劇場版アンデッドアンラック THE UNSWER 作:Unhinged
地球は丸い。
少なくとも、今は。
アメリカ合衆国、ニューヨーク州マンハッタン。かつて世界最大の金融街の一つとして知られたウォール街は、今では瓦礫の街になっていた。
原因は、地震。
道路は波打つように隆起し、超高層ビルは途中から折れ、何十年も金と情報を呑み込み続けてきた摩天楼は、今ではただの巨大な墓標として傾いている。
そこまではいい。
いや。良くはないが、地震で壊れた都市として理解することはできる。
問題は、その崩れたビルの一角が、あまりにも綺麗な球体になっていることだった。
直径およそ十二メートル。鉄骨も、コンクリートも、窓ガラスも、オフィスに残されていた机も椅子も、その全てを粘土のように押し固めた巨大なボール。それでいて圧縮された痕跡も、何かによって切断された断面もない。
建物の一角に存在していた数十トンの物質だけを選び取り、最初からそういう形だったかのように丸く変えた。
その球体は、緩やかに傾いた道路の上を転がっていた。
ごろり。
地面が揺れる。
ごろり。
その進行方向には、地震によって潰れた一台のタクシーがあった。巨大な球体は当然のようにそれを踏み潰し、さらに下へと転がっていく。
誰もいない金融都市を。
まるで、子供が遊び終えて片づけ忘れたボールのように。
「
不運の否定能力者、出雲風子が聞き返した。
円卓の上。いつものように鎮座していた一冊の本が、ばさばさとページをめくりながら大きく口を開ける。
『そーだ!! ありがたく受けろ!! 通常の
「オレらだけか。いいねぇ」
「何がいいの!?」
横に座るアンディの脇腹を、風子が肘で小突く。
当然、痛がるわけもない。アンディは歯を見せて笑っただけだった。
彼は、死を否定する不死の否定者だ。
そして本の名を、
この地球で最初に発見された、本の姿をした
人類が神へ抗うためには必要不可欠な存在である。
同時に、可能であれば一度くらい顔面を殴ってやりたくなる程度には性格が悪い。
もっとも、本に浮かんだ目と牙を顔面と呼べるかは怪しいところだが。
『
円卓の中央に映像が浮かぶ。
球。
正確には、無数の球体を人型に繋ぎ合わせたような奇怪な巨人だった。頭も球。胴も球。肩から腕、指先に至るまで、大小様々な球体が数珠のように連なっている。
子供が球だけを使って人間を作ったような、単純であるが故に異様な姿。
「スフィア……球?」
『そのまんまだバーカ!!』
「確認しただけなのに……」
「で、捕獲ねぇ」
アンディは映像を眺めながら、口端を吊り上げる。
「討伐じゃダメな理由は?」
討伐。
あるいは、捕獲。
言葉にしてしまえばそれだけだ。討伐なら殺せばよく、捕獲なら生きたまま確保すればいい。
ただし。相手がUMAである以上、この違いは単なる勝利条件の差では済まない。
UMAとは、この世界へ追加された
あるいは、
そうした世界を構成する概念が、一個の生命として肉体を与えられたもの。
故にUMAを殺すという行為は、「強い怪物を一体倒した」というだけでは終わらない。
『スフィアが司る
「……ですよね」
風子の顔が引きつった。
球。
あまりにもありふれた形だ。
ボール。ベアリング。眼球。果実。雨滴。そして、天体。
この世界から『球』という概念そのものが消滅した場合、どこまでが改変されるのか。それを正確に予測することはできない。
例えば野球のボールが存在できなくなる程度であれば、まだいい。
良くはないが、人類は滅亡しない。
だが。
地球は?
惑星は?
星そのものが球形で存在するという事実まで『球』の
『討伐時の変動予測!! 地殻の超広域変動!! 地球形状の平面化!! その他、球形構造物および球形生物器官への影響多数!!』
「地球平面説が正解になるってこと?」
「正解になるんじゃねえ!!
