銀と琥珀   作:らむさいだー

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第3話 はじめてのおつかい

 

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1

「今日はね、マキナちゃんに、はじめてのおつかい、お願いしていい?」

 

朝。ルーチェがそう言ったのは、ちょうどマキナが彼女の髪を梳かし終えたときだった。

 

ベッドの縁に並んで座る二人。マキナの手には、柄の欠けた木の櫛。ルーチェの蜂蜜色の髪は、今朝もさらさらに整えられている。代わりにマキナの銀髪は、ルーチェの手で器用な編み込みにされていた。これが、ここ二週間ですっかり定着した、二人の朝の日課だ。

 

「おつかい?」 「うん。お買い物。市場まで、ひとりで」

 

マキナの目が、ぱっと見開かれた。

 

「ひとりで!」 「ひとりで」 「いく! わたし、いく!」

 

櫛を握りしめたまま、マキナが立ち上がる。勢い余って、ルーチェの毛布が半分ずり落ちた。

 

台所でパンを切っていたパラゴンは、包丁を持った手を止めた。

 

「……ひとりで?」

 

我ながら、白々しい声が出た。

 

実のところ、この話は昨日のうちにルーチェから聞かされていた。「明日、マキナちゃんにおつかい頼もうと思うの。お兄ちゃんは知らないふりしててね」と、枕元でこっそり耳打ちされたのだ。

 

「うん。お兄ちゃんも、いいでしょ?」

 

ルーチェがにこにこと振り返る。マキナも振り返る。二人分のきらきらした視線が、まっすぐこちらに刺さった。

 

「あー……」

 

昨日も思ったことだが、いいか悪いかで言えば、悪い。

 

マキナは市場に行ったことがない。というより、パラゴンの知る限り、どこにも一人で行ったことがない。お金の数え方を教えたのは三日前だ。道を覚えているかも怪しい。そもそも、あの子は箱から出てきたのだ。

 

「……いいんじゃないか」

 

昨日のうちに反対しておくべきだったのだ。それができなかった時点で、答えは決まっていた。

 

口から出たのは、正反対の言葉だった。

 

「やったー!」 「やったー!」

 

二人の声が重なる。パラゴンは、切りかけのパンに視線を戻した。

 

ルーチェが、枕元のメモ帳に丸っこい字で買い物リストを書いていく。

 

――夕ごはんのやさい(にんじん、たまねぎ、いも) ――おくすり(いつものやっきょく、この紙をみせてね) ――せっけん ――でんきゅう(台所の、きれちゃったやつ)

 

「それとね、お店の人に『ちょっとまけて』って言ってみるといいよ。市場はそういうところだから」 「まけて?」 「安くしてってこと」 「……! わかった。まけて、いう」

 

マキナは真剣な顔でうなずき、メモと財布を、宝物みたいにワンピースのポケットにしまい込んだ。

 

「いってきます!」 「いってらっしゃーい!」

 

扉が閉まる。軽い足音が、錆びた階段を駆け下りていく。

 

静かになった部屋で、パラゴンはパンを切り終えた。皿に並べた。水を汲んだ。

 

それから、コートを手に取った。

 

左の袖だけ、生地の色が違う。石になった袖の代わりに、ありあわせの布で継いだ急ごしらえの一着だ。

 

「お兄ちゃん、どこ行くの?」 「散歩」 「ふーん」

 

ルーチェは何も言わなかった。ただ、毛布の中でくすくすと笑っていた。

 

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2

散歩だ。これは断じて、ただの散歩だ。

 

たまたま今日は天気がよくて、たまたま足が市場の方に向いて、たまたま前方二十歩くらいのところを銀髪の少女が歩いている。それだけのことだ。

 

パラゴンは、建物の角に身を寄せながら自分にそう言い聞かせた。

 

マキナは、軽い足取りで下層の路地を進んでいく。一歩ごとに、編み込みの銀髪がぴょこぴょこ跳ねる。

 

と、その足が止まった。

 

路地の脇の、植木鉢の前だ。しゃがみ込んで、鉢の中をじっと覗き込んでいる。

 

「……何見てんだ」

 

鉢には、しおれかけた雑草が一本生えているだけだった。

 

一分。二分。

 

マキナは動かない。

 

パラゴンも動けない。

 

三分が過ぎたころ、マキナはようやく立ち上がり、雑草に向かって小さく手を振ってから、また歩き出した。

 

「……先が思いやられる」

 

小声で呟きながら、パラゴンは物陰から物陰へと移動する。すれ違った洗濯物干しのおばさんが、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 

気にしない。散歩だ。

 

それに、打てる手はもう打ってある。

 

