劇場版アンデッドアンラック THE UNSWER   作:Unhinged

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劇場版おじさんは当然大御所ゲスト俳優おじさんがCVである。ジャンプ作品だし……


No2-異常震域

 地震には、震源がある。地下の岩盤が破壊されて断層がずれ、その際に放出されたエネルギーが地震波となって地殻を伝播し、地上を揺らす。故に地震とは、本来ならば地面の下から起こるものだ。

 

 まあ、少なくとも、人間一人の足元から発生し、その人間と一緒に移動するような現象ではない。

 

「……行った」

 出雲風子は、崩れた摩天楼の向こうへ消えていく人影を眺めていた。煤けた銀髪。黒いスーツ。杖。そして、揺れ、跳ね回り、両足を交互に地に付け使い分けているにもかかわらず、必ず片足を地面につけようとしない妙な歩き方。

 先ほどまでUMAスフィアが存在した交差点には、一本の巨大な亀裂が残されている。道路そのものが数十cmほど横へズレ、地下の配管からは水が噴き出していた。

 

「追うぞ」

「え、ちょっとアンディ!!」

 不死の否定者は、単純な身体能力以上に移動が速い。普通の人間ならば腱や関節を守るため無意識に抑える出力を、アンディは無視できるからだ。踏み込みで足首が折れても、着地で膝が砕けても構わない。数秒後には戻る。

 だから、人体を消耗品として扱うような移動ができる。

 

「やっぱり、あの人が地震起こしてるのかな!」

「ああ。十中八九、否定者だろ」

「何を否定してるんだろ」

「そこまでは解らねぇ」

 

 二人とも、「地震を発生させられる」という部分については疑っていなかった。自然地震ならば、揺れの中心が人間を追って移動するはずがない。UMAの追加能力という可能性も、先ほどスフィア自身が地震から逃げ出した時点でほぼ消えている。

 問題は、その否(・)定(・)能(・)力(・)が何を否定した結果として揺れを生んでいるのか。発動条件は何か。強制発動型か任意発動型か。否定者を相手にするとき、必須と言っていい考え方だ。

否定能力とは、基本的には何かに否(デメリット)を突き付けるもの。単純かつ能動的に広域破壊を生み出していることは考えづらい。

 

「地震……物を動かす……あ」

 風子が何かを思い出す。

「『不均衡(UNBALANCE)』とか?」

「ビリーが『不平等(UNFAIR)』でコピーしてた奴か」

「うん。建物を傾ける能力だったよね。それなら地面そのものを傾ければ──」

「いや、違ぇな」

 アンディがすぐに否定した。

「あれは物体の均(・)衡(・)を(・)崩(・)し(・)て(・)傾(・)け(・)る(・)能力だ。地面の一部を斜めにするだけならともかく、さっきみてぇに縦にドンと跳ね上げたり、左右にガタガタ揺らしたりはしねぇ」

「じゃあ別物か……」

「多分な」

 話している間にも、距離は縮まる。銀髪の男は走っていなかった。黒い杖とともに両の脚で踏み込み、地面そのものに押し出されるように跳ねている。

 

「おい!!」

 アンディが叫ぶ。男が足を止め、杖を地面へ突いたまま振り返った。

 40代程度。スーツは粉塵にまみれているが、服装だけならば金融街で働いていた会社員に見えなくもない。ただし、その手の杖は違う。黒い表面には規則性の分からない文字が刻まれ、ところどころが金属とも鉱石ともつかない光を返している。

「その杖、古代遺物(アーティファクト)だろ」

 アンディが問いかけた。男は答えなかったが、一瞬だけ目線が杖へ動く。

「当たりか」

「……組織(ユニオン)か」

「だったら?」

「退け」

「嫌だって言ったら?」

「否を突き付けるほかないだろう。」

 短い。男は二人と話すことそのものに興味がないらしい。視線はすぐアンディの肩越しへ向かい、奥を移動するスフィアを追う。

 

「お前もスフィア狙ってんのか?」

「ああ」

「捕獲?」

「破壊する」

 

「え」

 

 風子が目を見開いた。

 

「待って!! スフィアを殺したら球の理(ルール)がなくなるんだよ!?」

「知っている」

「地球も平らになるかもしれないし、そうなったら人類だって──」

「だからだ。絶対(マスター)でもなしにここまで致命的な理(ルール)などそうはない。」

 

 知らないわけではない。理解した上で、スフィアを破壊すると言っている。理由までは分からない。それに、絶対(マスター)……?

