魔法少女まどマ☆キング   作:近藤大地

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はじめまして、ご覧いただきありがとうございます。

人生で初めて二次創作、そして小説というものを書いてみました。

『魔法少女まどか☆マギカ』の世界に、もし『ワンパンマン』のキングが迷い込んだら……という世界観の全12話勘違い救済コメディです。

初めての執筆で至らない点もあるかと思いますが、構成、執筆はすでに最後まで完成していますので、安心して読み進めていただければ幸いです。

本日は19:00に第1話〜第3話まで一挙公開いたします!6話以降は、毎週金曜日の19:00に週一更新で完結までお届けする予定です。なお、今作はハーメルン、pixiv、noteの3つのプラットフォームで公開しています。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです!


魔法少女まどマ☆キング 第1話

 

 

 

──見滝原の化物──

 

 

 

 それは、突如姿を現し、見滝原の年頃の少女のみならず、見滝原市の老若男女が一度は耳にした怪談話である。

 

 地鳴りと共に姿を現し、背丈は高く、顔は炯々とし、左目にに三本の傷跡を持つ。

 

 いかなる公的記録にもその名が存在せず、あらゆる追跡をすり抜ける世界のイレギュラー。

 

 化物が姿を現すと、人々は陰に隠れ、怪物すらも『地鳴りのような心音』に恐れおののく。化物は自らの居場所を求め、ひたすらに彷徨い続けているという噂である……。

 

 

 

 

 

 見滝原市の朝は、いつもと変わらない穏やかな光に満ちていた。 どこか近未来を思わせる洗練された街並み、その通学路を、三人の女子中学生が並んで歩いている。鹿目まどか、美樹さやか、そして志筑仁美。いつもの他愛のないお喋りに花を咲かせながら、彼女たちは軽やかな足取りで坂道を登っていた。

 

 

「へぇー。まどかの家のお隣、新しい人が引っ越してきたの?」

 

 

「うん。何週間か前かな? 挨拶に来てくれた時は留守だったんだけど、ママが『すごく背が高くて、物静かそうなお兄さんだった』って言ってたんだよ。」

 

 

 まどかはリボンを揺らしながら、のんびりとした調子で微笑む。

 

 

「そっか。まぁ、まどかのご近所さんなら、きっと良い人──」

 

 さやかが言葉を続けようとした、まさにそのときだった。

 

 前方の角から、一人の大男が姿を現した。

 

「ひっ……!?」

 

 仁美が短い悲鳴を上げ、上品な両手で即座に口を塞いだ。

 

 さやかもまた、身体を硬直させ、反射的にまどかの前に片腕を出して庇うような姿勢を取る。通学路を行き交う大勢の生徒たちの足が、目に見えてピタリと止まり、周囲の喧騒が一瞬で静まり返った。

 

 

 ……そこにいたのは、あまりにも異質な『威圧感』を放つ男だった。

 

 身長は二メートル近い。白のパーカーを風になびかせ、容貌は彫刻のように深く、そして凶悪に刻まれた強面。極め付けは、その左目に縦に走る『三本の生々しい傷跡』だった。

 

 

 男は周囲を鋭い眼光でキョロキョロと睨みつけながら、ドスドスと重い足音を立ててこちらへ向かって歩いてくる。その一歩一歩が、まるで地面を鳴らす地響きのようだった。

 

 

(な、なんなんだよあの男……!? 完全にカタギのツラじゃない……! 目のあの傷、猛獣にでも引き裂かれたのか!? なんであんなヤバい奴が、こんな通学路を我が物顔で歩いてるんだよ……!)

 

 

(お、お恐ろしいですわ……。あの眼光、まるで獲物を品定めする肉食獣のそれですわ。目を合わせたら、その瞬間に魂まで喰い殺されてしまいます……!)

 

 二人が戦慄し、冷や汗を流して一歩も動けずにいる中、その男の脳内は別の意味で限界を迎えていた。

 

 

(ひえええぇぇ!! 人がめちゃくちゃいる! 学生がいっぱいいる!! なんでみんな俺のことを見てピタリと動きを止めてるの!? 怖い! 視線が痛い!!……あ、俺のこのツラのせいだ! いつも通り周囲を怯えさせてんのか!

