「ねえ、青葉ちゃん。『ライトニング・スイッチ』って魔法カード、あったら教えてくれる?」
「んー……」
火曜日の夜。
歩佳と青葉は、カードショップに来ていた。
大型の店舗であり、歩佳たちが通う私立水面高校がある『
一階には、客を呼ぶための激レアカードがあって、奥には『倉庫』としか思えないストレージコーナーがある。
「どんなカード?」
「光属性のサポートカードなんだよ」
「あー、そっか、『サンライズ』って、『光属性・岩石族』だもんね」
「そうだよ!」
フェンスだったりバリケードだったり。
プリズムランチャーだったりレールガンナーだったり。
物騒な前線拠点と言ったデッキの『サンライズ』だが、特徴なのは『結晶』だ。
結晶の柱を突き刺して、そこから電気の柵を展開する。と言った雰囲気の防衛設備。
結晶を削って作り上げた砲台たちといった攻撃設備。
これらの要素で構成されているため、世界観としては『雷を放つ宝石』に近い。
そのため、『光属性・岩石族』である。
「私にそんなものをよく探せと言ったね」
「アスフォデロスは『闇属性・天使族』だからねぇ。後で唐揚げ奢るよ!」
「いいだろう」
「わかりやすいね青葉ちゃん」
青葉はすたすた歩いていく。
「え、どこかにあったの?」
歩佳は青葉についていく。
青葉が来たのは、構築済みデッキが売られているコーナーだ。
「はい。これ」
「えっ、レコックス・コーポレーションが出してるスターターデッキ?」
デュエルディスクを作っている唯一の企業であるレコックス・コーポレーション。
基本的には『規格』を決めている企業であり、カード開発はいろんな組織が行っているが、自社でもカード開発は行っている。
「2500円かぁ……あ、収録リストに『ライトニング・スイッチ』が載ってる! 知らんかった!」
「後で唐揚げ奢ってね」
「わかったよ! ぐぬぬ……まさか探す必要がなかったなんて」
大型のカードショップだ。
まさか、デュエルディスクを作っている唯一の企業が開発したスターターデッキを店に置かないということはあり得ない。
デッキリストを見ればわかる話だ。
もちろん、1枚30円のストレージコーナーがあることを考えるなら、スターターデッキのカード1枚のために2500円はなかなかの出費ではあるが、それはそれである。
「というわけで、このスターターセット、買いに行こう!」
「……はぁ」
というわけで、レジに直行。
「これでお願いします」
「はい。スターターデッキですね。えっと……く、空閑歩佳さんですよね?」
歩佳は水面市で有名な企業である空閑ソーラーの御令嬢であり、『美少女仮面ライダー』だ。
この町にいて、彼女の顔を知らない人間はほぼいないだろう。
「そうですよ」
「あの、スターターデッキ。買うんだなぁ。と思いまして」
「あはは。その中の1枚が欲しかったんですよ」
「言われてみれば、今回のスターターデッキは光属性で構成されてますね」
「そういうことです。流石にあの倉庫に行きたくはないね!」
「ですよねぇ。この前の土曜日、1枚のカードを5時間も探してた人がいたんですよ」
「5時間!? その人、馬鹿じゃないんですか?」
「歩佳、言いすぎ」
「時間を無駄にし過ぎだよ! 基本的に行き当たりばったりで、時代遅れのものを使うような人に決まってる!」