 

「なら退けねぇな」

 アンディが風子を下ろす。

「こっちは捕獲が課題(クエスト)なんでな」

「なら敵だ」

「いいね。話が早ぇ」

 アンディが踏み込み、真正面から右拳を放つ。

 銀髪の男は黒い杖を振り、拳を正面から受けるのではなく手首の側面へ当てて軌道を逸らす。続く左拳も同様に流され、三発目には杖の石突がアンディの肘へ差し込まれた。片足立ちとは思えない。

 強い、というより、巧い。

 

「片足でよくやるな!!」

 男の左手が胸ポケットへ滑った。

 次の瞬間、一枚の白い長方形が翻り、アンディの額へ一直線に走る。手裏剣のように飛び、スッ、と紙の角が皮膚を裂き、そのまま数mmほど浅く刺さった。風子の手元にも飛んでくるが、空気抵抗が威力を奪い、ふわりと手元に着地した。

「……は?」

 アンディが額から紙片を引き抜く。名刺だった。

『STEVE SILVERBOARD』

 その下には、金融会社の名前と、Financial Analystの肩書き。

「スティーブ・シルバーボード……金融アナリスト?」

「前職だ。市場の不安定から利益を得る、安定した仕事だった。名乗ったのは……まあ、名刺交換は礼儀だからな」

「交換になってねぇだろ!!」

 杖がアンディの顎を打つ。

 

 視界が上を向いた一瞬でスティーブは後退し、そのままスフィアを追おうとする。だが、その時にはスフィアの方も三人を敵として認識していた。

 

「来るよ!!」

 巨人の腕が振るわれる。巨人の手足から、白く小さな……もっとも、巨人からすれば、だが……球が飛び出す。

 その周囲で、自動車が、瓦礫が、道路標識が、一斉に球体へ変形した。

 スフィアの理(ルール)の適用範囲。内部へ入った物体を球へ変える。生物に対しては自動発動であっても、無生物への球体化には自身への接触が必要らしい。自身を切り離して飛ばせるのは流石に聞いていないが。

 

「おい!! 下がれ!!」

 アンディが叫ぶ。

 スティーブは、逆に前へ出た。能力範囲へ足を踏み入れ、周囲の瓦礫が次々と丸くなっていく。だが、スティーブだけが変わらない。

 腕も、頭部も、右足も。人体の形を保ったまま、スフィアの真正面まで接近した。

 

「……効いてない?」

「いや」

 アンディはスティーブ本人ではなく、その手元を見た。

「杖(・)だ。たぶんな」

 スティーブが持つ黒い杖。先ほどから一度も手放していない。

「否定能力で球にならねぇなら、地震の説明がつかねぇ。なら、あの杖がスフィアの能力を止めてる」

 スフィアが拳を振り下ろした。巨大な球体による物理攻撃。

 銀髪の男は身体を横へ倒し、杖を路面へ滑らせるようにして拳を躱す。直撃した道路が大きく陥没した。

 

「……防げるなら、避ける必要ないよね」

「ああ。スフィアの『球にする』って理(ルール)は効かねぇ。でも、腕で殴られるのは普通に避けてる」

 つまり、スフィアに対して無敵になる杖ではない。少なくとも、物(・)理(・)的(・)に(・)飛(・)ん(・)で(・)く(・)る(・)も(・)の(・)を無効化する力ではない。

 その証拠に、球体化した自動車が坂を転がりスティーブへ迫ると、彼はわざわざ杖を突いてその軌道から飛び退いた。自動車はスフィアによって球へ変えられたものだ。だが一度球になった後、それが重力に従って坂を下る現象は単なる物理法則でしかない。

「理(ルール)そのものだけ……?」

 

 スティーブは黒い杖を片手に、スフィアへ接近戦を挑んでいく。能力範囲を無視できるだけでも、その効果は強烈だった。本来ならば近づいた時点で人体が潰れる相手に対し、杖を用いた格闘戦が成立する。

 しかし、近づけることと倒せることは別問題だ。杖がスフィアの肩へ叩き込まれ、ガン、と硬い音が響く。球体が少し動くだけ。

「普通に殴ると大したことねぇな」

「そりゃ人間だもん」

 そこでスティーブの右足が地面についた。両方の靴底が、同時にアスファルトへ触れる。

 

 ドンッッッッ!!!!