 

クソ、早く通り過ぎて家に帰りたい! ていうかなんで家出たら全く違う街並みになってんだよ!!ヒーローも怪人も全くいないし、ヒーロー協会について尋ねたら不審者扱いされたし、そもそも近くにこんな建物あったか??とにかく頼むから誰も俺に話しかけないでくれよぉぉ!!)

 

 

 

 男は極限の焦りと恐怖を隠すため、腕を組み、さらに顔を引き攣らせて歩を進める。それが周囲には『周囲の生物など塵芥に等しい、最強の王の歩行』にしか見えなかった。 その時、完全に凍りついた空気を切り裂き、澄んだ声が響いた。

 

 

 

「あ、キングさん! おはようございます!」

 

 

「ま、まどかぁぁぁ!!??」

 

 

 さやかが裏返った悲鳴を上げる。

 

 

 まどかはさやかの制止をすり抜け、タタタッと軽い足取りでキングの前まで進むと、屈託のない満面の笑みでペコリと頭を下げた。キングは驚きで一瞬だけ目がさらに鋭くなり、地獄の底から響くような低いドスの利いた声であいさつに応える。

 

「……ああ。鹿目さん。……おはよう」

 

(まどか氏ィィィ!!おはよう! 挨拶してくれてありがとう! でも君の連れの中学生二人が、俺のことを完全に『指名手配中の凶悪犯』を見るような目で睨んでガタガタ震えてるから、早く俺をここから解放させてくれぇぇぇ!!)

 

 

「キングさん、今日もお散歩ですか? 最近お引越ししてきたばかりだから、まだ見滝原の道、慣れないですよね。困ったことがあったら、いつでもわたしに言ってくださいね!」

 

 

「……ふん。いや、問題ない。俺の画面の範囲は、すべて把握している。」

 

 

 キングは異なる世界に迷い込んでいても、スマホのマップにより、自宅周辺のコンビニの場所を把握していた。

 

 

「ふふ、さすがキングさんですね! …あ、もうすぐ予鈴が鳴っちゃう。それじゃあ、またね、キングさん!」

 

 

「……ああ。気をつけてな、鹿目さん」

 

 

 キングは彫刻のような強面のまま、コクリと厳かに一度だけ頷くと、そのまま無言で、圧倒的な覇気を背中に纏いながら足早に去っていった。

 

 

「はーっ……! はーっ……! し、死ぬかと思った……!!」

 

 

 キングの背中が見えなくなった瞬間、さやかはその場に膝から崩れ落ち、激しく息を吐き出した。隣の仁美も、お嬢様としての品格を忘れて、歩道橋の隅にへたり込んでいる。

 

 

「ま、まどか……あんた正気!? なんであんな、歩く国家機密みたいなヤバいオヤジと知り合いなんだよ!?」

 

 

「え? あ、キングさん? うん、この間お引越ししてきたお隣さんだよ。ちょっと怖そうな人だけど、わたしが落としたお財布、わざわざ拾って届けてくれたんだよ? すっごく優しい人なんだよ。」

 

 

 

 歩道橋で身震いしながら仁美が反論する。

 

「ま、まどかさん……それは『優しい』のではありませんわ。あの男の放つ空気……あれは、数多の修羅場を潜り抜けてきた、本物の『怪物のそれ』ですわ……。お財布を届けたのも、きっと何かの隠語(メッセージ)に違いありませんわ……!」

 

 

「そうだよまどか! あいつ、『俺の画面の範囲はすべて把握している』って言っただろ!? それって、この街全体や、アタシたちの動きのすべてを、手のひらの上でコントロールしてるって意味じゃねえか……!!」

 

 

「えぇ? そんな大袈裟なことじゃないと思うんだけどなぁ……。あ、本当にチャイム鳴っちゃうよ! 急ごう、さやかちゃん、仁美ちゃん!」

 

 

「あ、ちょっと待ってよまどかーっ!!」

 

