25:00――ナイトコード_________
画面に並ぶ四つのアイコン。
ヘッドフォンから聴こえてくるキーボードの
打鍵音と静かな息遣い。
『絵名、この間のイラストすごく良かった。
曲の世界観がそのまま形になったみたいで
...ありがとう』
奏の穏やかな声が画面越しに耳をくすぐる。
「ほんと!なら良かった。
私なりに、この曲の『救われたいのに救われない痛み』みたいなのを考えて描いてみたんだけど」
以前なら「私なんかで本当に良かったのかな」と自虐していたかもしれない。
けれど今の絵名には自分の足で踏み出したからこその小さな自負と強さが宿っていた。
『ふふ、最近のえななん、なんだか吹っ切れたみたいでカッコいい〜!』
『……うん。前みたいに無駄に肩に力が入ってない。……見やすくなった』
まふゆの相変わらず素っ気ないけれど確かな評価。
絵名は画面の前で思わずふっと口元を緩めた。
「ちょっと無駄ってなによまふゆ! …まあでもありがとう。
私もっと良い絵を描くから。まふゆの目にも留まるような、あんたを逃がさないくらいの絵を」
『……逃げないよ。…期待しないで待ってる』
『あはは、相変わらず仲良しだねぇ。
ねえねえ!そういえば明日のオフ会、みんな時間は大丈夫そう?』
瑞希の明るい問いかけに奏とまふゆが「大丈夫」と返す。
「私も大丈夫。……あ、でもごめん用事が長引くかもしれなくて、少しだけ遅れるかも」
『オッケー、じゃついたら連絡して!
いつものファミレスで待ってるからさ』
通話を切った後、絵名は画面の向こうの三人のアイコンを見つめた。
明日、高専での小さな任務を終えたらこの大切な居場所へ向かう
(私はもう、迷わない……この人たちの前に、胸を張っていられる私でいる)
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いつものファミレスの
いつもの奥のボックス席。
注文されたドリンクバーのグラスが四つ並ぶはずのテーブルには、今はまだ三つのグラスしか置かれていなかった。
「絵名、遅いね」
ストローでメロンソーダを弄りながら瑞希がぽつりと呟く。
「うん・・・用事が長引いて少し遅れるって連絡来てたけど」
奏が心配そうスマホに視線を落とす。
向かいに座るまふゆは何も言わずにウーロン茶のカップに手を添えていた。
無表情なその瞳は、ただ静かにファミレスの入口ドアをじっと見つめている。
チリン、と店のドアが開く音が響き
急いだ足取りが近づいてきた。
「ごめん!待たせた……!」
少し息を切らせて姿を見せたのは、肩を大きく上下させている絵名だった。
私服のカーディガンの袖を少し長めに伸ばし
申し訳なさそうに眉を下げて空いている席——まふゆの隣へと滑り込む。
「もう、絵名遅い〜
ボクたち待ちくたびれちゃったよ〜?」
「悪かったわね。ちょっと用事が長引いちゃって」
カーディガンの袖を少し長めに伸ばしながら、申し訳なさそうにまふゆの隣に座る絵名。
「……絵名」
「なに?まふゆ……」
「手」
まふゆの手が迷いなく伸び、絵名の右腕の袖口をすっと軽く引いた。
捲り上がった袖の下から現れたのは手首に貼られた目立つ絆創膏と、かすり傷のような赤紫色の小さな打撲痕。
任務で崩れた瓦礫を避けた際についた傷だ。
「っ…あ、これ……っ」
絵名は慌てて袖を引っ張り下ろした。
奏と瑞希も目を見張り心配そうに覗き込む。
「絵名……それ、どうしたの?転んだりしたの?」
「う、うん!ちょっと道で足がもつれちゃって
大したことないから、本当に大丈夫!」
取り繕うように笑ってみせる絵名。
だが、一番近くにいるまふゆだけはその嘘を見抜くようにじっと絵名の手元を見つめていた。
「……絵名、最近ずっと変。
何か隠してる?」
まふゆの低く静かな声が、テーブルの空気を緊張させる。
(言えるわけない……。呪術のことなんて、あなたたちを危険に巻き込むかもしれないことなんて……)
でも、怪我をしてでも守りたい場所がある
手放したくない想いがある。
絵名は逃げずに、まふゆの瞳をまっすぐに見つめ返した。
「隠してなんか、ないわよ。……本当に大丈夫だから。心配かけてごめん」
真剣で、けれど揺らがない絵名の目の色を見てまふゆはそれ以上追及するのをやめ、ゆっくりと手を引いた。
「……そう。なら、いいけど。…無理して下手な絵を描かれたら困るから」
「言われなくても、下手な絵なんて描かないわよ」
強気に言い返し、ドリンクバーのグラスを手にする絵名。
(私、絶対に負けない。
……あなたたちのいるこの場所を...私の絵で絶対に守ってみせるから)
手首の微かな痛みを抱きしめながら、
絵名はニーゴの仲間たちとの温かな時間に深く浸っていった。