ぶと、全員、デュエルディスクを腕から外して、腰に当てた。
『『『『DUEL DRIVER』』』』
スイッチを押す。
『『『『Your name is……』』』』
全員が、カードを挿入した。
「「「「変身!」」」」
『KAMEN RIDER NAYUTA!』
『KAMEN RIDER GIGANT!』
『KAMEN RIDER LULU!』
『KAMEN RIDER BATERY!』
ナユタは、額に単眼のセンサーが付いた、灰色の装甲を。
ギガントは、黒く、分厚い装甲を。
ルルは、瓶を腰にぶら下げた、淡い水色の薄い装甲を。
バテリーは、白を基調として黄色いラインが入った、獅子を思わせるアーマーを。
それぞれ身にまとい。
全員が5枚引くと、手から消えて、5枚のホログラムになった。
『では、全ライダーは、第一ターンを展開してください!』
アナウンサーが叫んだ。
「……企業対抗戦では、ライダーは、一ターンは好き勝手に用意できるんですよね」
「ええ。企業対抗戦は、企業の技術力の見本市でもあります。ライダー同士の戦いにおいて『相手のターン』という概念は本来ありませんが、一ターンでどれだけ準備できるのかを示すことも重要です」
「示すって、誰に?」
「客もそうですが、会社の取引先に見せるためです」
遊陽と佐々木は四人の様子を見ながら話している。
怪人を相手にするときとは違う。
企業対抗戦において、主役はデュエリストだが、『企業を代表する』という前提がある。
そのため、一ターンが全員に与えられるのだ。
「それにしても……エーサーバー・クリエイションに、三隅開発に、アトリエ・ルルリキッドか……」
「何か?」
「いや……世間って狭いなって、思っただけです」
カギ怪人が使っていたカードたち。
それらを開発したのが、今、目の前で戦うライダーたちを抱える企業だと、遊陽は理解した。
世間は、なんとも狭い。
「ナユタ! ルル! まずはバテリーを、3人で倒すぞ!」
ギガントが大声で叫んだ。
「同意だ。一対一では敗北は必至」
「まっ、ここは共闘一択だよね~」
三人のライダーが、バテリーを見る。
「……構わない。組むかどうかも、バトルロイヤルの選択」
バテリーは頷く。
「三人まとめて、倒す」
「あまり舐めないで貰おうか」
ナユタが動き出す。
「手札から『エーアイズ・レッドクラウド』を召喚」
エーアイズ・レッドクラウド ATK1200 ☆4
出現したのは、赤い雲だ。
「召喚時の効果で、デッキから『エーアイズ』モンスター、『エーアイズ・ブルークラウド』を手札に、このモンスターは、フィールドにエーアイズがいるなら特殊召喚できる」
エーアイズ・ブルークラウド ATK1900 ☆5
「ブルークラウドの特殊召喚成功時、デッキから『エーアイズ』モンスター1体、『エーアイズ・シンギュラリティ』を手札に。変身中なら、『エーアイズ』魔法カードも1枚手札に加えられる。手札に加えるのは『エーアイズ・プロトコル』だ」
2枚のカードが手札に加わる。
「魔法カード、『エーアイズ・プロトコル』を発動。自分フィールドに『エーアイズ』モンスターが2種類いるなら、手札から『エーアイズ』モンスターを特殊召喚だ。特殊召喚するのは、『エーアイズ・シンギュラリティ』」
エーアイズ・シンギュラリティ ATK2900 ☆8
「プロトコルの追加効果で、変身中なら、デッキから『エーアイズ・フュージョン』を手札に加えられる。さらにシンギュラリティの効果で、デッキからエーアイズモンスターを2体。2枚目のレッドクラウドとブルークラウドを手札に加える」
手札を補充して……。
「魔法カード『エーアイズ・フュージョン』を発動。召喚条件は『エーアイズ』モンスター4体。手札とフィールドから、レッドクラウドとブルークラウドをそれぞれ2体ずつ素材として、融合召喚! 『エーアイズ・ギガクラウド』!」
エーアイズ・ギガクラウド ATK0 ☆8
フィールドに出現したのは、やはり、雲だ。
ただ、非常に大きい。
「ギガクラウドの融合召喚成功時、このカードをフィールド魔法扱いで、自分のフィールドゾーンに置く」
