転生したら怪異に愛されたので、現代ダンジョンに解き放つ 作:ダンカイ
俺のことを知っている人間は、俺の家族を除けばごく少数。
逆に言えば少数とはいえ俺のことを知っている人間がそこそこいるということ。
そのほぼ全ては故郷の人たちだ。
何しろ、深い山奥で今でも信心深い生活を送っている人たちなのでね。
あれ、それって因習村……
いや、あの人達普通に現代的な道具使いこなしてるし……
ともあれ、場所柄知っているのは大抵ジジババなわけだが、一人だけ同年代で俺のことを知っている人間がいる。
いわゆる、幼馴染というやつだ。
「暇だなぁ」
『それなら、ダンジョンに行けばいいじゃない。部屋に籠もってダラダラしているだけの人間の”暇”は、単なる怠慢よ』
「保護者みたいだなぁ」
『誰がクソババァですって?』
「そこまではいってないが?」
みんな大好き週末に、俺はベッドの上でだらだらスマホを見ながら時間を浪費していた。
前世はこういう時間が多すぎて、俺としても休日は有意義に過ごしたいのだが、なかなかうまくいかない。
単純に行動力がないんだよなぁ。
外に出る習慣を付けないと、なかなかどうして足は動かない。
現在の俺は一人暮らしで、同居人は脳内にしかいないのも、だらけているのに一役買っている。
この脳内同居人については話すと長くなるので後に回すとして、俺の興味はスマホの中へと向いていた。
「はぁ、またダンジョン内で”
『大事じゃない、どう対応するつもりよ』
「もう既に対応されてる。というか、俺一人で何でもできるわけないだろ」
災厄というのは、一言で言うと本来なら出現しないはずの階層に、強い魔物が出現することを指す。
これが安全対策ガチガチの現代におけるもっとも大きなダンジョンでの死亡原因。
ダンジョンでの人死には気が滅入るね。
他人の交通事故のようなものとはいえ、自分も無関係じゃない。
それに、ダンジョンで死者が出る度に反ダンジョン活動家がうるさいのだ。
『
「何とかと言われても、そこはコウメの情報待ちでなぁ。俺はあいつと違って一般人なんだから」
言いながら、SNSのタイムラインを無意味に更新していると、今度はエンタメ系の話もはいってくる。
プロの探索者がダンジョンの新規エリアを攻略した、だとか。
ダンジョン配信者がコラボで大型魔物を討伐した、だとか。
コロシアムのランカー同士の戦いで下剋上が発生した、だとか。
ダンジョンの話題は常に尽きない。
こういう華々しさが、人々をダンジョンに惹きつける一番の要因だ。
特に最近は配信とコロシアムが一定の人気を誇っており、これらを兼任するものもいる。
コロシアム、というのは探索者同士が安全に戦うための場所だ。
魔力が発生する場に強制脱出装置を取り付けて、ガチバトルを繰り広げる。
これがまぁ、世界的なスポーツとして人気を博しており、なんならコレ一つでダンジョンモノとは別個のアレヤコレヤができそうなくらい濃いのだ。
まぁそれはそれとして、
「っていうか、コウメがまたコロシアムで勝ってるな。あいつも好きだねぇ、そういうの」
『誰のせいよ、誰の』
「はいは――」
と、その時。
ぴんぽーん、とインターホンが鳴る。
俺は噂をすれば、なんて思いながらカメラを確認すると、案の定そこには”そいつ”がいた。
「おにーさまー、遊びに来たよー」
一言で言うなら、日本人形。
黒髪おかっぱで小柄な少女。
和服とか巫女服とか来たらさぞかし似合うだろう、という少女が黒いゴスロリに身を包んで経っていた。
おい今夏だぞ、暑くないのかアレ。
「はいはい、今開けるからはいっていいぞ――”コウメ”」
「ありがとー、おにーさま。えへへ、会いたかったよ」
御崎コウメ。
俺の一つ下の幼馴染で、同郷出身。
見た目は可愛らしい少女だが――現役のS級探索者でもある。
先程まで見ていたスマホの記事には、こう記載されていた。
『歴代最年少プロ探索者免許取得者にして、国内では五人しかいない中学生探索者免許取得者』
と紹介されている。
まぁ要するに、すごいやつ。
「あ、おにーさま、またお部屋が少し汚れてる。もー、ちゃんと掃除しなきゃだめだよ?」
