水曜日の朝。
遊陽が教室に入ったとき、中は少し、ざわついていた。
「昨日、怪人を六体も倒したって本当?」
「そうだよ! ニュースになってたかな。ウィード怪人が5体と、えーと、あの試験管みたいな……」
「歩佳、あれは蒸留器」
「そうそう! 蒸留器みたいな怪人が1体いて、合計6体だったよ」
途中、青葉から補足を入れてもらいながら、歩佳がクラスメイトに話している。
人的被害ゼロで、怪人を討伐。
めったに表社会に出てくるような存在ではないゆえに、それに遭遇すると、間違いなく事故が起こるものだ。
レコックス・コーポレーションは『怪人事故』に関しては補償制度も用意しているが、『襲われたこと』が心に与えるダメージは非常に大きい。
それを防ぐのは、仮面ライダーにとって、最も大きな役割でもある。
「そういえば、怪人って、倒した後はどうなるの?」
「怪人はそのまま倒れてるから、行政の人が回収していったよ。すっごく手際よく運んでたね。現場の状態確認も、物が壊れたりしてたらその分の補償もテキパキ進めてた」
「その手の保険って、なんかすごく渋るイメージがあるけど、怪人に関しては手を尽くすんだな……」
話を聞きながら、遊陽は考えていた。
怪人は倒れてもそのまま。
ただ、裏路地で倒した時は、怪人は人間戻っていた。
あれが、カードショップに来たからと言って、違うとも思えない。
「……」
チラッと、鞄の中に突っ込んだデュエルディスクを見る。
……そう、立体映像を投影する、今となっては世界中に普及した装置を。
「……っ」
思うところはいろいろあったが、ここで、遊陽が話すようなことではない。
そもそも。
今、遊陽が考えているようなことを、今まで誰も考えなかったはずがない。
それが広まっていないなら、広まっていない理由があるはずだ。
「で、そのカードショップの店員さんが言ってたんだけどね」
怪人の話題から、次の話題になったようだ。
遊陽はそれを聞き流しつつ、鞄から水筒を取り出してお茶を飲んで……。
「1枚のカードを、5時間もかけて探してた人がいたんだって!」
「ブフッ!」
心当たりがある話にお茶を強烈に吹き出した。
「……えっ、遊陽君。大丈夫?」
「だ、大丈夫」
「人が水を飲んでるときに衝撃的なことを言う歩佳が悪い」
「いや、流石にそれは想定できないよ!?」
青葉からの無茶振りに思わず反論する歩佳だが、それ以上の反撃はできていない。
「それに、歩佳も1枚のカードを探しに行ってたでしょ? スターターデッキの中にあるからそれを買えばよかったけど、私がスターターに入ってるって言わなかったらどうしてたの?」
「……多分、長時間探してたと思うよ!」
「人のこと言えないじゃん」
「青葉ちゃんも一緒にね!」
「人の時間を何だと思ってんの?」
遊陽もヤバいが、歩佳も結構、ヤバいのかもしれない。
ハンカチで唾とお茶が飛んだ机を拭きながら、遊陽はそう思った。
★
放課後。
遊陽は学校を出ると、そのまま、タワーマンション、『グラン・リボーン』に向かっていた。
プレミアム・ラウンジを利用するために以前利用した場所で、今回もそこに用がある。
エントランスに入ると、スタッフたちがぴくっと反応して、出入り口にいる遊陽を見て、納得した様子でもとの仕事に戻っていく。
スタッフルームから、佐々木さんが来た。
「あ、佐々木さん」
「お待ちしておりました。遊陽様」
「……上、行きましょう」
「そうですね。個室とカードを用意していますよ」
二人でプレミアム専用エレベーターを使って、上に行く。
「朝にお電話といただきましたが、『勝つためのカード』を入れたいとのことで」
「うん……あの、強馬渇明って人。知ってますか?」
「ええ、知っていますよ。遊陽様が通う『私立水面高校』の二年生で、学校内のイベントは殿堂入り扱いとか」
「え、渇明さんって殿堂入りだったの?」
「知らなかったのですか?」
