転生したら怪異に愛されたので、現代ダンジョンに解き放つ 作:ダンカイ
――この世界にダンジョンが出現したのは、今から五百年ほど前だという。
ある日、世界各地に突如として現れ、人々はそれを決死の思い出探索したのだとか。
すると中には見たこと無い生物――魔物がいて、倒せば素材を手に入れることができた。
他にも宝箱には金銀財宝が、時には武器まで落ちていたという。
更にはダンジョンの中には魔力と呼ばれる特別なエネルギーが充満している。
この魔力が充満している場所において、人類はこれまでにない特別な力――”スキル”を使えるようになったのだ。
以来、人類は魔物とダンジョンから資源を手に入れつつ、いい感じに繁栄していた。
この五百年前ってのがポイントで、現代に置いてダンジョンはごくごくありふれたものとなっている。
ただし、中に入るとそれ相応に危険なので、入るには免許が必要となるのだ。
他にも脱出装置に関してはかなり技術が発展しており、そうそう死人が出ることはない。
まぁ、何事も例外はあるけどな。
――で、そんなダンジョン探索者になろうとしているのが俺、安屋敷カイであった。
特徴は何と言っても、前世の記憶を持つ転生者であるということ。
そして死を経験したことで、死人扱いされて怪異から同類と思われていることだ。
他には特にこれといって特筆すべきことはない。
座右の銘は棚からぼた餅。
とにかく楽して稼ぎたいのだ。
前世みたいな社畜生活はごめんである。
その点、ダンジョン探索者になって怪異に魔物を狩ってもらえば俺はほとんど働かなくて済む。
こんなに楽なこと、早々ないぞ?
という不純な理由で、現在探索者免許を取得するべくダンジョン高専に通っている。
俺が怪異と仲良くなったのは、幼い頃。
ちょうど前世の記憶を取り戻してすぐ、もっと言えば物心がついてすぐだったかな?
ある怪異と知り合いになり、それから怪異と親しくなったのだ。
どうもこの世界には、ダンジョンが出現する以前から怪異が存在するらしい。
ただ、怪異というのは人々の信仰やら何やらによって、存在を確立させているのだとか。
まぁ、創作でよくあるやつだな。
現代だと、ダンジョンの存在や科学の発展によって、怪異は忘れられつつある。
そんな彼らに目をつけて、彼らに好き勝手させる代わり、楽をして生きるのが俺のやり方。
もちろん、人を襲ったりはさせないぞ。
魔物というもっと手っ取り早い敵がいるんだから。
そっちで発散してもらうのが、誰にとっても不幸にならない方法だろう。
というか、
そこら辺は長くなるので割愛するけど。
ともかく。
かくして、今日も俺はダンジョンに怪異を解き放ちながら、適当に日々を過ごしていた。
○
ダンジョン高専。
ダンジョン探索者高等専門学校。
名前の通り、ダンジョン探索者を要請するための高専で、ここを卒業すれば自動的に探索者免許がもらえるというありがたい場所。
他にも免許を取得する方法は色々あるし、中には中学生の頃からダンジョン探索者になる方法だってあるが、俺の場合はここ一択だ。
課題さえこなしていれば、勝手に免許が取れるんだもの。
というわけで、今日も今日とて俺は、ダンジョン高専で探索者となるべく青春の汗を流すのだった。
「――思うにさ、この世界にはダンジョンっていう、創作の中から飛び出してきた代物が実際に存在するだろ?」
「ああ、するな」
「だったら、ダンジョン以外にもそういうフィクションっぽい何かが存在してもおかしくないと思うんだよ」
「お前ほんと、そういうの好きだよなぁ、安屋敷」
現在、俺達は校庭をダラダラと走り込みながら、話をしていた。
俺が話をしているのは、高専に入ってからの友人である武田だ。
「むしろ、あって然るべきだろ? こう、世界の裏側で暗躍する能力者がいたり、突然クラスをテロリストが占領したり……」
「ないない。というか、仮に後者が現実になったとしても、わざわざ高専は選ばねぇだろ。ここ、魔力が使えるんだぞ?」
「だよなー」
こうして走り込みながら、息も切らさず走れているのは魔力のおかげだ。
魔力はダンジョン内にしか存在しないが、特殊な技術を使えばダンジョンの外でも発生させることが可能である。
ただし、許可なく魔力の発生する建造物を建てることは違法。
魔力が存在するのはダンジョンを除くと、俺達みたいにダンジョン探索者を要請するための場所か、あるいはコロシアムみたいな場所に限られる。