 

 道路が跳ね上がった。局地的な地震。隆起したアスファルトがスフィアの足元を下から突き上げ、巨体が空中へ投げ出される。

「やっぱり!!」

 地震そのものを発生させている。ここまでは間違いない。だが、何(・)を(・)否(・)定(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)は依然として分からない。

「両足が条件?」

「っぽいな。だから片足で動いてんだろ」

 スティーブはすぐ右足を浮かせ、杖へ体重を預けた。先ほどからずっとそうだ。歩く時も、戦う時も、意図して片足しか地面へつけない。

「強制発動型……」

 風子には、それが何を意味するかよく分かる。本人が望んでいるかどうかとは無関係に、条件を満たせば能力が出る。彼女の不運も同じだ。

 ならば、この男にとって「両足で立つ」という人間なら何万回と繰り返す動作は、そのまま地震の発動条件になっている可能性が高い。

 

 だけれど。

 (明らかに否定者同士の戦闘に慣れてない!!)

 高速で移動する銀髪の男は、強大な脅威であるUMAに対してヒット&アウェイを成立させている。高速で移動する明らかに不死身の異様なマッチョに対してもそうだ。

 だが、出雲風子を脅威どころか戦闘員とすら見做していない。否定能力の強さは本体の性能に依存せず、それでいてスフィアの討伐を選択した以上は敵対者には変わりがないのに。

 

 だから、これも容易だった。脅威としてみなされていないから、意識すらされていないから。自分の方に飛んでくる。目はUMAと不死から離さず、だから風子のことは全く意識もせず。

 

 最強の否定者が敵に回る。それは、いつのまにか手袋を脱いでいた。飛んでくる後頭部を、支えるように触れる。脅威と思われてすらいないなら、さも味方であるかのように。

 

 素肌同士が、直接重なった。

「来るよ!!不運が!!」

 

 出雲風子の否定能力は不運(UNLUCK)。自身の体表面に直接接触した相手に対し、不運が訪れる。不運の出力は風子から対象者への好感度と接触範囲・接触時間に比例する。

 今回のケースにおいて、接触時間は比較的長めの2秒。どことなく大御所の俳優を思わせる声や渋い顔、そしてなにやら事情のありそうな雰囲気、邪悪や外道の類ではなさそうなことから、敵対していても好感度はそこそこ高め。風子は基本的にちょろいのだ。

 

 そして最後に。

 不運(UNLUCK)は、出力にムラこそあれど、理論上最大火力においては「最強」の否定能力である。

 

 

 一秒、二秒、三秒。

 

 

 不運が、来ない。

 

 

「……え?」

 アンディも気づいた。

「お前今、触ったよな」

「うん」

「不運は?」

「来ない」

 

 二人の視線が、同時に黒い杖へ向いた。UMAの理(ルール)だけではない。否定能力も、所有者本人へ及ぼうとする超常の理(ルール)そのものが、拒絶されている。

「なるほどな」

 アンディが笑った。

「それ、相当ヤベぇ杖だな。まさかこれが『アンサー』か?」

「『アンセム』だ」

「アンセム?」

「古代遺物(アーティファクト)、アンセム」

 風子はその名を覚える。スフィアの球状化を拒む。不運をも弾く。しかし、飛んでくる瓦礫は止めない。

 ならば効果はほぼ絞れる。所(・)有(・)者(・)自(・)身(・)へ(・)適(・)用(・)さ(・)れ(・)る(・)|(・)理(・)《(・)ル(・)ー(・)ル(・)》(・)の(・)拒(・)絶(・)。細かいところを言うならば、それ以上の条件もあるだろう。時間制限や拒絶できる範囲、出力の上限など、古代遺物(アーティファクト)には無数の要素がある。

 ただし、スティーブ本人はそれ以上説明する気がないらしい。

 

「邪魔だ。お前も否定者か。接触が条件と解れば、油断はしない。」

 スティーブが杖を路面へ突き立てる。右足が地面へ、左足も。地震。だが今度は、広く揺れなかった。

 十数m先、風子たちの足元だけが激震する。

「うわっ!?」

 アスファルトが捲れ上がった。まるで巨大な絨毯を下から一気に振り上げたように、舗装そのものが斜めに隆起し、風子へ倒れ込んでくる。

「遠距離でも使えんのか!!」

 アンディが風子を抱えて跳ぶ。

 地面を広範囲に揺らすだけではなく、発生位置と方向をかなり細かく制御できる。自身が揺れていることには変わりがないものの、震源を点ではなく線状に設定できている。局地的な震動によって路面を捲り、それそのものを即席の壁や飛び道具として使える。

 

「やっぱアレ、不均衡じゃない!!」

 空中で風子が叫ぶ。

「ああ!! 傾けてんじゃねぇ!!」

 アンディは空を蹴るように身体を動かし、捲れた道路の上を越える。彼には地面へ立ち続ける必要がない。

 それゆえ、この時点ではまだ気づかなかった。

 

「きゃあああっ!!」

 悲鳴。崩れたビルの窓に、一人の少女がいる。

「人!?」

 風子が目を見開く。

 本来ならば避難済みの立入禁止区域だ。それでも少女は三階に取り残され、スフィアの能力によって柱の一部が球状化し始めている。建物が傾いた。

「まずい!!」

 風子とアンディが動く。それよりも先にスティーブが走った。アンセムを持つ彼だけは、スフィアの能力範囲を一直線に進める。

「伏せろ!!」

 少女を窓際から突き飛ばした直後、天井が崩落する。球状化そのものは防げる。だが、落下するコンクリートまでは止められない。

 スティーブが右足を床へつける。両方の靴底が床へ触れる。

 

 ドンッ!!