地球が平面であることと、地球が平面に
昔の人間が地球を平らだと勘違いしていた、という話ではない。本当に地球が平らになる。
直径一万二千キロメートルを超える巨大な岩石の塊が、現在の球形から別の形に組み替えられる。どのような過程を経るのかは分からない。それでも、その変形の途中でどれほどの地殻変動が発生するのか。
計算するまでもない。
「死ぬね、人類。」
「ああ。たぶんな」
アンディは軽く答えた。
本人は死なない……本人が死を望んでいることを考えれば、「死ねない」というべきか。なので、こういう時だけ感想が軽い。
自身に最高の死を齎す出来事を求めている彼にとっては、惑星が平らになる程度の地殻変動など、計算するまでもなく死なない。もっとこう、概念的な破壊力が必要だ。
「じゃ、捕まえるしかねぇな」
「簡単に言うなあ……」
『当然だ!! だから特別
風子はその笑い声を無視し、もう一度スフィアの映像を眺めた。
球を司るUMA。
映像を見る限り、巨体ではある。しかし、それだけだ。
UMAには純粋な身体能力で戦う個体もいれば、自身の司る
もしスフィアが後者ならば、「球を操る」では済まないだろう。
ただし。
今回の特別
「報酬は?」
風子が尋ねる。
通常とは別枠。
参加者は二人だけ。
しかも、殺せば人類が滅びかねないUMAの捕獲。
それほどの仕事をさせるからには、報酬も相応のはずだった。
『
「……所在?」
「現物じゃなくて、場所だけかよ」
『そうだ!!』
アンディが露骨に嫌そうな顔をする。
世界規模の危険を持つUMAを生け捕りにして、手に入るものが
その
通常であれば、割に合わない。
しかし、円卓の空気はそうならなかった。
「アンサー……」
円卓第一席、ジュイスが小さく呟いた。本来であれば
「その名については、
「完全な情報がない、じゃねえよ。重要なのは、どんな情報を持っているか、の方だろ。」
「最もだ。ただし、所在どころか、色も形も、何もかも不明だ。」
「おいおい……」
「それは、情報を持っているとは言わないんじゃ……」
「逆だ風子、何もかも不明なのに、『情報を持っている』ってえのは……要は、その限りなくゼロに近い情報だけでも、
「あ」
「ああ。なんでも……
否定能力を、付与する。
否定者。
神が世界へ追加した
不死。不運。不変。不治。
発現条件も、対象も、規模も本人が自由に決められるものではない。そして多くの場合、その能力は本人にとって
だからこそ。
否定能力そのものへ干渉する可能性を持つ
「いいね」
アンディが笑った。
「スフィア捕まえて、そのアンサーってのを探す。そんで使えるモンなら使う。シンプルだ」
「うん。……そうだね」
風子も頷く。
風子が
世界が滅ぶかもしれない。
だから止める。
いつものことだ。
『ケッ!! のんきだなテメェら!!』
「何?」
『じゃあ、特別にもう一個教えてやるよ!!』
代わりに現れたのは、文字。
たった一文。
『
「……は?」
風子が固まる。ジュイスすらも、困惑した。
アンディだけが、少し楽しそうに笑った。
「最強?」
『以上!! 追加情報はなし!! せいぜい死なねぇように頑張れ!!』
「ちょ、待って!! 最強って誰!? 敵に回るっていつ!? 今回の
『知らねー!!』
「絶対知ってるでしょ!!」
『さぁな!!』
完全に話を打ち切る。
「……最強の否定者」
風子は、もう一度表示された文字を見る。
否定能力に、単純な強弱をつけるのは難しい。というか、無理だ。
例えばアンディの不死は、死なない。基本的に戦闘に向くものが少ない否定能力としては、極端に格闘戦に向く部類のものだが、世界を直接破壊できるわけではない。
風子の不運も同じだ。
条件さえ整えば天災級の不運を呼び込める一方で、まず対象へ触れなければ始まらない。
能力の強さとは何か。規模か。殺傷力か。応用力か。
……あるいは、神を殺せるか。
「いいね、最高だ。」
「アンディ?」
「強い奴なんだろ?」