 

 まどかは二人の手を引いて、楽しそうに走り出す。

 

 まどかの純粋さに呆れるさやかたちだったが、彼女たちの胸に刻まれた『キング』という男への絶対的な恐怖と畏怖は、消えるどころか、さらに深く刻み込まれるのだった。

 

 

 

 

 

「……女子のみなさんは!くれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!!そして男子のみなさんは、絶対にたまごの焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!そして、猛獣のような顔で通学路をうろつきまわる不審者にはならないように!!」

 

 

 

 先生からの連絡が終わり、まどかのクラスでは転校生が紹介された。

 

 

 転校生『暁美ほむら』は、黒髪をなびかせ、モデルのように整った容姿。しかし、その瞳には中学生のものとは思えない、凍りつくような冷徹さが宿っている。

 

 

 ほむらは教壇の上から、冷めた視線で教室を見渡した。

 

 

(鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ……。この時間軸における主要な魔法少女たちの配置は確認済み。ここまではいつもの手順通り……)

 

 

 ほむらの脳内にあるデータベースには、見滝原中学校の生徒はおろか、この街に住むあらゆる人間の情報、戸籍、魔力特性が完全にインプットされている。何百回もの時間遡行の果てに手に入れた、彼女だけの完璧な『攻略本』だった。

 

 

 

 しかし、黒板に自分の名前を書き終えたほむらの指先が、一瞬だけピクリと止まった。

 

 

 

(……問題は、今朝の通学路ね。)

 

 

 彼女の脳裏に、今朝すれ違ったあの白パーカーの巨漢──キングの姿がフラッシュバックする。あの悍ましいまでの眼光。大気を震わせる地鳴りのような足音。

 

 

(見滝原の化物の噂……。ただの都市伝説だと思っていたけれど、あれは本物だわ。それどころか、私の知るどの記録にも、あんな『化物』のデータは存在しない……。)

 

 

 ほむらは、男の正体を探るため、戸籍や住民票、過去の経歴等を詮索したが、関連する情報も一切見当たらなかった。文字通りの、この世界に突如として出現した正体不明のイレギュラーである。

 

 

 もしあの男が、インキュベーターの仕掛けた新たな罠だとしたら。あるいは、ワルプルギスの夜をも上回る、世界そのものを崩壊させる超高次元の怪異だとしたら──。

 

 

 

(……猶予はないわ。まどかに接触される前に、あの男の正体を暴き、排除しなければ……!)

 

 

 

「──暁美さん? 暁美さん、おーい?」

 

 

 和子先生の声で、ほむらはハッと我に返る。

 

 

「……すみません。少し、体調が優れないので。保健室へ行ってもよろしいでしょうか」

 

 

「え、ええ。もちろんよ。鹿目さん、ちょっと案内してあげて」

 

 和子先生に促され、まどかが「はーい!」と席を立つ。

 

 

 その純粋無垢な姿を見つめながら、ほむらは胸の内で、見えない『バグ(キング)』に対する警戒の炎をさらに燃え上がらせるのだった。

 

 

 

 

  まどかはほむらを連れて保健室へと向かっていた。

 

 

 白く静かな廊下。二人の足音だけが響く中、ほむらは不意に足を止め、まどかを振り返った。

 

 

「鹿目まどか。あなた、自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を、大切にしている?」

 

 

「え……? うん、とっても。わたし、みんなが大好きだよ。」

 

 

 まどかは突然の質問に戸惑いながらも、真っ直ぐに答える。

 

 

 その純粋な瞳を見つめながら、ほむらの胸の内の警戒はさらに冷たく、鋭さを増していった。

 

 

「なら、これ以上、不条理なものに関わろうとしてはダメ。……あなたのすぐ隣にある、世界のシステムを容易く踏み躙るような『規格外の怪異』に、絶対に近づいてはならないわ…!」

 

 

 ほむらが浮かべているのは、まどかの家の隣に引っ越してきたという、あの公的記録が一切白紙の化物──キングの姿だった。

 

 

