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1
「お守りの、返金……ですか」
HUB第三支部のカウンターで、ミレイが困ったように依頼書を読み上げた。
依頼人は、カウンターの前の椅子にちょこんと座っていた。背の丸まった小柄な老婆だ。膝の上に、布の手提げをきゅっと抱えている。
「マーサさん。市場で買ったお守りが、効かなかった、と」 「効かなかったというか……」
老婆――マーサは、手提げの中から小さな包みを取り出した。
中身は、親指ほどの大きさの石だった。表面が、妙に鮮やかな青色をしている。
「『安眠の護り石』っていうんですよ。孫がね、最近ちっとも眠れないって言うもんだから。市場にいた予言者さんが、昼寝の神様のお告げがあったって。これを枕元に置けば、神様が休息をお許しくださるって」 「おいくらでした?」 「銀貨、三枚」
ミレイが、小さく息を呑んだ。老婆の年金の、たぶん一週間分だ。
「孫は、相変わらず眠れなくてねえ。それで、予言者さんに言いに行ったら、『効き方を、まだ受け取っておられないだけです』って……」
マーサは、申し訳なさそうに笑った。
「こんなことで傭兵さんにお願いするのも、おかしな話だとは思うんですけど。わたしが言っても、ちっとも聞いてもらえなくて」
依頼の報酬欄には、「干し柿 一袋」と書かれていた。
カウンターの端で、ガルドがジョッキを置いた。
「干し柿で傭兵雇おうって婆さんは、初めて見たわ」 「すみませんねえ……」 「いや、いいんだよ。婆さんは悪くねえ」
ガルドは、パラゴンの方を見た。
「どうする。こういうのは、普通なら受けねえ仕事だが」
パラゴンは、老婆の膝の上の、青い石を見ていた。
銀貨三枚。依頼としては、どうでもいいくらい小さな額だ。けれど、この人がその三枚を出したときの気持ちは、たぶん、どうでもよくはない。
「受けるよ」 「……いいんですか?」 「干し柿、好きなんだ」
隣の丸椅子で、マキナがぱっと顔を上げた。
「ほしがき! わたしも、すき!」 「食ったことあるのか」 「ない。でも、たぶん、すき」
マーサが、ようやく少しだけ肩の力を抜いて笑った。
ガルドが、ジョッキの陰でにやりとした。
「ちょうどいいじゃねえか。お前、ここんとこ顔が辛気くさかったからな。婆さんの干し柿でも食って、元に戻れ」
パラゴンは、答えずに依頼書を折りたたんだ。頬に残っていた浅い傷は、もうほとんど分からなくなっていた。
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2
市場の北の外れ、古い噴水のある小さな広場。
そこに、それはあった。
「――不安は、放っておくと大きくなります」
低く、よく通る声だった。
「石ころではございません。心の置き場所です」
広場の隅に、布を張っただけの露店が出ていた。手書きの看板には、金色の塗料で「予言者ヴィンセント」とある。塗料が一部垂れて、「予言者ヴィンセソト」に見えた。
露店の前には、小さな人だかりができている。その中心で、一人の男が両手を広げていた。
年の頃は、三十代半ばから四十手前くらいか。金糸風の刺繍が入った深紫のローブを着ている。ただし、裾が少し短くて、足首と、擦り切れた革靴がしっかり見えていた。刺繍の金も、あちこち剥げている。指には、明らかにサイズの合っていない大きな指輪が三つ。手にした杖は、よく見ると、ただの木の棒に金色の塗料を塗っただけのものだった。
髪は丁寧に撫でつけてあった。昼を過ぎた今は、前髪がひと房、額に垂れ落ちてきている。
「昼寝の神、コテン様は、こうお告げになられた」
男――ヴィンセントは、そこで一拍、間を置いた。
集まった客の一人一人と、順番に目を合わせる。