アンディも口を開けていた。だが、唖然とはしていない。歯を見せて……牙を剥いて、笑っていた。
「だったら会ってみてぇ。俺を殺せるかもしれねえしな。」
「もう……」
風子はため息をつく。
ただ。
ほんの少しだけ、遭ってみたいとも思っていた。どんな否定能力ならば。
あの
答えはまだない。
あるのは、球だけだった。
「……すご」
数時間後。
風子とアンディは、ウォール街に立っていた。
地震によって荒廃し、封鎖されたかつての金融都市。
建物は倒れ、道路は割れ、信号機は傾いている。地下からは破断した水道管の水が絶えず噴き出し、街路にはガラス片と紙幣、書類の束が積雪のように散らばっていた。
そして。
「丸いな」
「うん。丸いね」
色々なものが、丸かった。
道路脇に停車していたはずの自動車が、直径二メートルほどの鉄球になっている。街路樹も幹の途中から先が、枝葉ごと緑色の球へ押し込められていた。
ビルの壁面には、巨大なアイスクリームディッシャーで抉ったような半球状の欠損がいくつも並んでいる。
ただ壊したのではない。丸くした。それが、スフィアの能力。わかりやすくていい。
「生物にも効くと思う?」
「試してみっか」
「え?」
アンディが前に出た。
「いやいやいや待って!! 何する気!?」
「能力範囲を探る。お前だと死ぬだろ」
「アンディでも痛いでしょ!!」
「死なねぇから平気だ」
「平気じゃない!!」
止めるより早く、アンディは道路に残された奇妙な境界線へ足を踏み入れた。
そこだけ、景色が違っている。歩道の縁石。空き缶。小石。割れたガラス。
ある地点より向こうに存在する物体だけが、例外なく丸い。大地のアスファルト自体が変形しているから、効果範囲がわかりやすいのも対処する側として便利ではある。
一歩、線を越えて、何も起きない。
「ほらな」
「いや、まだ分かんないって!」
二歩。
アンディの左腕が、縮んだ。
「え」
正確には、縮んだのではない。肩から指先まで、骨も、筋肉も、皮膚も。
一本の腕を構成していた物質が、ぐにゃりと捻じ曲がりながら一点へ集中した。
直径二十センチほどの、赤黒い球。本来であれば大量に血が噴き出すであろう所、その血さえも球状に整形されている。
「お」
「アンディィィィィィ!?!?」
風子が叫ぶ。
アンディは、自分の左肩から生えた肉のボールを興味深そうに眺めた。
「なるほどな。侵入した部分からの変形か。空間内に一部でも入ったらアウト、じゃなく、入った部位だけに変形がかかるんだな」
「なるほどじゃない!!」
さらに一歩。
左半身が丸まった。肋骨が折れ曲がる。肺が潰れる。
内臓が球の中心へ向けて圧迫される。
人間の肉体は、球になるようにはできていない。当たり前だ。アルマジロやダンゴムシでさえ、本当の意味で真球とは言えない。
人体には骨格がある。骨格は臓器を守り、筋肉の支点となり、直立二足歩行に適した形へ肉体を維持している。
その全てを無視して、ただ「球である」という形だけを強制する。
それは変形ではない。破壊だ。
ぐしゃり。
アンディの頭部が、過多だった部位に陥没した。肉体全体が丸くなった。
赤黒い肉球が道路に落ちる。
「アンディ!!」
返事はない。口がないからだ。当然、目も耳も鼻もない。突起物であるからだ。肉塊の内部にはあるかもしれないが。
人間一人分の肉を、ただ一個の球体へ整形したもの。普通の人間であれば、ここで終わる。
即死。
だが。
ぶちり。球体の表面が裂けた。
白い骨が飛び出し、筋肉が絡みつき、血管が這う。
何もないところから再生しているのではない。球状に破壊された肉体を押しのけるように、正常な人型が復元されていく。
「っぷは!!」
まず頭部が生えた。
「思ったよりエグいなこれ!!」
「だから言ったじゃん!!」
「でも分かった」
アンディは笑いながら、自分の身体をさらに球状化の範囲へ押し込んでいく。
球になる。
再生する。
また丸まる。