「学内のデュエルイベントに出ないなぁとは思ってたけど、殿堂入りだったなんて……」
「水面高校の教員には元プロのデュエリストもいます。デュエル実技試験でやりすぎて、『イベント出禁』が決まって、表向きは殿堂入りとしているそうですね」
「……まぁ納得です」
「でしょうね」
「……その先輩から言われたんですよ。『お前のデッキには殺意が足りない』って」
「確かに、以前お渡ししたカードはインフラになりうるカードですが、勝つためのカードではありませんね」
「そういうことです」
エレベーターが到着した。
降りて、廊下を歩いて、ラウンジに入る。
今日はそのまま通り過ぎて、個室に入った。
もちろん、絶景なのは変わりない。
「……あの、結構、大きなストレージを持ってきたんですね」
「ハイドロキッズとヘリオ・スライサーを考慮しつつ、勝つためのカードですからね。候補は多いんですよ。候補はね」
「はぁ……」
「とりあえず、ソファにおかけください」
「ああ。はい」
座った。
デュエルディスクから自分のデッキを取り外して、机に並べる。
佐々木も確認した。
「……確かに、率直に言いますが、『勝ちたい』という思いで組んでいませんね」
「そうなんですよね。勝ちたいって思ってデッキを組んだことがたぶんないので……」
「何故なのか、自分で分かりますか?」
「だって……」
「だって?」
「勝つってことは、そのためにいろんな計算をしてデッキを組むってことですよね」
「そうですね」
「……ぶっちゃけめんどくさいんです」
「正直でよろしい」
「どの目線ですか!?」
「そう言ってほしかったのでは?」
「それはそう!」
佐々木さん。察する能力が高過ぎである。
ババ抜きとかめっちゃ強そう。
「さて、茶番はこのあたりで良いとして、私からもいろんなカードをお見せしましょう」
大きなストレージから、いくつかのカードを抜き取る。
「こうしてデッキリストを見るのは初めてですからね。それに合わせたものですと、最適なのはこれらのカードかと」
「……え、5枚?」
「ええ」
「それだけ大量に持ってきたのに、選ぶのは5枚?」
「そんなものですよ。『勝つ』というのは」
「……」
貰った5枚のテキストを確認する。
「……うーん。むぅ、入れてみます」
「納得できない時は試運転するのがいいですよ」
「そう、ですよねぇ」
「今回、『プレミアム・スターターデッキ』を1箱お持ちしています。こちらを私が使用し、変身した遊陽様とデュエルするというのはどうでしょう」
「え、変身した俺と、佐々木さんが?」
「はい」
「あの……めっちゃ、強いですよ。変身効果」
「そうしないと、渇明さんとのデュエルと、比較にならないでしょう」
「……そうですね」
遊陽は頷いた。
「あと、私は遊陽様のデッキを全て確認しましたが、こちらのプレミアム・スターターデッキの内容は確認しますか?」
「あー……やめときます。パッと見てもわからないので」
「畏まりました。それでは、屋上のプレミアムデュエルコートに移動しましょう」
「そんなのあるんですね……」
というわけで、二人で移動することに。
★
「……思うんですけど、たまにこのあたりでヘリが飛んでるなーって思った時、大体はプレミアム用の何かを運んでるんですか?」
「そのようなパターンが多いですね」
プレミアムデュエルコート。
というより、そもそも、48階から屋上まで、プレミアム専用となっている。
ヘリポートも用意されていて、その横に、デュエルに適したラインが引かれている。
「それでは、デュエルを始めましょう」
「はい」
遊陽は腕からデュエルディスクを外すと、腰に当てた。
ベルトがディスクから飛び出て、一周して、腰に巻かれる。
『DUEL DRIVER』
遊陽は、ベルトのスイッチを押した。
『Your name is……』
「変身!」
ライダーカードをベルトに挿入!
