キングがようやく彼女らに自分の正体を打ち明ける展開です。それに対して彼女らがどう反応するか、ぜひご覧ください!
【最後に残った道標】
「ええ……。あなたを、因果を操る『グランドマスター』と見込んでお願いするわ。まどかを魔法少女にさせないでほしいの……!」
(グラ………え? グランドマスターって何だよ!! 格ゲーの最高ランクの称号をなんでリアルで呼ばれてんだ!?)
キングの脳内はパニックに陥っていた。しかし、極限の恐怖と困惑により、彼の顔面は冷徹な彫刻のように完全にフリーズし、腕を組んだまま、じっとほむらを見据える。
《ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……》
静寂の部屋に、威圧的な重低音が響き始める。
(… 私がまどかの運命を単刀直入に切り出したことで、キングの盤面(ゲーム)に余計なノイズを与えてしまったかしら……。この心臓の鼓動は、私の『甘え』に対する警告…!)
「……何を言っている。鹿目さんが魔法少女になるかならないかなんて、そんなの……」
(そんなの俺が決められるわけないだろ!契約の決定権はまどか氏とインキュベーターにあるんだから、一般人の俺に言われても困るわ!!)
という本音を口にしようとしたが、喉が引きつって後半の言葉が歪んでしまう。
「……ただの『初期設定(運命)』だろう。プレイヤー本人の意志を無視して、外野の俺が勝手にキャラの選択肢(ルート)をロックできるわけがない」
「……やはり、そうなのね。この世界の仕様上、因果の中心にいるまどかの『選択の自由』そのものを、システム側から強制的に剥奪することは、あなたほどの絶対者であっても『ルール違反』になる…。」
(ただの一般人だから介入できないって意味なんだけど!? なんでそんな高度なシステム論みたいに解釈されてんだよ!?)
胃を雑巾のように絞られるような痛みに、キングはフッと目を細め、深くため息をついた。
「……だがな、暁美さん。君がそこまでその『データ(まどかの未来)』を守りたいってんなら、俺に頼るんじゃなくて、君自身が『
(俺はただの居留守を使いたいニートだ。これ以上、中学生の修羅場に巻き込まないでくれ……!)
キングの切実な現実逃避は、ループの孤独に擦り切れていたほむらにとって、それは『絶対者からの、最大の激励』に他ならなかった。
(……そうよ。キングは『俺が代わりにしてやる』なんて安易な救済はしない。心が折れない限り、このループはまだ終わっていないと、私に戦う覚悟を求めているんだわ……!)
ほむらの瞳から冷徹な迷いが消え、狂信的なまでの決意の光が宿る。
「分かったわキング。あなたの用意した完璧なタイムラインの上で、私は私の役割を全うしてみせる。……ワルプルギスの夜の配置、すべて頭に叩き込んで臨むわ。」
(ワルプルギス……? なんだその中二病全開の裏ボスみたいな名前は……。アプデで追加されるレイドボスか何かの話か……?)