 建物が激震し、落ちてきた天井が横へ弾き飛ばされた。

「今のうちだ!!」

 少女が走る。風子が途中で合流し、服を掴んで引き寄せた。

「こっち!!」

 アンディが二人をまとめて抱え、崩壊するビルから飛び出す。スティーブも杖を支えに跳んだ。

 数秒後、背後で建物が完全に潰れた。

 

「大丈夫!?」

「は、はい……」

 少女の怪我は、頬の擦り傷程度だった。

「なんでこんな所にいたの!?」

「人を、探してて……」

「人?」

「はい」

 少女が街の奥を見る。その視線が一瞬、スティーブを通る。スティーブも一度だけ視線を返したが、粉塵の中で距離もある。互いに何も言わない。

「名前は?」

「リムです。リム」

「私は風子。こっちがアンディ」

「よっ」

「ここ危ないから、絶対私たちから離れないでね」

「でも、探してる人が」

「死んだら探せないでしょ!」

「……はい」

 リムが渋々頷いた。

 

 その間にスフィアが逃げる。

「チッ」

 スティーブが追おうとし、アンディも続く。

「待て!!」

 風子はリムを連れて走った。

 スフィアがブロードウェイへ飛び出す。球体になった何十台もの自動車が坂道を転がり、互いに衝突しながら進路を変えている。

 スティーブはアンセムで理(ルール)の適用だけを拒絶し、物理的な球は自力で回避しながら接近する。スフィアの拳を杖で逸らし、その反動で身体が浮く。

 

「今だ!!」

 アンディが空中へ追った。

「地面から離れた!!『揺らす』ので移動するならまあそれが一番速いが!!両足つけられねぇなら地震も出せねぇだろ!!」

 

 空中戦は、アンディの得意分野だ。再生には爆発的な出血が伴い、ジェット噴射の要領で3次元的な戦闘を可能とする。

 スティーブの右足がアンディへ向く。

「そんな普通の蹴り──」

 スティーブの左手が、杖の持ち手を回した。アンセムの上端、曲がった持ち手。それを浮いている左(・)足(・)の(・)裏(・)へ(・)引(・)っ(・)掛(・)け(・)た(・)。

「……は?」

 左足の裏にアンセム。右足の裏にアンディの胸。

 両足が固体へ触れた。

 地面など、必要なかった。

「お前──」

 右脚が振り抜かれる。

 

 バギィィィィィィィィィン!!!!!!

 

 大気に罅が入った。そう見えた。

 アンディを中心として空気が白く割れ、蜘蛛の巣のような衝撃波が一瞬だけ空中へ刻まれる。その中心にいた人間は消えた。

「……アンディ?」

 肉体は残らない。骨も、臓器も、原型も何もない。一瞬だけ赤い血煙が生まれ、それすら後から追いついた衝撃波に吹き飛ばされた。

「アンディィィィィィィ!!?」

 風子が叫ぶ。当然、死んではいない。死ねない。だが、不(・)死(・)で(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)一撃。

 スティーブは空中でアンセムを離し、落下しながら杖を掴み直した。そのままスフィアの巨体へ右足を向け、左足の裏にはもう一度杖の湾曲部を掛ける。

「まさか、待って!!」

 風子が顔色を変える。

「それスフィアに撃ったら──!!」

 捕獲対象。殺せば地球が平面になる。止める暇はない。

 右足がスフィアの胴体へ触れた。

 

 同じ衝撃が走り、轟音が響く。巨体の中央部を構成していた無数の球が、まとめて空の彼方へ消し飛んだ。

「そんな!!」

 風子が青ざめる。討伐された。そう思った。

 

 だが、スフィアは落ちない。

「……え?」

 胴体の中央が大きく欠けている。しかし、元からスフィアの肉体は一つの肉塊ではない。大小様々な球の集合体。

 地震級の衝撃を直撃ところで、そこに存在した球が凄まじい勢いで空の彼方へ吹き飛ばされるだけだった。穴が空いたまま、残った球体群が動く。

「生きてる……」

 風子が胸を撫で下ろす。

「よかったぁ……!!」

 捕獲対象を守って安堵する、妙な状況だった。

 