そこからさらに人型へ戻る。
人間の形と、スフィアの強制する球体が、ぐちゃぐちゃに競合する。
「範囲内じゃずっと変形が掛かる。出りゃ戻れる。少なくともオレはな」
「普通の人は戻れないよ……」
「ああ。だからお前は入んな」
「入らないよ!!」
風子は怒鳴ってから、少し青ざめた。
スフィア。
周辺の物体・生物を球状に変形させる。
言葉にすれば、それだけだ。
だが、球体という形状は生物に優しくない。
人体を球にする。
それは、身体を押し潰すこととほとんど同義だった。
防御力は関係ない。硬い鎧を着ていても、その鎧ごと球になれば意味がない。筋肉を鍛えていても、筋肉そのものの配置を変えられる。
骨が硬ければ、硬いまま折り曲げられるだけ。
「……スポイルもそうだったが、範囲内に致死的なルールを強制するってのは厄介だな」
「しかも……スポイルの時って最初はもっと時間がかかったよね?」
「ああ。フェーズ2まで進んでる。当然、本体性能も強力なはずだ。」
アンディが能力範囲から抜ける。
最後まで丸まっていた右脚が、人間本来の形へ再生した。
「入ったら終わり。普通の奴ならほぼ即死。しかも捕獲だから、こっちは殺せねぇ」
敵は殺せる。こちらは殺してはいけない。それも、基本性能が格上の相手に対して。
単純だが、捕獲というものは厄介な条件だった。
「で、肝心の本体は?」
アンディが周囲を見回す。気配はない。
ただし、痕跡はある。丸くなった瓦礫、球状に削られた建物。
……そして。
「あれ」
風子が指をさした。
球体になった自動車が、ゆっくりと動いている。
風はない。
なら。
「まさか、道路、傾いてる?」
「ああ」
地震で隆起した路面。
ほんの数度。
普通の自動車であれば、サイドブレーキさえ利いていれば動かない程度の傾斜。
だが、今のそれは自動車ではない。
完全な球体だ。接地面がほぼゼロ。当然摩擦もほぼゼロ。
重心は中心。そして、どの方向へ向いても同じ形。
つまり。
転がる。
「……これ、マズくない?」
「あ?」
ごろり。
速度が上がる。
質量は自動車一台分。一トンを軽く超える鉄球が、位置エネルギーを運動エネルギーへ変えながら斜面を加速する。
その先には。
同じように丸められた瓦礫が、十個以上。
「アンディ!!」
「おう!!」
アンディが飛ぶ。
先頭の鉄球を蹴り上げた。
衝撃によって軌道は逸れた。
だが。その鉄球が、別の瓦礫球へ衝突する。
さらに別の一個へ。
さらに別の一個へ。
さらに別の一個へ。
「あっ」
「お」
一個。
二個。
五個。
十個。
高層ビルに囲まれた道路を、巨大な球体群が一斉に転がり始める。
ビリヤードである。
ただし、球は一つ一つが数百キロから数十トン。台は、崩壊した都市そのもの。
「逃げるよ!!」
「捕まえねぇの?」
「今は無理!!」
風子とアンディが走る。
後ろから、瓦礫の雪崩が迫った。
球は転がる。
角がないから、小さな障害には引っかからない。一度速度を得れば、路面の細かな凹凸を乗り越えながら進み続け、さらに他の球を巻き込んでいく。
スフィアの能力は、ただ対象を球にして殺すだけではない。
都市そのものを、
「うわああああああ!!」
「ハハハ!! いいねぇ!!」
「何が!?」
「派手で!!」
「よくない!!」
アンディが風子を抱える。背後から迫ったコンクリート球を踏み台にして跳躍。
さらに空中で指先を切り落とす。
「
再生の勢いによって射出された指が、前方の信号柱を撃ち抜いた。
アンディは倒れ込んだ柱を掴み、棒高跳びのように身体を持ち上げる。二人の足元を、鉄とコンクリートの濁流が通過した。
「……こういう使い方するんだ」
「便利だろ?」
「便利だけど!」
風子はアンディに抱えられたまま、下を見る。
球体群は交差点へ流れ込み、そこで。
止まった。
いや。
交差点の中央。
道路そのものが膨らんでいる。
一つ。
二つ。
三つ。