ルーチェから計画を聞かされた昨日の夕方、パラゴンは仕事帰りに少しだけ遠回りをした。市場の八百屋の親父。薬局の婆さん。雑貨屋の爺さん。いつも世話になっている何軒かに顔を出して、同じことを頼んで回った。

 

――明日、ちょっと変わった子が一人で買い物に来るかもしれない。銀色の髪の、白いワンピースの。悪いようにはしないでやってくれ。

 

何を大げさな、と笑われた。笑われたが、みんな最後には「はいよ」と言ってくれた。

 

だからまあ、大丈夫だ。大丈夫なはずだ。

 

大丈夫なら、なんで俺はここにいるんだ、という疑問は、とりあえず考えないことにした。

 

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3

下層と中層の境目にある市場は、朝から賑わっていた。

 

石畳の通りの両側に、屋台と露店がびっしりと並ぶ。色とりどりの野菜と果物。吊るされた干し肉。湯気を上げる揚げ菓子の鍋。呼び込みの声と値切りの声と、どこかの子どもの泣き声が混ざり合って、ひとつの大きな音の塊になっている。

 

市場の入り口で、マキナは立ち止まった。

 

そして、動かなくなった。

 

「…………わあ」

 

口が、ぽかんと開いている。目が、落ちそうなくらい見開かれている。

 

パラゴンは、入り口脇の古い樽の陰から、その背中を見守った。

 

嫌な予感がした。

 

「これ、なに?」

 

最初の犠牲者は、果物屋のおかみさんだった。

 

「これかい? 星梨だよ。切ると断面が星の形なのさ」 「ほし! なんで?」 「なんでって……そういうもんだからねえ」

 

「これ、なに?」

 

二人目は、香辛料屋の兄ちゃん。

 

「赤唐辛子。辛いから、お嬢ちゃんは触らない方が――」 「からい? どのくらい?」 「え、いや、だから――あっ、舐めるな舐めるな!」

 

「これ、なに?」 「これは?」 「これは、なんで、うごいてるの?」 「それは生きた蟹だからだよ!」

 

市場の入り口から十歩進むのに、十五分かかった。

 

樽の陰で、パラゴンは頭を抱えた。

 

違う。そっちじゃない。八百屋はもっと奥だ。薬局は右の路地だ。なんで蟹の桶に顔を突っ込もうとしてるんだ。挟まれるぞ。ほら、挟まれた。

 

「いたい! ……でも、つよい! このこ、つよいね!」

 

蟹に指を挟まれたまま、マキナは嬉しそうだった。魚屋の親父が慌てて蟹を外してやっている。

 

飛び出していきたい。今すぐ飛び出して、手を引いて、八百屋まで連れていきたい。

 

だが、それをやったら全部台無しだ。

 

パラゴンは、樽の縁を掴む手に力を込めた。みしり、と古い木が嫌な音を立てた。

 

「――ところでさ、聞いた? 南の方で、なんかあったらしいじゃない」

 

すぐ近くの屋台で、客の女が店主と話していた。

 

「南? 十二区画かい」 「そうそう。夜中に騒ぎがあったとか、なかったとか」 「あそこはいつも何かしら揉めてるからねえ。それより、あんたんとこの坊や、今度学校――」

 

話題は、すぐに別のところへ流れていった。

 

パラゴンは、一瞬だけ南の空を見た。

 

それから、蟹から解放されて手を振っているマキナに視線を戻した。

 

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4

市場の奥、八百屋の前にマキナが辿り着いたのは、出発から一時間近く経ってからだった。

 

「いらっしゃい。……おっ」

 

八百屋の親父が、マキナの銀髪を見て、ほんの一瞬だけ眉を上げた。

 

「にんじん、たまねぎ、いも、ください」

 

マキナはメモを両手で掲げ、一語ずつ読み上げた。

 

「はいよ。全部で――」

 

親父が、指を折って計算を始める。

 

「えーと、にんじんが三本で、たまねぎが二つ、いもが――」

 

言い終わる前に、店先の台の上に硬貨が並んでいた。

 

マキナが、財布から取り出したものだった。一枚の過不足もなく、ぴったりの額。

 

「……お、おう。ぴったりだ」

 

親父は目をぱちくりさせて、硬貨を数え直した。やっぱりぴったりだった。

 

樽の陰――から移動して、今度は向かいの金物屋の軒先に潜んでいたパラゴンも、同じように目をぱちくりさせた。

 

……計算、早いな。

 

三日前に教えたときは、硬貨の種類を覚えるだけで精一杯だったはずだ。いや、精一杯に見えた、というだけだったのかもしれない。

 

あれ、と思う。

 

思ったところで、マキナが「あっ」と声を上げた。

 

「まって。まだ、はらわない。……まけて、いうの、わすれてた」

 

マキナは、並べた硬貨をいそいそと回収した。

 