「――『汝らに、休息を許す』と」
ぱん、と男の手元で何かが弾けた。
ぼふっ、と紫色の煙が立ち上る。客たちが、おお、とどよめいた。
「……煙玉だな」
広場の入り口で、パラゴンは呟いた。
「けむり! むらさき!」 「感心するな」
煙が晴れると、ヴィンセントの手の中には、いつの間にか青い石がいくつも並んでいた。マーサが持っていたのと、同じ色の。
「ハンスさん、先日お話しした、奥さまとのこと。いかがです」 「い、いや、相変わらずで……」 「それは、心の置き場所が定まっていないからです。こちらの護り石を、枕元に」
客の名前を、すらすらと呼ぶ。相手の目を見る。間を取る。声だけは、本物の神官のようだった。
そして、石を渡す手つきだけが、妙に速くて、正直だった。銀貨を受け取る指の動きに、一切の迷いがない。
パラゴンは、人だかりをかき分けて前に出た。
「ちょっといいか」
ヴィンセントは、パラゴンを見た。左袖に継ぎ当てのあるコート、腰の拳銃、背中の剣。上から下まで、一瞬で値踏みする目つきだった。
それから、にこやかに微笑んだ。
「ええ、ええ。ご相談でしたら、順番に」 「相談じゃない。返金の話だ」
パラゴンは、マーサから預かった青い石を掲げた。
「この石を銀貨三枚で売った相手が、返してほしいと言ってる」
ヴィンセントの笑顔は、崩れなかった。
「ああ、そちらの件ですね。承知しております」
声を落として、耳打ちするように身を寄せてくる。
「市場組合の方ですか? それとも区の? 大丈夫、許可の件は近々きちんと――」 「どっちでもない。傭兵だ」 「ああ、傭兵さん。ご苦労さまです」
ヴィンセントは、ぽんぽんとパラゴンの肩を叩いた。
「効き目についてのご意見は、よくいただくんです。ですがね、効かないのではない。効き方を、まだ受け取っておられないだけで」 「さっきの婆さんにも、それを言ったらしいな」 「真理ですので」
まるで、いつものクレーム対応の延長だった。役人がまたうるさいことを言いに来た、程度にしか思っていない顔だ。
パラゴンが次の言葉を探していると、隣でマキナが首を傾げた。
「コテン、って、どんな、かみさま?」
ヴィンセントは、待ってましたとばかりに両手を広げた。
「よくぞお尋ねくださいました、お嬢さん。コテン様は、うたた寝とまどろみを司る、慈悲深き休息の神。疲れた者、眠れぬ者に、そっと安らぎをお与えになる」 「どこに、いるの?」 「コテン様? ええ、いらっしゃいますとも。今は、おやすみの最中で」
ヴィンセントは、厳かに天を仰いだ。
「その御名において、わたくしがこうして、皆さまに――」
「……ん」
ヴィンセントの、すぐ後ろで。
小さな声がした。
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3
露店の裏手には、古い噴水の縁に沿って、石のベンチが置かれていた。
そこに、誰かが寝そべっていた。
最初、パラゴンは、昼寝中の近所の住人だと思った。この広場の噴水の周りは日当たりがよくて、午後になると、よく誰かが座って居眠りをしている。
くしゃくしゃの寝癖。ローブと呼ぶには生地が柔らかすぎる、どう見ても寝間着にしか見えない生成りの衣。片腕を枕にして、もう片方の手でお腹のあたりを掻いている。
その人影が、もぞりと身を起こした。
「……あれ」
半分しか開いていない目が、ぼんやりとヴィンセントの方を向いた。
「今、呼んだ?」
ヴィンセントの口上が、止まった。
「……は?」
「コテン、って聞こえたから」
人影は、ゆっくりとベンチに座り直した。大きなあくびを一つ。
「あれ、僕のことかな?」
額に、小さな紋があった。円と、その中にうずまきのような線を一本。神の印だ。ただし、うっすらと埃をかぶっていて、少しも光っていなかった。
