「はーい、みんな〜!待ちに待った転校生だよ〜!」
バン、と勢いよく開けられた教室の扉。
五条の軽いノリの声と同時に絵名は緊張で強張った顔のまま教室へと足を踏み入れた。
「……悟。日下部は?」
教室内で木刀の手入れをしていた長髪の少女――禪院真希が、あからさまにウザそうな顔で五条を睨みつける。
「日下部先生は急な出張で山梨!てことで、今日は僕が代わりに紹介しまーす。東雲絵名ちゃん今日から君たちの同級生ね」
教室にいた三人の視線が一斉に絵名に集まった。
木刀を持つ鋭い目つきの少女、
口元をハイネックで隠した小柄な少年、
そして――
どう見ても本物のパンダ。
(……なんなの、この空間)
絵名は思わず一歩後ずさりそうになった。
特にパンダ。ぬいぐるみどころか普通に息をして二足歩行をしている巨大なパンダがそこにいる。
「……おかか?」
口元を隠した少年――狗巻棘が、絵名の足元にいる絵の具のキツネに気づき、不思議そうに首を傾げた。
「おう、よろしくな東雲!俺はパンダだ。
見ての通りパンダだ」
「……え、あ、うん。東雲絵名です……」
「しゃけ、ツナマヨ」
「こいつは狗巻棘。おにぎりの具でしか会話できないから、慣れてくれ」
「……おにぎりの具?」
情報量が多すぎて頭がパンクしそうな絵名に、真希が冷ややかな視線を浴びせた。
「おい悟。冗談だろ?こいつ、呪術師の体つきじゃねえぞ。大きな段ボールと画材抱えて、何しに来たんだよ」
刺さるような真希の言葉。
確かに自分は鍛え上げられた術師でもなければ、戦闘のプロでもない。
けれど――あの夜、死線で選んだ覚悟まで馬鹿にされるわけにはいかなかった。
絵名は画材箱をぎゅっと抱え直し、真希の視線をまっすぐに見り返した。
「……分かってるわよ。私が戦えるような体をしてないことくらい」
「あん?」
「でも、私も遊ぶためにここに来たわけじゃない。……自分の絵で自分の存在を証明するためにここに来たの。足引っ張るつもりはないから、口出ししないで」
意地とプライドを込めた絵名の強い目力に
真希が一瞬だけ目を見開く。
「……へえ。口だけは達者じゃねえか」
真希は口元を少しだけ歪め、木刀を肩に担いだ。
「まあいい。死んでも泣き言言うなよ、東雲」
「言わないわよ、べつに」
ピリッとした空気が流れる中、パンダが「はいはい、そこまで!」と間に割り込んできた。
「ちなみにもう一人乙骨ってのがいるんだが、今はアフリカで海外出張中だ。
あいつはもっと優しいから安心していいぞ」
「明太子」
棘がうなずきながら、ポケットから小さなキャンディを取り出しそっと絵名の手に握らせてくれた。
緊張を解こうとしてくれているのが伝わってきて、絵名の肩の力が少しだけ抜ける。
「よしっ!挨拶も済んだことだし、絵名の部屋に荷物を運ぼうか!」
五条がパンと手を叩く。
不気味で、常識が通用しなくてけれどどこか温かい。
絵名の呪術高専での新しい日常が、こうして動き始めたのだった。