『KAMEN RIDER HELIOS!』
ベルトから炎が溢れて、赤いアーマーを構築していく。
遊陽の体に装着されて、彼は、仮面ライダーになった。
「これが、仮面ライダーヘリオスですか」
「そうです。行きますよ。佐々木さん」
「ええ」
佐々木はデュエルディスクを構える。
そこに、プレミアムスターターデッキを箱から開封して、シュリンク包装を開けて、ディスクに装填。
シャッフルされたデッキから、5枚ドローした。
遊陽がデッキからドローすると、手から消えて、赤く光るホログラムになる。
「「デュエル!」」
遊陽 LP4000
佐々木 LP4000
「先攻は……私ですね」
デュエルディスクのターンランプがついたのは、佐々木のデュエルディスクだ。
「では、『フロントリビア・ブックメイカー』を召喚」
フロントリビア・ブックメイカー ATK1900 ☆4
出現したのは、白いローブを身に纏って、本を手に持っている男。
「フロントリビア……レコックスが2500円で販売してるスターターデッキが定期更新されてるけど、全部、そのテーマだったはず」
「ええ、プレミアム版でも、カテゴリは変わりませんよ。ブックメイカーの召喚成功時、デッキから『フロントリビア』モンスターを手札に、私は『フロントリビア・ブックバインダー』を手札に加えます。このモンスターは、自分フィールドにフロントリビアがいれば、特殊召喚出来ます」
フロントリビア・ブックバインダー ATK1400 ☆3
「特殊召喚成功時、自分以外に魔法使い族がいるなら、デッキから『融合』を1枚手札に」
「他に魔法使い族を要求……魔法使い族の融合デッキか」
「その通り、私は『融合』を発動。フィールドのブックメイカーとブックバインダーを素材として、融合召喚! 『フロントリビア・レッドソーサラー』!」
フロントリビア・レッドソーサラー ATK2600 ☆7
フィールドには、赤い本を手にする荒々しい相貌の男が出現。
「このデッキのエースですよ」
「もう出てくるんですね……」
「レッドソーサラーは、フィールドから素材を選んだ場合、その数1枚につき、デッキから『レッド・ポーション』を手札に加えます」
「『レッド・ポーション』!?」
佐々木の手札に、魔法カード、『レッド・ポーション』が手札に加わった。
「私は2枚とも発動。レッドソーサラーの効果で、私が使う『レッド・ポーション』によるライフ回復は、500から1000になります」
佐々木 LP4000→5000→6000
「佐々木さん」
「なんですか?」
「面白いカード使いますね」
「でしょう? 私はカードを2枚セットして、ターンエンドです」
「残り手札2枚に伏せカード2枚で、攻撃力2600のモンスターか。俺のターン。ドロー!」
遊陽はカードをドロー。
「俺は手札から、『ハイドロキッズ・スクランブル』を発動! 説明は不要ですね。デッキから『ハイドロキッズ・サイダー』と『ハイドロキッズ・ジェット』を特殊召喚!」
『『よっしゃあ!』』
ハイドロキッズ・サイダー ATK1000 ☆4
ハイドロキッズ・ジェット ATK1400 ☆4
飲料水のボトルを持っている子供と、ジェットパックを背負った子供が出現!
『お、ユーヒ! 今日は屋上だな!』
『風が強いぜ!』
「飛ばされるなよ。俺はお前たちでオーバーレイ!」
『『渦に向かってぶっ飛ぶぜ!』』
「余計な事言うんじゃない! エクシーズ召喚! ランク4『ヘリオ・スライサー』!」
ヘリオ・スライサー ATK2500→2700 ★4
燃え上がる剣を装備したエースがフィールドに出現!