「偏見が過ぎる」
あまりにもあんまりな言い分に呆れる青葉だが、探していたアホが、その時点では8世代前のスマホを使っていたのは確かである。
「で、まぁ、2500円だね。お会計お願いします」
「はい」
会話はそこそこにして、ちゃんと購入。
……というより、店員とはいえ、客と喋りすぎではある。
この店独自の接客というわけでもないだろう。
単に、歩佳が話しかけやすいのだ。
「えーと、ライトニング・スイッチを入れてと」
「というか、会社でも新カード作ってるのに、歩佳も自分で買うんだ」
「そりゃそうだよ」
「会社が作ったカードばかり使ってると思ってた」
「プロモーションとして使うことが多いけどね。まっ、社長令嬢だからさ!」
「……あっそう」
「自分から話を振っておいてそんなに興味ないの!?」
「ない!」
「青葉ちゃんの胸と比べてどっちの方がないの?」
歩佳の頭に手刀が叩き込まれた。
「いっでぇ!」
「次はボディブローだからな」
「ごめんなさい。真面目にやります……」
妹系ダウナーの群青ショートボブの青葉だが、手が出るのは速い。
とはいえ、歩佳が求めていたカードは手に入ったし、それもデッキに入れた。
歩佳としては満足だろう。
よくある光景だ。
カードショップは、目的があってくる人もいれば、目的がなく、眺めるために来る人もいる。
特に、『カードショップ・ダイソーコ水面支店』は、とにかくカードを集めまくることで有名。
ストレージコーナーの倉庫は名物でもある。
ハリボテで置いているわけではない。奥までギッチリ詰まった倉庫のようなストレージコーナーは、まさに圧巻の一言。
そんな光景を目にするために、ちょっと来店する人だっているのだ。
「っ!」
そんなよくある光景は。
「よしっ! カードとスコアを奪うぞ!」
店舗に流れ込んできた六人の怪人たちによって、非日常に変わる。
雑草を全身から生やしたような怪人が5人と。
蒸留器がモチーフと思われる怪人が1人。
店に入ってきた。
「か、怪人だあああああっ!」
「逃げろっ! スコアを食われるぞ!」
「ディスクの電源を切れ! 速く!」
店内は一気に混乱した。
ただ、慌てながらも、的確な指示を出している人はいる。
こういう場面でどういえばいいのかを知っている人、訓練で耳にしたことがある人。
別の現場に遭遇したことがある人。
カードショップだ。いろんな人がいる。
「チッ、人が逃げるのが速い。カードを優先しろ!」
「はい兄貴! あの高そうなカードが入ってるショーケースを――」
「あれは『トリビュート・ボックス社』が作った奴だ。頑丈すぎて、壊してる間にライダーが来るぞ!」
なんだか。
非常に、慣れている。
「ねえ、歩佳」
「私の出番だああああああっ!」
歩佳は怪人たちのところに走り出すと、雑草を身にまとったような異形、『ウィード怪人』に飛び蹴りを食らわせた。
「ぐおあっ!」
不意打ちで飛び蹴りを食らったウィードがグラついている。
「カードを奪うなんてさせないよ! 怪人にしては知能があるけど関係ない! 私が相手だ!」
大きく胸を張って宣言する歩佳。
「ねえ歩佳」
「どうしたの青葉ちゃん」
「ミニスカで飛び蹴りするなアホ」
「スパッツ履いてるから問題ないね!」
そういう問題か?