広場が、しんとなった。
さっきまでヴィンセントを囲んでいた客たちが、一斉にベンチの方を見た。それから、誰からともなく、じり、と半歩下がった。
神だ。
本物の、神だ。
さっきまで「コテン様のお告げ」をありがたがっていた人々の顔に、ほんの一瞬、怯えのようなものが走った。何をされるか分からない、得体の知れないものを前にしたときの顔だった。
――そのくせ、ついさっきまで、その神の言葉を銀貨で買っていた。
パラゴンは、客たちの顔を見回した。
「……恐れてるくせに、言葉だけは欲しいんだな」
小さく呟いたそれは、誰の耳にも届かなかったかもしれない。
ベンチの上で、神――コテンが、また一つ、あくびをした。
ふわあ、と。
それだけで、広場の空気が、すとんと一段落ちた。
張りつめていた客たちの肩が、目に見えて緩んだ。一人、二人と、つられてあくびをする者まで出てくる。さっきまでの怯えが、嘘のようにほどけていく。
煙玉の紫の煙よりも、ずっと効いていた。
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4
「えー……っと」
最初に我に返ったのは、ヴィンセントだった。
「どちら様で?」 「コテンだよ」 「……ご同名の方で?」 「たぶん、本人」
コテンは、寝癖を片手で押さえながら言った。押さえても、すぐにぴょこんと跳ね上がった。
「そんなお告げ、した覚えないよ」
静かな声だった。怒っている様子は、まったくない。ただ、事実を説明しているだけの口調だった。
「『汝らに、休息を許す』だっけ。言わないなあ、そういうの。休みたい人は、勝手に休めばいいと思うし」
「い、いや、これは、そのですね」
ヴィンセントの声が、急に早口になった。低く厳かな響きは、どこかへ消えていた。
「比喩というか、象徴というか。コテン様の、その、御心を代弁する形で――」
「おつげ、いま、した?」
マキナが、首を傾げてコテンに聞いた。
「してないよ」 「……だって」
マキナは、ヴィンセントに向き直った。
「して、ないって」 「いや、お嬢さん、それは直接的なお告げではなく、霊的な――」
マキナは、ヴィンセントの手の中の青い石を、ひょいと一つつまみ上げた。
じっと見つめる。裏返す。指先で、表面をこする。
指先が、うっすらと青くなった。
「これ、ただの、いし、だよね」 「……」 「いろ、ぬってある」
コテンが、マキナの手元を覗き込んだ。
「ほんとだ。石に色、塗っただけだよね」
少し考えてから、付け加える。
「まあ、色はきれいだけど」
「で、ですから! 石そのものではなく、込められた祈りが――」 「いのり、こめた?」 「こ、込めました! 心を込めて!」 「コテンに、きいた?」 「聞いては……いませんが……」 「じゃあ、コテンの、おつげじゃ、ないね」
ヴィンセントが、口をぱくぱくさせた。
周りの客たちが、ざわざわし始めた。
「……おい、じゃあ俺の買った石は」 「あたしのも、ただの色付きの石?」 「ハンスさん、奥さんとのことって、あれ誰にでも言ってたんじゃ……」
ヴィンセントの顔から、見る見る血の気が引いていく。
背が、縮んだように見えた。
実際に縮んだわけではない。けれど、本物の神の前に立たされたヴィンセントは、さっきまで広場の真ん中で両手を広げていた男とは、まるで別人だった。深紫のローブが、急にぶかぶかの借り物に見えた。舞台衣装を剥がされた、ただの凡人がそこにいた。
「わ、分かりました。分かりました! では、こうしましょう。本日限り、護り石は半額で――」 「そういう、はなしじゃ、ない」 「では三割引き!」 「わりびき、しても、いしは、いし」 「そもそもですね、神託というのは受け取る側の心の持ちようで、僕が効かせているわけでは――」 「さっき、コテンが、ゆるすって、いってた」 「言ってたのは僕です! あっ」