 今朝、まどかがあの男に親しげに挨拶していた光景が、ほむらには『無垢な少女が、世界を滅ぼしかねないバグの深淵に自ら飛び込もうとしている』ようにしか見えなかったのだ。

 

 

「もし警告を無視すれば、あなたは全てを失うことになる。……大人しく、今までの『日常の仕様』に従っていなさい。」

 

 

 それだけを冷たく言い残し、ほむらは一人で保健室のドアを開けて入っていった。

 

 

「不条理なもの……? 隣の、怪異……? ええっと……もしかして、キングさんのこと……?」

 

 

残されたまどかは、首を傾げた。

 

 

(確かにキングさん、ちょっと背が高くて怖い顔してるけど……そんな怪異だなんて、転校生ちゃん、大袈裟だなぁ……)

 

 

 まどかは、ほむらの「命懸けの世界線レベルの警告」を、ただの「引っ越してきたばかりの強面のおじさんへの偏見」だと純粋に受け取り、そのまま教室への道を歩き出すのだった。

 

 

 

 放課後の見滝原市。夕暮れのグラウンドを、不気味なほどの静寂が包んでいた。

 

 まどかとさやかが、謎の生物『キュゥべえ』を救うためにビルの立ち入り禁止区域へと足を踏み入れたその頃、キングは同じビルの1階にあるゲームショップで、ようやく手に入れたゲームソフトを胸に抱き、深い安堵の溜息をついていた。

 

 

(ふぅ……危ねえ。限定版の最後の1本、なんとか買えたぞ。これで帰って今日の限定イベントのミッションをこなせば、完璧なスケジュールでログインボーナスが回収できる……! よし、早くマンションに帰ってドキサバ(『ときめきサマーズバケーション』の略)を起動するぞ!……っていうかなんでこの世界にドキサバがあるんだ?)

 

 

 

  キングが階段を駆け上がろうとした瞬間、グニャリ、と世界が歪んだ。

 

 

  ビルの壁が、空間が、水面に落とした一滴のインクのように不気味な色彩を帯びて反転していく。お菓子の家のような、しかし退廃的で狂気に満ちた異空間──『魔女の結界』へと、キングはまどか、さやかと共に引きずり込まれてしまったのだ。

 

 

(…な、何これ…!街が、消えちゃった……!?)

 

 

 

 その空間は、狂気と悪趣味な色彩に満ちていた。グニャリと反転した世界。壁一面に広がるおぞましいスケッチのような模様。そして、天井から吊り下げられた無数のハサミが、生き物のようにカチカチと不気味な音を立てて蠢いている。

 

 

 まどかの隣では、さやかが怯えながらも必死に虚勢を張っている。周囲では、ハサミを持った奇妙な使い魔たちが、歓迎のダンスを踊るようにカチカチと音を立てて迫ってきていた。

 

 

 

(は?? なにこれ?? 階段を登ったら一瞬でお化け屋敷みたいな空間になったぞ……!?もしかして怪人…!?)

 

 

 

「……あれ?キングさん…?」

 

 

(うわっ…!あの時のヤバいオヤジ…!)

 

 

(……いや待て、あの飛び交うハサミ、あの奇妙なバケモノのグラフィック。これはあれだ。最近流行りのプロジェクションマッピングとか、最新のAR(拡張現実)技術を使って一般人を巻き込んだゲリラパフォーマンスだろ?

 

なるほど、これは最近の過激な『痛いコスプレ集団』のフラッシュモブか! 最近の若者の趣味は本当に理解できないなぁ。でもこのままだと演出の邪魔になるし、俺は早く退散しないと……!)