「……チッ」
リーダーらしい蒸留器を装着した怪人が舌打ちした。
面倒なやつが出てきたことに対してなのか、可憐な美少女のミニスカートの下がスパッツであることに対してなのか。
それは神のみぞ知るところである。
「というわけで、全員、ぶっ倒してやるからね!」
歩佳は腕からデュエルディスクを外すと、腰に付ける。
ベルトが腰を一周して、固定された。
『DUEL DRIVER』
スイッチを押した。
『Your name is……』
「変身!」
ライダーカードを挿入する。
『KAMEN RIDER SOLAR!』
ベルトが周囲の光を取り込んで増幅し、それをアーマーに変えていく。
歩佳の体に装着されて、瞬時に装甲が完成した。
「さあ、不思議な宝石でバチッとする魔法を使っちゃうよ!」
「五歳児か」
「人の決め台詞に向かってなんてこと言うんだ!」
青葉から辛辣なツッコミが入って歩佳は絶叫した。
「チッ、ふざけてんじゃねえぞ!」
歩佳と怪人たちの傍に、5枚ずつ、手札のホログラムが出現した。
「手札からモンスターを召喚だ!」
「俺も!」
「俺はコイツだ!」
ウィード怪人たちは次々とモンスターを出し始める。
ウィード・ドッグ ATK1300 ☆3
ウィード・ラビット ATK1200 ☆3
ウィード・ボア ATK1400 ☆4
ウィード・シープ ATK1200 ☆4
ウィード・モール ATK1500 ☆4
毛並みが雑草のモンスターが次々と出現した。
「なるほどぉ……なら、『サンライズ・バリケード』を特殊召喚! 変身中なら手札から出せるよ!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
結晶の角柱が床に刺さって、そこから雷の柵がバチバチと生成される。
それは、奥に逃げた客に、怪人たちを向かわせないための柵だ。
「バリケードの効果でデッキからフィールド魔法、『サンライズ・クリスタルヤード』を手札に! 発動! レベルが上がって、さらに魔法もサーチできる! 永続魔法、『サンライズ・パルスガン』をサーチして、発動!」
サンライズ・バリケード ☆1→2
部屋が少し明るくなる。
そして……ソーラーの右手に、『結晶から削り出して作ったような銃』が出現した。
「もう、武器を出してきやがったか……」
「おりゃおりゃ!」
怪人とウィードモンスターに向けて引き金を引く。
銃口から電撃弾が放たれて、彼らの体を麻痺させていく。
「がっ、く、クソがっ!」
「むっ、戦場の範囲を決めるのは私だ! 『サンライズ・フェンス』を特殊召喚!」
サンライズ・フェンス DEF1900 ☆3
『サンライズ』フィールド魔法があるなら特殊召喚できるモンスターだ。
それが、怪人が逃げようとした方向の先に出現して、動きを止める。
「なっ」
「動きを止めてる暇はないよ! あ、私はフィールド魔法、『サンライズ・ルーフトップ』を手札に加えるね」
右手でトリガーを引きながらも、サーチを続ける。
明らかに慣れた動きだ。
「1人でこの数を相手できると思ってんじゃねえ!」
モンスターたちが突っ込んできた。
「フィールド魔法、『サンライズ・ルーフトップ』発動!」
サンライズ・バリケード ☆2→3
サンライズ・フェンス ☆3→4
「変身中効果で、『雷の遠距離攻撃を拡散できる』よ!」
モンスターたちに向けて、トリガーを引く。
すると、雷撃弾が散弾のように銃口から放たれて、モンスターたちが麻痺していく。
「なっ……」
「クソッ! 『ハンドガン・ケミスナイパー』を召喚!」
蒸留器をくっつけたような身体の怪人、『スティル怪人』の手に、生物の肉を思わせる有機的な構造の銃が出現。
ソーラーに向けて……。
「遅い!」
スティル怪人がトリガーを引くよりも、歩佳が引くほうが早かった。
バチッと雷撃弾が手に当たって、銃を落としそうになる。
「ぐっ、くそぉ!」
「カード1枚セット……おりゃっ!」