墓穴だった。
ヴィンセントは、ちらりとコテンを見た。コテンは、ベンチの上で膝を抱えて、うとうとしかけていた。
「……怒らないでください、本物さん」
ヴィンセントは、すがるように言った。
「僕はただ、需要に応えただけで。みんな、不安なんです。誰かに大丈夫だって言ってほしいんです。それで、あなたの名前が一番、その、角が立たないというか……」
「怒ってないよ」
コテンは、目を半分開けた。
「起きてしまっただけ」
少し間があった。
「百年くらい、誰も僕の名前で何もしてなかったから。珍しいね」
本当に、珍しがっているだけの顔だった。
名前を勝手に使われたことに、腹を立てている様子はない。ただ、昼寝を途中で起こされたことが、少しだけ面倒くさそうだった。
マキナが、コテンの隣にちょこんと座った。
「コテンは、いじめられたり、しなかった?」
唐突な質問だった。パラゴンは、一瞬ひやりとした。十二区画の、あの静かな路地を思い出したからだ。
コテンは、少し考えた。
「うーん。あんまり、ないかなあ」
あくびを一つ。
「僕、地味だから。昼寝の神なんて、誰も怖がらないし、誰も頼らないし。敵にも味方にも、されなかったんだよね。……だから、ずっとここで寝てた」
「……そっか」
マキナは、ベンチの上で足をぶらぶらさせた。
「みんながみんな、たいへんな、おもいを、してるわけじゃ、ないんだね」
「そうみたいだね」
コテンは、他人事のようにうなずいた。
その隙に。
ヴィンセントが、そろりそろりと露店の裏手へ後ずさっていた。
「――あっ、逃げた!」
客の誰かが叫んだ。
ヴィンセントが、ローブの裾をからげて駆け出す。短い裾が、こういうときだけ役に立っていた。
パラゴンが追いかけようと一歩踏み出した、その瞬間。
「……ふわあ」
ベンチの上で、コテンが、また大きなあくびをした。
広場の出口まであと三歩というところで、ヴィンセントの膝が、かくん、と折れた。
「あ、あれ? 足、足が――」
まるで、昼下がりの長椅子から立ち上がろうとして、うまく力が入らないときのように。ヴィンセントは、ふにゃふにゃと石畳の上に尻もちをついた。
手から、金色の杖がすっぽ抜けて、ころころと転がっていく。
マキナが、それを拾い上げた。
「これも、ぬってある」 「返します! 返しますから、杖は置いて。あれ、塗装剥げます」
「……逃げるなら、最初からやるなよ」
パラゴンは、尻もちをついたままのヴィンセントを見下ろした。
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5
マーサが広場にやってきたのは、それから少しあとのことだった。
パラゴンが、HUBの若い使い走りに頼んで呼んできてもらったのだ。
「あらまあ……」
広場の様子を見て、マーサは目を丸くした。石畳の上に正座させられた予言者。露店の前に積み上げられた青い石の山。その横で、自分の石を取り戻した客たちが、口々に文句を言っている。
そして、噴水の縁のベンチで、寝間着姿の誰かが、うとうとと船を漕いでいた。
「マーサさん」
ヴィンセントは、マーサの顔を見るなり、正座のまま小さくなった。
さっきまで客たちに文句を言われても、へらへらと言い訳を並べていた男が、この老婆の前でだけは、何も言えなくなっていた。
「……お孫さんは、まだ」 「ええ。眠れないままでねえ」
マーサは、怒っているようには見えなかった。ただ、少しだけ寂しそうだった。
「わたしね、あなたの言うこと、信じたかったんですよ。神様が、あの子に休んでいいって言ってくださったなら、それで、あの子も少しは楽になるかしらって」
ヴィンセントは、膝の上で拳を握った。
しばらく黙っていた。