 

 

 冷汗が背中を伝う。だが、キングの顔面は、その気まずさと緊張のあまり彫刻のように固まり、誰もが平伏すような凄まじい威圧感の仁王立ちとなっていた。

 

 そこへ、空間を割って、鮮やかな光の粒子が舞い降り、周辺の使い魔が消失する。

 

 

「……危なかったわね。でももう大丈夫。」

 

 

 金髪の少女──巴マミが姿を現した。

 

 

(大丈夫なのか。じゃあ帰ろう…。)

 

 

 キングは足を動かそうと試みたが、想像以上のリアリティーの高さと、怪人を彷彿とさせるビジュアルに怖気付き、その場から一歩も動くことができなかった。

 

 

「自己紹介しないとね。でもその前に…一仕事、片付けちゃってもいいかしら?」

 

 

 マミは、華麗な新体操のような軌跡を描きながら、瞬く間に気高き戦闘ドレスへと変身を遂げていた。

 

 

(え?あの金髪の子、 急に光ったと思ったら、コスプレ衣装に変身したぞ!?撮影だと思ってたらヤバい奴らだったァァ!!ARなのに殺される!!流れ弾で俺の命が1秒で消し炭になるぅぅ!!

 

……でもビビってたら、インタビューであの金髪の子に『ものすごい心臓の音が聞こえてましたけど大丈夫でしたか?(笑)』って絶対バカにされる!!これはヒーローショーのARだぞ!!早く落ち着け俺の心臓ォォォ!!)

 

 

 

 しかし、落ち着こうと思えば思うほど、余計に緊張してしまうのが人間の性というもの。キングの思いとは裏腹にその鼓動は段々と威圧を強めていた。

 

 最新のAR演出でありながら、その桁違いの完成度とリアリティーから反射的に恐怖を察知したキング。

 

 

 マミが優雅にスカートを翻し、虚空から無数のマスケット銃を展開しようとした──次の瞬間、その極限の恐怖と生存本能の暴走が、彼の身体の奥底にある『重低音』を点火させた。

 

 

《──ドッ。》 

 

 

空間が、微かに震えた。

 

 

《──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……!!》

 

 それは心臓の鼓動などという生易しいものではなかった。廃ビル全体の鉄骨をきしませ、大気をびりびりと震わせる、重低音の地鳴り。

 

 彼の世界では、この鼓動を聴いた者は生きて帰ることはできない。数多の怪人を恐怖に貶め、またある怪人はその鼓動だけで消滅し、また複数の都市を壊滅する力のある怪人集団さえも翻弄させてきた。

 

 

 

 地上最強の男の戦闘態勢。勧善懲悪の象徴、ヒーローの王として崇める民衆からこう呼ばれている。

 

 

 

【──キングエンジン──】

 

 

 

 戦場に突如として鳴り響いた圧倒的な質量のプレッシャーに、襲いかかろうとしていた魔女、その使い魔たちが、一瞬で「ヒィッ!?」と短い悲鳴を上げた。

 

 キングが放つ、世界をへし折るような凄まじい眼光と、大気を爆裂させるかのような音の壁。魔女たちはその絶対的な殺気に耐えきれず、マミが銃のトリガーを引くよりも早く、魔女はすぐさまその場から逃走し、使い魔たちは内側から弾けるように次々と霧となって霧散──『自然消滅』していった。

 

 

「え…………?」

 

 

 マミはマスケット銃を召喚させたまま、先ほどまで確かに存在していた魔女の方角を見ながら立ち尽くしていた。

 

 

 

 自分がトリガーを引く暇すらなく、ただ腕を組んで仁王立ちしている大男の『心音』だけで、魔女の結界が文字通り排斥されていく。

 

 

(そんな……。私が変身した瞬間に、戦闘の機を制してしまわれた……。心臓の鼓動だけで敵を消し去ったというの……!?)

 

 

 

 結界がパッと解け、元の薄暗いビルの廃墟に戻る。と同時に、空間すらもねじ伏せる鼓動も、結界の収束につられて少しずつ収まっていった。

 

 

 キングはARの映画かドラマの撮影が終了したことを確信し、恐怖で腰が抜けそうな足を必死に突っ張りながら、腕を組んで直立不動のポーズを崩さないまま、ドスの利いた低い声で呟いた。

 

 

「……俺は先に帰らせてもらう。」

 

(よかったァァ…!なんとか終わってくれた…!遠くから監督とか出てきて怒られるかもしれないから早く帰ろう……)

 

 

 

 キングはそれだけ言い残すと、無言で、しかし圧倒的な覇気を背中に纏い、もつれそうな足を必死にコントロールしながら足早に立ち去っていった。

 

(もしかして…あの方が見滝原の化物……?なんて威圧感なの…!)