「……貴重な戦術指南、感謝するわ。積もる話は、決戦前夜にね。」
(……………)
カチッ、という音と共に、ほむらの姿が再びかき消える。部屋には、ただ冷や汗でびしょ濡れになった大人のニートが、静かに携帯胃腸薬の袋を破る音だけが響いた。
見滝原の夜を、不気味な暴風雨の予兆が揺らしていた。明日、この街に史上最悪の災厄『ワルプルギスの夜』が到来する。
家賃6万4000円のキングの部屋には、まどかに加え、戦いを明日に控えたマミ、さやか、杏子、ほむらの四人が、静かに覚悟を決めた顔で集まっていた。
しかし、さやかは『再びあの姿』になるのではないかとの心配から、参戦する意向を表明することはできなかった。
「みんな、ごめん……。わたし、まだ自分の力を完璧にコントロールできる自信がないんだ。また戦場で足手まといになって、みんなを巻き込むのが怖い。だから今回は……前線には行けない…。」
静まり返る部屋の中で、マミはそっと紅茶のカップをソーサーに置いた。その表情は悲痛なものではなく、どこか慈愛に満ちた、本当のお姉さんのものだった。
「いいのよ、美樹さん。……よく、自分でそこまで気付けたわね。…本当に偉いと思うわ。」
「マミさん……」
「戦場に出ることだけが魔法少女の戦いじゃないわ。自分の弱さを認めて、今できる最善を尽くす。それも立派な、いえ、一番難しいヒーローの形よ。あなたが避難所を護ってくれるなら、私たちは安心して前線で背中を預けられる。…少しずつでいいわ…あなたのペースで、また一緒に歩んでいきましょう。」
「…はい……!ありがとうございます…!」
以前のような虚勢ではない。マミの言葉を素直に受け入れられたさやかの横顔を見て、杏子は小さく笑み、ほむらは静かに砂時計を見つめた。
「…ええ。あなたが無理に戦う必要はないわ。今回の作戦は、あなたが出なくても必ずワルプルギスの夜を倒せる。」
ほむらはそう告げると、見滝原市の全体図を広げる。
「まず、私たちは避難所とその周囲で待機。ワルプルギスの夜が発生させる眷属を…」
「私たちが消滅させる、ということね。」
「……ええ。私が時間を止めている間に眷属の発生場所を突き止め、あなたたちが一歩も動かさずにその場で仕留める。通称『リスキル』作戦よ。」
(リスポーンした瞬間にハメ殺されるとか完全に害悪プレイヤーじゃねぇか…)
戦えない自分に役割などあるわけない。他人事のように聞いていたキングだったが、ほむらからの突然の指名により、急激に脳が活発化する。
「……そして、ここからはキングの出番よ。」
(…へっ?どこが??)
「ワルプルギスの夜をこの位置まで誘導させれば、ちょうど上空に焦点が合わさる。ここでキングの必殺技『煉獄無双爆裂波動砲』が発動し、ワルプルギスの夜を跡形もなく消滅させる……!」
(は????)
「『キングを知る』という複数の関係者から話を聞いたわ。月のクレーターはあなたがサンドバッグにしているそうね。」
(なんでその噂がここにも広がってんだよ!!俺はゲームしてるだけのただの無職だって言ってんだろ!!)
(月をサンドバッグねぇ…どうりで動きが全く見えねぇわけだ……。)
「その…わたしはどうしたら…」
まどかは部屋の隅で作戦の様子を眺めていた。少しでも役に立ちたいのは山々だったが、自分はどうすれば良いか分からなかった。
「まどかは、キングのすぐそばにいてもらうわ。避難所よりも、キングの側にいた方が安全でしょうね。」
ワルプルギスの夜は、ビルを投げ飛ばしたり、超広範囲に破壊の嵐を撒き散らす災厄である。ほむらの思惑では、戦えないまどかを避難所のシェルターに入れるよりも、キングという『絶対に攻撃が当たらないグランドマスターの側に避難させた方がはるかに安全』だという判断だった。
しかし、当のキングからしてみれば、それはまどかに対する自殺行為にほかならず、正常な判断とはかけ離れた考え方だった。