カードを伏せつつ、歩佳はウィード怪人を蹴り飛ばす。
「よし、ドロー可能だね。ドロー!」
「舐めんな! おい、てめえら。カード寄こせ!」
「そうするか。魔法カード、『荒れた大地』を発動! 相手はウィードカードを2枚、デッキから手札に加える!」
「え、私のデッキにそんなの入ってないよ?」
「お前な訳ねえだろうが! 兄貴!」
「おう! 俺は『ウィード・ドッグ』を手札に!」
「なぬ!? 君たちって仲間じゃないの!?」
「ルール上は全員敵同士だ!」
「えぇ!?」
スティルの手札に、新しいカードが加わった。
「俺は『融合』を発動! 手札の『ウィード・ドッグ』2体を融合! 『グロウ・オブ・ケミスナイパー』を融合召喚!」
グロウ・オブ・ケミスナイパー ATK1000 ☆5
弾倉を思わせる大きさのモンスターが出現。
スティルはそれを、右手で握る『ハンドガン・ケミスナイパー』に装填。
「グロウ・オブ・ケミスナイパーは融合モンスター以外の『ケミスナイパー』モンスターに装備できる。これで……おらっ!」
スティルは、ウィードに向けて、銃弾を撃った。
「うおっ……よっしゃあっ! みなぎってきたぁ!」
「味方を強化する弾丸!?」
「その通りだ!」
ウィード怪人は、サンライズ・バリケードに向かって突っ込んだ。
「おらぁ!」
雷の柵を出している結晶の角柱を何発か殴ると、バリケードが破壊された。
「あれって結構頑丈なはず。ウィード怪人で突破できるわけが……」
「さーて、奥にいる客からスコアを――」
「それはそれとして『サンライズ・エマージェンシー』発動! サンライズがフィールドから離れたから、デッキからサンライズを2体特殊召喚! バリケードとフェンスをお代わりだよ!」
サンライズ・バリケード DEF1300 ☆1
サンライズ・フェンス DEF1900 ☆3
「人の心とかないんか?」
「青葉ちゃん! どっちの味方!?」
「友達でも許さん」
「ごめんって!」
青葉から冷たい言葉が飛んできたので狼狽えている歩佳だが……。
「バリケードとフェンスは、特殊召喚成功時にデッキからサンライズフィールドを手札に加えられる。『クリスタルヤード』と『コースト』を手札に!」
「チッ……リソースが……」
「クリスタルヤードに張り替えるよ!」
サンライズ・フェンス ☆4→5
サンライズ・バリケード ☆1→2
サンライズ・フェンス ☆3→4
「さらに、クリスタルヤードの効果でサンライズ魔法を手札に! 『サンライズ・コンストラクション』を発動! デッキから、チューナーモンスター、『サンライズ・アサルトバリア』を手札に加えて、通常召喚!」
サンライズ・アサルトバリア ATK1000 ☆1
「あ……」
青葉の口から思わず声が漏れた。
「ち、チューナーだと……」
「そのまま、フィールド魔法を『サンライズ・コースト』に張り替える!」
サンライズ・フェンス ☆5→6
サンライズ・バリケード ☆2→3
サンライズ・フェンス ☆4→5
サンライズ・アサルトバリア ☆1→2
「レベル6のフェンスに、レベル2のアサルトバリアをチューニング。シンクロ召喚! レベル8『サンライズ・コンバークル』!」
サンライズ・コンバークル ATK2600 ☆8
出現したのは、頭に宝石が付いた、小さなウサギだ。
「きた。サンライズ・コンバークル……歩佳のエースモンスター」
「はぁ!? こんなちっぽけなウサギがエースだと!?」
「あんまり馬鹿にしないでほしいね! コンちゃん。行くよ!」
『キュウ!』
コンちゃんはジャンプすると、一つの直方体に変身した。
歩佳はそれを手に持つと、パルスガンの先端に装着する。
「なっ……」
「イッツ・ショー・タイム!」
歩佳はトリガーを引いた。
雷撃弾が銃口から出てきて……いくつも分裂する。
「避けろ!」
怪人とモンスターたちがそれぞれ飛んで回避する。
しかし、分裂した弾が彼らを追尾して、強制ヒットした。
