叛逆のパトリエ 作:マヨマヨケチャップ
僕——つまり東雲三葉の人生は波乱万丈だった。
幼児の頃は親や家族がいたのかもしれないが、今ではもう生きてはいないだろう。親の顔も、家族の顔すら覚えていない。そこからの展開は早かった。
ある組織、「クオリティアース財団*1」の「プロジェクト・プネチム*2」における実験体として、俺の体はさんざん改造された。具体的に何をされたのか詳しい記憶はない。
その後、命からがら組織を脱走した俺は、高度育成高等学校に入学した。そこでも波乱万丈な学園生活を送ることになったが、三年間という月日はあっという間に過ぎ去っていった。
卒業後、俺は清隆と共に動き、かつて俺を縛っていた財団——そして「ホワイトルーム」と呼ばれる組織を完膚なきまでに滅ぼした。
次なる道として選んだのはSCP財団への就職だった。実験体時代に身についた知識や能力も手伝い、俺は易々と財団内での地位を上り詰めていった。
期待の新人として目覚ましい活躍を続けた結果——現在、俺は物理的な脅威を持つSCPを力でねじ伏せ、収容・鎮圧を担当する「動的脅威即応機構*3」の部門長を務めている。
少し思い出していたが、過去の余計な思考に囚われている場合ではない。今はせっかくの休息時間――いや、問題児の処分を決めるための貴重な時間なのだから。
「――東雲部門長、聞いていますか?」
向かいに座るマリオン部門長が、苛立ちを隠さずに問いかけてくる。
「聞こえていますよ、マリオン部門長。コンドラキへの処罰についてですよね?」
「そうなのよ! あの人、新人に『あの不死身の爬虫類の喉を撫でれば愛くるしく遊ぶ』なんて嘘の教育をしたのよ!? そのせいで収容違反が起きて、サイトが一つ壊滅したの……! だからさっきも言った通り、私は懲戒解雇が妥当だと思っているのだけど……」
また面倒を起こしたのか。今年に入ってこれで2回目だぞ、いい加減にしてほしい。頭痛の種以外の何物でもない。そもそも、あの“財団問題三人衆”の一角だ。トラブルを起こさないわけがないのだ。
「まあ、そう言わずに。彼は優秀な人材ですから。少々至らないところもありますが、大目に見てもいいのでは?」
「……少々ではありませんね。これで4回目くらいですよ?」
言葉の端々に辟易した様子を滲ませながら、僕は言葉を重ねる。正直、僕だって胃薬が欲しくなる状況だが、彼の戦闘能力と功績は無視できない。庇うのが結果的に最善なのだ。そもそもO5もこうなることを見越した上で彼を雇っているはずで、上層部の意向に逆らうメリットはない。
「許してあげましょうよ。戦力としては紛れもなく超一流です。機動部隊を相手に単身で勝利するほどの戦闘能力を持っているんですから」
「……で、東雲部門長としては、どんな処罰を望むのですか?」
「……減給、ですかね。あの人を本気で敵に回すのは、とてつもなく……本当に面倒ですから」
「……はぁ。まあ、それで良しとしましょうか」
先ほどまで興奮気味に懲戒解雇を主張していたとは思えないほど、彼女はあっさりと引き下がった。
「もし納得がいかないのでしたら、綾小路部門長にも意見を聞いてみてください。彼は他の部門長に比べても圧倒的に優秀ですから」
「それもそうね。ありがとう」
どこか貫禄を感じさせる声でお礼を言うと、マリオンは僕のオフィスを後にした。扉が閉まる音を確認し、深いため息をつく。
「これだから財団の業務は面倒なんだ。……さて、ようやく朝のコーヒータイムだな」
一人ごちてカップに手を伸ばした、その時。背後から声が響いた。
「ずいぶんと独り言が多いね」
背後から聞き慣れた声が響く朝のコーヒーの時間は簡単になくなりそうだ
「菫子さん……いい加減、コーヒーを飲みたいのですが……」
後ろを見なくても誰か分かる。僕の後ろに気配もなく回り込める奴なんて、そうはいない。
「またまたそんなこと言って。貴方、高校生の時はコーヒーが大嫌いだったじゃない」
「このままじゃ胃酸で胃が溶けそうなので、そこにある胃薬を取ってくれませんか」
「はいよっと」
パシンッ!