「そちらももう出てくるんですね」
「あれ、佐々木さんってそういう人でしたっけ?」
「デュエル中はそういう人です」
「そういうことにしておきます。どんどん行きますよ。俺は『ハイドロキッズ・スプラ』を召喚!」
水鉄砲を持った子供が出てきた。
ハイドロキッズ・スプラ ATK1200 ☆4
『ユーヒ。俺を初手で握りすぎじゃねえか?』
「確かにそうだな! 召喚成功時、効果発動! デッキから『ハイドロキッズ・マリン』を手札に! そのまま特殊召喚だ!」
シュノーケルを持った子供が出てきた。
ハイドロキッズ・マリン ATK1100 ☆4
『ユーヒ! 大変だ!』
「俺はマリンの効果で――」
『本当に大変なんだって!』
「……なんだ?」
『おならが出そうだ!』
「俺はデッキから『ハイドロキッズ・シールド』を手札に!」
無視した。
「このまま永続魔法『ハイドロキッズ・シールド』を発動! そのまま効果発動だ! 『プロミネンス・シールド』をエクストラデッキからエクシーズ召喚扱いで特殊召喚して、素材にする!」
プロミネンス・シールド DEF2500 ★4
「プロミネンス・シールドの効果で、素材を使って1枚ドロー!」
まず、ドロー1枚。
「墓地に送られた『ハイドロキッズ・シールド』の効果! デッキから、永続魔法以外の『ハイドロキッズ』魔法カードを手札に。俺は『ハイドロキッズ・アームズコール』を手札に加えて発動! デッキからハイドロキッズ永続魔法を手札に加える!」
「なんですかその茶番」
「俺はデッキから、『ハイドロキッズ・アーマー』を手札に! このまま発動して、効果も発動だ! エクストラデッキから『プロミネンス・アーマー』を出して、素材にする!」
プロミネンス・アーマー DEF2500 ★4
「プロミネンス・アーマーの効果で、素材を使って1枚ドロー! ハイドロキッズ・アーマーが墓地に送られた時の効果で、『ハイドロキッズ・コンビネーション』を手札に!」
「ほう……」
「さらに、レベル4のスプラとマリンでオーバーレイ!」
『よっしゃいくぞ!』
『おりゃあああっ!』
2体が光の渦に飛び込んで爆裂する。
「エクシーズ召喚! 『プロミネンス・ソード』!」
プロミネンス・ソード ATK2000 ★4
「そのまま効果発動! 素材を1つ使って、1枚ドロー!」
「これで、ヘリオ・スライサーに加えて、3種類の装備が……まさか」
「そのまさかですよ。手札からフィールド魔法、『プロミネンス・ブレイブゾーン』を発動! 発動時の効果処理で、ヘリオ・スライサーに、三種類のプロミネンスを装備させる!」
ヘリオ・スライサーの手から剣が消えて、プロミネンス・ソード、シールド、アーマーが装備される。
「ブレイブゾーンの効果で、装備しているエクシーズモンスター1体につき、攻撃力が600ポイントアップする!」
ヘリオ・スライサー ATK2700→4500
「……」
「さらに、手札の『ハイドロキッズ・サーフ』は、変身中なら無条件で特殊召喚!」
ハイドロキッズ・サーフ ATK1000 ☆4
『うおおおっ! 旦那かっちょいいいいっ!』
「サーフの効果! 2体以上ハイドロキッズを素材としているエクシーズモンスターの素材になれる!」
『行くぜ旦那! 俺の力使ってくれ!』
サーフがヘリオ・スライサーのエクシーズ素材になる。
へリオ・スライサー ATK4500→4600
「こ、これが……現状の完全体と言ったところですか」
「そうです! ブレイブゾーンの効果で、プロミネンスを3種類装備しているなら、俺のカードは全て、戦闘でも効果でも破壊されない! 装備が2種類以上あるなら、チェーン不可のモンスター破壊が行えますよ」
「……マジで言ってるんですか?」
「マジで言ってます」
「……そうですか」
遊陽と佐々木の中で、『渇明がバケモノだったって話になるんじゃね?』と思い始めてきた。