八百屋の親父が、ぽかんとした。

 

「……え?」 「まけて、ください」

 

マキナは、きりっとした顔で親父を見上げた。

 

「えっと……このにんじん、たかい」

 

「た、高いか?」 「たかい。となりのおみせのほうが、いっこ、やすかった」 「……そりゃ、隣は昨日の売れ残りだからな」 「それと、このたまねぎ、ちょっと、しなしなしてる」 「おい」 「いもは……いもは、いいいもだと、おもう」 「そこは褒めるのか」 「うん。だから、いもは、まけなくていい。にんじんと、たまねぎだけ、まけて」

 

八百屋の親父は、しばらく口を開けたまま固まっていた。

 

それから、とうとう堪えきれなくなったように噴き出した。

 

「ぶはっ……! 分かった、分かったよ、お嬢ちゃん。正直者には敵わねえ。にんじんとたまねぎ、半額でいい」 「ほんと?」 「ほんとだ。ついでにこれも持ってけ」

 

親父は、形の悪い小さないもを一つ、紙袋の中に放り込んだ。

 

「……! ありがとう! あなた、いいひと!」 「よせやい」

 

照れくさそうに鼻をこする親父に、マキナは深々とお辞儀をした。

 

金物屋の軒先で、パラゴンは財布の中身を数えていた。

 

にんじんとたまねぎの半額分。それにおまけのいも。

 

……後で払いに来よう。

 

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5

八百屋を出たあとのマキナは、少しだけ要領がよくなっていた。

 

気がする。

 

薬局では、ルーチェのメモを見せるだけで、奥から腰の曲がった婆さんが出てきて、いつもの薬を手早く包んでくれた。

 

「熱が出たら、こっちの白いのを一粒。お兄さんにもそう言っときな」 「……おにいさん?」 「おっと。なんでもないよ。ほら、落とさないようにね」

 

婆さんは、なぜかパラゴンの潜んでいる方をちらりと見てから、マキナの手に薬の包みを握らせた。

 

最後は雑貨屋だった。

 

市場の外れにある、小さな古い店だ。軒先には「オーレル雑貨店」と書かれた、塗装の剥げかけた木の看板が下がっている。店先から奥まで、棚という棚に物がぎっしりと詰め込まれていた。ランプ、鍋、糸巻き、ボタン、紙束、得体の知れない古道具。どこに何があるのか、店主以外には絶対に分からない種類の店だ。

 

「……ごめんください」

 

マキナが、おそるおそる店の中を覗き込む。

 

「はい、いらっしゃい」

 

棚の奥から、初老の男が顔を出した。白髪まじりの髪を後ろで束ねた、痩せた男だ。丸い眼鏡の奥の目が、穏やかに細められている。

 

「おや。これは、可愛らしいお客さんだ」 「せっけんと、でんきゅう、ください。……だいどころの、きれちゃったやつ」 「台所の電球だね。どんな形だったか、覚えているかな?」

 

マキナは、少し考えてから、両手の指で丸を作った。

 

「このくらい。……それで、ここが、くるくるって」 「ああ、ねじ込み式の小さいやつだ。それなら、ここに――」

 

オーレルは、迷いのない手つきで棚の一角を探り、埃ひとつない電球の箱を取り出した。

 

「これで合っているはずだよ。もし違ったら、持っておいで。取り替えてあげるから」 「ほんと?」 「本当だとも。それと石鹸は……そうだな。これはどうだろう」

 

差し出されたのは、薄紙に包まれた小さな石鹸だった。ほんのりと、花の匂いがする。

 

「……いいにおい」 「山百合の石鹸だ。少しだけ高いが、泡立ちがいい。髪を洗うのにもいいよ」

 

マキナは、じっと石鹸を見つめた。それから、財布の中を覗き込んで、困った顔をした。

 

「……たかい」 「おや、正直だね」 「まけて、ください」

 

オーレルは、声を立てて笑った。

 

「いいだろう。さっき、八百屋の親父が触れ回っていたよ。とびきり正直な値切りをするお嬢さんが来たってね。噂のお客さんに、わたしも一度値切られてみたかったんだ」

 

オーレルは、電球と石鹸を手際よく包んでいく。包み紙の端に、ぽん、と小さな判子を押した。店の名前が入った、古びた丸い判子だった。

 

「うちの判子だ。何かあったら、これを見せればいい」

 

それから、大小の紙袋を抱えたマキナを見て、少しだけ眉を寄せた。

 

「それは持ちにくいだろう。こうするといい」

 

オーレルは、店の奥から古い麻紐を持ってきた。紙袋の口を器用に束ね、持ち手を作ってやる。

 