まどかを危険に晒しながら、自分のありもしない必殺技で災厄の魔女を消滅できるわけがない。その重苦しい沈黙に耐えかねて、キングは、ついに生涯最大の決断を下した。
(このまま『地上最強の男』として祭り上げられたまま明日の戦場に出れば、俺は間違いなく一瞬で消し炭になる。ならば、今ここで本当のことを話し、幻滅されてでも彼女たちをここから遠ざけるべきだ。……だが、俺が彼女たちに与えている影響は、俺自身も予想がつかないほど大きい。下手に『本当のこと』を話してしまうと、彼女たちの戦意を喪失しかねない……。)
キングは腕を組み、彫刻のように険しい貌のまま、ドスの利いた低い声で静かに口を開いた。
「……みんな、よく聞いてくれ。……俺は、君たちが思っているような、地上最強の男なんかじゃない。」
「え……? 先生、何をおっしゃって──」
「本当のことだ。俺には、君たちのような魔力もなければ、世界を統べる因果の数値なんてものもない。……俺の心臓の音『ドッ、ドッ、ドッ』というのも、ただ、君たちの本物の戦闘や、インキュベーターの怪談話が……死ぬほど怖くて、ただ情けなく心臓がバクバク言っていただけなんだ。」
キングは、額から滝のような冷や汗を流しながら、必死に言葉を紡いだ。
「俺の本質は、戦う力も、誰かを救う取り柄もない、ただ毎日部屋でゲームのレベル上げをして生きてるだけの……ただの臆病な一般人だ。君たちが崇拝している『キング』なんて存在は、どこにもいない……!」
意を決した、命がけの告白だった。これですべてのメッキが剥がれ、彼女たちは目を覚ますはずだった。
しかし、それを聞いた少女たちの瞳には、幻滅どころか、身震いするほどの深い「戦慄」と「感動の涙」が溢れ出していた。
「……ああ、キング先生は…なんというお方かしら。……明日の決戦を前に、私たちが先生の力に甘えないよう、あえて『自分は無力な凡人だ』と仰ることで、私たちの自主性と覚悟を試していらっしゃるのね……!」
「……マスターは、サイボーグの人の話をされた時もそうだった。『人を人たらしめるのは器じゃない、心だ』って。だから、マスターはご自身の力すら『ただのゲームオタクの凡人』だと定義して、『お前たちの心だけで戦ってみせろ』って、高いハードルを課してくれている…!」
「へっ、どこまでも格好いいじゃねえか。アタシたちが頼りにしてんのはあんたのスペックじゃねぇ…その折れねぇ『心』の領域なんだよ。一般人?だったらアタシたちが、あんたの最強の肉体になってやるよ!」
(……グランドマスター。彼は『自分は因果の輪の中にいない、ただの観測者(プレイヤー)だ』と、世界のシステムの外側から冷徹に宣言された。明日のワルプルギスの夜……彼は一歩も動かない。私たちの意志だけで、あの舞台装置を完全攻略してみせろという、至上命令だわ……!)
少女たちは、これ以上ないほど限界突破した忠誠の目を輝かせながら立ち上がった。
「お言葉、深く胸に刻みましたわ、キング先生。……先生の用意してくださった盤面、私たちで完璧にクリアしてみせます!」
少女たちは「背中で語る王」に向かって恭しく一礼すると、凄まじい戦闘オーラを纏って、嵐の前夜へと一斉に飛び出していった。
バタン、と静かにドアが閉まる。静寂が戻った部屋で、キングはガタガタと震えながら、床に盛大に崩れ落ちた。
(なんでだよおおうおおおおおお!!!なんで本当のことを全部話したのに、前よりさらに目がギラギラして帰っていくんだよ!!)
だが、その部屋に、ただ一人だけ、帰らずに残っている少女がいた。ソファーの傍らで、心配そうにキングを見つめる、鹿目まどかだった。
「あの……キングさん、大丈夫ですか?」
「あ、鹿目さん……。残ってたの?」
「はい。……だって、キングさん、本当に、すっごく怖がってたから……」
(まどか氏ィィィィィィィ!!! 伝わってる! 俺の命がけの本音が、まどか氏にだけは100%完璧に伝わってるよ!! 天使だ! この部屋に唯一の、本物の話が通じる人間が残ってくれた……!!)