まぁ、それはそれである。
「ただ、手札、6枚ありますね。どうしますか?」
「まずは、そのリソース、使ってもらいますよ。ブレイブゾーンの2種類以上の効果で、チェーン不可でレッドソーサラーを破壊!」
レッドソーサラーが粉砕された。
「よしっ、これで……」
「レッドソーサラーが破壊された場合、墓地からレベル4以下のフロントリビアを1体特殊召喚できますよ。私は『フロントリビア・ブックメイカー』を守備表示で特殊召喚」
フロントリビア・ブックメイカー DEF1200 ☆4
「こ、後続確保……」
「ブックメイカーのサーチは特殊召喚でも使えます。私は『フロントリビア・アルケミスト』を手札に」
「ぐぅ……ヘリオ・スライサーの効果で、エクシーズ素材を3つ以上持っているなら、相手モンスターを破壊できる! 俺は、ブックメイカーを破壊!」
ヘリオ・スライサーが剣を振ると、ブックメイカーが破壊された。
「これで……」
「墓地に『レッド・ポーション』がある状態で自分フィールドのフロントリビアが破壊された場合、手札の『フロントリビア・アルケミスト』の効果発動。手札から特殊召喚!」
フロントリビア・アルケミスト DEF1000 ☆3
「ま、また後続が……」
「この程度の攻勢なら伏せカードを使う必要もありませんよ。さて、どうします?」
まだ、遊陽の手札は、6枚もある。
「魔法カード『ハイドロキッズ・タッグジャンプ』を発動! 変身中なら、手札と墓地から、ハイドロキッズを1体ずつ特殊召喚できる。俺は、墓地のスプラと、手札のレスキューを特殊召喚!」
『行くぜええっ!』
『何か燃えて……旦那の剣だけか!』
ハイドロキッズ・スプラ ATK1200 ☆4
ハイドロキッズ・レスキュー ATK1400 ☆4
「俺はスプラとレスキューでオーバーレイ!」
『俺たちってことは』
『アレだあああっ!』
「エクシーズ召喚! 『ハイドロキッズマシン・ダブルポンプ』!」
ハイドロキッズマシン・ダブルポンプ ATK2300 ★4
放水機を2門設置したマシンが出現し、スプラとレスキューが乗り回している。
「それは……」
「プレミアムボックスで当てたカードですよ。レスキューを探すのが大変だったのなんのって……俺は、スプラとレスキューを素材にしているダブルポンプの効果発動! 相手モンスター1体の表示形式を変更できる!」
『『くらえっ!』』
アルケミストが攻撃表示に。
フロントリビア・アルケミスト DEF1000→ATK1200
「さらに、魔法カード、『
「まあ、通せませんね。罠カード『フロントリビア・アルケミーサイクル』を発動。墓地から『レッド・ポーション』1枚をデッキに戻すことで、相手が発動した魔法、罠を無効に」
「んなっ、なんで『スクランブル』とかに使わなかったんだ!?」
「追加効果で、レッド・ポーションをもう1枚戻せば、このターン、相手モンスター1体を対象に取り、攻撃できません」
「そっちが本命か! 手札から速攻魔法、『天なる剣』を発動! 自分フィールドで一番攻撃力が高い戦士族モンスターが相手のカードの対象になった場合、その発動を無効にする!」
「カウンター罠、『フロントリビア・レッドリバース』を発動。相手がカードの効果を無効にする魔法、罠カードを発動した時、それを無効にして、相手モンスター1体をセット状態にします」
「なぬ!?」
「チェーンは……ありませんね。私はダブルポンプを選択し、セット状態に」
『『うおおおおっ!』』
ダブルポンプがセット状態に。
「さらに、へリオ・スライサーはこのターン。攻撃できません」
「ぐっ……」
6枚あった手札だが。
この攻防で、もう、2枚に。
そのうち一枚は、『ハイドロキッズ・コンビネーション』だ。
「……佐々木さん」
「えぇ。分かってますよ」
「このデュエル。俺の勝ちです!」