「重いものは下に、軽いものは上に。卵を買うときは、一番最後だ」 「たまご、かってない」 「それは何より」

 

オーレルは、束ねた荷物をマキナに手渡した。

 

「気をつけてお帰り。また、いつでもおいで」 「うん! ありがとう、オーレル!」

 

マキナが、看板の名前を読み上げて手を振る。

 

オーレルも、ゆったりと手を振り返した。

 

マキナが背を向けて、通りの方へ歩き出す。

 

そのとき、オーレルがふと顔を上げた。

 

通りを挟んだ向かいの、古道具屋の積み荷の陰。そこに身を縮めている、左袖だけ色の違うコートの男の方へ。

 

目が合った。

 

オーレルは、何も言わなかった。ただ、丸い眼鏡の奥で、小さく片目をつぶってみせた。

 

――任せておきなさい。

 

そう言われた気がした。

 

パラゴンは、積み荷の陰で、長く息を吐いた。

 

気づけば、肩にずっと力が入っていた。コートの継ぎ目が引きつれるくらいに。

 

それが、ゆっくりとほどけていく。

 

市場の喧騒の中を、紙袋を抱えた銀髪の少女が歩いていく。すれ違う店主たちが、ひとり、またひとりと、彼女に声をかける。「気をつけてね」「転ぶなよ」「また来な」。マキナはそのたびに振り返って、律儀に手を振り返していた。

 

誰も、彼女を珍しがらなかった。誰も、彼女を怪しまなかった。

 

少なくとも今日、この市場は、あの子に優しかった。

 

「……悪くないな」

 

誰にともなく呟いて、パラゴンは物陰から抜け出した。

 

帰る前に、寄らなきゃいけない店が三軒ある。

 

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6

パラゴンが家に着いたのは、マキナより五分早かった。

 

裏通りを全力で走り抜けた結果、息が完全に上がっている。台所で水を一杯飲み干し、額の汗を拭って、椅子に腰を下ろしたところで、玄関の扉が勢いよく開いた。

 

「ただいまー!」

 

「おかえりー!」

 

奥の部屋から、ルーチェの声が弾む。

 

マキナは紙袋を抱えたまま、ぱたぱたと部屋に駆け込んでいった。パラゴンも、何食わぬ顔でその後に続く。

 

「ルーチェ! かってきた! ぜんぶ!」 「すごーい! 見せて見せて!」

 

ベッドの上に、戦利品が並べられていく。にんじん、たまねぎ、いも。おまけの小さないも。薬の包み。電球。そして、薄紙に包まれた山百合の石鹸。

 

「いいにおい! これ、どうしたの?」 「オーレルが、えらんでくれた。かみのけ、あらうのに、いいって」 「オーレルさん? 雑貨屋さんの?」 「うん。やさしいひと。にもつも、もちやすく、してくれた」

 

マキナは、身振り手振りを交えて話し続けた。

 

星の形の梨のこと。唐辛子を舐めかけて止められたこと。蟹に指を挟まれたこと。蟹はとても強かったこと。

 

「それでね、それでね、やおやさんに、まけて、いったの」 「言えたの!?」 「いえた! にんじんと、たまねぎ、はんぶんに、なった!」 「すごい! マキナちゃん、値切りの天才だ!」 「えへへ……てんさい」

 

胸を張るマキナの後ろで、パラゴンは空になった財布をそっとポケットの奥に押し込んだ。

 

「お兄ちゃん」

 

ルーチェが、ふとこちらを見た。

 

「散歩、どうだった?」 「……普通だよ」 「ふーん。汗、すごいけど」 「今日は暑いからな」 「今日、ちょっと寒いよ?」

 

マキナが、きょとんとパラゴンを見上げる。

 

パラゴンは、窓の外に視線を逸らした。

 

ルーチェは、また毛布の中でくすくすと笑っていた。

 

―――

 

その日の夕食は、マキナが買ってきた野菜で作ったシチューだった。おまけの小さないもは、マキナの皿に入れてやった。

 

食事のあと、ルーチェは山百合の石鹸で髪を洗ってもらった。

 

夜。ベッドの縁に並んで座る二人の姿が、扉の隙間から見える。

 

マキナが、柄の欠けた木の櫛で、ルーチェの髪を梳かしている。蜂蜜色の髪から、ほのかに花の匂いがした。

 

「あしたも、おつかい、いきたい」 「いいよ。じゃあ明日は、パン屋さんにしよっか」 「パンやさん! ……パンやさんにも、いいひと、いる?」 「いるよ。きっと」

 

ルーチェは、振り返らないまま答えた。

 

「この街には、いい人、ちゃんといるから」

 

扉の外で、パラゴンは小さく笑った。

 

明日も、散歩に行かなきゃならないらしい。

 

(第3話 了)

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