それから、懐から銀貨を三枚取り出して、マーサの手に載せた。
そして、少し迷ってから、もう一枚。
「……これは、お孫さんに。何か、温かいものでも」 「まあ」
マーサが、目を瞬かせた。
ベンチの上で、コテンが、ぱちりと目を開けた。
いつの間に起きていたのか。半分だけの目が、マーサの手の中の銀貨と、マーサの顔を、順番に見た。
「お孫さん、眠れないの?」 「え、ええ。……あら、あなたは」 「コテン。一応、昼寝の神」
コテンは、ベンチから立ち上がった。マーサの前まで、のそのそと歩いていく。
「休息なら、あげられるけど。お金は、いらないよ」
コテンは、マーサの手をとって、その手の甲を、ぽんぽんと二回叩いた。
それだけだった。光も、音も、何もなかった。
「今夜、お孫さんの頭、撫でてあげて。それで、たぶん眠れるから」 「……本当に?」 「たぶん。僕、あんまり嘘つかないから」
マーサは、自分の手の甲を、じっと見つめていた。
それから、深々と頭を下げた。コテンは、困ったように寝癖を掻いていた。
―――
ヴィンセントの処分は、あっさりと決まった。
騒ぎを聞きつけてやってきた市場組合の世話役が、露店の撤去と、青い石の全品没収を言い渡した。それから、当分の間、市場への出入り禁止。
「当分って、どのくらいで……」 「当分は当分だ」
それで終わりだった。セイフガードに突き出すほどの話でもない。
没収された青い石の山は、市場の子どもたちの石蹴り遊びに使われることになった。色がきれいだと、評判は上々だった。
ヴィンセントは、深紫のローブを脱いで、丸めて小脇に抱えた。ローブの下は、よれよれのシャツとズボンだった。どこにでもいる、少しくたびれた三十代の男が、そこにいた。
広場を出ていく前に、ヴィンセントは一度だけ振り返った。
ベンチの方を。
「……あの、本物さん」 「うん?」 「本当に、怒ってないんですか」
コテンは、もうベンチに寝そべっていた。片腕を枕にして、目を閉じたまま答える。
「まあ、いいけどね」
もう一つ、あくび。
「次は、起きる前に言って」
ヴィンセントは、なんとも言えない顔をして、それから、深々と頭を下げた。一番深いお辞儀は、その日、客にではなく、この地味な神に向けられていた。
―――
「コテン」
帰り際、マキナがベンチの横にしゃがみ込んだ。
「また、あいに、きていい?」 「いいよ。たいてい、ここで寝てるから」
コテンは、薄目を開けてマキナを見た。
「君も、眠いときは眠ったらいいよ」 「……わたし、あんまり、ねむくならない」 「そう? じゃあ、眠くなったら、でいいよ」
それから、半分だけの目が、マキナの後ろに立つパラゴンに向いた。
しばらく、じっと見ていた。
「……君は、ちゃんと起きてる人だね」
コテンは、ぼんやりと言った。
「大変そう」
パラゴンは、何も言い返せなかった。言い返す言葉が、見つからなかった。
コテンは、それ以上何も言わずに、また目を閉じた。ほどなくして、すうすうと寝息が聞こえてきた。
―――
HUBへの帰り道。
マキナは、マーサからもらった干し柿を、両手で大事そうに抱えていた。一つだけ、先に齧っている。
「……! あまい。ねっとり、してる」 「だろ」 「ほしがき、やっぱり、すき」
パラゴンも、一つ口に放り込んだ。
甘かった。
ふと、あくびが出た。
自分でも驚くくらい、大きなあくびだった。ここしばらく、夜中に何度も目が覚めていた。錆びた配管と、蒸気の音の夢を見て。
「パラゴン、ねむい?」 「……ちょっとな」 「コテンの、せい?」 「さあな」
マキナが、くすくすと笑った。
「じゃあ、きょうは、はやく、ねようね」 「……そうだな」
夕暮れの市場に、どこかの子どもたちの笑い声が響いていた。色のきれいな青い石が、石畳の上を、ころころと転がっていく音がした。
(第7話 了)