翌日。
高専の教室で、絵名は早くも頭を抱えていた。
教壇に立っているのは相変わらず黒い目隠しをしたままの五条悟。
黒板に書かれているのは、呪霊の級位分類や呪術界の複雑な組織図……のはずなのだが絵名の前にあるノートはまだ半分も埋まっていない。
「——というわけで!呪霊ってのは人間の負の感情から生まれるわけだけど、まあ級位ごとの特徴はこんな感じね!」
「……ねえ、ちょっと待ってよ」
絵名はペンを置きジト目で五条を睨みつけた。
「普通、ある程度勉強してから呪霊を祓いに行くもんじゃないの?なんで私は先にあの試験で実戦やらされたわけ!?順番逆でしょ!?」
「あはは!そこ気にしちゃう?
でもさ、絵名はちゃんと祓えて合格したんだから結果オーライでしょ。現場の空気を知ってから座学を受けた方が頭に入りやすいと思わない?」
「思うわけないでしょ!命がかかってたのよ!? 知識もないまま投げ出されて、死んでたらどうするのよ!」
絵名がバシッとデスクを叩くと足元にいた水彩の狐がひょっこりと顔を出した。
狐は絵名の怒りに同調するように、五条に向かって「しゃーっ!」と可愛らしく威嚇の声を上げる。
「あらっ、狐ちゃんも絵名と同意見みたいだ
あ、ちなみに今日のは絵名のための特別マンツーマン授業だからね」
「……特別?」
「そう。途中編入だし君の術式はかなり特殊だからね。個別に教えた方が効率いいでしょ」
「ふーん……。…って、ちょっと待って。
あんたが私につきっきりってことは、一年生の授業はどうなってんの?先生が放置して大丈夫なの?」
「あ〜、あっち?『適当に自主練しといて』って言ってきたから大丈夫大丈夫!」
「全然大丈夫じゃないじゃない!あんた本当に
教師なの!?」
絵名は頭を抱えた
教師として破綻しすぎている。
「まったく…。あっちの生徒がかわいそうね……」
呆れ果てながらも、絵名はノートに向かい直した。
隣の椅子に跳び乗った狐が絵名の手元を応援するようにじーっと見つめている。
午後はグラウンドに移動しての特別体術訓練だった。
「はい、じゃあ次は体術!術式だけに頼らないで、最低限の身のこなしを叩き込むよ!」
「くっ……運動なんて…スポッチャー以来なんだけど……っ!」
インドア派で部屋でキャンバスに向かってばかりだった絵名にとって、五条との体術訓練は拷問に近かった。
いくら呪力を纏えるようになったとはいえ
体力は一般女子のままだ。
「ほらほら、足が止まってるよ絵名
狐ちゃんの方が素早く動けてるんじゃない?」
「うるさい!!喋る余裕があるなら手加減しなさいよ!!」
汗だくになりながら文句を叩きつける絵名
足元では狐が心配そうに「くぅん」と鳴きながら、絵名の足元を並走して応援している。
絵名は絶対に「参った」とは言わなかった。
試験を乗り越えこの高専で生きると決めたから。
そして——大切な日常を守るための強さを手に入れるために。
夕方_________
訓練を終えてベンチに倒れ込んだ絵名は、ポケットの中で震えるスマホを取り出した。
画面には、ナイトコードの通知が来ている。
Amia『えななん、体調はどう?明日の25時は入れそう?』
K『無理しないでね。締め切り少し遅らそうか?』
雪『……熱、下がった? ちゃんとご飯食べてる?』
「……みんな……」
膝の上に跳び乗ってきた狐の柔らかい背中を撫でながら絵名はスマホ胸に抱きしめた。