「スパイダーパンク……そうか、貴様がUNシティの守護神か!」
「“やかましい隣人”とかならオレのことだろうが、神様探してんなら人違いだ。ここには居ねぇから帰ってくれないか?」
読者諸君も初めましてだな。他のユニバースのオレを知ってるかもだが今はさておき、しばらくナレーターは交代だ。可愛いスクールガールじゃなくて悪いが我慢してくれ。
「ニューアスガルドの旅行ガイドなら貸してやってもいい」
「お前ら! やっちまえ!」
「は、はい!」
「無視かよ! 後から読みたくなっても見せないからな」
オレは軽口を言いつつ、キングピンとかいうデカブツの太い身体を眺める。身長はブーツ込みでもオレより高く、腹こそ出てるが体の厚みは殆ど筋肉だろう。この
なんてことを考えながら、奴の号令で群がってきた
「これでチェックメイトか?」
「チェスには詳しくないようだな! 何人倒したところで最強のキングが残っていれば負けではない!」
「最強はクイーンだろ……ん?」
オレは早撃ちガンマンの要領で糸を飛ばし、キングピンの片腕を絡めとってひょいと引き寄せ顔面パンチ──というフィニッシュムーブを描いていた。しかしキングピンの太腕は伊達じゃなかったらしい。引いた糸がぴんと張っても奴は動かない。
「マジかよ」
「驚いたか? アイキドーに俺様の筋肉を合わせればこの通りだ」
オレとキングピンは片手綱引き、あるいはチェーンデスマッチの構図でにらみ合う。
「そしてこの状況! ジュージュツにおいて貴様の袖を掴んでいるも同然! これが何を意味するか分かるか? 貴様は捉えたのではなく捉えられている! つまり俺様の恐るべき処刑技は既に一手目を始めているのだ! ハーッ! 灘新陰──」
「長い」
頭上に伸ばした別の糸を引く。
「んげぶ」
落ちてきた糸の塊が奴の脳天を直撃、ノーナリーブズのアウトロみたいな長台詞は汚い呻き声で中断された。糸の中身は最初に連中から取り上げた武器だ。多分50キロくらいか。
「プロレスに付き合ってやれなくて悪かったな。凶器使ったオレの反則負けってことにしといてくれ」
ぶっ倒れたキングピンにそう声をかけると。商店街の
「見せもんじゃねぇぞ!」と文句を言ってやりたいが自分でプロレスを持ち出したんだから仕方ない。渋々片腕を掲げてやると、商店街は更に沸き立つ。
「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」「スパイディ!」
勘弁してくれ。肩をすくめても声援は増すばかりだ。相手にするのをやめたオレはひとまず肉屋の店主に肩を貸すことにした。
「立てるか
「……本当に、帰ってきてくれたのか」
「あぁ、黙って消えて悪かったよ」
「ダメだ、許さん」
ホルヘはニヤっと笑うと、咳き込みながらオレに緩くヘッドロックをかけてきた。
「復帰祝いの記念撮影タイムだ。付き合えよ」
「……ピースサインはしねぇぞ」
ネットの復旧も途中だってのに、煤けたスマホを持ってるやつの多いこと。パシャパシャとシャッター音に囲まれると存外に懐かしい気分になる。まだオレたちが誰にも咎められず好き勝手に歌ってられた頃……あいつが強がりじゃない笑顔を浮かべてた頃のことを思い出す。そんな中、歓声を上げる
横にいる
オレはホルヘを支えながら片手を上げて皆に声をかけ……違う。ファンサじゃない。「目線ちょうだい!」「バク中!」「蜘蛛ハートして♡」聴けって、聴けよ。あとそのサインは知らん。全然静かにならないので、さっき放り捨てた拡声器をウェブで拾って声を張る。
『オレからも!写真のリクエストいいか!』
ようやく落ち着いたストリートの面々に、オレはホルヘの胸元を指差しながら言う。
「レントゲンを頼む。男前に撮ってやってくれ」
ようやく事が済むまで20分ほどかかってからだった。オレはマスクを仕舞ってジャケットとブーツを普段着モードに戻すと、露店でホットドッグを齧ってる虹夏に近づく。“よぉ、遅れて悪かった。なんだか知らないけど道が混んでてな。大道芸人か何か来てたのか?”……と、妥当な遅刻の言い訳をする前に、
「ですからイージィがそのスパイダーマンで、昨日虹夏ちゃんを助けたのもそのスーパーパワーってやつですねー」
to be continued…
*ノーナリーブス
NONA REEVES。最高のバンドの一つ。アウトロが長くなりがちな印象があるがそれも味。『Mr.Melody Maker』って虹→リョの曲だと思うんですよ。
*蜘蛛ハート
両手の親指を合わせて下に向け、左右の中指から小指の八本を揃えずにハートを作る。さっき考えたハンドサイン。
*アルトの呼び方
イージィは普段彼をアルトとは呼ばない。「おい」とか「お前」とか「あいつ」が殆どだが、便宜上アルトと表記している。