「ぐあっ!」
「なっ!?」
「ぶ、分裂した上に追尾だと!?」
「フフフッ、パルスガンには、『フィールドのサンライズシンクロモンスターの武装情報を再現できる』って効果があるんだけどね。コンちゃんの場合、弾の威力はそんなに上がらないけど、撃ち方の自由度は大幅に上がるよ!」
次々と引き金を引く。
雷撃弾が次々と怪人たちに着弾した。
「ぐっっ、ぎゃあっ!」
「チッ、くそがぁ……」
スティルが奥に引っ込んでいく。
「あ、待て!」
「オイお前ら! 追加でモンスターを出せ!」
「ぐぅ、も、モンスターを召喚!」
犬や羊など、毛並みが雑草になったモンスターが増えた。
「チッ、数が多くなってきた」
「安心しろよ。今、減らしてやるからよぉ」
「えっ?」
「魔法カード『スティル・オブ・ケミスナイパー』発動! 手札とフィールドから、ウィードモンスターを素材に融合召喚できる!」
「融合カード!」
「加えて、変身中なら、自分以外のフィールドのウィードモンスターを素材にできる!」
「なぬ!?」
「俺は、全部のウィードモンスターを素材に融合!」
ウィード怪人たちの傍にいたモンスターが、出現した蒸留器に吸い込まれていく。
「融合召喚! 『マガジン・オブ・ケミスナイパー』!」
マガジン・オブ・ケミスナイパー ATK1000 ☆8
出現したのは、やはり、弾倉のようなモンスターだ。
しかし、先ほど、ウィード怪人たちを強化した時より禍々しい。
「さらに、ハンドガン・ケミスナイパーをリリースして、『ライフル・ケミスナイパー』をアドバンス召喚!」
ライフル・ケミスナイパー ATK2300 ☆6
有機的なライフルが出現。
マガジンを装填した。
「クククッ、小娘、今まで通りに行くと思ったら大間違いだ」
「ほー、自信があるんだねぇ」
「そういうことさ……おらっ!」
スティルはライフルを構えなおして、歩佳に向けて発砲。
歩佳も引き金を引いて、ライフルの弾丸を雷撃弾で叩き落した。
「うおっ、なかなかやるじゃねえか……だがっ!」
スティルは、バリケードとフェンスの向こうにいる、客の方に向けて銃口を向けた。
「!」
歩佳はベルトのスイッチを押す。
『LETHAL PHASE』
そのまま、バリケードとフェンスの前に移動して、パルスガンを構えた。
スティルが構えるライフルの銃口にも、エネルギーが貯まっていく。
「これだけのウィードモンスターを素材にしたんだ。これなら、テメエをぶっ倒すには十分だ。よけたりしねえよなぁ。避けたら客の体に風穴ができるぜ!」
「そっちのチャージ遅すぎるね! 魔法カード『ライトニング・スイッチ』発動! 変身中なら、チャージ待ちを短縮できる!」
歩佳は魔法カードを発動すると、引き金を引いた。
銃口から閃光が溢れる。
スティルだけではなく、周囲のウィード全てを巻き込むような、拡散型だ。
瞬時に到達し、その体に尋常ではない電撃を浴びせていく。
「「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」」
真冬の静電気でバチッと弾けた時のような、想像しやすい地獄の電撃が怪人たちの全身ではじけた。
「……あ、ああ……」
怪人たちは、そのまま、バタリと倒れた。
「よっしゃあ! 大勝利だよ青葉ちゃん」
「……哀れだなぁ」
怪人の姿のまま倒れ伏して動かないスティルたちを見て、青葉はため息を漏らした。
★
歩佳が怪人を倒したころ。
空閑ソーラー。カード開発部にて。
「何度言えばわかるんだ!」
開発部長、里中良悟の怒鳴り声が響いていた。
「ドーイレブ社製研磨機の設定パネル。ここ弄っただろ!」
「いやあの、前回は……」
「はぁ? お前が弄った設定が正しいのは、パターン『B23』の時だろうが! 今回はパターン『B21』だろ!」
「あっ」
「言ったよな。他の設定と絡めると、ここを勘違いしやすいって朝礼で言ったよな!」