「●●◎● !!」

 スフィアが、おそらく怒った。高位のUMAは言語能力を獲得することが多いが、彼はそうではないらしい。

 周囲一帯の道路が球状化する。さらにスティーブが地面へ着地し、風子の進路へ局地的な震動を叩き込んだ。

「うわっ!?」

 アスファルトが波打つ。一度平衡を崩した足元へ、横方向から別の揺れ。

「待っ……立てない!!」

 風子が転び、起き上がろうとする。また地面が動く。

 アンディならば、空中へ逃げればいい。そもそもアンディは地面へ安定して足を置く必要そのものが薄い。だが、風子は違う。

 二本の脚で地面を踏み、重心を置き、身体を安定させなければ走ることすらできない。

「足場が……安定しない……!!」

 口にして、風子の動きが止まった。

「……安定?」

 

 揺らす。地震。物を吹き飛ばす。

 それらは全部、結果。

 何かが安定している。動かない地面。直立する建物。一つの形を維持する人体と、その内部の細胞や分子の配列。

 その安(・)定(・)を崩したら。

 

「アンディ!!」

 返事はない。まだ再生していない。

「さっきの『不均衡』とは違う!! 傾けてるんじゃない!!」

 風子がスティーブを見る。

「安定を……安(・)定(・)し(・)て(・)い(・)る(・)状(・)態(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)を(・)否(・)定(・)し(・)て(・)る(・)!?」

 スティーブの目が僅かに細くなった。その反応だけで十分だった。

 足の裏が一定以上の固体へ触れる。靴や靴下程度ならば条件を阻害しない。ただし、身体の一部と認識できないものであれば。地面でなくてもいい。壁でも、人体でも、古代遺物(アーティファクト)でも。

 両足が何らかの固体へ接した時点で発動可能。その状態で対象の一つを選び、安定を強制的に失わせる。

 

「当たり、みてぇだな」

 背後から声がした。

「アンディ!!」

 道路へ飛び散った、ごく僅かな肉片。そこから骨が伸び、筋肉が絡みつき、人間の上半身が再生し始めている。

「ったく。空中なら使えねぇと思ったんだけどな」

 アンディは再生途中の顔で笑った。

「杖を足場にするとは予想外だったぜ」

 スティーブは答えない。

「でも分かった」

 アンディが立ち上がる。

「地震を起こす能力じゃねぇ」

 風子も身体を起こす。

「物を揺らす能力でもない」

 スティーブはアンセムを地面へ突き、右足を浮かせる。

「『不均衡』でもない」

 あれは均衡を崩し、傾ける。これは違う。

 安定して存在するものを、安定できなくする。

 

「名前は?」

 アンディが聞いた。

「……」

「ここまでバレてんだ。いいだろ」

 スティーブ・シルバーボードは、少しだけ黙った。

 風子の脳裏に、黙示録(アポカリプス)の言葉が浮かぶ。

『最(・)強(・)の(・)否定者が敵に回る』

 目の前の男がそうなのか。まだ分からない。

 ただ、少なくとも。

 地面へ向ければ地震。人体なら、一撃で血煙。UMA相手なら、その巨体すら空の彼方へ吹き飛ばす。

 そして本人は、その力を出さないためだけに杖をつき、片足で生きている。

 両の足で立つことを神に禁止された男。

 スティーブが口を開いた。

 

 

 

UNSTABLE/不安定

 

 

 

 

 

 




AI使用知見①:学習元データは50000字程度あるとよい。
学習元は二次創作よりも一次創作の方が文体模倣の精度が高まる。固有名詞の排除はできるが、メタ発言の排除がしづらいようだ。
文字数だけでなく作品数が多いことも重要であるようで、とくに短編のワンドロあたりを読ませると「オチ」までの文章のクセがわかりやすく、精度が上がる。

いわゆる文体のみでなく、自分の書きそうなシナリオまである程度考えてくれる(1話のスフィア戦はキャラ設定と「ここで戦う」くらいしか指定をかけていない)。逆に、好みのシナリオがあればプロンプト段階で指定をかければ、興味のないところだけ補完してなんとかしてくれる。
課金したChatGPTPlus(月額3000円・思考精度設定「強」)を使用しており、どうやらそれ以上の文量の学習元手も処理できるようだが、Geminiだと5000字程度しか処理できず精度も不足した。ChatGPTPro(月額20000円)であれば思考精度を「極高」にできるので、資金があるならおそらくその方が良い。
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