転生したら怪異に愛されたので、現代ダンジョンに解き放つ 作:ダンカイ
転生。
オタクの間ではチートを持って異世界に転生し、無双したり愛されたりして承認欲求を満たすための概念だ。
しかし、普通に考えれば一度死んで蘇るという経験を経ていることになる。
仮に転生先が、怪異の存在するホラーっぽい世界だった場合、どうなるか。
死を経験したということは、死人にとっては転生者は同類ということになるだろう。
つまり、同類扱いされた。
産まれた時から怪異が見ることのできた俺は、そんな怪異から普通に挨拶されたりしながら育ってきたのだ。
最初のうちはビビったね。
しかし考えてみてほしいのだが、世の中に死ぬことより怖いことなんてあるだろうか。
意識が急速に失われていく感覚は実に最悪で、俺は二度と経験したくない。
そんな恐怖体験に比べたら、ちょっと顔がおぞましい形をしていたり、常に呪詛をばらまいているくらいなんだというのか。
むしろ、ひどい目にあったのだという同情心が湧いてくる。
気がつけば、俺はそんな怪異達と友誼を結び、怪異の手を借りられるようになっていたのだ。
さて、こうなってくると人には欲が湧いてくるというもの。
怪異の手を借りて楽がしてぇ~。
罰当たりじゃないか、と思うかも知れないがこれは何も怪異にとっても悪い話じゃない。
怪異は生者でありながら死者である俺の存在を媒介にしないと外部と接触できないのだ。
生前の未練がある霊魂に対しては、その未練を遂げさせる。
単純に現世で暴れまわりたい妖怪に対しては、好きにさせる。
代わりに、俺がその利益を得るのだ。
要するにウィンウィンというやつ。
まぁ最初の内は、周りの怪異や俺が怪異とつながっていると知っている人物は、「何いってんだこいつ」みたいな反応をしたけどな。
で、そんな怪異達が暴れまわるのにふさわしい舞台がこの世界には存在している。
もともと怪異という、前世には存在しなかったオカルトが存在する世界だ。
何があってもおかしくないんだが――
現代ダンジョンとかいう、なんかジャンルが違う場所がこの世界には併設されてるんだよね。
○
――その日、ダンジョンは阿鼻叫喚に包まれていた。
あるものは逃げ惑い、あるものは悲鳴を上げ、あるものは恐怖に咽び泣く。
誰もが己に迫る死を前にして、ただただもがくことしかできない。
それはまさしく地獄の一つ。
――あるものは、まるで最初から息をしていなかったかのようにその場でピタリと静止して、倒れ込んだ。
――あるものは、体中を黒い影のようなものに覆われて飲み込まれ、跡形もなく消滅した。
――あるものは、突如として体中をかじり尽くされ、骨だけになってその場に残された。
ああ、これを阿鼻叫喚と呼ばず何という。
阿鼻地獄にして叫喚地獄。
ここが人の世であると、果たして誰に言って信じられよう。
そのような中で、彼らは逃げ惑っていた。
『ギャギャギャギャギャ――――ッッッッ!!』
――
そう、逃げているのは人間ではない。
地獄絵図と化しているのは人間達ではなかった。
むしろ人間は、突如として
そして口々にこう言い合う。
「――レイスだ」
「またレイスが出たのか――」
レイス。
この、突如として魔物が何者かに殺される現象を彼らは
いい得て妙ってやつだな。
何しろ魔物を食い荒らしてるのは、俺を媒介としてダンジョン内を縦横無尽に駆け回る
――そう、現在ダンジョン内で起きている怪奇現象の原因は、半分俺だ。
俺に憑依した怪異達は、俺を中心に一定範囲まで自由に行動して現世の存在に干渉することができる。
干渉できる範囲は怪異によって違うが、ダンジョンに連れてくるような怪異はたいていワンフロアなら十分範囲内だ。
特に現在俺がいるのは、ダンジョンの第一回想。
回想は深くなるにつれて広くなるので、一番狭い第一回想ならそこまで怪異が動き回るのには苦労しない。
要するに、俺が怪異の主であると察することは、ほぼ不可能ということ。
で、俺が何をしているかと言えば――
「お、いいものみっけ」
怪異たちが倒した魔物の素材を拾い集めていた。
この世界の魔物は、倒すと消滅して素材を落とす。
これを売却するのがダンジョン探索者の主な収入源。
要するに俺は、怪異に好き勝手させて魔物を蹂躙してもらいつつ、自分の懐を温めているのだ。
「あー、君。レイスが倒した魔物の素材を拾ってるのか?」
「え? あー、はい」
と、そこで声をかけられる。
二十代半ばの社会人っぽいお兄さん。
探索者免許こそ取ったものの探索者関係の職業には就かず、休日に副業で個人探索者をしてるタイプかな?