「失敬な、ゴミはちゃんとまとめてあるぞ。足の踏み場もある」
「それが汚れてるって言うんだよっ」
とはいえまぁ、本人は小動物みたいな感じなんだけど。
そこが清楚でカワイイとか、世間では言われているらしい。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「えっと……あの……そのね? えっとね?」
モジモジと、コウメは顔を赤らめながら手の指を絡めて体を揺らす。
端から見れば可愛らしい所作だろう。
しかし俺はこうやってためらうコウメが何を言いたいのか、長い付き合いで察している。
具体的には――
「こ、コウメと……
そう、死合である。
試合とか、仕合じゃないぞ。
死合だ。
「コウメとね、血湧き肉躍る死闘をしてほしいのっ! 骨がぐちゃぐちゃになったり、血がドバドバになったり、そういう戦いがしたいのっ!」
「こら、そんな物騒なこと言うんじゃありません! というか、こないだもコロシアムで大暴れしたってさっき見たぞ?」
「足りないよぉ。あんなぬるい場所じゃ、コウメ満足できないもんっ!」
ぷんぷんと、頬を膨らませながら言う事じゃない。
そう、コウメはバトルジャンキーだった。
探索者をしているのも殺し合いが好きだからで、決して富とか名声がほしいわけじゃない。
周囲から評価されているのも、欲望のままに振る舞っていたからそうなっただけ。
「――それに、おにーさまがコウメをこういう風にしたんだよ?」
「っすー……まぁ、そっすね」
「責任……取ってほしーな?」
――で、原因はほとんど俺です。
というのも、コウメには才能があったのだ。
凄まじい魔力量と、強すぎるスキル。
まるで、探索者になるべくして生まれてきた存在。
それが、コウメ。
「というか、
「むー」
んで、コウメの立場もまた良かった。
コウメは俺達の故郷で、代々ある神社の管理を行っている家系だ。
巫女さんなのである。
で、その神社の”神域”というのが、ダンジョンに近い特性を持っていた。
要するに、魔力を使える。
そしてダンジョンが発生する以前から存在する土地なので、ダンジョン認定をされておらず世間に知られていない。
というか、俺がいないとそもそも神域にたどり着けないしな。
で、そんな場所をコウメの家が持っていて、しかもコウメは才能豊か。
ちょっと育ててみない?
そんな誘惑に、俺は勝てなかった。
俺と仲良くなった怪異の中に、バトルジャンキーな荒くれ妖怪が多いのもよくなかった。
そういう妖怪にコウメは師事し、気がつけば血みどろ大好き少女になっていたのである。
怖い。
「もー、おにーさまが私みたいに有名になれば、コロシアムでもおにーさまと戦えるのに」
「戦ってるのは俺じゃなくて怪異だけどな。というか、有名になるのは基本的にごめんだぞ。ただでさえコウメと顔見知りなのが学校の知り合いにバレてて、睨まれてるんだから」
「そーは言うけど、おにーさまの特異性と性格を考えたら、あんまり目立たずに生きるって厳しいと思うけどなぁ」
「うぐ……」
そうやって事実を指摘するのはよくないぞ?
とかく俺は面倒くさがりで、自分の特異性を楽するために使っている。
今はまだスキルと言い張って言い訳が聞いているが、将来的にはそうもいかなくなるだろう。
そうなった時、面倒くさがって本気で俺は実力を隠そうとしないのだ。
と、コウメは読んでいるらしい。
レイスの正体がバレるのも時間の問題だ、と。
ま、まだバレてねーし。
まままま、まだバレてねーし!
バレるとも限らねーし!
といいたいのだが、俺自身コウメの言うことに自覚はあるので、将来的にはどうしたものかなぁ、なんて思っているのであった。
まぁ、最終的にだめになったら故郷に引きこもって暮らせばいいし、なんて楽観的に思ってもいるんだけどな。
「とりあえず、昼飯食べようぜ、奢るよ。外食はバレると困るから、出前になるけど」
「わーい、ほんと? じゃあお礼に、コウメがお掃除してあげるね」
「それはマジで助かる」
ともあれ、血みどろの戦いは残念ながら難しい。
コウメもそれを解っているので、掃除と引き換えに昼食をコウメへ奢ることとなったのだった。