 

 

 マミはその背中に向かって、恭しく頭を下げた。

 

 

「助けていただき、ありがとうございました…。」

 

 

 

(……なんなのあの男…!?一歩も動かずに魔女を撃退した…?)

 

 

 魔女の戦いを遠くから見ていたほむらには、魔法少女でもない、ただの一般人相手に使い魔が消滅し、魔女が逃げ出したことが信じられなかった。

 

 

 マミが変身したことで魔女が逃げる可能性は確かにあるかも知れない。だが、魔法少女が何も手を出さずに使い魔が消滅するという事例は、ほむらの記憶のどこにもない。それもただの一般人がである。

 

 なにより、あの男の心音は、魔法少女はおろか、魔女の嬌声さえもかき消されるほどの重圧感とプレッシャーが本能の隅々にまで響きわたっていた。

 

 

 

(こんなこと今までに無かった…どの因果にも存在しなかったイレギュラーだわ…。もしまどかに害をなす存在なら…)

 

 

 

 ほむらはまどかたちの前に再び姿を現した。だが、ほむらの視界の中心には、白い小さな生き物を抱えるまどかやマミ達の姿ではなく、もつれそうな足を必死にコントロールしながら、ドキサバ限定版を腕組みの中で必死に抱え、威厳に満ちた歩幅で非常階段へ向かうキングへと集中していた。

 

 

 

「……魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる。」

 

 

 

「…?私が用があるのは──」

 

 

 

「飲み込みが悪いわね。見逃してあげるって言ってるの。」

 

 

「………」

 

 

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

 

 

 マミがそう言い放った瞬間、ほむらの姿は視界から消失していた。

 

 

 

 マミがキュゥべえの手当てをしていたころ。

 

 2つの災いが同時に去ったものの、さやかの内面には、安堵を遥かに上回る強烈な鼓動だけが、脳裏に響いていた。

 

 

 

「ま、まどか……あの人、やっぱり本物の化け物だよ……。心臓の音だけでバケモノを消し去るなんて、そんなの、あり得ないよ……!」

 

 

「そうかな…?でもやっぱり、わたしたちを助けてくれた。キングさん、やっぱりすっごく優しい人なんだよ!」

 

 

「……ものすごくオーラのある方だったわね。あなた(まどか)のお知り合いかしら?」

 

 

「はい…!キングさんっていう方で、家の近所に住んでる人なんです。最初は怖そうな人だったけど、ゲームがすごくうまくて、一緒に手伝ってくれる優しい人なんです。」

 

 

 

 キュゥべえは手当てを受けながら、あの男について考えていた。

 

 

(………さっきの男は何だったんだ…?ぼくの思考回路が反射的に『逃げろ』と警告していた。………まぁいいか。それよりも……)

 

 

「ありがとうマミ!助かったよ!」

 

 

 

「お礼はこの子たちに。わたしはただ、通りかかっただけだから…。」

 

 

 

「ぼくの名前はキュゥべえ!ぼくは、君たちにお願いがあって来たんだ。」

 

 

「お、お願い…?」

 

 

「ぼくと契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

一方、その頃──

 

 

(良かった…誰も追ってこない。)

 

 キングが重い足取りで薄暗い階段に足をかけた、まさにその時だった。 カチ、と世界の秒針が止まったような錯覚。 キングの背後に、気配もなく、まるで影から染み出すようにして一人の少女が姿を現した。

 

 

 

 長い黒髪をなびかせ、冷徹な瞳をした少女。暁美ほむらだった。

 

 

 

魔法少女まどマ☆キング第1話 完

 




第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

ARフラッシュモブだと盛大に勘違いしているキングですが、ラストでついにほむらとの接触を迎えてしまいました。

第2話と第3話も同時に公開されています!第3話では、原作ファンの皆様にとって最大のトラウマである「あのイベント」にキングが立会います。ぜひこのまま一気にお楽しみください!
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