「つうか、それよりよっぽどレイスの方がオカルトだろ」
「それはまぁ、そうなんだけどさ」
「聞いたか? こないだも西ヶ谷のダンジョンでレイスが出たらしい」
「色んなところに出てくるよな」
聞いたどころか、自分がやりました。
なんて、普通は話せない。
俺と怪異の繋がりを知るのは、家族を含むごく少数だけだ。
「安屋敷は、レイスの現場に出くわしたことあるんだっけ?」
「ああ、入れ食いだった」
「ハイエナ派かぁ、度胸あんなぁ」
レイスが倒した魔物の素材を集める人間は、ハイエナ派と呼ばれる。
まぁ元は蔑称だったけど、最近は公然とハイエナと呼ばれることが増えてきた。
武田みたいに、度胸があると普通に褒めてくるやつもいるくらいだ。
「……っと、あんまりこういう話はしないほうがいいぞ。エリート組に目をつけられる」
「そうだなぁ」
――その時だった。
ブオォ! とすごい風が吹き荒れて、俺達の頭上を一人の生徒が
ただ走っているだけの俺達とは、まったく次元の違う動きだ。
まさに少年漫画のガチバトル。
剣を振りかぶりながら、空中を風とともに駆けつつ、一人の少女が少年へと切りかかっていく。
少女の方は如何にも真面目といった雰囲気の黒髪ツインテで、少年の方はいけ好かないって言葉がよく似合うスカしたイケメン。
まぁ、俺としてはどっちも若いなぁって感じだけど。
で、そいつらが派手な模擬戦を繰り広げる中、俺達みたいな落ちこぼれが走り込みをしている。
何とも二つの光景は似つかわしくないな。
「今日は風雲姫勝てるかね」
「さてなぁ、今は互角って感じだけど、そのうちまた焦った風雲姫がミスるんじゃないか?」
「惜しいよなぁ、もう少し落ち着きがアレば雷王にだって負けないと思うんだが」
「……ま、俺や安屋敷みたいな無能組が言ってもしょうがないけどな」
エリート組と無能組。
学生間でいつの間にか出来上がっていたヒエラルキーの格差。
というのも、探索者の才能は本人が扱える魔力量とスキルの強さに依存する。
魔力は常にダンジョン内をすごい勢いで満たしているが、それを取り込んで扱える量には人によって違うのだ。
大量に扱える人間は、ガチバトルを繰り広げる連中みたいに尋常ならざる力を手に入れる。
対する俺達は、基本味噌っかすな魔力量しか扱えず、無能の烙印を押されているのであった。
「とはいえ、俺はともかく安屋敷。お前は”スキル”の方はすごいんだから、もう少し頑張れよな」
「残念ながら興味がないんだよ。俺は楽ができればそれでいい」
「楽ができれば、ねぇ」
スキルに関しては、魔力量が少なくとも強いスキルというのは存在する。
中には魔力量は俺達と同程度だけど、スキルだけでSランクに到達するやつもいるしな。
その点俺は、そこそこスキルが優秀
具体的には――今みたいに。
「まぁ実際、今まさに楽しまくってるしな」
そう、現在俺は浮遊していた。
こう、幽霊みたいに足だけが透けた状態で、すいっと水平移動をしているのだ。
いや実際には、半分だけ幽霊になっている。
完全に怪異と一体化することで、人と怪異の中間みたいな存在となったのが今だ。
体の操作権も怪異に明け渡しており、現世を自由に歩き回りたい怪異の欲望を叶えているという感じ。
俺としても楽で助かるね。
「なんかずるいよな、それ。俺達みたいな魔力量が少ない人間は、少しでも地力を補うためにこうして走り込みしてるのに」
「スキルの練習だからいいんだよ、ちゃんと許可も得てる」
「練習必要かぁ? それ」
「必要ってことにした方が楽なんだよ」
――なお、これは言うまでもないがスキルじゃない。
俺はそもそも、
ただ怪異の力を借りてごまかしてるだけ。
昨今、スキルの開示はプライバシーに関わるので、無理に開示する必要はないのだ。
俺みたいな、一見すると他に持っているモノがいないユニークスキルを持つ(ということになっている)人間は特に。
ま、何はともあれ楽でいいんだ、これが。
俺の最終目的は免許を取ることだけだからな。
学校の授業すら、怪異の力を借りて楽しまくるのである。
「うおっ」
あ、眼の前に風雲姫ことサツキが落ちてきた。
そしてこっちをキッ、と睨んでくる。
うーん、サツキは真面目だからなぁ、俺のことが気に入らないんだろう。
いや、もしかしたら”あいつ”の方が理由としては大きいか?
何にしても、気にする必要はない。
俺はそのまま、何事もなかったかのように水平移動を続けるのだった。