「……鹿目さん。信じてくれるか? 俺は本当に、あの子たちみたいな超常現象の戦いなんて、1秒で消し炭にされるただの凡人なんだ……」
「…はい、知ってます。だってキングさん、ゲームで一緒に遊んでる時、部屋にハチが出てきただけで『うわァァ画面が暗転するゥゥ!』って、大慌てでわたしの後ろに隠れてましたもん。」
「うっ……それは、そうだけど……」
「でもね、キングさん。マミさんたちには伝わらなかったかもしれないけど、わたしは、キングさんのその『普通の優しさ』に、何度も救われたんですよ? 『戦えない君はセーブポイントだ』って言ってくれたから、わたし、焦って魔法少女の契約をしなくて済んだんです。……だから、明日のワルプルギスの夜、わたし、キングさんを絶対に死なせたくないんです……!」
(まどか氏……! なんて良い子なんだ。よし、あの子たちにはもう何を言っても無駄だ。…だったら、俺とまどか氏の二人だけで、この無理ゲーをクリアするための、現実的な攻略作戦を練るしかない……!)
キングはゴクリと生唾を飲み込み、ポケットから一台の端末を取り出した。
「……鹿目さん。実は、この理不尽なゲームを、文字通り力技でひっくり返せるチートキャラが、俺の元の世界に一人だけいるんだ。」
「え……? チートキャラ、ですか?」
「ああ。……俺の元の世界の友人だ。彼のパンチはな、どんな怪物も一撃で粉砕する。…彼なら明日のワルプルギスの夜を、一瞬で『ログアウト』させられるだろう。」
「そんなすごいお友達が……!でも、どうやってその人をここに呼ぶんですか?」
キングは口を閉ざした。キングがここに迷い込んでから、彼とは一度も顔を見せていない。『必ず来てくれる』という保障はなかった。だが、理論的に考えれば、彼が来てくれる可能性がゼロというわけではない。
「……俺の家は、暁美さんが時間を巻き戻しすぎたせいで、元の世界と時空が直結しているみたいだ。…彼は俺の部屋に日常的に出入りしていたからな。当然この世界に迷い込む可能性はある。……問題は、彼が明日、このアパートの部屋にリスポーンしてくるかどうかだ。」
キングは端末の画面を示した。そこには、ゲームの通信用アプリを改造した、キングの部屋のもう一台の端末へと直結する「スピードダイヤル」が設定されていた。
「俺は明日、あの子たちに戦場へ引っ張り出されるか、陽動として魔女の目を引くポーズを維持する羽目になると思う。足がすくんで、スマホを操作する余裕なんて絶対にない。……だから、鹿目さん…。君に、この『魔術端末』を託したい。」
「……はい、キングさん…。」
「明日の決戦の最中、俺が魔女の正面で動けなくなったら……君が物陰から、この一番上のアイコンをタップして、アパートの部屋へ通話を繋いでくれ。……『キングがピンチだ、ゲームを返しに戦場へ直行しろ』と伝えてくれれば、彼は部屋の歪みを抜けて、必ず戦場へ飛んでくるはずだ…。」
「キングさんが魔女を引きつけて、わたしが友達を呼ぶ……。わかりました!島を開拓した時だって、キングさんが完璧な計画表を作ってくれたから、わたし、お花をたくさん植えられたんです。……明日も、キングさんを信じて、わたし、絶対に繋いでみせます!」
「……頼んだよ、鹿目さん。巴さん達には、避難所の周囲の防衛や、魔女の残骸による二次被害防止を任せる。……魔女本体の討伐は、俺たちのこの『チートコード作戦』にかかっている。」
「はい……! 無事にみんなで、お家に帰るために……!」
嵐の前夜。家賃6万4000円のオタク部屋で、地上最強と呼ばれる臆病な凡人と一人の優しい少女は、世界の理不尽なバッドエンドをひっくり返すための、唯一の『チートコード計画』を静かに、熱く、練り上げていた。
ほむらから懇願された『まどかを魔法少女にさせないでほしい』という願い。それを叶えるための最後に残った道標は、この『通信作戦』にかかっていた。
魔法少女まどマ⭐︎キング第11話・完
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チートコード作戦。原作を知っている方であれば誰のことを指しているかお分かりだと思われます。
次回が最終回となります。まどマ☆キングの行方をぜひ最後までご覧ください!