装備的には、そんな感じがする。
要するに、あまり魔物と戦うのが得意ではないし、レイスみたいな異常現象を恐ろしいと思うタイプ。
「いや……よくそんなホイホイ拾えるね。なんかこう、呪われそうでいやじゃない?」
「え、別にそんなことないですよ? 俺、レイスに出くわしたら毎回こうしてますけど、ピンピンしてますし。レイス様々です」
「そ、それは逆に……レイスと出くわせて運がいいね。いや、レイスの活動圏内なら無くはないんだろうけどさ」
「あはは、よく言われます」
でまぁ、素材拾ってるとこういう風に言われるのは仕方ないよね、という感じ。
毎回一度はこういうやり取りを他の探索者としてる気がする。
「貴方もどうですか? 魔物を倒さずに素材が手に入るから、入れ食いですよ」
「い、いやー……俺だって稼ぎたくはあるけど、流石にちょっと怖いから遠慮するかな……」
「そうですか。じゃあ」
「あ、ああ、じゃあね」
まぁ、話していてもあんまり益があるわけでもないので、適当に切り上げて移動する。
わざわざ相手を誘って分け前を減らす意味はないだろ、って?
いやぁ、怪異たちが倒す魔物の数が多すぎて、俺一人じゃ持ち帰れないんだよ。
それに俺は、色々事情があって下手に素材を集めすぎても、そんなに売り払えないのだ。
将来のためと思って毎度集めているが、現状は完全に倉庫の肥やしである。
実家が山奥の土地をいっぱい持ってる家で良かった。
でなきゃ、置き場がなくて素材を諦めざるを得なくなる。
加えて言うと、俺一人がレイスのハイエナをしてると目立つからな。
他にもハイエナを増やして、俺の印象を薄めたい。
最近は増えつつあるんだけどなー、残念ながらさっきみたいにハイエナを嫌がる人も多いのだ。
――と、その時である。
『――カイ、こっちは終わったわ』
「……ん」
不意に、声がした。
溶けるような、甘い声音。
それでいて、どこか触れたら破滅してしまいそうな危うさを伴った声だった。
「了解、じゃあ引き上げるか」
『はぁい。うふふ、やっとカイに会えるのねぇ。久しぶりだわ』
「一時間しか経ってないだろ」
『たとえ一時間でも、私にとってはとってもとっても、とてもとてもとても、とーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっても永い時間だったんだから。ずっと貴方にあいたかったのよ、カイ』
「はいはい、入口で合流な」
声の主は俺を脅かすように、圧の強い言葉を使ってくるが、これはただのコミュニケーション。
別にそこまで深刻に捉える必要はないのだった。
ちなみにカイというのは俺の名前。
安屋敷カイ、何とも怪しい名前である。
それはさておき、今日もこれくらいにして帰るとしますかね――
○
【何者?】レイス総合スレpart14【怪物】
1:ここは最近都内のダンジョンを騒がせている謎の現象”レイス”についてのスレです。
レイスは数ヶ月ほど前から都内の各ダンジョンで発生をはじめ、以後猛威を奮っています。
レイスが襲うのは魔物であり、人は襲わないようです。
何者かのスキルによるものかと思われますが、確証はありません。
レイスに襲われた魔物は、突然何もないところで頸を切り落とされたり、闇に飲み込まれたり、突然バラバラになったりします。
正体がわからないことから、まるで幽霊のようだということでレイスと呼ばれるようになりました。
ここでは、レイスに関する情報を話し合います。
前スレ:http
次スレは950が立ててください。
192:レイス出たぞ
194:マ?
199:マジ、今日の午後、西ヶ谷区のダンジョンにあらわれて一層の魔物をあらかた葬り去って帰っていったらしい。
201:あああああああああああ、俺午前中は西ヶ谷の第一層潜ってたのにいいいいい
202:どんまい。
204:っていうか、もしかしてハイエナするつもりだったのか?
度胸あるってレベルじゃねぇな。
206:いや、俺達みたいな副業探索者にとって、魔物は鬼門なんだよ。
何しろスキルがボロボロだし、ほとんど戦闘訓練してない。
第一層に実装が義務化された強制脱出装置の保険がないとまともに戦えん。
普段は自分が倒せる魔物か、宝箱を何とか見つけて稼ぐしかないのに、レイスがいると制限ないからな。
207:今は結構、レイスの落とした素材集めてるやついるよな。
こないだも、仮免許の学生が平気な顔で素材集めてたわ。
ありゃ将来大物になるね。
208:にしてもレイスって何者なんだよ。
210:第一層にしか出現しないから、副業探索者か仮免許の学生ってよく言われてるな。
211:いやいやいや、あんな化物みたいなのがそんな素人であってたまるか。
214:どっちにしても、殺し方があまりにも化物すぎる。
なんであんな魔物が魔物に食われた時みたいな感じで魔物を殺せるんだ。
217:噂じゃS級探索者のお遊びとか言われてるけどなぁ。
219:まぁ、S級は変人が多いから、そういう事できるやつもいるけど、全員知らないって言ってんだよな……
224:むしろ、興味があるからぜひとも正体を知りたいってやつばっかだったよな。
229:何にしても、いまダンジョン界隈で一番熱いよレイス。
あー、俺も生で魔物が縊り殺される瞬間みてみてぇなぁ。
230:それはマジで怖いからやめといたほうがいい。
231:というか、呪われてもしらねぇぞ?
今、もしかしたらお前の後ろにレイスが……
232:やめろぉ!!