あそこまで完璧に作られた作品は存在しないと思う。
そして俺は何度も考えた…。
あの世界に転生できたらどれだけ良いだろう……
あそこへ行けるなら、俺だって頑張れるのに……
両親は物心ついた頃にはいなかった。
それでいじめられたりもした。
でも転生したらそんな苦労はしなくていいだろうに…
「やべっ!」
俺はアパートの階段を踏み外し、
頭から地面に落ちた。
「いってぇーな…」
俺は頭を押さえ立ちあがろうとした。
けれど体が言う事を聞かない。
俺は頭を押さえた手を見てみた。
「えっ…」
手には血がこびりついていた。
同時に視界が暗くなってくる。
死んだな俺。
自分でもびっくりするぐらいに冷静だった。
もう死ぬと言うのにだ。
「転生…してぇな…」
俺はそう呟き。
意識はシャットアウトした。
ー
意識が浮上した。
けれど、頭を打ちつけた痛みも、あの不快的な血の感触も無くなっていた。
(どうなってんだ…?)
俺は瞼を開けようとしたが、瞼は重く少ししか開かない。
声を出そうとしても、「あー」とも「うー」ともつかない、舌足らずな赤ん坊の泣き声しか口から漏れ出なかった。
まて……手…手はどうなってる……!?
必死に自分の手元を視界に入れようと動かす。
だがそこにあったのは、最後に見た大人の手ではなく、小さくむちむちとした、赤ん坊の小さな手だった。
頭の中に、絶望の瀬戸際で呟いた最後の言葉が蘇る。
『転生…してぇな…』
マジかよ…本当に…転生…したのか……?
「……ーーー…」
何か俺の分からない言語で話しながら美しい女性が俺を抱える。
だが視界に映る女性の周りには青や緑色のモヤがかかっている。
何だこれ…
産まれたばかりってこんな風に世界が見えているのか…?
物心ついた初日。
そんな事を俺は思っていた。
ー
一ヶ月ほどの月日が経った。
俺は『無職転生』の世界に転生したらしい。
その事実を飲み込めた。
多少手足は動かせるようになった。
けれど視界のモヤは晴れなかった。
俺の視界には常にモヤがかかっていて周りが見えにくい。
このモヤは右目を瞑ると見えなくなる。
俺は右目に何か疾患を持っているのだろうか…?
ー
半年程の月日が経った。
家族の会話を聞いていると、少しづつだが会話が理解できるようになった。
俺の生まれ年は甲龍暦435年で、ルーデウスはまだまだ生きている年だ。
ルーデウスに会えるものなら会ってみたいものだ。
そして俺の名前はオーディン、
父はオースティン、
母はディアン
というらしい。
また両親の会話を聞いているところ。
俺の右目は魔力眼らしい。
つまり魔眼だ。
一番多い魔眼だが、それでも珍しい物に変わり無い。
ハイハイが出来るようになった事で、他にもいくつかわかった事がある。
窓から見たところ、ここは森に囲まれている田舎であるとわかった。
これは予想だが、
森の木は針葉樹が多く外には雪が積もっている為、北方大地の国だと予想している。
あとは母は耳が長い為、長耳族だと思っている。
もし本当にここが北方大地なんだとしたら。
周りの魔族や冬の厳しさは温暖なアスラ王国とは比べ物にならないだろ。
俺はそんな地域で生き残っていく為に頑張っていかないといけない。
ー
俺は2歳になった。
この歳になると足腰も安定してきて、
一人で家中を歩き回れるようになった。
そしてやっぱりここは北方大地らしい。
北方大地の中でも最北にある村ガルンと言うだとか。
流石北方大地と言うか、冬には1メートルを超える雪が外には積もった。
一応、夏もあるが体感15度前後と言ったところで汗をかく事はほぼ無い。
俺は読み書きがある程度出来るようになった。
人間語は日本語と構造が似ていて文字を覚えるだけで覚えれた。
文字を覚えやる事がなくなった…。
いや、あるじゃないかここの世界でしか出来ない事が…!
そう魔術だ。
俺は早速家の中を巡り魔術教本を探した。
「ない…!何処にもないぞ…!」
この家には魔術教本がなかった。
「オーディン何してるの?」
動きが怪しかったのかディアンに聞かれてしまった。
「何もないよ!」
俺はそう答えると、逃げるように他の部屋に行った。
だが魔術教本が無かったことぐらい言い訳にならない。
俺は前世で『無職転生』を貪るように読んでいた。
その時に魔術の詠唱は覚えている。
俺は誰もいない部屋に行き、
右手を突き出し、
前世の記憶を頼りに水弾の詠唱を唱え始める。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」
確かこれだったよな…?
すると右手に血が集まっていく感覚があり、手から拳大程の水弾が出てきた。
そして水弾は『ポチャ』と音を出し下に落ちていった。
次は無詠唱でもやってみようか、俺は無詠唱のやり方は知っている。
俺は右手を突き出し右手に魔力を集めていくようにした。
すると、手からもう一度水弾が出た。
無詠唱は案外簡単に出来た。
魔力の調整が簡単だった。
俺は魔眼を使っている内に自然的に魔力を扱えるようになっていた。
その日から俺の魔術の特訓が始まった。
まあ、特訓と言っても水弾しか出来ないんだがな。
だが重力魔術と乱魔を習得できるように特訓をし始めた。
ー
もう少しで5歳という日。
「オーディン、プレゼントは何がいいんだ?」
ご飯を食べてる時にオースティンから聞かれた。
誕生日プレゼントか…
考えてもいなかった。
そうだ…!
「父さん、魔術教本が欲しいです!」
「魔術教本か…」
何だよく分からない本は高すぎるのだろうか?
「無理なんだったら…」
「いや、わかった買ってこよう」
そんな訳で魔術教本をついに手に入れれるようになった。
俺は今の所、水弾の鬼だからな。
他の魔術を覚えれるようになるのは大きい。
だが数ヶ月の特訓の成果で乱魔だけは扱えるようになった。
ー
誕生日当日になった。
「『オーディン!誕生日おめでとう』な!」
誕生日はささやかに行われた。
「オーディン、約束のプレゼントだ!」
オースティンから約束の魔術教本を貰った。
「父さん、ありがとうございます」
俺はオースティンから辞書並みの厚さの魔術教本を貰った。
ディアンとオースティンの2人からの誕生日プレゼントらしい。
「オーディン、大切に使うんだぞ」
俺はオースティンが笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でくる。
ディアンはそんな光景を微笑みながら見つめている。
ああ…いいな。
久しぶりに、親というものを感じれた気がした。
俺はしっかりと子供を出来ているんだろうか…?
少なくとも俺はディアンとオースティンを親だと思っているはずだ…
けれどそれを行動で表さないとな。
「父さん、母さん!」
俺は2人に抱きついた。
「オーディンが甘えるなんて珍しいな」
「そうね」
偶には親に甘えるのもいいな…