ノールックで胃薬のボトルを受け取る。普通に受け取りをミスったら手が折れるほどの速度だ。若干の殺意すら感じる。僕は蓋を開け、大量の薬を一度に口へ放り込んだ。
「そんなに飲んだら――」
「なんですか?」
「待って待って、そんなに怒らなくても――」
「僕は貴方の顔を意地でも見ませんよ」
「ちょっと、もうそんなに怒らないでよ! 胃薬をそんなに飲んだら体に悪いよ?」
――誰のせいだと思ってるんだ。
コンドラキは窓を割ってダイナミックに入室し、クレフは部屋にトラップを仕掛けて帰り、ブライトは部屋を滅茶苦茶にし、マリオンは話が長い。そして今来ている、テレポートを使って侵入してくる菫子研究員。しかも来たら確実に面倒事を持ち込んでくるのだ。
「胃薬をこんな習慣的に飲むハメになっているのは、十中八九貴方のせいですよ。テレポートもサイコキネシスも使える貴方は、立派な怪物兼、僕の頭痛の種です」
「それは貴方もでしょ。普通の人間は刀を出したり神の力を使ったりできないし、それに私を倒せないじゃない」
「僕は人工ですが、貴方は天然です。まず何の施術もされていない人間が超能力を使えるわけがないでしょう。そもそも何で貴方は超能力を使えるのに、財団に収容されてないんですか?」
「そんなこと言ったら、メリーや東風谷もじゃない? それに貴方も」
「……確かに財団職員は人外が多いですね。それなら納得(?)です」
「でしょでしょ」
「それと気楽に話してますが……気づいてますか? 部屋の前に誰かいますね。ホラ、今にも入ってきますよ」
「そんくらいなら気づいてるよ、気配ダダ漏れだしね。でも……扉は破れないでしょ。あれ許可ないと開けられないやつだし、引き裂けるとしたらアベルくらいのレベルじゃない? そうなったら人間だとありえないし、連絡も来てないし――」
パァン!!!
扉から激しい衝撃音が響く。どうやら力任せではなく、爆薬でも仕掛けたらしい。
「……はぁ。これは間違いなく人間ですね、爆弾の音ですし。マリオンは無事でしょうか?」
「もうちょっと焦りなさいよ、こちらに明確な敵意を持ってるのよ!?」
「貴方、テレポートできるじゃないですか」
「あっ! それもそうだ」
「……ようやく気づいたんですね」
「でも、どちらにしろこの部屋に入ろうとしてるってことは、ここのサイトの職員が警報を出す前に瞬殺したってことでしょ? だったら、もうかなりの犠牲者出てるんじゃない?」
確かにそう考えると、襲撃者は相当な戦闘力を持っていることになる。
「確かに、そう考えたら脅威的ですね。……敵の姿を視認した瞬間に、テレポートでトンズラしましょう」
「あっ、そうだった。私のテレポートは一回につき一人しか送れないから、どっちかが残らないといけないわけだけど……」
思わず顔を見合わせる。どちらがテレポートを使って脱出するかの判断は、菫子にかかっていた。
「いやー、菫子様。昔から本当に尊敬してました」
「じゃあ、私のために死んでくれる?」
「……急に流れが変わってきた気がするぞ」
「嘘嘘、冗談!」
「じゃあ、早くテレポートする準備をしてください」
「何言ってるのかな?」
「えっ……だから、早くテレポートの準備を」
「やっぱ勘違いしてるよね? 私が『一人で逃げる』って言ったのを嘘って言っただけで、普通に二人まとめてテレポートさせるのは無理だから」
あぁ、人生オワタ。もう嫌だ、なんで僕はこの世に生まれてきたんだろう
「まぁ大丈夫でしょ、私達強いし。あの三年間で嫌というほど痛感したじゃない」
「はぁ……分かりましたよ。私に言わせてもらえば、連勤明けの戦闘なんて真っ平御免ですけど」
「はいはい、口を動かさない。早く刀を抜いて、奇跡論の展開準備して」
「了解です」
――その直後、パァンッ!!!!!!と激しい爆音が響き渡る。
吹き飛んだ扉の破片とともに立ち込める砂煙。開戦の合図だった。
クレフ博士の人事ファイル著者:Dr.Clef
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/forum/t-100224/drclef-member-page作成年:2008
ブライト博士の人事ファイル
著者:Dr.Bright
URL:https://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file作成年:2008
コンドラキ博士の人事ファイル
著者:Dr.KondrakiURL:https://scp-wiki.wikidot.com/forum/t-98754/dr-kondraki-s-personnel-file作成年:2008(SCP-408 SCP-515-ARCもコンドラキ博士の作品の為割愛)
タイトル: 反ミーム部門ハブ
原語版タイトル: Antimemetics Division Hub
訳者: C-Dives
原語版作者: qntm
ソース: https://scp-jp.wikidot.com/antimemetics-division-hub
原語版ソース: https://scp-wiki.wikidot.com/antimemetics-division-hub
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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