「す、すみません」
「ったく! ケアレスミス多いんだよ」
良悟はイライラした様子で、紙の束の資料を持って、開発室を出ていった。
……研究室は、少しの静寂の後、誰かがポツリと言った。
「……部長、言ってることは正しいんだけど、毎回怒鳴るのどうにかならねえの?」
「アレさえなければなぁ。失敗を許せないってタイプ?」
「あ、俺聞いたことあるよ。前の会社で不祥事やらかして追い出されたんだってさ。実力はあるから社長が雇ったって」
「あー、『失敗』って言葉が急所なのか」
「社長だって、去年までならあんなやつ雇ってないって、今年度の頭に、歩佳さんが、ただのデュエリストに負けてから、『新カード開発』に躍起になって声かけたんだろ?」
「はぁ、現場としてはクッソ空気悪くなるから嫌なんだよなぁ」
いなくなった途端、愚痴が止まらない。
そして、彼らの中で、空閑ソーラーと良悟を取り巻くストーリーが出来上がっている。
理屈も通っていて、現場としては納得していないが理解しやすい。
「……どうなんだろうな。新カード」
「さあな、歩佳さんが強くなるならいいさ。俺たちだって、この部屋で散々研究に取り組んできたんだぞ? それが無駄になってたまるか」
「そりゃそうだな」
「よし、計器の確認するぞ」
★
良悟はイライラした様子で開発室を出た後、廊下を歩いていた。
エレベーター傍に置かれた自販機を見つけて……そのそばに、空閑ソーラー社長、空閑義春が立っていた。
タブレットを見ているようだが……。
「……里中」
「社長、何か用が?」
「……これ、知ってるか?」
義春は、タブレットの画面を見せる。
そこには、怪人を6体倒して、人的被害を一切出さなかった仮面ライダーソーラーを賞賛する速報が載っていた。
「いえ、初めて知りました……ついさっき、ですね」
「ああ、つい先ほど、怪人たちを倒したらしい。こうして、評価されている」
義春の表情は、少し、暗い。
「……SNSで、空閑ソーラーが何と言われてるか。知ってるか?」
「……」
「『空閑ソーラーは、優秀な娘に守られているだけで、会社としては大したことはない』」
義春はそう、口にした。
SNSでそういわれている。というにしては、言い方によどみがない。
何度も何度も頭の中で、消えず残っている言葉ということだ。
「里中。新カードの開発。目的は分かってるな?」
「ええ、あのカードがあれば、歩佳さんはもっと強く――」
「強いことが最優先ではない」
「……」
「空閑ソーラーの技術力を示すこと。これが第一だ」
「それは……」
ライダーの資格というのは、ランダムで手に入るものだ。
別にピンチに陥ったから手に入るとか、そういった類のものではない。
もちろん、そういう状況で手に入りやすい可能性があるという、『無視できない相関はある』が、その程度だ。
ライダーとして強い。
仮面ライダーソーラーは強い。
ただそれは、空閑ソーラーの凄さを示すうえでは、何も関係がない。
「今年度の頭、歩佳が変身しても強馬渇明に負けたことは、大きなチャンスだ」
「えっ?」
「ライダーではない。デュエリストとしてのタクティクスだけで、ライダーに勝つ者は、少ないがいる。強馬渇明はそういう傑物だ。そんな傑物に歩佳はライダーとして負けた」
義春は、目の奥に黒いものを滲ませながら、タブレットを見る。
娘が活躍しているニュースを見る。
「空閑ソーラーとしての技術力で新カードを作り、それを使った歩佳が強馬渇明に勝てば、『空閑ソーラーの技術力』が認められる」
「……」
「歩佳を強くすることではない。わが社の技術力を見せつける。分かってるな?」
「……カード開発において、俺の頭脳は万全です。この会社の技術をフルに活かして、最高のカードを作ります」
「頼んだぞ。予算は足りているか?」
「……」
「足りないなら言え。今回に至っては、私も妥協はしない」
そう言い残して、義春は歩いて行った。