ギガクラウドが上空に移動した。
「融合召喚したモンスターがフィールド魔法に……珍しいテーマだな」
遊陽は呟くように言った。
「僕の準備は完了だ」
「次は俺でいいか。手札から『パワーデモンズ・アシュラ』を妥協召喚!」
パワーデモンズ・アシュラ ATK3000→1800 ☆8
筋骨隆々の悪魔が出現したが、その場で膝をついた。
「アシュラはレベル8のモンスターだが、リリースなしで召喚できる。この場合、攻撃力は1800になるがな」
次のカードを使った。
「だが、装備魔法『パワーデモンズ・ダンベル』を発動。パワーデモンズモンスターに装備可能!」
三面六椀の悪魔の六本の腕に、ダンベルが出現。
『ウオオオオオオオオオオオオオオッ!』
膝をついていたが、吠えるとともに立ち上がった。
パワーデモンズ・アシュラ ATK1800→3000
「ダンベルの効果により、パワーデモンズモンスターは元々の攻撃力になる! これで準備完了だ!」
「2枚って……」
遊陽は頬が引きつった。
「やれやれ、次は私か」
ルルはカードを使い始めた。
「手札から、『グロウドラゴン・キッド』を召喚」
グロウドラゴン・キッド ATK1000 ☆4
出現したのは、水色のドラゴンだ。
ただ、全長一メートルほどで、あまり大きくはない。
「召喚成功時、デッキから『グロウポーション』カードを手札に加える。私は『パワフル・グロウポーション』を手札に加えて、発動。自分フィールドの『グロウドラゴン』1体の攻撃力を1000アップする」
グロウドラゴン・キッド ATK1000→2000
「さらに、手札から魔法カード、『ドキドキ・グロウポーション』を発動。グロウドラゴンの攻撃力を1000アップ」
グロウドラゴン・キッド ATK2000→3000
「もう、攻撃力3000か」
「フフッ、私は手札から、『グロウドラゴン・アクアスター』の墓地に捨てて、効果発動。自分フィールドに、元々の攻撃力より1000以上高い攻撃力を持つモンスターがいるなら、デッキから、『グロウドラゴン』儀式魔法を手札に加えることができる。私は『グロウドラゴン・リチューアル』を手札に」
手札に加わったカードを、そのまま発動。
「儀式魔法、『グロウドラゴン・リチューアル』を発動。自分フィールドのグロウドラゴン1体をリリースして、そのモンスターの攻撃力以下のグロウドラゴン儀式モンスター1体を手札から儀式召喚する。変身中なら、儀式モンスターはデッキから出せる! 私は、グロウドラゴン・キッドをリリース!」
出せるのは、攻撃力3000以下の儀式モンスター。
「儀式召喚! レベル8、『グロウドラゴン・デューテリアス』!」
グロウドラゴン・デューテリアス ATK3000 ☆8
フィールドに出現したのは、グロウドラゴン・キッドを成長させたようなモンスターだ。
「さらに、リチューアルの追加効果! リリースしたモンスターの元々の攻撃力と、リリースした時の攻撃力の差の半分を、儀式召喚したモンスターに加算する!」
グロウドラゴン・キッドは元々1000だが、3000でリリースされた。
「デューテリアスの攻撃力は1000ポイントアップする!」
グロウドラゴン・デューテリアス ATK3000→4000
「攻撃力4000……」
「……あ、ギガント、言っとくけど、『そのポーションはプロテインだな』ってツッコミは受け付けないからね?」
「そこに釘を刺すのはちょっとひどくないか?」
ルルがギガントのツッコミを先に潰して、ギガントはちょっとへこんだ。
「さて、私も準備完了。お嬢さん。どうぞ?」
「なら、私の番」
バテリーは、カードを使い始めた。
「手札から、『チャージリオン・キャット』を召喚」
チャージリオン・キャット ATK1000 ☆4
出現したのは、バチバチと放電している猫のモンスターだ。
「変身しているときに召喚・特殊召喚したら、デッキから『チャージリオン』モンスターを特殊召喚できる。私は『チャージリオン・リンクス』を特殊召喚」
チャージリオン・リンクス ATK1000 ☆4
「私はレベル4のキャットとリンクスで、オーバーレイ」