「では、どうぞ」
「魔法カード、『ハイドロキッズ・リスタート』を発動! 自分フィールドの、もともと攻撃力よりも、高い攻撃力を持ち、ハイドロキッズを3体以上素材とするエクシーズモンスター1体を対象に、そのモンスターをエクストラデッキに戻す!」
ヘリオ・スライサーがエクストラデッキに戻った。
プロミネンス装備も、もともと持っていたエクシーズ素材も、全て墓地に置かれる。
「その後、エクストラデッキに戻したモンスターを、フィールドに特殊召喚する!」
ヘリオ・スライサー ATK2500 ★4
再び、エクストラデッキからヘリオ・スライサーが出てくる。
「変身中にこの効果で特殊召喚されたモンスターは、エクストラデッキに戻る前の攻撃力と同じ攻撃力を得る!」
ヘリオ・スライサー ATK2500→4600
「攻撃力4600ですか。しかし、私のフロントリビア・アルケミストの攻撃力は1200……ライフが6000の私には届きませんよ?」
「ハイドロキッズ・リスタートを墓地から除外して効果発動! 変身中なら、自分フィールドの、エクシーズ素材がないエクシーズモンスター1体に、自分のハイドロキッズモンスターを3体、素材に加える! サーフ、マリン、サイダー。頼んだぞ!」
『『『旦那ああああっ!』』』
3体が素材に加わった。
ヘリオ・スライサー ATK4600→4900
「墓地から『天なる剣』を除外して効果発動! 変身中なら、任意の魔法カードを墓地から手札に! 俺は、『
ヘリオ・スライサーが剣を構えなおした。
「ヘリオ・スライサーの攻撃宣言時からダメージステップ終了時まで、攻撃力は倍になり、相手はカード効果を発動できなくなる! バトルだ! ヘリオ・スライサーで、フロントリビア・アルケミストを攻撃!」
へリオ・スライサー ATK4900→9800
「攻撃力、9800。うわっ!」
アルケミストを一刀両断して、佐々木のライフを消し飛ばした。
佐々木 LP6000→0
★
「ヘリオ・スライサーで勝つことにこだわりすぎでしょう。他のモンスターを出せば、突破力もありますよね」
「ありますねー……」
「タッグジャンプでしたか。あれで手札と墓地からハイドロキッズが出てきましたが、出す先をダブルポンプではなく、私がお渡しした汎用的なエクシーズにするだけで、戦況は変わったはず」
「変わりましたねー……」
個室に戻って、二人で話している。
「とはいえ、その手癖は遊陽様が大切にするべきものです。そこを伸ばしたいなら、それを伸ばしましょう」
「それで、いいんですかね?」
デュエルというのはいろんな判断が求められるものだ。
そういったものを無視して、デッキを構築して良いものなのだろうか。
「短所を埋めるというのは、必要な場合にするべきことです。長所を伸ばす、短所を埋める、裾野を広げる。相手を倒すためには主に三通りありますが、全部やる必要はありません」
「そうですか……」
「できているのが渇明さんというだけの話です」
「あの人を基準にしたのが大きな間違いという話になりませんか?」
「途中でちょっと思ったでしょう」
「思いました」
付き合いは短いが、『遊陽が望む空気』を読み取る能力が高すぎて、随分気の合う会話になっている。
「私もこれからは、遊陽様の手癖に合わせたカードを選出しましょう」
「ありがとうございます」
「専任コンシェルジュですから、当然です」
佐々木は微笑んだ。
「勝つためのカードを入れているからこそ、後攻1ターン目でこのデッキに勝ちましたが、それにこだわる必要もなさそうですね。それでは……」
ストレージからいろんなカードを取り出し始める佐々木。
遊陽も楽しそうに、佐々木が取り出したカードたちを見ている。
ここはラウンジであり、腹が減ったらご飯も出る。
二人はしばらくの間、絶景を眺めつつ、デッキ構築に熱中していた。