医務室をあとにした絵名は高専の広い敷地を歩き、自分の割り当てられた寮の部屋へと向かっていた。
そのすぐ隣には、ひとつの小さな影がぴったりと寄り添っている。
柔らかい水彩絵具の黄昏色グラデーションが滲む幻想的な姿をした一匹の狐。
昨日の凄惨な戦いで絵名が限界を超えて呪力を注ぎ込んだことで実体化した...彼女にとってかけがえのない大切な存在だ。
普通なら術師が気絶したり呪力が切れれば具現化は解けて消えてしまう。
けれどこの子は違った。
絵名への強い愛着と絆ゆえか、絵名の側に離れずにピッタリとくっ付いてる
すれ違う高専の補助監督や呪術師は一瞬驚いたように狐へ視線を向ける。
呪術師にしか見えないその姿は、通りかかる者たちの目にはどう見ても強力でけれど酷く美しい式神のように映っているらしかった。
(街中を歩いてた時は、普通の人には全然見えてなかったのよね……)
非術師の目には映らず、自分と同じ「あっち側」の人間だけにしか認識できない存在。
その事実が自分がいま置かれている特殊な状況を嫌でも思い知らさせる。
足元で「きゅぅ」と愛らしく鳴きながら絵名の歩幅に合わせて擦り寄ってくる温かい触感が、荒れそうになる絵名の心をじんわりとほぐしてくれた。
「ありがと...ずっとそばにいてくれたのね」
絵名が屈んで頭を撫でてやると、狐は嬉しそうに目を細めしっぽをふりふりと揺らした。
ギシ、と静かな音を立てて自室のドアを開ける。
部屋の中には自分の部屋から運んできたイーゼルや大量の画材、キャンバスが整然と並べられていた。
「ふぅ……」
ベッドに腰を下ろすと、狐がピョンと跳び乗ってきて絵名の膝の上にちょこんと顎を乗せた。
「あ、ちょっと…痛いところない?」
昨日の戦闘で敵の攻撃を必死にかばってくれたせいか、背中のあたりの美しい淡い黄昏のグラデーションが少しだけ掠れて色が褪せてしまっている。
「待っててね。すぐ綺麗にしてあげるから」
絵名は急いでパレットと水彩絵の具、筆を準備した。
水を含ませた筆に鮮やかな絵の具を溶かし傷ついた狐の背中にそっと滑らせる。
ジュワッと、絵具が紙に染み込むように狐の身体へ色が溶けていく。
「きゅぅん……」
筆先が触れるたび、狐は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
絵名が心を込めて色を重ねていくと掠れていた毛並みはあっという間に元の鮮やかで美しいグラデーションを取り戻していく。
「よし、これで元通り!ほんと、無事でよかった……」
ほっと息を吐いて狐をぎゅっと抱きしめると、ドアが前触れもなく勢いよく開いた。
「やっほ〜!部屋の住み心地はどう、絵名?」
「……っ!?ちょっと五条先生!ノックくらいしなさいよ!」
勝手に入ってきた五条悟に向かって絵名は抱きしめていた狐を抱えたまま思わずタメ口で怒鳴り散らした。
五条は絵名の怒り声などどこ風吹く風で、目隠しの奥から狐と絵名を交互に見下ろしひらひらと手を振る。
「はいはい、ごめんごめん。
でもさ相変わらずその狐ちゃん、君から離れないねぇ。僕の無限すら通り抜けてベタベタしてきそうじゃん」
「当たり前でしょ、私の大切な相棒なんだから
あんたみたいにズカズカ踏み込んでくる奴と一緒にしないでよ」
フンと鼻を鳴らしてそっぽを向く絵名に
五条は「くくっ」と楽しそうに喉を鳴らした。
「威勢が良くて結構!じゃ、体調も戻ったみたいだし、明日からの座学も体術の訓練もビシバシ行くからね?もちろん、その狐ちゃんも連れてきていいよ。君の術式の一部なんだからさ」
「言われなくても連れてくわよ。授業だって訓練だって……絶対に置いていったりしないんだから」
膝の上の狐が、絵名の言葉に応えるように「くーん!」と力強く鳴いた。
水彩の黄昏色グラデーションの狐
【共通の見た目・特徴】
• モチーフ: 絵名が描いた「薔薇と蔓(ツル)を纏ったキツネ」。
• 色彩・質感:
• 全体的に鮮やかで幻想的な水彩画風の色彩。触れても手に絵具がつくことはない。
• 洗いたての花のような甘い香りと、極上の柔らかいぬくもりがある。
【通常時(非戦闘時)】
• 大きさ: 子猫~小型犬ほどのコンパクトで愛くるしいサイズ。
• 行動: 絵名に非常になついており、膝に乗ったり足元に擦り寄ったりして癒やす。威嚇する時は「しゃーっ!」と可愛らしく鳴く。
【戦闘時】
• 大きさ: 一回り〜二回りほど大きくしなやかな体躯に変化。
• 攻撃スタイル: 身体に纏っている「薔薇と棘のついた蔓」で敵(呪霊)をガッチリと締め上げ、圧殺・破裂させる。