2体のモンスターが、渦の中に飛び込んでいく。
「エクシーズ召喚、ランク4『チャージリオン・ボルトピア・スフィンクス』」
チャージリオン・ボルトピア・スフィンクス DEF3000 ★4
フィールドに出現したのは、ライオンの胴体と人の顔を持ち、多くの蓄電池で組み上げられたモンスターだ。
かなり機動性を捨てたような外見であり、ただ、堅牢なつくりになっている。
「エクシーズ召喚成功時、私が『仮面ライダーバテリー』に変身しているなら、デッキから『ボルトピア・グローブ』と『ボルトピア・シューズ』をフィールドに置く」
デッキから2枚の永続魔法が出てきて、バテリーのフィールドに配置される。
同時に、バテリーの両手両脚に、専用のグローブとシューズが装着された。
「……準備は終わり」
バテリーは静かに宣言した。
『全員、準備が終わりました! それでは、バトルロイヤル、スタートです!』
ライダー三人と、エーアイズ・シンギュラリティ、パワーデモンズ・アシュラ、グロウドラゴン・デューテリアスが、バテリーに襲い掛かる。
「……」
バテリーは、静かに踏み出す。
最初に、仮面ライダーギガントと、パワーデモンズ・アシュラが殴り掛かる。
「オラァ!」
「……」
ギガントのパンチを躱すと同時に、その腰に裏拳を叩き込んだ。
「ぐっ、がぁ……」
ギガントが地面に倒れる。
「1ダウン。ドロー」
続いて、アシュラの六椀が迫る。
腕が六本あるからと言って、その拳の連撃は混乱しない。
緻密に組まれた内部データが、確かな精度でラッシュをバテリーに放つ。
「……」
しかし、六椀のラッシュをするすると体捌きで抜けて、その腹に蹴りを叩き込んだ。
アシュラは後ろに吹っ飛んで、背中から倒れる。
「チッ……」
ナユタが、大剣を構えるエーアイズ・シンギュラリティと共に接近。
シンギュラリティが大剣による斬撃を繰り出す。
その斬撃は、大剣とは思えないほど速い。
「ん……」
バテリーは何かがおかしいと思ったようだが、そう思っただけで、剣を手で掴んで止めると、胸に鉄拳を叩き込む。
「なっ……」
「ギガクラウドがいることで戦闘プログラムが向上してる。でも、それでは足りない」
ナユタにも近づくと、左足で蹴りを――
「くっ……はっ?」
その蹴りは、ナユタ側のシステムの予測に過ぎず。
右の拳がナユタの胸に叩き込まれた。
「がっ……」
「1ダウン。ドロー」
ナユタを拳で地面に伏せて、バテリーは1ドロー。
「ふざけんな!」
ルルは右腕の装置……彼女のフィールドにはいつの間にか、永続魔法、『グロウドラゴン・ブレス』が発動している。
竜の頭のような装置に、何らかのポーションをセットして、バテリーに向けた。
「……遅い」
装置から何かが噴射されたが、バテリーは足捌きでそれを避けて、ルルの腹に蹴りを叩き込んだ。
「がっ……」
「1ダウン。ドロー」
バテリーはダウンを3回とって、もう、手札7枚。
ただ、デューテリアスの尻尾による薙ぎ払いが迫っている。
「シッ」
足を振り上げて、蹴りで尻尾を逸らす。
「グローブの効果発動。一時的に戦闘力アップ」
ボルトピア・スフィンクスから、エクシーズ素材が1つ消えた。
同時に、右腕が、バチバチと放電する。
それを正面に繰り出すと、デューテリアスの体に電撃が叩き込まれて、ドラゴンの巨体が地面に倒れた。
戦闘で破壊されてはいない。
ただ、相当なダメージが入っている。
「……手札の『チャージリオン・ボブキャット』を捨てて効果発動。同名カード2枚をデッキから手札に。続けて『チャージリオン・ジャガー』を捨てて効果発動。同名カード2枚をデッキから手札に」
次々と手札が増えていく。
「『バッテリー・リサイクル』で、攻撃力1500以下の雷族モンスター2体。ボブキャットとジャガーを手札に戻す。ボルトピア・スフィンクスの効果で、変身中なら、1ターンに1度、『バッテリー・リサイクル』を1枚、墓地から手札に戻す」
「……隙あり!」
横から、ギガントが殴り掛かる。
バテリーはそれを躱すと、ギガントを蹴り飛ばした。
「ぐおおっ……」