アスファルトが地中から押し上げられ、巨大な球へ変わる。転がってきた瓦礫群は、その球体の壁に衝突して軌道を変えた。
その中心に。
「いた」
球体の巨人。
スフィア。
遠目に見ても、十メートルを優に超える。
全身を構成する無数の球が、互いに擦れ合いながら別々の方向へ回転している。
顔らしい顔はない。ただ、眼球に相当する位置には、瞳のない単色の球がついている。
頭部に相当するのであろう大球が、二人の方へ向いた。
「見つけた!!」
「待ってアンディ!! 捕獲だからね!! 殺しちゃダメ!!」
「分かってる!!」
アンディが笑う。
その瞬間。
スフィアが、右腕を振り上げた。
「来るよ!!」
殴られる。一瞬、そう思った。
だが、腕は二人には届かない。
代わりに。周囲の景色が、丸くなった。
「え?」
ビルの壁面。道路脇のコンクリート。放置された自動車。街灯の根元。半径数十メートルに存在する物体が、一斉に球形へ歪んでいく。大きなものだけではない。オフィスビルだったものから零れ落ちた事務用の安価なボールペンまでもが、それぞれ球に改変される。それらは「ころ」として、より大きな物体を滑らせる。
そして当然。ビルの途中を球にすれば。
支えを失った上階は、落ちる。
「風子!!」
アンディが風子を投げた。
「えっ、ちょ──」
直後。
直径二十メートルを超える鉄筋とコンクリートの球が、アンディの身体ごと道路へ落下した。
轟音。
地面が陥没する。
さらに上から、球状化したガラスが雨のように降り注ぐ。
風子は空中で身体を捻り、まだ形を保っていた街灯へしがみついた。
「アンディ!!」
「死んでねえ!!」
瓦礫の奥から声。
「不死だからな!!」
「知ってる!!」
風子が怒鳴る。
分かっていても少し不安だったし、解っていても少し安心した。
そして。その安心は、一秒も続かなかった。
地面が揺れたからだ。それも、地震大国に住んでいてなお一度も感じたことのないような、原始的な恐怖を呼び起こすそれが起きた。
「……え?」
最初に感じたのは、足元から突き上げるような縦揺れ。
続いて、街路全体が横へ
風子がしがみついていた街灯が根元から折れた。
「きゃっ!!」
ただの余震だ、心配ない。一瞬、そう思った。
この街は巨大地震によって崩壊している。ならば、その後に余震が起こったところで何もおかしくはない。
だが。
「違う!!」
瓦礫を吹き飛ばして出てきたアンディが叫ぶ。
「余震じゃねえ!!」
「じゃあ」
まさか、スフィアには第二の能力があって地球そのものを一部改変してるとか、あるいはもう1体のUMAとか……??
「UMAでもねぇ!!」
そう。
スフィアは、止まっている。
球を司るUMA。地面を球状に変形させることはできる。
だが、この揺れは違う。
地面そのものが、巨大な一枚の板を、下から殴りつけたかのように跳ねた。
そして。
揺れには、方向があった。
スフィアへ向かって。
「っ!!」
球体の巨人が、初めて明確に反応した。
逃げる。
全身をばらばらの球へ分解し、崩れたビルの向こうへ転がり込む。
「待っ──」
アンディが追おうとする。
その進行方向へ、もう一度。
地震。
ドンッッッ!!!!
爆発ではない。しかし、地面が爆ぜた。
道路が数メートル単位で持ち上がり、マンホールが砲弾のように空へ消える。風子とアンディの間に、巨大な亀裂が走った。
明らかに自然現象ではない。戦略的な足止めである。
「……誰か、いる」
風子が呟いた。
崩れた摩天楼の向こう。
粉塵の中。
人影が、一つ。
遠すぎて顔は見えない。
ただ、煤けた銀色の髪だけが、舞い上がる埃の中で妙に目立った。
男の影は杖をついていた。そして、奇妙なことに。
(怪我をしてる?)
体幹もしっかりしていないのに、ふらつきながら
次の瞬間。
男の姿は瓦礫の向こうへ消えた。
スフィアを追うように。
「……最強の否定者」
風子の脳裏に、
地面が。
もう一度、揺れた。
過去作と没ネタ食わせたAIでどこまでやれるか試してみる奴。