「1ダウン……エンドフェイズ中、ボルトピア・スフィンクスの効果で、自分の手札が7枚以上あるなら、6枚になる様に、手札をスフィンクスのエクシーズ素材にできる」
「チッ……」
バテリーの手札は11枚。
5枚のカードが、スフィンクスの素材になる。
「ドローフェイズ。ドロー」
「つ、強い……」
「格闘センスがずば抜けてやがる」
「ははっ、攻撃が当たる気がしないんだけど……」
バテリーは静かにカードを引く。
三人のライダーを、紛れもなく圧倒している。
「……とんでもなく強いな。仮面ライダーバテリー」
「ええ、ボルトピアのご令嬢、板代美雪。あの容姿で幼少期から有名ですが、13歳でライダーの資格を手に入れてからは、英才教育で武術も磨き上げているとのこと」
「ボルトピアって……紛れもなく、大企業なんですよね」
「レコックスのデュエルディスクに使う蓄電池を開発する企業です。むしろ世界的企業といって良い技術力ですよ」
「そんな会社の、社長令嬢ってことか……」
遊陽は唖然として、佐々木は事実を淡々と話す。
バテリーは、その格闘センスで他三人をモンスターごと圧倒している。
しかも、ボルトピア・スフィンクスは、ずっと、初期位置から動かず、堅牢な蓄電場所として鎮座したままだ。
メインデッキのモンスターであろう、バチバチと放電していた猫たちも、おそらく『戦闘力』に大きく影響するものではない。
スフィンクスも動かない。
「すごく、デッキもシンプルですよね」
「ええ」
「『サンダー・ドラゴン』を思わせるサーチ効果を連続発動することで手札をため込んで、『バッテリー・リサイクル』まで使って手札を補充。ダウンを取ったら、エンドフェイズで溢れた手札をスフィンクスの効果で素材にして、グローブとシューズが素材を使って高火力を発揮する」
遊陽は口に出して……。
「なんか、一人だけ、格ゲーやってません? あの人」
「ブフッ」
佐々木は珍しく吹きだした。
「そうですね。彼女の戦い方は非常にシンプルです。もう一つ、大きな特徴があります」
「えっ?」
ここまで遊陽が述べたことが、バテリーの戦いのすべてのはず。
他に、何が……。
「……スフィンクスのエクシーズ素材、たまってきた」
バテリーが、静かに呟く。
「……『ボルトピア・シューズ』の効果で、全て、取り除く」
「「「!?」」」
次の瞬間、シューズから電気があふれ出す。
そして、バテリーの姿が、消えた。
「き、消え――あっ!」
ルルの腹に、電気を帯びた蹴りが叩き込まれる。
「ルル! ぐあああっ!」
ギガントの背中に、蹴りが叩き込まれる。
「クソッ! どこに――」
「正面」
「なっ、がああっ!」
胸に蹴りが叩き込まれる。
……バテリーの高速移動が終了。
ライダーの三人は、ダメージによって、変身が解除された。
『決着うううううっ! 勝者! ボルトピア代表、仮面ライダーバテリー! 3対1の中、完全に圧倒し、勝利しましたあああああああっ!』
バテリーはベルトからライダーカードを抜き取る。
変身が解除されて、その大人びた美貌が晒された。
そのまま、優雅に長い黒髪を揺らして、会場から去っていった。
「……確かに。他のライダーと違うな」
「ええ、そうでしょう」
「……リーサルフェイズ。使わないんだな。あの人」
ベルトのスイッチを押すことで発動できる『LETHAL PHASE』。
ライダーにとっての必殺技だが、バテリーは使わなかった。
「仮面ライダーバテリーが企業対抗戦に出てくるのは一か月ぶりですが……前回は敗北していますからね。3対1でここまで圧倒すれば、その汚名返上になるとは思いますが、あの社長はどう思ってるやら」
佐々木の言葉に、遊陽は首を傾げた。
「あのバテリーが、負けた? 誰に?」
「仮面ライダーソーラー。空閑歩佳さんです」
「……」
一か月前。
となると、コンバークル・デイドリームは持っていない。
そもそも、エースがいないと公表していた時代であり、企業の技術力を示すという場なので、コンバークルも使っていない。
シンクロ兵器たちで戦っていたことになる。
遊陽は、彼女の戦いを思い返して……。
「どうやって勝ったの?」
純粋に、そう思った。